2015年7月29日
#440 アンディ フレンド 『アグレッシブ・アタッキング・ラグビーとは何か』
サントリーに復帰して2シーズン目を迎えるアンディ・フレンド。今年は文字通りヘッドコーチとして、チームの成績に関するすべての責任を負うことになりました。昨季の雪辱を目指す新リーダーに話を聞きました。(取材日:2015年7月6日)
◆4つのキーポイント
—— ヘッドコーチとして2年目のシーズンとなりますが、今シーズンの役割、やるべき事とは何だと考えていますか?
管理という部分が大きくなると思います。それからサポートです。自分たちのDNAの中にあるサントリーのラグビースタイルを選手がグラウンドでしっかりとプレーで示せるように管理し、サポートしていくことが、私の役割だと思っています。
サポートの部分では、選手がベストでいられるように勇気づけたり、全ての面で背中を押してあげることです。そして、スタッフや各部門のコーチが唱えるもの、正しいと思うことに対して、それをサポートしていくという意味もあります。私のやり方としては、「こういうことをやれ」とはほとんど言いません。ある程度のベースがあって、それに対して、「どうやったら目指すところに行けるのか?」ということを問います。そこで考えや意見を聞いて、それに対してサポートしていきます。
—— ヘッドコーチの役割として、一番大きいゴールをイメージして、みんなに伝えることもあると思います。それについては、どう考えていますか?
チームとしての全ては、サントリーのスタイルだと思っています。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーというスタイルです。昨シーズンも2つのキーワードを掲げました。「日本No.1の攻撃型ラグビー」と「日本No.1のファイティングスピリッツ」。ファイティングスピリッツの部分は会社の理念にも繋がっていて、「やってみなはれ」の精神に通じていると思います。
昨シーズン学んだことは、この2つを徹底する信念がないと、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーは出来ないということです。スタッフも選手もみんなが賛同して、信じて、同じ方向を向かなければ出来ないということです。その2つがしっかりとベースになければいけません。
—— 昨シーズンは「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」を掲げながら、得点が少なかったですよね
昨シーズンはこれまでのベースに新しいことを付け加えようとしました。それによって、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーがどういうものかというところから少し遠ざかってしまったと思います。私としては変化を与えることが良いことで、バラエティーを増やすことになると考えていましたが、新しいことを加えたことで、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーのパワーの部分が弱くなってしまいました。それがファーストステージとセカンドステージでのパフォーマンスに表れてしまいました。
リーグ戦では「アグレッシブ・アタッキング・ラグビーとは何か」という部分に繋がりませんでした。自分たちのシェイプであったり、ワークレート、ファインティングスピリット、ゲインラインを越えるなど、そういうこれまで作り上げてきた部分が、新しく加えようとした変化に反発をしてしまったところがありました。
—— 今シーズンも変化を与えようとしていますか?
早い段階からみんなが同じ絵を見ている状況を作らなければいけないと思います。昨シーズンのワイルドカードトーナメント、日本選手権では、自分たちのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーの形が出来てきていました。今シーズンはそこからスタートさせて、スキルの部分でもっとこだわっていけば、より良くなると考えています。
「ボールキャリアが具体的に何をしなければいけないか」、「ブレイクダウンでは何をしなければいけないか」、「セットピースでこだわる部分」、「ディフェンスやタックルテクニックという部分」、この4つの部分にフォーカスして取り組んでいます。
みんなが知っているアグレッシブ・アタッキング・ラグビーがベースにあり、その中でその4つのキーポイントでもっともっとこだわって、精度を高めていくことが、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーに繋がっていきます。
—— 昨シーズン、リーグ戦と比べてワイルドカード以降では、その部分が良かったということですか?
