2015年4月 8日
#424 ニコラス ライアン 『ワンチームになって出し切る』
トップリーグ初、そして唯一のリーグ戦1000得点達成者であるニコラスライアン選手。トップリーグ史に名を残すサントリーを代表する選手の1人が、新たなシーズンに向けてチームを移籍します。サントリー・ニコラスライアン最後のインタビューです。(取材日:2015年3月20日)
◆サヨナラしなくて済む
—— インタビューでは日本語で話していますが、2014-2015シーズンの納会で他の選手の前で退団の挨拶をした時には英語でしたね
いっぱい話したいことがありましたし、伝えたいことを間違えないようにするために英語で話しました。スピーチをしていたら、10年間の色々なことを思い出しました。
—— サンゴリアスに入ってすぐの頃は、どんなことを考えていたんですか?
心配や不安はなくて、前向きな気持ちがありました。あと、僕がそれまでに経験したことを、チームに教えていこうという考えがありました。ただ、日本のラグビーがどういうものかが分からなかったので、最初は難しかったですね。
—— サンゴリアスに入ったきっかけは?
色々なチャンスがありましたが、ニュージーランドでプレーしていくことが大変になったんです。そこで生活面も考えて、サントリーに入ることにしました。
—— 実際にサンゴリアスに入ってみてどうでしたか?
僕が1年目の時は、監督が洋司さん(永友/キヤノンイーグルス監督)だったんですが、あまり良い成績を残すことができず、「あと1年くらいでチームを去らなければいけないかな」って思いましたね(笑)。
僕が2年目になって、やっとチームにもフィットすることが出来て、練習方法にも慣れることが出来たので、パフォーマンスは良くなったと思います。ボールもたくさんもらうことが出来たので、すごく楽しかったですね。それで、「日本からサヨナラしなくて済む」と思いましたし(笑)、日本でもやっていけるという自信がつきました。
◆毎シーズン成長できていた
—— ニコラス選手はよくペナルティーキックやゴールキックを蹴っていましたが、キックについてはチームで一番上手いというプライドはありましたか?
ニュージーランドにいた時にはキックは蹴っていませんでしたし、練習が終わって少し時間がある時に蹴っていたくらいでした。サントリーに来た時に、チームにキッカーがいなかったから頑張って練習して、チャンスの時にはキックをしました。それでサントリーのキッカーを任せてもらえるようになりました。
キックしていたから2013-2014シーズンにはトップリーグ1000得点取れましたし、チームに貢献できて良かったです。サントリーに来て、色々なスキルを身につけられたと思います。
—— キックの動作を変えたこともありましたが、ニコラス選手にとって大きな変化でしたか?
大きな変化ではなくて、シンプルにしたんです。それまでは複雑な動きがあったのでそれを止めて、ボールをセットしたらバックするだけにして、シンプルにしたらキックの成功率も上がりました。モーションを変える前は成功率が70%~75%くらいだったのが、変えてからは80%~85%くらいになりました。
—— キックの調子とプレーの調子はリンクしていたんですか?
試合が終わってから振り返るんですが、キックが良くてフィールドプレーが悪いことはあまりありません。プレーが良くてキックが悪かったらまぁまぁなゲームで、プレーもキックも良かったら良いゲームです。
—— 10年間サンゴリアスでプレーしてきて、一番印象に残っていることは何ですか?
チームが成長していくところを見られたことです。10年前のチームとは全然違います。ずっと成長し続けていて、どんどんプロフェッショナルなチームになってきました。
—— ニコラス選手も成長できていましたか?
毎日の練習や毎試合で一生懸命やっていましたが、シーズンに関しては安定することが大事です。そこにプライドを持ってやっていましたし、それによって毎シーズン成長できていたと思います。パフォーマンスが良くないシーズンはほとんどなかったと思います。
◆「これだけをやる」という考え
—— 10年間を振り返って思い浮かぶ試合やシーンはありますか?
