2015年8月 6日
#441 小澤 直輝 『フッカーじゃないようなフッカーに』
慶応大学からサントリーに入ってこれまで4シーズン。小澤直輝選手のサンゴリアス・キャップ数は30を越え、順調な歩みを見せています。まだまだ伸び盛りの5シーズン目を迎えた小澤選手に、現在の心境と将来への展望を語ってもらいました。(取材日:2015年7月6日)
◆サントリーでのフッカーには合っている
—— 4年目の昨シーズンはどんなシーズンでしたか?
出場機会には恵まれて、色々な経験が出来たシーズンでした。昨シーズンが始まる前までは14キャップでしたが、昨シーズンは全ての試合でメンバーに選ばれ、出られなかった試合が3試合あり、17試合に出場することが出来たので、31キャップになりました。
2年目の時に初めてトップリーグの試合に出させてもらい、3年目のシーズンはセカンドステージから試合に出ていました。
—— 試合に出ることが当たり前という感覚になってきましたか?
このチームにいて、「試合に出ることが当たり前」ということは無いですね。みんなが試合に出たいと思っていますし、自分の中で競争することを止めたら、もう試合に出ることは出来ないと思うので、しっかりと競争をし続けないといけないと思っています。
—— フッカーに転向したことで、出場機会が増えたことに繋がっていると思いますか?
それは確実に繋がっていると思います。
—— フッカーというポジションは合っていると思いますか?
まだまだ勉強しなければいけないことはたくさんありますが、サントリーのフッカーには合っていると思います。今シーズンはスクラムやラインアウトに重点を置いていて、セットプレーでボールを出さなければいけないという部分はフッカーとして当然の役割なんですが、例えば、スクラムがめちゃくちゃ強ければ良くて、セットプレーで相手を崩していける選手を重要視しているチームもあると思います。
けれども、やっぱり僕らのスタイルはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーで、ボールを動かしてインプレーの時間を長くしたいチームなので、フッカーにもフィールドでのプレーが求められています。そういう部分で合っていると思います。
—— どういう部分はまだ合っていないと思いますか?
セットプレーでもっとリードしていかなければいけないと思います。全体練習が終わった後に、フロントローで集まる時間を設けていますし、昨シーズンよりもスクラムにかける時間が多くなっているので、自分の課題を明確にして、取り組んでいきたいと思います。
—— セットプレーをリードするとは、具体的にどういうことになりますか?
細かなコミュニケーションが大切になると思いますが、スクラムは1人で組んでいるわけではないので、8人をまとめることも大切なリードですし、合っていないと感じるところがあれば、それを改善するのもリードですし、辛くなっている仲間をサポートすることもリードだと思います。色々な状況で、1つにまとめていけるようになっていかなければいけないと思っています。
◆最近はリラックスして投げることが出来ている
—— 理想とする姿と比べると、現在はどのくらい出来ていますか?
まだ半分くらいだと思いますが、悪くはないと思います。
—— フッカーのやりがいや楽しいと感じる部分はどこですか?
フッカーじゃないようなフッカーになれればいいなと思います。運動量が多くて、タックルも上手くて、ボールを持って前に出られるような選手ですね。その中で、しっかりとフッカーの役割も果たせなければいけないと思います。
—— フッカーとしての課題は何ですか?
今シーズンのチームの重要事項でもあるセットプレーだと思います。学生時代からずっとフッカーでプレーしている選手に比べると経験が少ないので、そこが課題です。セットプレーで崩されたらいけないと思うんです。スクラムで言えば、相手のやりたいようにやられて、ゲームメイクが出来ないような状態になることがいけないと思います。そういう状況にしようとする相手に対して、スクラムで支配しようとするのではなくて、サントリーのゲームメイクが出来るくらいの力が必要だと思います。
—— スクラムにかける時間が増えている中で、良くなってきていますか?
