SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年6月10日

#433 池谷 陽輔 『スクラムを強くする』

サンゴリアス最年長として13年目のベテラン。昨シーズンは初めての公式戦出場ゼロ。今シーズンはどう復活するのでしょうか。やる気に満ちあふれた池谷陽輔選手に訊きました。(取材日:2015年5月31日)

◆スクラムで押されたから負けた

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—— 今シーズンもチーム最年長ですね

僕の基本的な考え方として、チームに必要とされる限りは選手を続けたいという考えがあるので、僕としても出来る限りは続けたいですし、30歳を過ぎてからはそういう考え方なので、チームから「もう1年残ってくれ」と言われた時は、正直に嬉しかったですね。その中で、嬉しい半面、自分のチームに対する責任を感じながら、今シーズンがスタートしました。

これまでベテランとしてやってきて、チームがどう判断してくれているかは分かりませんが、僕自身としては、自分のプレーをやってきただけでした。積極的に若手に指導することもあまりなかったんですが、今シーズンはこれまで以上にチームに対して僕が出来ることをやっていきたいと考えています。

—— 具体的に「チームに対して出来ること」とは何ですか?

僕が力を入れてやってきたのはセットプレーの部分です。昨シーズンを振り返ると、セットプレーで負けたから試合に負けたんです。スクラムで押されたから負けたんですよ。

昨シーズンまでは、セットピースが重要だという認識はありながらも、あまり練習に時間を割けていませんでした。今シーズンはセットピースが強化されると思うので、そこが楽しみですね。

—— 3年連続日本一を取っていた時にはセットピースでも勝っていたということですか?

そうですね。少なくとも負けてはいませんでした。2年連続で無冠となってしまいましたが、チームの判断として、セットプレーよりも出来ていない部分があったから、そっちに時間を割いていたんだと思います。それに加えて、選手たちの意識の中でもスクラムの優先順位は低かったと思います。

チームの練習としてスクラムに時間を割けない日もあるかもしれませんが、スクラムが重要だということを若手に伝えていくことが僕の仕事だと思っています。それによって、若手の練習が大変になるかもしれませんが、意識させることが重要だと思います。

◆フォワードが一体にならなければ、チームも一体にならない

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—— スクラムを強くすることは大変なことですよね

スクラムを強くすることは、しっかりと組むことも大事ですが、僕の持論は、8割がメンタルだと思っています。8割がメンタルで、2割がテクニックで組むのがスクラムです。「このスクラムが大事」とか、「スクラムが弱ければチームが損をする」という意識を、若手にどれだけ植えつけられるかだと思います。

メンタルの部分は、「スクラムを組む時の精神的な強さ」や、「チームにとってどれだけスクラムが大事か」を理解する意識が大事だと思います。例えば、右サイドのゴール前でどういうスクラムを組めば、味方に上手く繋げられるかとか、敵が有利になってしまうかなどを考えながらスクラムを組まなければいけません。ただスクラムを押せばいいということではないんです。

正直、全てのスクラムを単純に押すことが出来れば、それが一番良いんです。それが出来れば、相手の気持ちを折ることが出来ますし、押している側が悪い状況になることはありません。ただ、スクラム全体を意識しなければ、押すことは出来ません。プロップだけが強くてもスクラムは押せませんし、フッカーやロック、フランカー、ナンバー8のそれぞれだけが強くても押せないんです。

だからスクラムを強くすることは難しくて、フォワードが一体にならなければ、チームも一体にはならないんです。フォワードからボールが出てこなければ、バックスには繋げられないんです。

—— メンタルを強くするためには何が必要ですか?

一度、痛い目を見なければ、強くはなれないと思います。昨シーズンの日本選手権決勝で、既に痛い目を見ているので、あそこから目を逸らしてしまえば、強くはなれません。あれ程ボロボロにやられて、「まだサンゴリアスは強い」と思っている選手がいたら、チームとして強くなってはいけないんです。だから、僕は今シーズン、口を酸っぱくして「またあんなスクラムを組みたいのか」と言い続けると思います。

◆全てを信じて、1つの方向に

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—— 池谷選手のコンディションや身体的な部分はどうですか?

