2015年7月15日
#438 篠塚 公史 『相手は関係なく自分たちがやるべきことをやり通す』
10年目のシーズンを迎えた篠塚公史選手。いつもマイペースで淡々と自分の役割を担っているように見えますが、心は熱く頭は冷静な選手を目指しているそうです。篠塚選手に10年目の新たな決意を聞きました。(取材日:2015年7月3日)
◆100キャップ
—— 昨シーズンのファーストステージ第6節で、トップリーグ100キャップを獲得しましたね
1年目の時は、全試合フル出場しましたが、その年のシーズンオフに怪我をしてしまい、2年目のシーズンは最初の3~4試合は出られなかったと思います。2年目のシーズン以外は、ほぼ試合に出させてもらっていました。
—— それだけ試合に出ていても、9年目のシーズンでの達成でしたね
長かったですね。ただ、トップリーグ100キャップを達成したかったという思いはなくて、1試合1試合を一生懸命やった結果だと思います。
—— サントリーに入った当初は、そのくらい試合に出てやるという思いはありましたか?
サントリーに入った当初は、体重が89kgしかなくて、同期でバックスだった藤原丈嗣(2009年度引退)よりも軽かったので、まずは体を作らなければいけないと思っていました。入った当初はずっとロックで練習をしていたんですが、開幕する前に「フランカーで試合に出ろ」と言われて、「試合に出られるならば、どこでも出ます」と言って、メンバーに選んでもらいました。
—— 1年目の開幕までには体が大きくなったんですか?
90kg台にはなっていたと思いますが、あまり大きくはなっていなかったと思います。今は105kgくらいあるので、入社当初と比べると大きくなったと思います。
—— 体を大きくするために、どこをトレーニングしたんですか?
どこというよりも、ラグビーで使える筋肉をつけました。大学時代は、ほとんどウエイトトレーニングをやってこなかったんですが、社会人になってからは、ほぼ毎日ウエイトトレーニングをして、そのおかげで筋肉がついていきました。それに社会人の激しいコンタクト練習をしていく中で、必要な筋肉がついていったと思います。
—— 体が大きくなったことで何が変わりましたか?
体が軽いとコンタクトしても負けて押されるので、下がってから前に出ようとしても難しいんですが、体が大きくなるとコンタクトでもイーブンくらいになって、そこからは前にも出られるようになりました。
1年目のシーズンオフに怪我をした時には走れなかったので、ウエイトしかしていなかったら、体重が113kgくらいまで増えました。ただ、走っていなかったので、ラグビーで使える筋肉ではなくて、体が重すぎで動けなくなってしまいました(笑)。結局はそこから107kgくらいまで体重を落としました。
—— 体重を落とすことは大変ではありませんでしたか?
基本的には痩せやすい体質なので、体重を落とすことは大変ではありませんが、体重をキープさせることが大変です。体重をキープするために、今は食事の回数を増やしたり、ウエイトで筋肉を増やしたりしていますし、他のメンバーも同じですが、練習前に体重を量り、練習後にはしっかりと食事を摂って、帰る時には練習前の体重以上に戻すようにしていて、そういう積み重ねをすることで体重をキープしています。
◆ラインアウト・ノート
—— 2年目に大きくし過ぎた体を戻して、そこからは安定しているんですか?
そこからは体重は今とほぼ変わりませんし、体型もほとんど変わっていないと思います。
—— 2年目くらいからは相手とも対等に戦えるようになったんですか?
1年目よりは対等になったと思いますが、当時はまだ体の使い方も分かっていなくて、相手に真正面から当たりに行っているだけだったと思います。相手に真正面から当たると、力のある方が勝つので、体をずらして当たったり、相手の力を利用したりしなければ、前には出られません。
—— 相手の力を利用するにはどうしたらいいんですか?
説明は出来ませんが、経験を積むことによって、今は体が勝手に動く状態です。
—— いつ頃から出来るようになったんですか?
