2015年4月15日
#425 青木 佑輔 『シンプルなことによって突き抜ける』
日本選手権で良かったところを意識しながらも、新シーズンへ向けて様々な取り組みをイメージする青木佑輔選手。10年目のシーズンを迎えての意気込みを聞きました。(取材日:2015年3月20日)
◆すごい選手のプレーを見ることが良い経験に
—— ワールドカップ関連で活動している新聞記事を見ました
今年の3月上旬に、東京都議会ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟の総会に、東芝の大野均選手たちと共に参加しました。東京都に本拠地を置く、キヤノン、東芝、リコー、サントリーから各1名ずつ、東京都にゆかりのある選手や日本代表に関わっていた選手などが選ばれて行ってきました。2019年のワールドカップを東京の新国立競技場で開催できるよう働きかけてくれた方々に対して、お礼の意味も込めて、都庁へ伺わせて頂いたんです。
—— 2019年のワールドカップに対する熱は感じましたか?
日本代表が新国立競技場で開幕戦を戦うことを楽しみにされていましたね。
—— その時に日本代表として出場したいという思いは?
その時には僕は36歳なので、出られないですよ(笑)。僕が出ることよりも、多くの子供たちに見てもらって、色々なことを感じてもらいたいと思っています。日本代表の試合もすごいと思われるくらいになって欲しいんですが、世界中のすごい選手のプレーを見ることが良い経験になると思います。
それによって東京都出身の人が、トップリーグや日本代表で活躍していって欲しいと思います。現状では、福岡出身や関西出身の選手の方が多いので、東京都出身の選手に頑張ってもらいたいと思います。
—— 九州や関西に比べて、子供たちの環境はどう思いますか?
東京だと場所が限られてしまうんだと思います。昔は東京の高校も強豪校が多かったんです。目黒高校や早稲田実業、久我山高校も強かったんですが、当時よりもだいぶラグビー人気が落ちてきてしまっていると思います。九州や関西では人気が根付いているので、東京でも当時の強い文化を取り戻して欲しいと思います。
小学校でタグラグビーをやる学校も増えていますし、そういう動きが2019年のワールドカップに繋がっていき、実際に大会が行われる時には人気が爆発するようになっていってもらいたいと思います。
◆日本ラグビーのレベルを上げたい
—— 青木選手は教員免許を持っていますし、指導者を目指すという将来像はありますか?
教員になりたいという夢もありますし、2019年に向けて人気が盛り上がってきたら、何らかの形でラグビーに関われるようになれると思います。人気が出てくれば、もしかしたらラグビー部を作るという学校も出てくるかもしれませんし、一気に人気が出てきて、指導者やスタッフが足りなくなる可能性もあるかもしれません。今ラグビーをやっている選手で、将来、指導者になりたいと思っている人はたくさんいると思うので、そういう人の夢も叶うようになれば良いと思います。
—— 何歳くらいの子供たちにラグビーを教えたいと思っているんですか?
高校生以上が良いですね。生意気かもしれませんが、日本のラグビーのレベルを上げたいという気持ちがあります。小学校や中学校だと、楽しませることが大事になってくると思うんですが、もっと細かな技術的な部分やスクラムなどを教えてみたいと考えています。
タグラグビーを教えていても面白いと思うんですが、もっと細かな部分を教えたいという気持ちが出てくるんです。ただ、小学生や中学生を教えることが嫌いなわけではなく、普段は高校生や大学生を教えていて、休みの日には生徒を連れて小学校に行って、ラグビーの指導をしたり、ラグビー教室を開いても良いんじゃないかなと思っています。
—— 社会人の第1列(プロップ、フッカー)の選手の技術的な部分と高校生のレベルを比較すると、差は大きいですか?
