2015年5月 7日
#428 芦田 一顕 『パスの精度は負けない』
“優しい”イメージの芦田一顕選手。その優しさがラグビーにとってはどうなのか?いろいろな角度から訊いてみました。課題を意識し、明確な目標を掲げる芦田選手の、今シーズンの更なる飛躍に期待したいと思います。(取材日:2015年4月20日)
◆頭の中もシンプルに
—— 2014-2015シーズンの出場試合数は?
はっきりと数えていなくて、昨シーズンは、1年目と2年目の出場数を足したよりは試合に出ていたと思います(笑)。(2014-2015シーズン出場試合数=6試合/2013-2014シーズン出場試合数=4試合、2012-2013シーズン出場試合数=2試合)
—— 出場試合数が増えていることについて、どう感じていますか?
1年目や2年目の時には、「何かやってやろう」という気持ちがありましたが、やはり緊張もしていましたし、プレッシャーで硬くなってしまうことが多かったと思います。3年目の昨シーズンは、フーリー(デュプレア)と日和佐さんがチームを離れている期間が長く、スクラムハーフはナリさん(成田秀悦)と僕しかいなくて、多くの練習試合を経験することが出来たので、チームにフィットすることが出来たと思います。そのおかげで公式戦でも落ち着いてプレーすることが出来ましたし、1年目や2年目とは違う感覚でプレーすることが出来ました。
—— どこが一番良くなったところだと思いますか?
1年目や2年目の時は、頭が真っ白になることが多くて、当時コーチだった敬介さん(沢木/日本代表コーチングコーディネーター)から「ノーパニック」とよく言われていました。まだその部分が完全にはなくなってはいないと思いますが、以前よりも落ち着いてプレーすることが出来るようになっているので、そこが成長した部分だと思います。
—— 成長できた理由は何だと思いますか?
練習試合やサテライトで数多くの試合を経験できたことと、試合に出るメンバーと長い時間一緒に練習できたからだと思います。
—— パニックになると、どうなっていたんですか?
視野が狭くなって、目の前しか見えなくなっていました。緊張もあったと思いますが、2年目までは自分のプレーに自信を持てていませんでしたし、それによって「しっかりやらなければ」というプレッシャーになっていたと思います。昨シーズンは、春シーズンから練習試合の出場も多くて、それによって自信を持つことが出来ました。
—— パニックにならないために取り組んだことはありましたか?
意識していたのは、難しく考え過ぎず、自分のやるべきことにしっかりとフォーカスして試合に臨むことです。毎試合、出る課題を考えて試合を重ねていくことで、頭の中もシンプルになってきました。
—— 昨シーズンはチームのトライ数が少なかったですよね
スクラムハーフの責任でもあると思いますが、サントリーのラグビーが出来るようになるまでに時間がかかり過ぎてしまいました。選手たちが自分たちのラグビーを信じることが出来たので、日本選手権では決勝まで進むことが出来たんだと思います。
◆もっと強気に
—— 現在の課題は何ですか?
フーリーや日和佐さんは、試合開始直後からしっかりとゲームコントロールが出来るんですが、僕の場合は、そこの部分がまだ勉強不足だと思います。経験が少ないということもあると思いますが、もっともっとフーリーや日和佐さんから学んでいかなければ、サントリーのスクラムハーフとしての信頼は勝ち取れないと思っています。
—— サンゴリアスに入る前にイメージしていた姿と、現在の姿に違いはありますか?
上手く行き過ぎていると思います。フーリーや日和佐さんがチームから離れているという“運”の部分もありますが、フーリーは世界一のスクラムハーフですし、日和佐さんは日本代表なので、最初にイメージしていた時にはもっと試合に出られないと思っていました。
—— スクラムハーフの選手は気が強いイメージがありますが、芦田選手からは謙虚な印象を受けます
もちろん「負けたくない」という気持ちは強くありますが、自分の実力は理解しているつもりです。ただ、周りからは「もっと強気に行け」とか「自信を持ってやれ」と言われることはあります。
—— サンゴリアスに入る前からそういう性格ですか?
大学時代は僕より上手いと思う人が周りにいなかったので、そういうことは考えていませんでしたが、社会人になって実力差を見せつけられたので、そういう考え方になったんだと思います。
—— 現時点では、その実力差はどれくらい埋まりましたか?
今ではサントリーのラグビーの理解度も高くなりましたが、フーリーや日和佐さんにとっては、まだ僕は脅威になれていないと思うので、まだまだだと思います。
—— 「この部分は誰にも負けない」と思っているところはどこですか?