3~4年目くらいだったと思います。頭で考えてプレーすることがあまり得意ではなくて、体で覚えるというか、体が勝手に反応するような感覚でやっています。
—— 頭で考え過ぎてしまう選手にとっては羨ましいことですよね
僕としたら考えて出来るようになることが羨ましいですね。自分でプレーする分には良いと思いますが、後輩などに説明が出来ないんです。ラインアウトについても、最初は全く説明が出来ませんでした。プレーは出来るんですが、それを口で説明しようとすると、何て言えばいいのか分からなくなっていました。
最近はラインアウト・ノートを書くようにしていて、どうすればいいかとか、細かいことでも気づいたことは書くようにしています。僕が引退する時には見せられると思うので、その時までは何を書いているかなどは秘密にしておきます(笑)。
最近、色々なところから依頼があり、ラインアウトを教えに行っています。大学の同期が監督をしている法政二高や以前サンゴリアスでスタッフをしていた方が指導している高校や大学にも教えに行っています。もちろん会社が休みで、チームがオフの時だけですが、教えに行っています。
—— 教えてみてどうですか?
あまり教えてもらったことがない子たちに教えるので、ジャンプにしろリフトにしろ精度が低かったんですが、少し教えるだけでまったく違うラインアウトになりましたし、そういうところを見ると、教えて良かったと思いますね。
◆真っすぐジャンプ
—— 昨シーズンについては、ラインアウトがあまり良くない試合が多かったですね
昨シーズンもそうですが、2シーズン前のプレーオフトーナメント決勝でも良くなくて、ほとんどボールが取れていなかったと思います。マイボールであれば、80%~90%くらいは取らなければいけないんですが、あの試合は20%くらいしか取れなかったと思います。
—— なぜそういう状況になったと思いますか?
原因としては、サントリーのサインが相手に見破られていたということと、サインが見破られたことで、動揺してしまったことだと思います。そうなってしまうと、相手を気にしてラインアウトをしてしまうので、自分たちが今までやってきたラインアウトが出来なくなってしまっていました。そこで冷静に、自分たちだけにフォーカスしなければいけなかったと思います。
—— それが教訓になっていますか?
ラインアウトやスクラムに関しては、相手があって自分たちのやりたいことをやるのではなくて、相手は関係なく自分たちがやるべきことをやり通すことが大事なんです。そこが難しいんですけどね。
—— 教えられる範囲で、ラインアウトで気を付けていることは?
ジャンプをするまでの時間を出来る限り短くすることを考えています。ジャンプをする姿勢に入って、そこから膝を曲げてジャンプをすると、膝を曲げて伸ばすまでの時間が無駄になります。コンマ何秒だと思いますが、その僅かな時間によってディフェンスがついてきてしまうんです。それを無くすために、出来るだけ速く、ジャンプの姿勢に入ったらそれ以上膝を曲げずにジャンプするようにしています。
それを習得するためには、練習を繰り返して、体に覚えさせるしかないと思います。そのために、ジャンプした位置と着地する位置が同じでなければいけません。真っ直ぐジャンプをしないとリフターも大変ですし、バランスも悪くなります。そして一番高い位置までリストが出来ない状態になります。
—— スロワーとのタイミングについては?
そこは練習で合わせていって、ベストのタイミングを見つけなければいけません。基本的には、誰がどこのポジションに入っても、同じ立ち位置で、同じ姿勢で、同じスペースで、同じ脚の形でやらなければいけません。誰かが入ったことで、それが変わってしまってはダメなんです。
自分が参加しないラインアウトではその部分に気を付けて見ていますし、教えに行った時もそこに気を付けていました。前で飛ぶサインを出す時には、サインを出している途中で、みんな前に重心が移動してしまっていることが多いんです。そういう動きをしてしまうと、相手にサインのヒントを与えてしまっていることになるので、常に同じ動きをしなければいけないんです。
◆気づかされる
—— ラインアウト・ノートは何冊くらいになっているんですか?