そうです。そこが良かったと思っています。
◆深く掘り下げていく
—— 2シーズン前は、ペナルティーが多くペナルティーキックで得点を重ねられたと思いますが、昨シーズンその部分は改善されていましたよね
規律の部分はすごく良くなったと思います。そこは自分たちの基盤として今シーズンもキープしていきたいと思いますし、選手たちもマインドチェンジ出来た部分だと思います。良かったところは残していきたいと思っています。規律やフィットネスは良かったと思いますし、怪我も少なかったと思います。メディカルスタッフが良くやってくれていたと思いますし、自分たちがマネジメント出来る部分は、良く出来ていたと思います。
ただ、大きな違いというのは、自分たちのバラエティーを多くしようとしたことが、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーと上手く噛み合わなかったということです。そこで選手間でも迷いが生じてしまい、選手たちの中で違う考えが生まれてしまいました。
今シーズンとしては、そこから学んだことがありますし、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーというベースがあるので、それらをしっかりと基盤にして、もっと良くしていくために追及していこうと思っています。昨シーズン上手く出来た、規律やシステム、メディカル、リカバリー、フィットネスなどの部分はキープしていき、良い部分をもっともっとこだわってやっていこうと考えています。イメージとしては、昨シーズンは広げすぎた部分がありましたが、今シーズンはキーポイントを深く掘り下げていくということです。
—— 昨シーズンの日本選手権では良いラグビーをしていて決勝まで進みましたが、決勝ではスクラムで負けてしまったように感じました
そこは今シーズン、やらなければいけない部分だと思います。決勝のヤマハ戦では、大事なところで、2回スクラムで負けました。2シーズン前の日本選手権準決勝の東芝戦でも、大事な場面でやられています。
今シーズンはその部分に時間とエナジーをたくさん注いでおり、今も多くの時間を使っています。正直に話すと、スクラムに関しては、昨シーズンは長くても1週間でトータル20分間くらいしか時間を使いませんでした。
今シーズンは長く時間を使っています。ただ、その中でもシンプルにしながら、全員が役割を持ち8人が1つとなるようにしています。スクラムは「じゃあ、今日はスクラムをやろう」と言って、すぐに出来るものではないので、1年間をかけてスクラムの文化を作っていかなければいけないと思います。そのために、クリアなプランを作って、選手たちがそれを信じてやらなければ、良いスクラムは組めません。セットピースでは何をしなければいけないのかという部分は、1つの大きなテーマだと思います。
—— 開幕するまでには、ヤマハにも対抗出来るスクラムは作れそうですか?
それが出来ればベストですね。自分たちにとっては大きなチャレンジだと思います。サントリーは3番の選手2人が日本代表に選ばれているので、ワールドカップが終わるまでは戻ってきません。その状況で、ジャンボ(仲村慎祐)、パク(チョンヨル)、イケ(池谷陽輔)がいて、イケはジャンボとパクのことをよく見てくれています。そのお陰で、彼らは毎週良くなっていますし、プレシーズンリーグは、自分たちを試す良い機会だと思っているはずです。
◆カキ、石原、森川、小澤、北出、・・・
—— 昨シーズンも若手を多く起用していましたが、今シーズンも多くの若手を起用する予定ですか?
最終的にはベストの15人を使います。その中で、若い選手はチームにエナジーを与えてくれます。それに若い選手は、何かを与えた時に食いついてくるものがあります。経験ある選手はチームに冷静さをもたらしてくれるので、その2つのバランスが大事だと思います。若い選手の力にシニアメンバーの力が加わり、一緒になった時には良いチームが出来ると思っています。
—— 若手選手の中で、伸びてきて欲しい選手はいますか?
昨シーズン、カキ(垣永真之介)はルーキーでしたが、すごくエナジーを与えてくれましたし、日本代表でも先発で出ることもありました。あと石原は、ステップアップする年だと思います。石原は下から森川に追いかけられていますが、サントリーのラグビーにフィットしている選手の1人だと思います。
昨シーズンのファーストステージで、ほぼ先発で出場した小澤は、フッカーとしてはまだ若手ですが、青木がいて、下には北出がいるので、どんどんサントリーラグビーにフィットしていくと思います。あと、ツジ(辻本雄起)は、私はヤングロックと呼んでいます。ロックの中ではまだ若く、これからステップアップして欲しい選手の1人です。ソネ(仲宗根健太)やニシ(西川征克)もステップアップしていくと思います。
9番はすごく難しいと思います。フーリーと日和佐がいます。日和佐は日本代表にいて、色々と話を聞きますが、今までよりもフィットしていて、スピードもすごく速くなっていると聞いています。サントリーもゲームスピードを速くしていきたいので、サントリーにも合っていると思います。そこに流が入ってきました。流は昨年のジャパンスコッドにも入っていました。
亮土(中村)は、昨シーズン多くの試合に出ましたし、タロウ(竹本竜太郎)は昨シーズン怪我であまりプレーは出来ませんでしたが、10番も12番も出来る選手です。10番には圭輔(阪本)もいますね。
アウトサイドバックスで言えば、ヅル(中靍隆彰)は、日本選手権では出場出来ませんでしたが、リーグ戦ではほとんどの試合に出場し、今シーズンはもっとステップアップしてくれると思います。あと、江見は本当に能力の高い選手です。今シーズはウイングで固定し、一番のフィニッシャーになれると思っています。それに3年目の塚本もいます。1年目は多くの試合に出場しましたが、昨シーズンはあまり試合に出られませんでした。試合に出られない間に、体が大きくなり、強くなって帰ってきました。
そこには松島もいますし、そういう選手がたくさんいるので、積極的にプッシュし、次のステージに上がれるようにチャレンジしていって欲しいです。
◆エナジー
—— 若手選手が毎年活躍し、良くなっていくためには何が必要だと思いますか?
