2015年8月19日
#443 金井 健雄 『芯に突き刺さるような練習をしていく』
そのたたずまいから、口調から、プレーぶりから、抜群の安定感を感じさせてくれる金井健雄選手。その安定を生み出しているのは、物事を深く考え、本質を見極める努力を、常日頃から実行しているからではないでしょうか。若きベテラン、金井選手に今シーズンに向けた意気込みを聞きました。(取材日:2015年7月10日)
◆自分の身体と対話する
—— 昨シーズンは全試合に出場しましたね
そうですね。1番の選手が2人しかいなかったので、練習試合にもほとんど出させてもらっていました。それはそれで楽しかったです。たくさんの試合に出させてもらい、ラグビーの楽しさを再確認して、順調に過ごせたと思います。
肉体的には、30歳になってから体の感覚が掴めてきて、自分の体がどれくらいほぐれていて、この状態だったらこれくらいまで行けるというような感覚があります。試合で良いパフォーマンスを出すためにはどう準備をすればいいのかが、少しずつ分かってきたと思います。
一度、そういう感覚になると、それが続けられるようになるので、良いイメージで来ています。
—— 体がどれくらいほぐれているかというのはどうやって見極めているんですか?
ストレッチした時に、筋肉の堅さが分かるようになりました。そこで筋肉が堅ければ、入念にほぐしますし、柔らかくてもほぐすということはしています。それがルーティーンになっていると思います。私は1日のルーティーンは特に決めていないんですが、練習までに体の状態をここまでに持って行きたいというラインがあります。
—— その感覚を持つようになってからは怪我もしませんか?
比較的しなくなりましたね。
—— その感覚をどうやって掴んだんですか?
年齢を重ねると、肉離れなどをする選手が多いんです。若い時は筋肉も柔らかいんですが、年齢を重ねると筋肉も堅くなって、若い頃と同じような感覚でやってしまうと、肉離れをしやすくなります。私も以前はそうでしたが、そういう感覚を掴めて、準備が出来るようになったので良かったと思います。
仕事をしているということと、筋量の増加もあり、筋肉をほぐさなければ、ずっと怪我をしているような状態になってしまうと感じましたね。体重もサントリーに入った時と比べて、10kgくらい増えているので、必然的に考えるようになりました。
—— その部分を人に伝えることは出来ますか?
竜太郎(竹本)が前のインタビューでも言っていましたが、ストレッチを数値化するのも1つだと思います。ただ、細かい部分での堅さや柔らかさがあるので、それだけでは一概には言えないんです。自分の身体と対話するという感覚ですね。
◆共通認識を持てるように
—— その感覚をチーム全体には活かせますか?
特にスクラムは、その日の纏まり具合に左右されると思っていて、めちゃくちゃ強い日もあれば、どれだけ1人1人が頑張っても押せない時もあります。その調子の悪い時の振り幅を無くしていくことと、緩やかに成長していくためには何が必要なのかを、自分の中で持っておくことが必要だと思います。スクラムで大事なことを8人の認識の中で同じにしておくことが大事だと思います。
スクラムでもそうですし、チーム全体でも大事なことで、フォーカスする部分を決めたら、芯のしっかりとした目標を定め、それをブラさず、1年間通してやり続けなければいけないと思います。細かな目標は達成出来ていても、その芯から外れていたらチームとしての成長は無いと思います。
その芯に突き刺さるような練習をしていくことが、チームの成長にも繋がると思います。サントリーは練習メニューに対して、選手が意見を言える環境ですし、自分自身にフォーカスを当てる選手が多いので、1人1人が成長していきやすい集団だと思います。
—— 昨シーズンの日本選手権決勝では、スクラムでやられましたね
色々な認識はあると思いますが、スクラムが負けたからチームが負けたと考える人もいると思います。私たちの認識の中では、もちろんスクラムは大事なんですが、サントリーのラグビーはスクラムを前面に押し出しはしないんです。ただ、その中でも対抗出来るだけの力は身につけなければいけないと思いますし、バックスが困った時には助けられるようなスクラムをしなければいけないと思います。この認識をチームで持つために、春シーズンは時間を割いて話し合いました。
—— その中でもスクラムは強くしていくんですよね
そうですね。昨シーズンと比べて練習時間は多くなっていますし、全体練習の後に、フロントローだけ集まってパックの練習をしているので、徐々に基礎作りは出来てきていると思います。
昨シーズンはスクラムでの方向性が定まっていなかったと思います。押せたらラッキーで、押せなかったら悩むという状態だったと思いますが、今は共通の認識を持てているので、日本代表メンバーが帰ってきた時には、また共通認識を持てるようにしなければいけないと思っています。
◆もっと攻めるところがあった
—— チームでの自分の役割は何だと考えていますか?