高校生の時のスクラムと、大学生や社会人のスクラムは全く違うんです。高校のスクラムでは、1.5m以上押してはいけないというルールがあるので、競技が違うような感覚はあります。逆に言えば、1.5m押されたとしても、ちゃんとボールをキープすることが出来れば、体が大きくて力強いプロップは必要なくて、走れる人を置いてもいい訳なんですよ。
高校の指導者の中には、そういう考えの人もいると思います。それが、大学になると変わるんです。押すことに制限がなくなるので、高校でやってきたことを変えなければいけないんです。高校の時には制限があるので、どちらにしても本格的なスクラムのトレーニングは大学からしかしないと思います。
高校生だと教えきれない部分もあったりするので、スクラムを教えたかったら大学生以上でないと、細かな部分までは教えられないですね。例えば、もし僕が高校ラグビー部の監督になった時に、チームにプロップ体型の選手がいなければ、スクラムで1.5m押されてもいいからボールをキープして、すごく走れる選手をプロップにした方が良いと考えるかもしれません。
それは高校の中では正しい戦術かもしれませんが、その高校生の将来までを考えられていないというか、その時にどう勝つかということしか考えていないように感じてしまいます。どうしても高校生のうちは怪我をしやすかったりするので、そういうルールがあることはしょうがないことだと思います。
◆みんなで取り返そうという雰囲気
—— 2014-2015シーズンを振り返ると、どんなシーズンでしたか?
春に日本代表に呼ばれたんですが、怪我をしてしまいチームに戻ってきて、しばらくは調整しながらトレーニングをしていました。夏に復帰をしたんですが、また怪我をしてしまいました。そこで悩んだというか自分にがっかりしてしまい、負の連鎖にはまっていましたね。
家にいると色々考えて落ち込んでしまうこともありましたが、俊さん(西原俊一/S&Cコーチ)や田代さん(田代智史/ヘッドトレーナー)、小川さん(小川秀治/アスレティックトレーナー)がすごくサポートしてくれましたし、クラブハウスに来ればチームメイトも頑張っているので、その姿を見ると、「自分も頑張ろう」と思えるようになりました。
2014-2015シーズンに関して言えば、あまり成長できなかったシーズンだったように感じます。これまで長くチームから離れることがなくて、特にシーズンが開幕してから休むことはほとんどありませんでした。肉体的や技術的な部分は成長できなかったと思うんですが、昨シーズンはノンメンバーの練習を見たり、怪我をしている選手と接したりすることで、今までとは違った選手の一面を見ることが出来ました。後輩と食事に行く機会も増えましたし、そういう経験が出来たことは良かったと思います。
—— チームとしてはどういうシーズンだったと思いますか?
春から新しい取り組みをしていましたし、若手もどんどん試合に出ていたんですが、シーズンが開幕した時にそれまでやってきたことが少し変わってしまったんです。そのまま進んでいって、負けそうになる試合が続いていました。
やり続けてきたことをずっとやり続けて、上手くいかない中で勝ち続けることが出来れば、その先に成長もあると思いますが、変えたことによって迷いが生まれ、迷いの中で負けそうな試合を続けると、どんどん迷っていってしまうんです。昨シーズンの新しい取り組みが、少し上手くいかなかったんだと思います。
—— セカンドステージに入っても、安定しない試合内容が続きましたね
セカンドステージの第3節で東芝に勝ったことで、チームが上昇するきっかけになりそうな手応えはあったんですが、実際には上昇できませんでした。
—— 日本選手権ではサントリーのラグビーが展開できたと思うんですが、どうして変わることが出来たと思いますか?
チーム全体でいえば、1つなれたことが大きいことだと思います。なぜ1つになれたのかを考えると、選手各々が危機感を感じていましたし、各々が持っているプライドを表に出すことが出来たからだと思います。そこで自分たちが何をやるべきかを考えて、1人1人が行動した結果だと思います。
フォワードに関して言えば、試合に出ていて、あまりまとまり感を感じることが出来ませんでした。1つミスをすると、みんなが落ち込んでしまいがちになっていたと思います。それが日本選手権に入ってからは、ミスをしても「みんなで取り返そう」という雰囲気がありました。パックメンタリティーの強さがリーグ戦とは全く違ったので、みんなでサポートし合っていたと思います。
◆日本選手権の時の危機感を持って
—— その力をシーズンの最初から出すためにはどうすればいいと思いますか?