パスの精度は負けないと思います。そこは高校時代から強みだと思っています。あとはフィットネスには自信がありますが、まだまだ上げたいと思っています。大学まではその強みだけで通用してきたんですが、社会人ではもっと学ばなければいけないことが多いと思います。
ゲームコントロールの部分で、いま僕が考えてプレーしていることよりも、フーリーや日和佐さんは更に深くまで考えてプレーしていると思います。ゲームコントロールする上では、エリアや時間帯をしっかりと頭に入れておかなければいけませんし、フーリーや日和佐さんのプレーを見ていて、「こういう時にキックを使うのか」と気づく場面もあります。そこで気づくということは、まだ僕の中に落とし込まれていないんだと思います。その分、まだまだ成長できるとは感じています。
◆癖になるくらいまで
—— 昨シーズンの中で、良いパフォーマンスが出せた試合はありますか?
良いと思った試合は特に思い浮かばないんですが、その逆はありますね。例えば、開幕戦のコカ・コーラ戦は、コーチにも「がっかりした」と言われてしまいましたし、僕としても自分の実力を全く発揮できずに終わってしまったと思いました。やはり開幕戦は違うと感じました。
—— 「がっかりした」と言われて、どう思いましたか?
僕が思っていることと同じことを指摘されたので、悔しかったですね。
—— 開幕戦で良いパフォーマンスが出せなかった要因は何だと思いますか?
汗でボールがすごく滑っていたのに、いつもと同じ感覚でボールを離してしまったり、フォワードの位置などをコントロールすることが出来ませんでした。それが教訓にはなりましたが、開幕戦のパフォーマンスが悪すぎたので、その後はなかなかチャンスをもらえませんでした。開幕戦以降は、なかなか試合に出られない期間が続いたんですが、その期間に悔しい気持ちを持ってトレーニングを積むことが出来たので、成長できたと思います。
—— 上手くいかない時などには誰によく相談していますか?
ヒューイ(ピーター・ヒューワット/BKコーチ)や、スクラムハーフのことについてはキヨさん(田中澄憲/チームディレクター)に、練習中であればトゥシ(ピシ)や晃征さん(小野)さんにアドバイスを頂いて、トップレベルばかりの方たちなので、話を聞くと勉強になりますし、褒められれば自信にもなります。
—— 同じスクラムハーフとして、フーリー・デュプレア選手の凄さはどこだと思いますか?
もちろんパスやキックのスキルは凄いんですが、それよりもゲームコントロールが凄いんです。試合を上から見ているように試合を運んでいくので、吸収すべきポイントが山ほどあると思います。
—— 3シーズンを一緒にプレーしましたが、どういうところを吸収しましたか?
僕のレベルはまだまだですが、フーリーにハイパントキックを教えてもらいましたし、戦術的な部分も、どうすれば上手くいくかなどを教えてもらいました。あと、フーリーのプレーで気をつけて見ているポイントは、ボールを持っていない時にどういう動きをしているかというところです。ボールや相手の位置を見て、相手がどういうプレーをしてくるかと予測して動いていると思うので、リアクションが本当に速いんです。
—— そういうプレーをどうやって吸収しようと考えていますか?
練習から意識して取り組むしかないと思います。けれど、1年目の時はフーリーのそういうプレーに注目さえしていなかったので、そこに気づけたことは大きいと思います。
—— 日和佐選手についてはどうですか?
フーリーが最初に出て、後半15分や20分くらいに日和佐さんが出るパターンが多いんですが、その時間帯は決めにかかる時間帯なので、ゲームコントロールよりはテンポを上げて攻めまくることが求められていると思います。日和佐さんはそのスタイルに合っていると思いますし、日和佐さんほどテンポが上げられる人は他にいないかもしれません。
日和佐さんは、ラックの中のボールに対して、速くパスの体勢を作り、速く出すことが上手いんだと思います。僕の場合は、ラックの中のボールを遠いところから取りにいってしまうんですが、日和佐さんは近くまで入りこんでいます。それが難しいんですよ。意識すれば真似できることだと思うんですが、簡単なようでなかなか出来ないところで、自分の中で癖になるくらいまでにならなければ、試合では役に立たないと思います。
◆もっと声を
—— 強力な先輩が2人もいて、そこに流選手が入ってきましたね
もうやるしかないですね(笑)。フーリーと日和佐さんを抜く気持ちが無ければ試合には出られないと思います。
—— 春シーズンがスタートしましたが、しっかりとアピールしていかなければいけませんね
まだこの時期は若手主体でのトレーニングになるんですが、全体のトレーニングが始まる前までにはフィットネスを戻して、先輩たちに負けないようにしたいと思います。
もう4年目になるので、スクラムハーフとしてもチームを引っ張れるようにならなければいけないと思います。そういうところからチームの信頼に繋がっていくと思います。
昨シーズン、ヒューイやキヨさんに「もっと声を出せ」と言われているので、そこは今シーズンも意識して取り組んでいこうと思います。練習から意識して取り組まなければ試合では発揮できませんし、癖になっていれば、試合中に勝手に声を出せると思います。
—— 社会人4年目となり、改めて感じるラグビーの楽しさはどこですか?
