2015年9月 2日
#445 田原 耕太郎 『企業スポーツだからこそ出来ること』
4年間のマネージャー役を経て、満を持して、新たな活動を推進する田原耕太郎広報(兼普及担当)。広報という切り口から、サンゴリアスの価値を高めることに、日々邁進しています。勢いにあふれるその意気込みと構想を聞きました。(取材日:2015年8月10日)
◆クラブをどう見せていくか
—— チームの広報となり1年目のシーズンですが、色々なことに取り組んでいますね
引退してサブマネージャーを1年やり、マネージャーを3年やりました。その時のことから話をすると、周りの人からマネージャーは大変だからお前は向いていないと言われました。僕の性格上、向いていないと言われるとやりたくなります(笑)、マネージャーとしてチームに残りました。
マネージャーは様々な業務の中で視野も広がりますし、色々なことを経験出来るので、会社での仕事にも生かせるだろうと考えマネージャーをやっていましたが、マネージャーをやっているうちに「このクラブをどう見せていくか」という広報の部分に興味が沸いてきました。
監督に言われたことを忠実に行うというのも、ひとつのやり方で大事な仕事です。ですが一方で「このクラブがどうすればもっと良くなるか」という視点を常に持ちながら仕事をしていました。
昨シーズンのマネージャー最後の年には、ノム(野村直矢主務)がサブマネージャーとして入ってきて、これまで1人でやっていた仕事をノムと一緒にやることで、マネージャーとしての仕事のボリュームは少なくなったと思います。ただ、そこで楽をしても仕方が無いので、今後のステップアップを考えた時に、昨シーズンの1年は、いろんな競技や違う分野の人たち会う機会をつくり勉強して回りました。
実際に広報となって気づいた部分としては、ファン獲得をするためには、これまでチームが守ってきたものを上手く見せると共に、そこで壁となっているものを飛び越えなければいけないこともあるということです。そこはジレンマもありますが、それをしなければラグビーが世の中に広まっていかないと思いました。
そういう考えのもと、今シーズンから様々な活動をする中で、選手やスタッフがストレスを感じることもあると思います。ただ、僕がマネージャーをやっていたからこそ、今の広報としての要望を受け入れてくれている部分もあると思います。ずっと現場にいたので、そのストレスも十分理解していますし、どこまでならOKかの線引きもわかります。そこはマネージャーとしての経験が活きていると思います。
—— 広報に興味を持ったきっかけは?
2年前にウェールズ代表の施設などを見学させてもらったんです。そこで、マネージャーの勉強にもなりましたが、広報としても「クラブをどう見せていくか」という部分にも取り組まなければいけないと強く感じました。
その経験から、いま力を入れて取り組んでいるのは、まずはサントリーグループにどう恩返ししていくかと言う事です。またスポンサーさんに対しても、勝つこと以外にもっと確実なもので、どうお返しをするかを考えています。サンゴリアスをサポートして本当に良かったと思ってもらえる様に昨シーズンから色々と布石を打ちながら、今年はそれを形にしています。
◆なぜ必要か
—— やはり勝つことが一番大事だと思うんですが、その中でチームへ要求出来るストレスの線引きが重要になると思います。その線引きについてはどう考えていますか?
僕もずっと選手をやってきましたし、マネージャーもやってきたので、勝つことが絶対に大事だと分かっています。どんなにいい活動をしても強いチームがやるから魅力的だと思います。
ただその中で、例えば選手がストレス無く試合に向けた準備をして、いざ試合になった時に観客席が空席だらけ、一方、選手、スタッフには多少のストレスがあったとしてもグランドに出たら満員のお客さんの前で試合が出来るということとを考えた時に、どちらが選手にとってはエネルギーが出るでしょうか??少し極端な比較だとは思いますが、この感覚が大事だと思います。
ストレスがない100%の準備をしてもお客さんがいなければ、それはただの自己満足だと思います。ラグビーという素晴らしいスポーツをより多くの人に見てもらい、ポジティブなスパイラルにしていかなければいけないと思います。もちろんチームとして守るべき部分はありますが、そのストレスにも慣れていかなければいけないと思うので、春シーズンではそのストレスがどこまでいけるかという部分にチャレンジしていました。
誰でも1人でご飯食べた方が楽だと思います。楽ではあるんですが、他の人と何かを共有したり、何か新しいものが生まれる事もありません。この考えをチームで共有して考えないと、次のステージには行けないんじゃないかと思います。
—— そのストレスの感じ方は選手によって違いますよね
春シーズンが始まってすぐに選手・スタッフとのミーティングを行い、「なぜ僕らがラグビーを出来ているのか」ということを話し合いました。今年から始める新しい活動を話し、普及活動やスポンサーに対する活動がなぜ必要かを話しました。「僕たちは勝つこと以外でも、サントリーグループのブランド価値を上げていかなければいけません。」と伝えました。
そこをクリアに出来ずに、ぼんやりしたまま活動するから、選手としては「なぜこの活動をしなければいけないのか」というストレスを感じてしまいます。 話せば選手も理解してくれますし、ただ、選手にストレスだけを与えるのではなくて、ストレスを与えたんだから、しっかりクラブにいい物リターンしないといけません。必ず運営側としても結果を追求していかなければいけないと思います。
◆ゴリ女というカテゴリー
—— これからプレシーズンリーグが始まり、トップリーグが開幕していきますが、会場での取り組みなども考えているんですか?