シーズンが終わってから、そのことを考えていたんですが、昨シーズンだけじゃなくて一昨年のシーズンでも、シーズンの途中でチームがまとまってきた感覚はあったんです。でもシーズンが終わって次の春シーズンになると、まとまっていたパックが緩んでいるような感覚になりました。それを無くすために、春シーズンからチームソーシャルや選手間でのミーティングをやっていくことが大切だと思っています。
—— 来シーズンはトップリーグの開幕前にワールドカップがあったり、シーズンが終わればスーパーラグビーがあったりして、チームで集まる機会が減りそうですね
次に全員が集まれるのは、ワールドカップが終わってからになると思います。だから、チームに残るメンバーで、昨シーズンから変わらないメンタルで臨むことが大切だと思いますし、先を見てしまうと「まだ時間があるから大丈夫」という気持ちになってしまうと思うので、昨シーズンの日本選手権の時の様な危機感を持ってトレーニングに臨むことが大切だと思います。
ワールドカップ終了後に合流してくる代表メンバーも、代表では代表のラグビーを頑張ってもらい、サントリーではサントリーのラグビーに切り替えてもらわなければいけないと思います。代表のレベルを経験することは良いことだと思いますが、サントリーに戻ってきたからレベルを下げるということではなくて、しっかりとそのチームに馴染んでいくことが大事だと思います。
—— 2014-2015シーズンはチームのトライが少なかったんですが、そこに関して、フォワードとしてはどう考えていましたか?
他のチームからは、「サントリーのラグビーは2年前から変わっていない」とか言われるんですが、少しずつ精度は上がっていると思います。もし本当に2年前と変わっていなかったとすれば、もっとトライが取れていないと思います。
少しずつ精度を上げていくことによって、すごくシンプルなんですが、シンプルなことをやる方が複雑なことをやるよりも強い時がありますし、シンプルなことによって突き抜けるくらいのみんなの堅い意志があれば、絶対に勝てると思っています。
サントリーのラグビーは本当にシンプルだと思います。見ている人にとっても、「サントリーのラグビーってこうだよね」と説明できるくらいだと思います。選手1人1人もサントリーのラグビーはどういうものかを分かっていると思うんですが、そこで「相手が研究しているからサントリーのラグビーでは対抗できない」と考えるのではなくて、そんな考えを突き抜けるくらいのシンプルさが必要だと思います。
◆もっと自分の考えを伝えていかなければ
—— 青木選手は10年目になりますが、チームの中での役割も大きくなりますよね
僕は10年目になるんですが、5年目や6年目の選手ももう若手ではないんです。そういう選手の中には、まだ若手の感覚がある選手もいると思うのですが、もう若手ではないので、自覚を持ってもっと前に出てきてもいいと思います。
—— 10年目のシーズンの目標は?
サントリーに入った頃は、10年も選手として出来ると思っていませんでしたし、こんなに試合に出られるとも、日本代表に選ばれるとも思っていませんでした。実際にこれだけ長くサントリーでプレーさせてもらって、多くのことを経験させてもらいました。
昨シーズンは怪我をしている選手と接する時間が多くて、お互いに励まし合ったり、後輩たちにサントリーの文化を伝えるというよりは、一緒に食事をしてリラックスしてもらったり、気分転換になればいいかなと思っていたんですが、これからはもっと自分の考えなどを伝えていかなければいけないと思っています。
—— 選手としての目標は?
昨シーズンの日本選手権決勝では、セットプレーやスクラムでやられてしまったので、その部分をもっと強化しなければいけないと思っています。あれだけ崩されてしまったら、どんなに良いバックスがいても点は取れないと思うので、普段のトレーニングについても考えなければいけないと思います。
—— 来シーズンへの自信はありますか?
日本選手権でのまとまり感を最初から出すことが出来れば、すごく成長できると思っています。日本選手権に入ってから、毎日少しずつ成長できていたと思うので、春から少しずつ成長することが出来れば、チームとして勝つことが出来ると思います。
昨シーズンのまとまりを継続して、同じことをやっていくことが大切だと思います。スクラムに関しても、春シーズンに「こうやっていく」と決めたら、それを続けていくべきだと思いますし、決めたことを批判するのではなくて、まずはしっかりやることが大事だと思います。
—— 春シーズンの入り方が重要になりますね
大事だと思います。シーズンの方向性はコーチたちが示してくれるので、それに対してしっかりと合わせていくことが必要だと思います。そして、後々になって批判をするのではなくて、春シーズンの段階から、疑問に思ったことに対しては意見を交わし合っていくことが必要だと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]