1人1人に役割があって、みんながその役割を果たすことでチームの成果に繋がると思います。だから僕もその1人としてしっかりと役割を果たさなければいけないですし、誰もサボってはいけないんです。みんなに役割があり、それが勝ち負けに繋がるところが面白いですね。
—— 試合に向けて、気持ちのスイッチを切り替えるタイミングは?
試合の日の練習からは切り替えています。昨シーズンくらいからは、そのスイッチが入るタイミングが早くなったと思います。そこもこれからは毎日の練習でもスイッチを入れて、練習が終わればスイッチが切れるようにならないといけないと思います。これまでも気を抜いて練習をしていたわけではないんですが、フルコンタクトの練習の時にしかスイッチが入っていなかったと思います。スイッチが入っている時の表現って難しいですが、普段の時は体が大きい人に対してタックルするのは怖いんですが、スイッチが入ると体の大きさは関係なくなりますね。
—— そこがラグビーの面白さでもありますか?
面白いですね。怖さがなくなり、何でも出来るような感覚になりますね。
◆ゲームコントロールをしっかりと出来るように
—— これからどういう選手になっていきたいですか?
今年はワールドカップがあって、フーリーと日和佐さんがチームに合流するのは、ワールドカップが終わった後になると思います。2人がチームにいない中で、まずはナリさんと流との競争で勝たなければいけないと思います。何としてもそこで勝たなければ、フーリーや日和佐さんに挑戦することも出来ないと思います。だから、10月までにチーム内での競争に勝つことだけを考えています。
—— チーム内での競争に勝つために必要なことは?
ゲームコントロールをしっかりと出来るようになることだと思います。ゲームコントロールについては、コーチ陣から指示があると思うので、1つ1つの練習試合で実践していって、身につけていきたいと思います。
1つの試合で上手くコントロール出来たからといって、必ず次の試合でも出来るとは限らないので、毎回同じことを繰り返していく必要があると思います。毎回、やるべきことを絞って、出来る時もあれば出来ない時もあると思います。出来ない時に、「なぜ出来なかったのか」を考えて、次に繋げていかなければいけないんです。フォワードに声を掛けるとか、そういう細かなことが疎かになると上手くいかなくなるので、細かなところに気をつけてやっていこうと思います。
—— 普段は大人しい方ですか?
大人しい方かもしれません。大学時代までは大人しいとは思っていなかったんですが、サントリーに入ってから大人しい方だと気づきましたね。グラウンドに入ったら大人しくはないと思いますが、もっとうるさくならなければダメだと思います。
—— ご家族は?
姉が2人いて、末っ子の長男です。末っ子の長男はわがままが多いと言われますし、親からはわがままと言われるんですが、自覚はしていないんですよね(笑)。父親は全く怒らない人で、逆に母親はものすごく怒ります。あと子供が2月に生まれて、男の子なんですがめちゃくちゃ可愛いですね(笑)。子供が生まれたことで、ラグビーも仕事も頑張らなければいけないと、改めて思いました。
—— 子供にラグビーをやらせますか?
まだ小さいので分からないですが、家にラグビーボールはありますし、子供が寝るところには、サンゴリアス君のぬいぐるみを置いています(笑)。
◆本当の信頼を
—— 改めて、今シーズンの目標は?
レギュラーを取るとか、開幕戦に出るとかはもちろん考えていますが、チームから本当の信頼を得ることを考えています。昨シーズンでも、大事な試合ではメンバーに入れなかったり、メンバーに入っていても厳しい局面では出場できなかったりしていたので、今シーズンはそういう状況でも使ってもらえるような信頼を得たいと思います。
—— チームとしての目標は?
もちろん2冠です。今はどのチームもレベルアップしていて、簡単な目標ではないと思いますが、無理な目標ではないと思いますし、僕ら次第で達成できる目標だと思っています。コーチやスタッフ、選手全員がサントリーのラグビーに自信を持っていますし、試合でサントリーのラグビーを100%出すことが出来れば、2冠を取ることは出来ると思います。
—— ファンにはどういうところを見てもらいたいですか?
独身の時とは違う、自分でも気づいていない部分が出てくると思うので、ファンの方たちにはその部分を客観的に見てもらいたいと思います(笑)。昨シーズンの僕のプレーとは違う部分が見られると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]