リーグ側が色々と活動を行っていますが、各チームが色々なオプションを持ってやればいいと思っています。そして来場者へのサービスは勿論大事ですが、どんなに良いファンサービスでも、ずっと同じことをやっていたらお客さんは飽きると思うので、変えていくことも必要だと思います。
また更に大事なことは、まだラグビーを観た事がない人をどうやって会場で観戦させるかが大事だと思います。そのためにはラグビーを一方的に押し付けるというよりは、それぞれが興味を持っている分野に、いかにラグビーをリンクさせていけるかを考えています。
その一つのアプローチで今年からは『ゴリ女』(サンゴリアス女子)というカテゴリーを作り、女性ファンに特化した活動も行っています。これまではホームページなどで選手のインタビューやチームの情報を掲載することがほとんどでしたが、選手と一緒に働いている女性社員にフォーカスして、女性社員にラグビー部はどう見えているのかという、立ち位置を考えた新しいアプローチになります。
あと意識しているのは、自分たちの立ち位置を考えるようにしています。例えば、ポスターで言えば、これまでは選手の顔を出すデザインにしていましたが、今シーズンはジャージを押し出すデザインにしました。チームにはフーリー・デュプレアというラグビー関係者にとっては素晴らしい選手がいますが、その選手が日本の街中を歩いていて、人だかりが出来て止められるかと言えば、残念ながら日本の現状ではそうならないと思います。
◆“勝ち”と“価値”
—— サンゴリアスの選手は会社で仕事をやりながらラグビーをしていて、会社の中でのラグビーの価値を高めていくことも必要になりますね
前にも言いましたが、そのためには絶対に勝つことが大事です。今シーズンで言えば、プレシーズンリーグ、トップリーグ、日本選手権と3つのタイトルがあるので、3冠を絶対に取らなければいけません。
ただどのチームも強化していますので勝つことは簡単ではありません。僕らのストーリーとしてはもっと確実な方法でラグビー部の価値を追求していくことだと考えています。これまでも普及活動の一環として、子供たちにラグビーを教えていましたが、今年からはそこに来た保護者にもアプローチをしています。例えば、子供たちがクリニックを受けている時に、クラブハウスの近くにある武蔵野ビール工場に保護者の方たちを連れて行き、工場見学をしてもらっています。
この意図としては、サンゴリアスが好きだと言ってくれているファンの人たちが、サントリーグループのファンにもなってもらいたいからです。このサイクルが確立されれば、勝ち負けに影響されない価値が生まれます。普及活動でラグビーを教えることは良いことだと思います。ただ、次のステージに行くために、サンゴリアスをハブにしてサントリーグループを好きになってもらう活動を、どんどん提供していかなければいけないと思います。
他にも会社の営業の人が、サンゴリアスのスポーツクリニックを通して得意先との関係が良くなって、その後のビジネスが上手くいけば、それは会社がラグビー部を持つ価値だと思います。そのためにクリニックして欲しいと思ってもらえる魅力あるチームでないといけません。
—— その活動はラグビー界全体でも取り組める活動だと思いますし、そういう活動が2019年に日本で行われるラグビーワールドカップにも繋がっていくと良いですよね
野球界やサッカー界の人たちともお会いし話をさせてもらう機会があって、そういう方たちとお話をしてすごく勉強になりました。そこで感じたことは、他競技からヒントを得ながら最終的にはラグビーはラグビーのやり方を追求しなければいけないということです。そもそもの環境が違うので、同じことを真似しただけでは、絶対に上手くいきません。まさに「企業スポーツのベストは何か?」を追及しなければいけないと思うんです。企業スポーツだから、と言って逃げ道にもなります。そうではなく「企業スポーツだからこそ出来ること」を追求しなければいけません。先ほど言った営業のメンバーがサンゴリアスを活用することもそうですし、サンゴリアスの場合は、選手が仕事をしているので、同じ職場で働いているラグビー部以外の社員の方はラグビー部を身近に感じてくれていると思いますし、グループ会社にもアプローチしていけると思います。企業のカラーも違いますし、取り扱っている商品も違うので、全てのチームが同じことは出来ないと思いますが、その中でもサンゴリアスの強みを考えて、ラグビーという狭い視野だけじゃなくて、世の中の状況も考えながら取り組んでいかなければいけないと思います。
今年からフェイスブックやツイッターを始めましたが、フェイスブックの投稿の中で、今は違いますが、以前はヤス(長友泰憲)の腹筋が、一番リアクションがあったんです。現状としては、サンゴリアスよりも腹筋の方が、人気があったわけですよ(笑)。現状を把握して、じゃあどうアプローチしていけばいいかを考えないといけません。
◆海外に広げたい
—— 広報として大変なところと面白いところはどこですか?