毎年成長している意識でやって来ていたんですが、昨シーズンに関しては途中でガタが来てしまいました。無理をしてトレーニングをしていたつもりはなかったんですが、筋肉が言う事を聞かなくなった時期がありましたね。

選手として80分間フル出場することを目指していますが、「やれ」と言われても今は出来ないと思います。80分間フル出場することを目指していきながら、40分間、60分間はしっかりと試合を出来るコンディションを整えていきたいと思いますし、それが出来れば80分間フル出場することも無理ではないと思っています。

—— 昨シーズンは出場試合数がゼロでしたが、これはサンゴリアスのキャリアの中で初めての経験でしたね

納得はしています。同じポジションに日本代表の畠山と垣永がいますし、昨シーズンは序盤に怪我をして、ろくに練習も出来ていませんでした。昨シーズンがそういう結果に終わってしまったので、それでチームを去ることになれば正直寂しさを感じましたが、試合に出るという形でチームに貢献出来なかったので、「お疲れさま」と言われても仕方が無いという思いはありました。

—— 周りからチームを見ていて、昨シーズンのサンゴリアスはどう見えましたか?

何を信じてやればいいのかがはっきりと分からず、フワフワした状態に見えました。今シーズンはしっかりと固めないといけないと思いますが、昨シーズンの終盤には示すことが出来たと思います。

これまでエディー・ジョーンズや大久保直弥という素晴らしい監督がいて、その監督の指導を100%信じてやることに加え、チームが一丸となったことで結果を残してきたと思います。昨シーズンはその形がしっかりとはまらず、外から試合を見ていても「なんでこんなに危ない試合ばかりやっているのか。何故あれだけ練習をしてきたことを出さないのか」と感じることが多かったですね。

エディーさんが監督になった1年目も序盤は同じような状況で、チームを信じ切れていませんでしたし、チームメイト同士でも信じ切れていませんでした。しかし、昨シーズンに関しては、その状況がシーズンを通してずっと続いてしまいました。

—— その状況が日本選手権で挽回できましたね

あれもこれもやろうとせずに、シンプルに1つにまとめたことで、日本選手権決勝まで進むことが出来たんだと思います。

—— 1つのシーズンの中で、まとまらない時期もまとまった時期も経験して、それをどう今シーズンに繋げていきますか?

シーズンの最初から、チームのやることやチームメイトなど全てを信じて、1つの方向に向かってやっていくことが大事だと思います。

—— 信じてやるためには積み重ねが大事になりますよね

昨シーズンの日本選手権決勝がそうで、セットピースで負けてしまいましたよね。セットピースは、ワイルドカードや日本選手権の途中から強く出来るものではなくて、特にスクラムはチームにとってデメリットになっていました。スクラムでマイナスになった状態から攻撃を組み立てるのは、チームにとってはかなりの負担だったと思います。そこは練習を積み重ねるしかなくて、練習あるのみです。

◆優勝して選手生活を終えたい

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—— 今シーズンが13年目になりますが、これまでの過去のチーム状況と重ねて見て、今シーズンはどんなシーズンだと思いますか?

2年連続無冠で、過去にもタイトルを取れず、もがいていたシーズンもありましたが、1年1年が勝負ですし、30歳を超えてからは毎年最後という思いでシーズンを戦っていて、優勝して選手生活を終えたいという思いがありますね。

—— 今シーズンは若手にセットピースを意識させていくという役割がありますが、選手個人としての目標は?

より自分のプレーに磨きをかけるだけです。いまのサンゴリアスはスクラムさえ出来ていれば良いというチームではないので、チームメイトやスタッフからどのプレーでも信頼してもらえるような選手になりたいと思っています。

—— 同じポジションで日本代表に選ばれている畠山選手や垣永選手に期待することは何ですか?

学ぶ姿勢を常に持っていれば成長できると思っています。特に垣永は、まだ社会人2年目なので、間違いなくまだまだ成長できるんです。だから学ぶ姿勢を忘れずに、自分が強くなるために、そしてチームを強くするために邁進してもらいたいですね。

—— 今シーズン“これをしたい”と思っていることはありますか?

もちろんチームとしては優勝ですが、個人としては13年のサンゴリアス生活の中で、これまでにトップリーグでトライをしたのは3回だけなんです。トライをすることが出来れば、いつ引退しても良いかもしれないですね(笑)。試合中はトライを狙ってプレーしている訳ではないですが、ゴール前でのターンオーバーからのトライとか、スクラムトライなどをやりたいですね。

—— 目標を達成できる感触は?

良いメンバーが揃っているので、もちろん優勝できると思います。

—— ファンにはどういう姿を見てもらいたいですか?

僕は、出場した試合を映像などで振り返っても、どこにいたのか分かりにくいようなプレーをするので(笑)、そういうところを見ることが好きな人には、そういう部分を見てもらいたいですね。あとは、良いスクラムや、良いリフティングが出来たラインアウトからトライに繋がったりすると嬉しいので、縁の下の力持ちじゃないですけど、そういうプレーを見てもらいたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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