まだ最近始めたばかりなので、何冊にもなっていません。これからのラグビー人生は、これまでラグビーをやってきた時間よりも短いので、その短い時間で、僕が後輩に教えられることを残しておこうと思っています。
—— そのノートを書くようになったきっかけとして、高校生や大学生に教えるようになったことも影響していますか?
そうですね。1回行って、それで終わりだと忘れてしまいますし、何も残らないと思うんです。例えば、そのノートをコピーして、教えてあげた子供たちに送ってあげたりすれば、その子たちが卒業をしたとしても形として残るので、その後輩たちにも繋げられると思います。
—— 教えることは好きですか?
教えることが面白くなったのは、昨年くらいからですね。それまでは、話すのが上手い方ではないので、自分で向いていないと決めつけていたんですが、高校生や大学生に教えてみると、すぐに成長してくれるんです。その姿を見ることで、面白いと感じるようになりました。
—— サントリーの中でも後輩に教えたりするんですか?
今年からは辻本や寺田にラインアウトを教えるようにしています。まだ言い始めたばかりなので、少しずつ良くなってきている段階です。
辻本にしろ寺田にしろ、これまでやってきた経験があるので、持論を持っているんです。昨年度引退された太一さん(田原)も、やはり持論を持っていて、ラインアウトに関しては太一さんと僕は別の考え方を持っています。昨シーズン、太一さんとラインアウトのミーティングをしていて、「そういう考え方もあるのか」と気づかされることもありました。
◆好きなのはスコッチ・ウイスキー
—— 会社ではどういう仕事をしていますか?
他のラグビー部と同じく、チェーン展開しているスーパーの本部の商品部のバイヤーさんや部長さんに新商品や限定で発売される商品などの提案をして、取り扱ってもらえるように商談をしています。そのため、新商品が発売される時などには、その商品を自分でも飲んでみますし、提案する際にはバイヤーさんや部長さんに試飲をしていただいて味を評価していただいたり、パッケージデザインを見ていただいたり、お店が求めている商品を見極めて提案をしています。
—— お酒は好きですか?
大好きです。サントリーでは色々なお酒を取り扱っていますが、僕が好きなのはスコッチ・ウイスキーです。スコッチ・ウイスキーは香りがスモーキーで、僕はその香りが好きなんです。なので、まずは香りを楽しんでもらいたいですね。水割りで飲めば、香りは和らぎますが、飲みやすくなると思います。
僕がスコッチ・ウイスキーを飲む時には、ウイスキーが1に対して、水は3くらいの割合で飲みます。少し濃い目ですが、次の日に何の予定もなく、自分のペースで飲んでいいのであれば、ずっと飲んでいられると思います。
家には40種類くらいのウイスキーがあります。スコッチの他に、バーボンや日本のウイスキーも飲みます。ウイスキーはそれぞれに個性があって楽しいですよ。昨年、ジム・ビームが扱えるようになったので、嬉しかったですね。
ずっと飲んでいられると言いましたが、チビチビと飲んでいるので、量としてはそんなに多くはないと思います。ウイスキーを飲みながら考え事をしているんです(笑)。
—— お酒には強いんですね
弱くはないと思います。家で飲む時もあれば、お店に行って、1人で飲むこともあります。体が大きいので、1人で飲んでいたりすると店員さんから何かスポーツをやっているのかと聞かれることもあって、府中のお店などではラグビーをやっているというと、だいたい「東芝?」と聞かれますね(笑)。そこで「違うチームです」と言うんですが、「サントリー?」とは返ってこないことが多いんです。そこがサンゴリアスの課題だと思います。
—— どういう時に飲むお酒がいちばん美味しいですか?
やはり優勝した時に、その晩に飲むお酒です。もう3年も前の話になってしまうので、その時のお酒の味を忘れかけてしまっています。負けた時のお酒は、考え事しかしないので辛いんです。今シーズンは美味いお酒が飲めるように頑張ります!
<つづく>
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]