SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年5月13日

#429 尾関 弘樹 ゼネラルマネージャー 『勝つことはそんなに甘くない』

昨年、ゼネラルマネージャー(GM)に就任。持ち前のポジティブさでチームを先導するも無冠に終わった1年目となりました。巻き返しを図る2年目に向けて、何を思い、何を計画しているのでしょうか。サンゴリアスのフロント・リーダーに話を聞きました。(取材日:2015年4月27日)

◆チームをどう作るか

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—— 昨シーズン、GMに就任し、1年が経ちましたが、昨シーズンを振り返っていかがでしたか?

個人的なことを言えば、それまでは会社で営業をやっていて、サンゴリアスに戻ってきたのが15年振りだったんです。就任した当初は、浦島太郎状態でしたが(笑)、その状態でも、大久保直弥という素晴らしい監督がいて、私の下には田中澄憲がチームディレクターでいるので、その2人に色々なことを聞きながらやった1年だと思います。

あと、久しぶりに「勝ちか負けしかない」世界に帰ってきて、仕事では色々な勝ち負けがありますが、サンゴリアスの場合は、優勝する事しか評価されないので、その緊張感がある世界に帰ってこられたことは、凄く良い経験になっています。

—— GMとしてサンゴリアスに戻るということは予想されていましたか?

いや、予想はしていませんでした。サンゴリアスは、引退後チームに残ってきた優秀な人材がいるので、彼らがこれまでの文化を継承していってくれていて、私はOBとしてしっかりと仕事を頑張って、現役選手に仕事の部分でも勇気を与えられたらいいと思ってやっていました。

私がGMを任されることになったのは、OBとしてしっかりと仕事をしてきたことが評価された部分と、チームをどう作るかという部分を期待されたんだと思っています。

—— サンゴリアスに戻ってきて、どういう印象を受けましたか?

みんながサンゴリアスのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーにプライドを持っていることと、サンゴリアスの文化が継承されていて、選手もスタッフもその文化にプライドを持っていると感じました。私が現役だった頃は、まだラグビー部という形で、ラグビーのスタイルもはっきりと確立されていませんでしたし、文化と呼べるほどの文化もなかったと思います。今のサンゴリアスは、しっかりと1つのクラブチームとして機能していると感じました。

組織として1つのクラブチームと同じような体制になっていますし、社員選手が多い中で、プロチームに近いものもあると思います。

—— 企業チームでありながら、プロチームと同じようなトレーニングをしていかなければ勝てなくなってきていますよね

日本のラグビー界を考えた時に、企業スポーツから抜け出すことは、今の段階では難しいと思います。やはり企業に属して、サンゴリアスを通じて、どうサントリーの価値を上げていけるかが重要だと思います。現状のラグビーの人気、認知度などを考えると、まだまだプロスポーツとして独り立ちできる環境ではないと思います。

◆まずは全ての垣根を取って

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—— 2013-2014シーズンでタイトルが取れず迎えた昨シーズンでしたが、昨シーズンはまたチャンピオンに返り咲くのか、タイトルから離れてしまうのか、重要なシーズンだったと思います

チームが同じ方向を向いていなければ勝てないということを実感しましたし、スタッフには「選手に勝たせるために、スタッフはハードワークしよう」とずっと伝えてきました。ただ、1年間やってみて、GMとして課題は残りましたし、反省をしなければいけないところもあったと思います。

春の段階では、あまり口出しをせずにいたんですが、シーズンを過ごしていくうちに選手に迷いがあることを感じましたし、選手にとってはもっとシンプルな体制を作るべきだったと思います。

あと、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーの軸が少しブレてしまっていて、そこをGMとして軸をしっかりさせられなかったことが、一番の課題だったと思います。

—— トップリーグが始まって以来、初めてワイルドカードから日本選手権決勝まで進みました。結果的には、その経験は次に繋がると思いますが

リーグ戦では、選手が感じていることを我慢してプレーしていたと思いますが、それでは勝てなくて、ワイルドカードに進んだことで選手が自立してくれたので、チームとしてはひとつ上に進めたと思います。ただし、監督やコーチ、スタッフをなくして、選手だけでやったとしても勝てるのかと言えば、それは違うと思います。今シーズンはコーチ陣と選手の両軸をしっかりと立て直したいと思っています。

—— 一丸となるために、どうチームを作っていこうと考えていますか?