若い選手が、常に上のレベルでプレーし続けることは難しいと思います。スーパーラグビーでもプレミアシップでも同じですが、若い選手がずっと良くなり続けるということは難しいんです。例えば、昨年の日本選手権ではベテランのヤス(長友泰憲)が復帰し、ヅルがメンバーから外れました。ただ、それはヅルが良いパフォーマンスをしてヤスにプレッシャーを与えていたからこそ、ヤスが良いプレーをすることが出来たんです。
若い選手はチームにエナジーを与えてくれて、もちろん良いパフォーマンスを出し続けることをキープしてもらいたいですが、メンタルやフィジカルで疲れが出てきて、パフォーマンスが落ちてしまうということはよくあります。そこで代わって上がってきた選手が、またチームにエナジーを与えてくれると、チームとしては良い方向に進んでいきます。
私たちが問いかけたことに対して、期待に応えてくれるような選手を、常にメンバーに選びたいと思っています。パフォーマンスが下がってしまう選手がいないようにキープしていかなければいけないとも思いますが、もしそういう選手が出たとしても、すぐに引き上げてあげて、またすぐに戻れるようにしてあげることが、私たちの仕事だと思っています。
—— そのためには選手のことをよく見ていなければいけませんね
その状況が起こる前に判断出来るようにならなければいけないと思います。起こってしまってからでは、パフォーマンスに影響してしまうので、事前に管理しなければいけません。最初に言った選手をサポートするというのはそういう部分でもあります。
◆今のチームがサンゴリアス
—— 今シーズンはワールドカップもあり、イレギュラーな戦い方になると思います。どうピークを持っていこうと思っていますか?
トップリーグに向けては、最初から良くしていかなければいけないと思います。それを考えると、今の時期はすごく大事になってきます。ワールドカップに向けて代表チームで活動している選手がサントリーには10選手いますが、その選手がチームに戻ってきても、すぐに試合に出られるコンディションかは分かりません。 そのために、今チームにいる若いメンバーのエナジーやどういうパフォーマンスが出せるかが大事になります。シニアメンバーも全体練習に参加していて、今のチームがサンゴリアスだと思って臨んでいます。今チームにいる選手は、この時期からトップリーグに出場するための準備をしていかなければいけませんし、選手にはそう言い聞かせています。
ワールドカップで日本代表がいつ帰ってくるか分かりませんし、南アフリカやサモアも分かりません。いつチームに戻ってくるかが分からない状況で、戻ってきてもどういうコンディションか分かりません。なので、今チームにいるメンバーが、11月13日のパナソニックとの開幕戦までに、そのレベルまで上がっていてもらわないといけないと思います。
—— 今はどのチームもレベルが拮抗していると思いますが、その中でもライバル視しているチームはありますか?
もちろんパナソニックはトップリーグチャンピオンですし、ヤマハも日本選手権で優勝したチームなので、私たちはそのチームにチャレンジをしなければいけません。あとは同じ府中を本拠地としている東芝との府中ダービーは毎年激しい試合になります。チャレンジしなければいけません。 多くのチームはサントリーをターゲットにしてくると思うので、最後の5分で逆転し、2点、3点、4点差で勝つような試合はしていてはいけないと思います。余裕を持って勝てるようなチームになっていかなければなりません。
今シーズンはこれまで良い練習試合が出来ていて、ヤクルトとの試合は87対35で勝ちましたし、次の東京ガスとは、前半を終えて43対0でしたが、ハーフタイムで、「前半は関係ない。後半もスマッシュする」とロッカーで話し合い、トータル90対0で勝つことが出来ました。自分たちが相手に合わせてプレーすることは絶対にしてはいけません。毎回、自分たちのプレーをしなければいけません。
今シーズンのスローガンは「TOUGH」です。自分たちもタフにならなければいけませんし、相手チームからもタフなチームだと思ってもらうような試合をしなければいけません。それを最初から作っていくことが、今年は大事だと思っています。
◆タフ・チョイス
—— 「TOUGH」というテーマにはどういう思いを込めましたか?