みんな自分の守備範囲が大事ですよね??勿論僕もそうです。そこでそれぞれの守備範囲に小さくても良いからハッピー無ければ、どうしても後回しになってしまうんだと思います。そこにどうやって入り込めるかを考えていて、そこの大変さはあるかもしれないですね。
そういう大変さが、逆に面白いところでもあります。でも大変なことを乗り越えたら絶対プラスになると考えながらやっているので、大変さが嬉しかったりもします。もちろん難しいこともあって、広報は相手の気持ちを動かさなければいけない仕事だと思います。サンゴリアスを好きになってもらうとか、わざわざ休みの日に会場へ行こうという気持ちにさせなければいけないので、色んなアイデアが必要です。
—— これからやってみたいことは何ですか?
まずは今取り組んでいる活動を形にしたいと思います。広報としてこれからやりたいのは、サンゴリアスというチームを海外に広げたいですね。サントリーグループが海外での活動を広げている中で、世界中のサントリーグループのメンバーを一つにできる可能性もスポーツにはあります。
また何よりビジネスに繋げていきたいんです。日本は少子化が進んでいますが、アジアで見れば人口は増えています。そこでラグビーの普及活動をして現地の子供たちにスポーツを通して様々なアプローチをして、それによって現地のビジネスが上手く進めば、サンゴリアスがビジネスコンテンツになります。
—— 広報の視点から見て、ラグビーの魅力は何だと思いますか?
ラグビーは嘘がつけないですよ。格闘技ですから自分の弱いところをさらけ出されるので、お互い仲間と繋がります。実際に同期と比べて業務してる時間は少ないですが、その時間で他の人が経験できない貴重な体験をしています。ただそれを自分たちでいいと思っていてもただの自己満足です。もっと大きな視野を持ってそれをしっかりビジネスに繋げていかないといけません。そうすれば会社がスポーツ選手を雇っている価値が更に高まると思います。それを僕らだけで考えるのではなく、人事部と一緒に考えながらスポーツ選手のキャリアについて考えています。またサンゴリアスには優秀なOBの方々がたくさん職場にいます。この方たちが現役選手の事を真剣に考えて、グランド以外で成長の機会を与えてくれています。これもサンゴリアスの強みです。
—— 広報という立場はゴールが無いと思いますが、現時点で考える第一目標は何になりますか?
まずは様々な企画を考えトライして、壁にぶつかりたいと思っています。壁にぶつかることが大事なことだと思います。ラグビーを広める活動をしていく中で壁にぶつかれば、そこで次の方法が考えられると思います。
また社内やグループ会社のファンを増やしていくと共に、ゴリ女(女性ファン)を広めていき、そして海外での活動が出来るようにしていきたいと思っています。それを一つずつクリアしていけば、また次にやるべきことが出てくると思います。
勝つことが絶対に大事で、その考えが根底にありながら、ラグビーをビジネスに繋げていかなければいけないと思います。サントリーグループの中で言えば、選手よりもラグビー部以外の社員の方が数は多くて、その人たちがサンゴリアスと関わって良かったと思えることを少しでも作ることが大事だと思います。そうすれば必ずファンも増えますし、そこが企業スポーツのメリットだと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]