菅平の合宿からチームが本格的に始動するわけですが、その前に全スタッフでミーティングをします。昨年まではそれぞれの部門が発表する形を取っていましたが、今年はどちらかと言えばフリーにディスカッションすることをメインにしようと思っています。まずは全ての垣根を取って、「なぜ昨シーズンがあのような結果になったのか」を話し、課題を明確にしてから、「今シーズンではどうしていくか」、まずはスタッフ間で同じ方向を向けるようにしていこうと考えています。

サンゴリアスのスタイルは変わらないんですが、まずはスタッフの全員が同じ方向を向き、ブレないようにするために意思統一することが必要だと思っています。そのためには、やはりコミュニケーションが大切だと思います。昨シーズンも「意見を言い合って、ぶつかってもいいから、納得してから仕事をしよう」とスタッフには言っていましたが、それでも上手くいかなかったので、難しさは感じています。

サンゴリアスには優勝が出来るくらい良い選手が揃っていると思いますし、そのための組織は出来ていると思っていますし、良いスタイルのラグビーをしていると思っています。ただ、1つ歯車が狂うと、昨シーズンのような結果になってしまうということを、身を持って体験しました。

昨シーズンは私がGMになって1年目の年で、もちろん優勝したかったんですが、いま思うと、昨シーズン優勝していたら、「勝てるんだな」と思ってしまっていたかもしれません。GMに就任した当初は、サンゴリアスは強いし、上手くチームをまとめることが出来れば、流れに乗って勝っていくと思っていました。1年経験してみて、「勝つことはそんなに甘くない」ということを改めて勉強しました。

◆仕事もラグビーも一生懸命

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—— 2年連続2冠を取っていながら、2年連続無冠となってしまいました。やはり危機感を持っていますか?

良くも悪くも、昨シーズンの終盤で選手が自立することは出来たんです。田中澄憲とは、とてもバランスが難しいことなんですが、「監督やコーチに言われたから、納得していないのにやらされて勝つことが良いのか」という話になります。私の考えでは、ラグビーはグラウンドに立った15人がどう判断して試合を進めていくかだと思います。監督やコーチが全ての選択肢を準備して、試合中も指示を出していたら、それはラグビーではないと思っています。そういう意味では、普段の生活も、チームに対する行動も、全てにおいて選手が自立してくれれば、あとは私たちフロントがチームの軸をしっかりと定めて、それがブレないようにコントロールすれば、チームは良い方向に進んでいくと思います。

—— 社員選手とプロ選手がいる中で、社員選手であってもプロの意識を持っていなければ、チームをコントロールすることが難しくなりますよね

社員であってもプロであっても、まずは社会人として、どうして今の生活が出来ているかを考える必要があると思います。いまラグビーチームを持っている企業は、どこも日本を代表する企業だと思います。そういう会社に入れるのは、一握りの人たちなんです。それが、ラグビーをやっていたお陰で入ることが出来ているんですよ。

社員選手にとっては、仕事もラグビーも一生懸命やることがミッションなんです。そういう意識を持って、仕事とラグビーをやっている選手が何人いるかということになってきます。社員選手は府中のグラウンドに来た時に、スイッチをどう切り替えられるかが大事なんです。仕事が忙しいということを理由にしてラグビーの意識が低くなっているのであれば、プロ選手にも影響が出てしまうと思います。

プロ選手は1年1年が勝負で、生活をしていくために良いパフォーマンスを発揮していかなければいけないですし、良いパフォーマンスを発揮できなければ、契約が切られるかもしれないという危機感を持ってラグビーに取り組んでいるんです。社員選手はそういうところも考えて、同じ意識でラグビーに取り組まなければいけないと思います。

◆どう進化させていけるか

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—— チームが一つにまとまることが出来れば勝てると思いますか?それともその上で乗り越えなければいけない課題がありますか?