この言葉は選手たちから出て来ました。このスローガンを決めるにあたっては、たくさんの討論をしました。選手たちは自分たちがやることに対して、「信じるものがないといけない」と思っています。選手たちは、その言葉を信じていると話してくれたので、私たちもその言葉を信じて、チャレンジしていこうと決めたんです。タフになりたいんだったら、私たちがタフになれるようにしていくという答えを出したんです。
選手には「自分たちにとって、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーとはどういうものか?」という質問をしました。その質問に対して、いくつかの答えが返ってきて、選手たちにとってアグレッシブ・アタッキング・ラグビーとは、どういう意味なのかを共有しました。選手たちから来た答えは、選手たちが信じているものです。「選手が信じているものが出来るように、コーチ陣がそれをしっかりとサポートしてやっていこう」と話しました。
昨シーズンは、「こうしましょう」「ああしましょう」と、私たちから提案していきました。「We want it back!」も私たちから提案しました。今シーズンに関しては、選手たちに投げかけ、選手たちから返ってきた答えに対して、私たちがそれが出来るようにやっていこうという形にしています。なので、昨シーズンとはアプローチの仕方がかなり違います。
「TOUGH」という言葉が出てきた後、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーについて話し合い、その話し合いによって、その2つの言葉がリンクしました。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをするためにしなければいけないこととして、選手から返ってきた答えの1つとして「タフ・チョイス」です。苦しい選択をしなければなりません。
グラウンドでは倒されてもすぐに起き上がって動きまわらなければいけませんし、キツイ時に走りまわらなければいけませんし、相手にディフェンスラインが揃っている時にも立ち向かっていかなければいけないということもタフなことです。「TOUGH」という言葉は、色んなところに混ざり合っていったと思います。
—— 今の話はラグビーの本質的な部分ですね
そうです。タフな試合をしなければいけません。昨シーズンから学んだことの中に、タフになり切れなかった選手がいたということがあります。それは、私たちがタフになり切れるチャンスを与えられなかったのかもしれません。そこは私の責任だと思います。
ただ、今シーズンに関しては、自分の頭の中がクリアになっています。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをするために、タフなことをしていかなければいけませんし、ファイティングスピリッツがなければいけません。とても大変なことですが、それが出来るようになるためにトレーニングをしていかなければいけません。
◆あの中に入ってプレーしたい
—— 昨シーズンの中で、一番辛かったことと、一番嬉しかったことは何ですか?
辛かったこととしては、シーズン中盤に自分たちが信じてやってきたものが、選手たちに不安や信じきれない気持を与えてしまい、そこでチームに迷いを与えてしまったことです。良かったこととしては、若い選手の多くがレベルアップしてくれたことです。若い選手を多く使い、その中で良いパフォーマンスを出してくれました。
—— 昨シーズンの中盤に、ファンクラブ会報誌『SKAL!!(スコール)』のインタビューをさせてもらった時には、大変さを感じました
自分たちがやろうとしたことが上手くいかず、その時には解決出来ませんでした。チームが始動し最初の12週間で新しいことをたくさんやりましたが、それによって春からチームで活動してきた選手と、夏に戻ってきた代表選手とを、しっかりと1つにさせることが出来なかったと思います。
春シーズン最後の練習試合をトヨタ自動車とやり、その後から網走合宿をスタートさせました。網走合宿から日本代表メンバーが合流し、春シーズンから取り組んだ新しいことを、上手く日本代表メンバーに落とし込めなかったんだと思います。「なぜこれをやるのか」という疑問に対して、明確な答えを伝えることが出来ず、1つのチームの中に2つのグループがあるような状態になってしまいました。そこが昨シーズンの一番の反省点だと思います。
なので、今シーズンは最初からアグレッシブ・アタッキング・ラグビーとは何かを明確にして、日本代表メンバーはチームを離れていますが、春シーズンの段階で共有しました。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーを積み上げていき、日本代表メンバーが戻ってきた時に、「これをやればいい」とクリアに分かるようにしなければいけません。選手たちが「あの中に入ってプレーしたい」と思わせるような状態までしなければいけないと思っています。そして、その中に入るために、もっともっと頑張らなければいけないと思わせるようなチームにしていきたいと思いますし、若い選手がチームを引っ張っていくようにしたいと思っています。
—— あえて聞きますが、今シーズンの目標は?
もちろん、WINです。勝ちます。プレシーズンリーグから勝てると思っていますし、勝てるという姿勢で臨まなければいけないと思います。そして、レギュラーシーズンでも勝ち、日本選手権でも勝ち、3つのタイトルを取ります。
(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]