駒としての役割は、ある程度は出来ると思っているので、春シーズンではチーム全体を重点的に見るようにしていました。サントリーラグビーは、ひたすらボールをキープして攻めて、相手によってスタイルを変えないチームだと思われていると思いますが、その中でも相手のディフェンスの状況によって、上手く対応出来るチームにはならなければいけないと思います。相手ディフェンスの薄いところを攻めていくんですが、壁があっても破らなきゃいけないところであれば破りに行く、という意識を持った攻撃が出来るようになっていかなければいけないと思います。
その部分は試合をしながら選手が気づき、行動に移せるようになることが必要だと思います。その感覚を持っているチームがパナソニックだと思います。ただ、僕らは効率性だけを求めているわけではなくて、キックを出来るだけ減らして、ボールをキープしたままどれだけ効率よくアタックが出来るかを考えているので、そこが出来るようになっていければ良いなと思います。
—— 考えてチームを引っ張っていく立場になりますか?
フーリー・デュプレアやトゥシ・ピシのように、判断出来る選手が戻ってきたら、またひとつの駒に戻ると思います。私は判断するポジションでもないんですが、判断する選手が戻ってきたら、その人の意図を汲み取って、駒として動けるようにしていくと思います。
15人全員が考えてバラバラに動くのではなくて、15人全員が考えて、司令塔の意思を汲み取りプレー出来るようになることが、一番良いと思います。
—— これまで色々な司令塔がいたかと思いますが、司令塔によってラグビーの面白さも変わりますか?
トゥシと竜太郎はタイプが似ていて、あと小野晃征もシェイプが揃わない状況でも、少しでも前に出て、ゲインラインをキープしてくれるんですよ。シェイプを作って外に回していく司令塔もいるので、本当にタイプは様々だと思います。
どの司令塔も大きく括るとサントリーラグビーなんですよ。修行僧みたいなラグビーをしていたら、日本選手権準決勝のパナソニック戦のようなラグビーになるんです(笑)。インプレーの時間を極力長くして、44分間もインプレーの時間がありました。一般的には31分くらいなのに対して、44分間ひたすら攻め続けました。
今振り返ると、あの試合でも自分たちがもっと頭を使えていれば、もっと攻めるところがあったと思います。そういう意味では、まだ成長出来るところがあると思っています。
◆やるべきことをやった上で、プラスαの部分を見せる
—— 2019年に日本でワールドカップがありますが、それに対してはどう考えていますか?
私としては2019年までは頑張って現役を続けたいと思っていて、現役のうちはプレーでラグビーに貢献したいと思っています。なので、それまでは粘って頑張りたいと思いますし、もちろん現役をしている限り、日本代表でプレーしたいと思っています。 そのために自分がやらなければいけないことは分かっていますし、下から凄い選手も出てきているので、ここまで来たら焦らず積み重ねるしかないと思います。自分の課題は、やるべきことをやった上で、プラスαの部分を見せることだと思っているので、そこをどれだけ出来るかだと思います。
—— 昨シーズンはその部分は出来たと思いますか?
