2015年6月24日
#435 江見 翔太 『ラグビーをより深いところまで』
2年目を迎える江見翔太選手。昨シーズンはキャップを獲得することは出来ませんでしたが、着実に頭角を現してきていますし、何より自分の現在地をしっかりと把握している様子がインタビューからも伺えます。まだ“ホープ”と呼べる期待のラガーマンは、いま何を考え、何をやろうとしているのでしょうか。(取材日:2015年6月4日)
◆スタートラインに立つ
—— 1年目だった昨シーズンを振り返ってみてどうでしたか?
昨シーズンの1年間は勉強のシーズンでした。ラグビーだけではなくて、社会人として、そして人としても、色々なことを学び、順応して、まずは他の選手と同じスタートラインに立つための1年だったと思います。トップリーグの試合にも出たかったんですが、1年間サンゴリアスでやったことで、やっとスタートラインに立ったかなと思っています。
—— 具体的には何を学びましたか?
私生活がラグビーに通じていて、ラグビーだけをやっていれば良いという事ではないということです。仕事とラグビーをやらせてもらっている中で、どちらか一方ばかりに力を入れてはダメで、どちらもしっかりと出来るようにならなければいけないと感じました。
昨シーズンは怪我をしたこともあり、客観的に自分を見直す機会がありました。そのお陰で、メンタル面が成長出来たと思います。それまでは試合で良いパフォーマンスを出せば評価されると思っていたんですが、やはり練習中の姿勢や、学ぶ姿勢、ウエイトでの取り組みなども大事だと感じて、全てのことをラグビーにリンクさせていかなければ成長はないと思いました。それからは何事においても真剣に取り組めていると思います。
トップリーグが開幕してからは試合のロッカーの手伝いなどをしていて、次の日には練習試合をやるという流れが出来てしまって、そのルーティーンに慣れてしまっている自分がいました。怪我をしたことでそのルーティーンが崩れて、少し離れたところから見ることによって、あのままではいけなかったんだと気づかされました。まさに怪我の功名だったと思います。
—— 悪いことをポジティブに捉えられる方ですか?
性格的にはそういうところがあると思いますが、昨シーズンは怪我が重なったりして、精神的なダメージが大きかったんです。今は少し離れたことで前向きに捉えられるようになって、モチベーションも上がっています。
—— メンタル面の成長は、他の選手を見て変えなければいけないと感じたからですか?
怪我をしたタイミングがアオさん(青木佑輔)と同じタイミングで、一緒にリハビリをやっていたので自然と話す時間が多くなりました。そこで悩みの相談にも乗ってもらいましたし、色々とアドバイスをもらい、多くのことに気づかせてもらいました。評価する側の人間も同じ人間なんだから、見えない努力をあえて見せることも大事なんじゃないかという言葉も掛けていただきました。
—— 全てをラグビーにリンクさせるということは、具体的にどういうことになりますか?
クラブハウスでは選手同士で集まりますが、クラブハウスを離れたらバラバラになるのではなくて、土日やオフの日に、同期や先輩たちと食事をしながらコミュニケーションを取ることも大事だと思います。その中でラグビーの話だけじゃなくて、プライベートの話などもしながら、お互いの信頼関係を築いていければと思っています。
◆オフシーズンに挽回
—— 仕事についてはどうですか?
僕の仕事は業務用と言って、飲食店さんにお酒を卸している酒屋さんを担当させてもらっています。1年目の選手は、最初はスーパーなどを担当し、陳列などをやりながらお酒の知識を身につけていくという流れが多いんですが、僕の場合は最初から業務用を担当させてもらって、酒屋さんに色々と勉強をさせてもらいながらやって、ようやくしっかりと仕事も出来るようになってきたと思います。
—— お酒は好きですか?
好きですね。ただ、シーズン中とオフシーズンでメリハリをつけて飲んでいます。シーズン中になると、試合や練習などで取引先に迷惑をかけてしまうこともあるので、オフシーズンに挽回するようにしています。
—— ラグビーもお酒も好きで、どちらも仕事になっているのは幸せですね
そうですね。いま幸せです。
◆自立して計画を立てて、どれだけやれるか
—— ラグビーについてはどうでしたか?