今シーズン、チームが始動した時と比べても、今の方が良くなっています。
—— ラインアウトについてはどうですか?
最近はリラックスして投げることが出来ているので、そこが良くなっていると思います。どんな状況でも、ラインアウトになった時には一度集中して、集中したからといって力が入ってしまうのではなくて、いつもと同じ投げられるように心掛けています。
良くない時は、やはり力が入ってしまっていたり、前のプレーを引きずっていたりして、そういう状況では心配になってきたりします。ラインアウトではコーラーのことを信じなければいけませんし、自分のこともしっかりと信用して、やることが大事だと思います。
練習中で上手くいっている時、そういう時はリラックス出来ていて、余計なことを考えていない状態だと思います。例えば、1本前のラインアウトでスローが曲がったとか、リフトが上がって来なかったとかを考えてしまうと、余計なことを考えて力が入ってしまいます。
—— 自分のことだけじゃなくて、周りも見るようにしているんですか?
昨シーズンのセカンドステージの途中からは、アオさん(青木)が先発になって、僕はリザーブの機会が多くなりました。ベンチからただ試合を見ているだけではなく、スクラムではリザーブの1番、3番のポジションの選手と話をしながら見たり、ラインアウトではしっかりとリフトが出来ているかという部分を意識して見たりしていました。
そして、交替して入った時には、状況が良くない時であれば、外から見ていた様子をしっかりとチームに伝えて、意識させることによって改善していけると思います。リザーブにはそういう役目もあると思います。
◆フィールドプレーで取り返す
—— フッカーに転向してから今までの間で、壁にぶつかったりしたことはありましたか?
やはりセットプレーのことばかり考えてしまって、セットプレー以外のプレーにも集中出来ない時期はありました。
—— どうやって乗り越えましたか?
セットプレーでミスをしても、結局取り返せるのはセットプレーじゃなくてフィールドプレーなので、フィールドプレーで取り返すしかないと、気持ちを切り替えました。—— ラインアウトでのスローは、これまでやり方などを変えてきているんですか?
ボールの持ち方を変えたり、色々と試したことはありましたが、やはりセットアップの時に、自分の形をしっかりと決めることが大切です。その形は人によって違うと思いますが、僕の場合は、体幹を固めて、指や肩に力を入れ過ぎず、自然に構える形が良いと思います。そして、常に同じ構えで投げることが良いと思います。
試合でテンポを出すためには、ラインアウトではまずフッカーがポジションにつかなければいけないと思います。フッカーがセット出来ていないとコールも出来なくなるので、まずは最初にセットをして、みんなの準備が出来たらすぐに投げられるようにしておかなければいけません。
あとは、いつも同じタイミングで投げるように心掛けていますが、疲れてきたり、人が変わったりするとタイミングがずれたりします。ただ、ラインアウトではいつも同じタイミングでやることが大切なので、そのための練習をしています。
—— 選手の中でラインアウトへのこだわりはどれくらいあるものですか?
コーラーの選手たちは、すごく考えて取り組んでいます。試合前にはコーラーとコミュニケーションを取って、「相手のラインアウトディフェンスはこういう形だから、こういうサインを使っていこう」という話をしたりします。
相手の形については情報を共有するようにしていますし、経験ある選手だと、コーラーじゃなくても、「自分の横が空いている」などのアドバイスをコーラーに与えられるので、その分、コーラーの負担も少なくなりますし、その時の状況を共有することが大事だと思います。
—— コールが読まれている時にはどういう対応になるんですか?
試合中にコールを変えて、いつもと違うことをしても上手くいくことはありません。なので、人数を変えたり、バリエーションを変えたりして、相手の動きを見たりします。
—— フィールドプレーとセットプレーのバランスはどう考えていますか?