ベテランの選手はその部分をみんなが出来ていると思います。いて欲しいところにいるとか、ラックに入って欲しい時に入るとか、ディフェンスでいて欲しいところにセットしに来てくれるとか、そういう所だと思うんですが、そういう部分が少しずつ改善出来ていると思います。
—— 今シーズンのスローガンは「TOUGH」ですね
プレーを積み重ねて、我慢してハードワークして、しっかりと取り切るということだと思います。私的にはタフという思いは持っていますが、自ら進んで修行僧みたいなラグビーをするということではなくて、そのプレーも最終目標はトライを取ることだと思っています。有効的な近道はしても良いと思いますし、「100フェーズ重ねてトライを取るのが俺らの良さだ」なんて思っている選手はいないと思います(笑)。
—— そのバランスがチームとして共通認識であると良いですね
スーパーラグビーを見ていると、ラグビー偏差値が高いと思いますね。日本人は勉強不足な部分も、経験不足な部分もあると思います。だから、想定外のことが起きた時に対応出来なくなってしまうんです。そこを改善するためには海外の選手と試合をして経験することが必要ですし、試合の映像を見て、自分で経験したことのないことを脳に覚えさせて、こういうこともあるんだとオプションを持つことが必要だと思います。
オプションを増やしていくことが大切だと思っていて、色々なオプションがある人は攻めることが出来る状況でも、オプションを持っていない人には自分が経験したことのない状況になった時に、そこで攻めるという考えには至らないと思います。
◆仲間と一緒に戦えること
—— 今シーズンのチームに対して、どれくらいの自信を持っていますか?
昨シーズンよりは良い状況だと思いますが、代表選手がいない中で、チームに戻ってきた時にどういう状態かが分からないですし、チームに戻ってきて1ヶ月くらいでトップリーグが始まるので、少し怖さもあります。ただ、プレシーズンリーグを若手で戦えるので、その経験は大きいと思います。
自分自身としても、春シーズンから若手枠に入れさせてもらって、菅平合宿にも行きました。その中で、自分のコンディションを見ながらトレーニングが出来ています。自分の中に考えるゆとりが持てているので、良い状態でラグビーに取り組めています。
—— 今感じるラグビーの面白さは?
一番大事なのは、仲間と一緒に戦えることだと思います。どうしても責任だったり、やらなければいけないという思いになりがちなんですが、根底にあるのは、みんなで集まって1つの目標に向かって戦えているという部分だと思います。良い選手たちが集まって一緒に戦っていくんだから、罵り合うんじゃなくて、助け合わなければいけないと思うんです。そういう雰囲気を作っていければ、成長しやすい環境になっていくと思います。
—— 今シーズンの目標は?
昨シーズンよりも良い結果を出したいですね。初めてプレーオフに進めませんでしたし、2冠を取るのはそんなに簡単なことではないと思っています。まずはプレーオフに進むことを中期的な目標として、その先には優勝を見ていなければいけないと思います。優勝ばかり見て、リーグ戦で危ない試合をするのではなくて、まずは確実にプレーオフに進むためには、自分たちに何が足りなくて、何が必要かを分析していかなければいけないと思います。
今のサントリーは、普通にやったら5位とか6位のチームになっていると思うので、選手の中にも危機感を持たなければいけないと思います。昨シーズンの日本選手権のパナソニック戦は、たまたま良いラグビーが出来て勝ちましたが、決勝のヤマハ戦では調子を崩してしまい、調子の良いヤマハと調子の悪いサントリーでは、調子の良いヤマハが勝つんですよ。だから、今はそれが実力だと思わなければいけないと思います。
—— 今シーズンはどんなサンゴリアスになっていきたいですか?
文化として失くしてはいけないものは、「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」なんですよ。そこがちゃんと出来ていると、見ている人が感じるようになれば良いと思います。自分たちの中では、更に上のレベルを目指していますが、見ている人が「アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをしているね」と感じさせたら、勝ちだと思います。
その中で、その形にしてくために、どう作っていくかが重要になると思います。修行僧のようなラグビーを追求していくのか、それともラグビー偏差値の高いラグビーをしていくのか。見ている人からすると、効率的にゲインしていくラグビーの方が気持ちいいとは思います。
外国人選手が突破することに頼るのではなくて、組織的に出来るかどうかなんです。1人1人が考えて、空いているところで、5mでも3mでもゲインを少しずつ取れれば、そこから流れが生まれるので、外や内でどんどんゲインが出来るようになっていき、その積み重ねでトライに繋がれば、流れのイメージは全然違うと思います。理想としては、それを全員が出来るチームになれればと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]