トレーニングをしていく中で、シーズンの後半には変わってきているということを感じていて、動きにもキレがあったと思います。練習試合でも自分の強みであるアタックは通用していたと思いますし、その部分についてはチームから評価をしてもらっていました。
シーズンオフに母校へ行って、後輩の練習を見たり、参加させてもらったりもしたんですが、そういう中に入るとどれだけ成長しているかということを感じることが出来ましたし、全く違う環境でラグビーをやらせてもらっていると感じました。
—— もし大学時代の自分に何か伝えられるとしたら、何を伝えたいですか?
強豪校ではなかったので、その環境に流されていたと思います。そういう環境の中でも、自立して計画を立てて、どれだけやれるかが大事だと思います。当時は監督やコーチが来るのも土日だけでしたし、練習メニューを自分たちで組んで頑張っていたつもりでしたが、やはりどこかで甘えていたと思いますし、「こういう環境だし、しょうがない」という思いが少なからずあったと思います。いま振り返ると、あの時にもっとこうしていればという後悔がありますね。
後輩にはその思いを伝えているつもりですが、僕がたまに行って伝えるだけじゃ絶対に伝わらない部分だと思うので、そこを伝えるのは本当に難しいですね。
◆センターに加えウイングでも
—— 昨シーズンの取り組みによってスタートラインに立ったということですが、今の課題は何ですか?
今シーズンはセンターに加え、ウイングでもチャレンジしていく予定で、大学時代もウイングをやっていたので、プレーをする上では問題はないと思います。ただ、ラグビーをより深いところまで知らなければいけないと思います。このシチュエーションではどういう動くべきかを、試合の映像などを見ながら学んでいきたいと思います。
—— 自分の強みはどこだと思いますか?
動きのキレですね。そこに加えてパワーを更につけられればと思っています。僕が左ウイングで、逆サイドにはスピードのあるヅルさん(中靏隆彰)や長野さんがいれば、対照的で面白くなるんじゃないかなと思っています。
—— 昨シーズン中で「今日のキレは凄い」と自分で思う時はありましたか?
ありました。シーズンの途中から食事にも気を付けるようにしていて、その時の体脂肪のデータを見ると、体重は変わらずに体脂肪だけが低くなっていました。その状態をキープ出来るようになれば、良いパフォーマンスが継続して出していけると思います。
どうしても食事だけでは十分に補えないこともあるので、プロテインやサプリメントなども摂っています。プロテインについては、トレーニングが終わった直後に摂ることが大事になるので、意識してしっかりと摂るようにしています。
◆ゴールデンタイムに栄養を補給
—— 栄養がしっかりと摂れていないと、体にも表れてきますか?
栄養が足りていない状態だと、体が筋肉を分解して栄養を摂ろうとして、脂肪が残ってしまいます。筋トレで筋肉を破壊するんですが、その後のゴールデンタイムの時にプロテインなどで栄養を補給することによって、筋肉は分解されずに栄養が摂れます。
ただ、プロテインだけでは栄養が偏るので、その後にしっかりと食事も摂らなければいけません。僕の場合は、食事の後にサプリメントも摂っていて、栄養を補っています。
—— プロテインやサプリメントはいつ頃から気をつけて摂っていたんですか?
プロテインは大学時代から摂っていましたが、サプリメントはサントリーに入ってからです。大学時代はプロテインもあまり意識して摂っていませんでしたが、サントリーに入ってからしっかりとルーティーン化して摂れるようになりました。あと、森永製菓の「inゼリー」などはエネルギー補給のために、練習試合のハーフタイムなどでも飲んでいます。
—— 今シーズンも引き続き体を大きくしていく予定ですか?