スクラムやラインアウトのようにみんなでやるプレーが出来ることは絶対条件で、セットプレーは絶対に重要です。自分の強みだと思っているフィールドプレーは、試合に出るための必要条件になります。チームのプレーが出来て、それにプラスする形で自分の強みを出していくんです。
そのプラスする部分が、どれだけチームの勝ちに貢献出来るかということです。そのプラスする部分が、チームの勝ちに繋がらないことであれば、全く意味のないことになりますが、チームの勝ちに繋がることであれば、どんどん伸ばしてくべき部分だと思います。
◆フッカーとして先発で試合に出ること
—— これまで順調に成長出来ていますか?
3年目のセカンドステージから試合に出られるようになりましたが、フッカーとしてリザーブに入っていても、ほとんどバックローでの出場ばかりでした。ただ、バックローで出場したことによって、自分のプラスの部分をトップリーグのレベルで経験出来たと思っています。その経験が自分の自信にも繋がっていきました。
昨シーズンはフッカーとして絶対に必要な条件の部分で上手くいかないことがあり、課題も見つかりました。3年目と4年目で経験を積むポイントが分かれたので、今振り返ると良かったところだと思いますし、これからもまだまだ良くなると感じています。
—— バックローへの未練はありませんか?
理想としては、フッカーとして先発で試合に出ることですね。3年目のシーズンが終わった時には、これからはフッカーでやっていくと覚悟しました。これからもフッカーでやっていきますし、2番のジャージを着るためにチャレンジしたいと思います。
—— 2番のジャージを着るために、今シーズン取り組むことは何ですか?
セットプレーの安定です。そして、それに加えて、自分の強みを全面的に出していきたいと思います。セットプレーに関しては、ベイクス(マーク・ベークウェル/FWコーチ)に加え、今シーズンからはヤマさん(山岡俊/FWアシスタントコーチ)がいるので、サポートをしてもらいながらレベルアップしていきたいと思います。
フィールドプレーについては、練習中から自分としっかりと話し合って、例えば、体重であれば自分の良さを消さずにどこまで増やせるのかなどを探っていきたいと思います。
—— まだ体重は増やせると思いますか?
今は103~104kgくらいですが、増やせてもあと1kgくらいだと思います。正直、この時期はまだ体がフィットして来ないので、これからシーズンに向けて、どれだけフィット出来るかだと思います。
—— 体にフィット出来れば、体重は重い方が良いと思いますか?
フロントローなので、体重があるに越したことは無いと思います。ただ、体重を増やしたことで、他の部分が下がってしまうのであれば、僕にとっては良くないことだと思います。
◆チームをリードしていく
—— 日本代表についてはどう考えていますか?
ポジションを変えた理由として、No.8であれば、日本代表になれないと思ったので、日本代表にチャレンジするためにもフッカーに転向することを選んだんです。まずはサントリーで試合に出て、しっかりとアピールすることによって、日本代表に繋がっていければと思います。
—— 2019年の日本でのワールドカップを見据えていますか?
そうですね。ただ、サントリーで試合に出られなければ、チャンスもないと思うので、まずはサントリーでチャレンジすることが重要だと思います。
—— チームの状況はどうですか?
細かい部分はまだ完成度が低いと思いますし、まだまだやらなければいけないことがたくさんあると思いますが、やるべきことが選手1人1人で明確になっていると思います。
今シーズンのスローガンは「TOUGH」ですが、みんなの意識の中にタフに戦わなければいけないという思いがあると思いますし、そういう部分がクリアになっていると思います。
—— これからシーズンに向けては何が大切だと思いますか?
今シーズンはイレギュラーなシーズンですが、そういうシーズンだからこそ、代表選手がチームに戻ってきて強くなるのではなくて、代表選手が戻ってくるまでにチームの基盤をしっかりと作っておくことが大事になると思います。
—— そのための役割は何だと思いますか?
5年目になるので、チームをリードしていくようにならなければいけないと思います。今シーズンは大志(村田)がバイスキャプテンになりましたが、同期なので、大志のサポートもしていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]