まずはチームがひとつになることが前提です。それが出来ればタイトルに近づくと思います。そして、常にアグレッシブ・アタッキング・ラグビーの完成型を追求していく事が重要だと思っています。わかりやすく言えば昨シーズンのアタッキングラグビーが我々の目標に対して何%達成できたのか?目標の100%達成できたのであればタイトルは獲得できると思っています。ンゴリアスの軸は変わりませんが、同じことをやっていたのでは勝てないので、どう進化させていくのかを考えていかなければいけないと思います。

—— 前監督の大久保直弥さんが、NTTコミュニケーションズのコーチになりましたね

私も大久保直弥が他のチームのコーチになるというイメージは持てませんでしたが、いま思えば、大久保はずっとサントリーしか知りませんでしたし、狭い世界でやって来ていたと思います。違うチームで、違う文化を経験することは、大久保にとって良い経験になると思っています。そこで成長してくれて、彼がいつかまた帰ってきたいと思えるようなサンゴリアスにしていきたいと思っています。

—— 他のプロスポーツでは監督が変わることがよくありますが、ラグビーでも長い間同じ監督というチームは少ないですよね

会社の組織も同じですが、人が変わると良い効果が得られることもあります。同じ人が監督をやっていると、これまでとは違う発想や新しいものが生まれることが難しくなると思います。会社の中でも上司が変わることで違う見方を得られることがあります。サンゴリアスの場合は、監督が変わろうが、GMが変わろうが、サンゴリアスのラグビー文化を継承していかなければならないと思っています。

—— 尾関GMは明るくてポジティブだと思いますが、意識しているんですか?

昔から気持ちを切り替えるのは早い方だと思っていました。現役時代の若い頃はそういう性格ではなかったと思いますが、ベテランになってからチームのことを考えるようになり、今のような性格になったと思います。

社会人最初の頃は、トライ直前でノックオンしたら落ち込んでいましたが(笑)、27~28歳くらいからはすぐに次を考えるようになったと思います。そうなったのは経験もあると思いますが、色々なリーダーに支えられた影響があると思います。日本代表や7人制日本代表、そして会社の上司など、色々な人と接することで考え方も変わったと思います。

—— 監督や上司が変わった時に、自分のプラスにするためにどう取り入れようと考えているんですか?

100%みんなが納得している組織はないと思っています。その中で考えることは、まずは自分がやるべきことをやるということです。自分がやるべきことをやって、それでも上手くいかないのであれば、周りにどう伝えていけるかだと思います。上司や先輩に喧嘩腰で意見を言えば、伝えたいことも伝わりません。意見を伝える前にしっかりと準備して伝えることで、それが建設的な意見であれば、それはチームにとってプラスになると思います。

そういうことをせずに、陰で文句や悪口を言ってしまうと、特に影響力のある人がそういうことを言い始めると、後輩たちも先輩の意見に乗っかり、負の連鎖が進んでいってしまいます。中堅やベテランの立場になった時には、陰口を言うのではなく、しっかりと準備をして上司に伝えていかなければいけないと思います。

あと、私が気持ちを切り替えられるようになったのは30歳手前です。それまでにたくさんの失敗を重ねて、反省は必要ですが、過去を振り返っても何も生まれないと思います。そこで悩むのではなくて、その失敗を取り返すために、次にどう行動するかということを考えた方が自分にとってもプラスになると思うようになりました。

そういう考えになったのは、現役生活に終わりが見えたからかもしれません。高校2年生の時からずっとレギュラーで試合に出ていて、恵まれた環境でラグビーをやってきました。そして、サントリーに入って先輩たちを見ても、腐っている選手は誰もいませんでした。大学時代にスター選手だった先輩も、Bチームのハードな練習をしっかりやっていましたし、私たちの練習を見て励ましてくれたりして、そこで「こういう先輩になりたい」と思うようになりました。だから、私が試合に出られなくなった時にも腐ることなく練習することが出来ましたし、若手と一緒にハードな練習をすることが役目だと思って取り組んでいました。

◆やりたくても出来る役職ではない

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—— ラグビーに対する愛を感じますが、昨シーズン1年間GMをやってみて良かったことは何ですか?