大きくしたいですね。大きいけれど、速い動きが出来る体を手に入れて、相手に「そんな動きが出来るの?」と思わせれば、相手を惑わすことが出来ると思います。そうなれば、ウイングにとっては、相手を抜くチャンスになると思います。そして、スペースが無くても「とりあえず、江見にボールを渡しておけばボールをキープ出来る」と仲間に思ってもらえれば、チームからの信頼も得られるようになると思います。ただ、体を大きくしても、動きのキレは無くさないようにしていきたいです。
◆まずはトップリーグデビューを
—— ラグビーをしていて面白いと思うプレーは?
動きのキレによって相手を惑わせて、抜き去るプレーが出来れば面白いですね。そういうプレーは気持ちいいんですが、体を当てて相手に勝って抜けていくプレーも面白いですね。内でも外でも相手から抜けて、トライを取ることが喜びです。
—— 今シーズンの目標は?
まずはトップリーグデビューを果たしたいです。先発でもリザーブでも、まずはトップリーグのメンバーに入ることを目標としています。今シーズンはトップリーグの開幕が遅いので、その前のプレシーズンリーグで先発として結果を出し、そのままトップリーグのメンバーに入りたいと思っています。
—— チーム内でのライバルはいますか?
11番と13番のそれぞれのポジションの選手です。ワールドカップがあったり、トップリーグの開幕が遅かったり、シーズン後にはスーパーラグビーがあったりと、今シーズンは色々なことがありますが、僕の照準はトップリーグデビューに絞っていて、その目標を達成するための勝負の年だと思っています。
今シーズンでトップリーグデビューを果たすことが出来れば、自ずと次のシーズンにも繋がっていくと思うので、代表選手がチームにいないことは、僕にとってはチャンスでしかないと思っています。
◆キレッキレに
—— トップリーグデビューを果たした姿を想像していますか?
キレッキレに動きまわっていると思います(笑)。キレのある動きが出来る選手にはいくつかのタイプがあると思いますが、僕の場合は、スピードに乗っている時にいかにダイナミックに動けるかが重要です。ボールをキープするためだけに相手にぶつかるようなプレーではないですし、味方のサポートを待つためにトライを狙わないプレーでもなくて、消極的ではないダイナミックなアタックをしたいと思っています。
その中でスピードもある程度重要になりますが、僕の場合は相手から半身ずらせれば勝ちという意識があります。ナリさん(成田秀悦)は、相手の動きを考えてステップを踏んで抜いて行くんですが、僕の場合はスペースを自分で作りに行くような感覚です。例えば、相手からずらした時に、その動きに対面の選手はついてきているけど、内側の選手がついてきていなければ、その間を抜きに行ったり、それでもずれていなければ、また相手をずらしに行ったりします。相手の重心をずらして抜いていくことを考えているんですが、全ての場合でそれが出来ている訳ではないので、いつかは出来るようになりたいと思っています。
—— 動きにキレを出していくために重要なことは?
やはり食事がいちばん大事だと思います。しっかりとトレーニングをしていても、例えば1週間脂っぽいものばかり食べていたのでは、絶対に動けません。それに試合の前日に脂っぽいものを食べても動けなくなるので、しっかりと考えて食事を摂らなければいけないと思います。
—— 現在の体脂肪率は?
今は7%くらいです。昨シーズン中は5.4%くらいだったので、少し増えています。僕の感覚としては、体脂肪率が低い方が調子は良いので、体重はキープしながら脂肪を減らして筋肉を増やそうとしています。
—— 体を作り上げていくことが好きですか?
好きですね。体を作りながら、ラグビーのパフォーマンスに繋げていかなければいけません。ただ単純に体を大きくするとボディービルダーになってしまうので、ラグビーに使える動きの強さを最大限にしていかなければいけないと思います。筋トレをしている時でもラグビーの動きを意識して、「これが出来るようになれば、ラグビーでどれだけのパフォーマンスを発揮出来るだろうか」と考えたりすると面白いですね。
—— ファンにはどういうプレーを見てもらいたいですか?
ボールを持って走っている時に、躍動的に動いていたり、ゲインしている姿を見てもらえれば、「ダイナミックだ」と感じてもらえると思います(笑)。見ている人にダイナミックと感じてもらえたら嬉しいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]