やはり勝つか負けるかのプレッシャーの中でチームを作っていく難しさを知ることが出来たことだと思います。サンゴリアスのGMはやりたくても出来る役職ではないですし、その中で勝たなければいけないというプレッシャーがあります。GMになった当初は、「GMって何をすればいいんだろう」って思っていました(笑)。文字にすれば、チームの強化の方針を作るとか、将来構想を考えることになりますが、そのために実際に何をすればいいのかを考えました。

私が心掛けたことは、出来る限り府中のクラブハウスに行こうということです。クラブハウスに行って、選手やコーチ、スタッフと話をすることを心掛けて取り組む、そういう1年だったと思います。

—— 振り返ってみて、面白かったですか?

チームを同じ方向に向かせることが大変でしたが、勉強になりました。

—— 今シーズンの戦力についてはどう考えていますか?

今年はワールドカップもあり、トップリーグが行われる期間も短くなるので、いまのサンゴリアスの戦力で、もう一度チャレンジしていこうと思っています。

—— 試合数が少ないことが予想される中で、今シーズンはどんなサンゴリアスにしてきたいですか?

ワールドカップで代表選手がいない中で、若手選手に経験を積ませて、どうチーム全体を底上げできるかだと思います。

◆勝たなければ影響を与えられない

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—— GMに就任する前は、OBとしてサンゴリアスの試合を見に来ていたんですか?

取引先の方を連れて、バックスタンドで観戦していました。

—— トップリーグの平均入場者数がなかなか伸びない中で、一昨年までバックスタンドで試合を見ていて、どうすれば盛り上がっていくと思いますか?

トップリーグ全体で見ると、もっと面白いラグビーをしなければいけないと思っています。せっかく世界のトップ選手が日本でプレーしているのに、フォワードに固執していたり、キックが多かったりするラグビーをしていると思います。それはそれぞれのチームのスタイルなので否定はしませんが、サンゴリアスはそこにプライドを持っています。

誰が見ても「サンゴリアスのラグビーは面白い」とか「サンゴリアスの試合はワクワクするね」と言って頂けるようなラグビーをすることにプライドを持ってやっています。そういう試合をもっと増やしていかなければいけないと思います。初めて試合会場でラグビーを見た人が、ボールが動かない試合を見たとしたら、またラグビーを見に来ようと思うかと考えるわけです。そこが日本のラグビー界の課題だと思います。

その課題を克服するためにサンゴリアスは自分たちのラグビースタイルを貫いて、初めて会場に来た人が見ても、「ラグビーって面白いね」と感じてもらえるようなラグビーをしていきたいと思います。ただ、勝たなければラグビー界に影響を与えられないと思うので、そのプレッシャーもあります。

—— ラグビーは1人で見て楽しむ方も多いと思いますが、会場全体で盛り上げていくためにはどうしていけばいいと思いますか?

それはそれぞれのチームとラグビー協会がどう仕掛けていくかになると思います。私たちも色々な取り組みをしていますが、1つは社内のファンを増やすこと、そして社外の一般ファンを増やすことに取り組んでいます。そのための活動をやり切ったかと言えば、まだまだやれていないことが多くあると思います。

ラグビー協会も各チームの担当者と話し合い、どうすればファンを増やしていけるのかを考えてくれています。協会だけではダメですし、チームだけでもダメだと思うので、一緒になって盛り上げていければと思っています。

—— ファンに向けて、今シーズンのどういうところに注目してもらいたいですか?

今シーズンもブレずにアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを貫いて、今度こそは必ず2冠を取ります。ファンの方たちも昨シーズン、試合を見ていて、「今年のサンゴリアスは少しおかしい」と感じられていたと思います。今シーズンはそういう不安な思いをさせないようなチームにして、アタッキング・ラグビーを貫いていきます。今シーズンは開幕戦から全開で行きますので、楽しみにしていて頂ければと思います。

あとはアタッキング・ラグビーを完成させなければいけないと思います。完成させるためにはスタッフだけでは出来ないことだと思うので、選手を巻き込みながら完成させていこうと思います。結果は、実際に試合会場に足を運んで頂いて、見て頂たいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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