最初に思い浮かぶのは、エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)が1年目の日本選手権で優勝した試合です。そのシーズンの最初はすごくプレッシャーがあり、みんな全然ダメでした。シーズンが半分過ぎた辺りから、サントリーのラグビーが出来るようになってきて、最後には絶好調になりました。良いパフォーマンスが出せて優勝したので、良い試合だったと思います。
—— エディーさんもニコラス選手には厳しかったですか?
最初、結果が出ない時には本当に厳しかったですね。「ライノ、なんで!?なんで!?」って言われました(笑)。けれど、みんなに厳しかったと思います。
—— 多くの選手と一緒にプレーしてきましたが、一番印象的な選手は誰ですか?
小野澤、平、トゥシ、あと隆道(佐々木)、青木、大久保さん(直弥)、キヨさん(田中澄憲)とか、たくさん良い選手がいて、全てを挙げることは難しいです。菅藤心も良い選手でした。
—— 2014-2015シーズンには初めてフォワードにも挑戦しましたね
最初、「フォワードは出来るか?」と聞かれた時には、「ちょっと分からない」と答えたんですが、コーチたちとも話をして、新しいチャレンジをするためにやろうと決めました。それで網走合宿が終わってもフォワードとして良くなければ、バックスに戻る予定でした。
フォワードとしてもだんだん良くなってきたんですが、あまりプレーする機会が無かったので、僕のこれまでの経験とスキルがもったいないと考えるようになって、コーチたちにもその話をしました。その時にはバックスに怪我人が出たら戻すという話で終わったんですが、その後すぐに怪我人が出てしまいバックスに戻りました。
やっぱりバックスの方が好きですね。フォワードでは僕のパスやキックのスキルをあまり使うことがありませんし、もったいないと思っていました。けれど、フォワードを経験したことで、これまで経験しなかったことを学ぶことが出来ましたし、そういう部分では面白かったですね。
—— 2014-2015シーズンを振り返ると、サンゴリアスとしてはどういうシーズンでしたか?
最初に、ゲームプランなど色々なチェンジをしました。それにみんながワンチームじゃなくて、バラバラにプレーしていたと思います。トップリーグが始まっても厳しい試合ばかりで、自信をつけていくことが出来なかったと思います。
シーズンの終盤にチームが良くなったのは、みんながサントリーラグビーを信じてプレーして、「これだけをやる」という考えになったからだと思います。あと、試合のメンバーをある程度固定したことで、コンビネーションは良くなっていったと思います。だから、メンバーのセレクションを安定させることも大事だと思います。
◆新しいチャレンジ
—— 来シーズンからは他のチームでプレーすることになりましたね
最初に考えたのは、僕の子供の小学校が調布だから、もしチームが変わるのであれば東京のチームが良いと思っていました。それで色々とチームを探して決めました。
—— 選手としてはあとどれくらいプレー出来ると思っていますか?
いま35歳だから、あと2年くらいになるかもしれないですね。その中で新しいチャレンジをしていこうと思っていますし、僕の経験などを若い選手に伝えていければと考えています。
—— 将来的にはコーチングなどにも興味がありますか?
選手を引退した後はコーチをやるかは分かりませんが、興味はあります。
◆自分にチャレンジ
—— サンゴリアスの選手たちに何かメッセージはありますか?
一生懸命練習して、早くワンチームになることが大事です。そして、サントリーのゲームプランを信じて、みんなが力を出し切ることです。ワールドカップの影響で、来シーズンは試合数が少ないから、トップ4に入れなければ終わりだと思います。それに代表選手の合流も遅くなり、一緒に練習する時間も少ないから、早く1つになって出し切ることが大切だと思います。
僕は10年間サントリーで、オフシーズンもオンシーズンも関係なく、ハードワークを心掛けてきました。いつも出し切ることを考えて行動しなければ、引退した時にきっと後悔します。
—— 改めて、ラグビーの面白さは何ですか?
チャレンジね。相手にどうやって勝つかを考えて、練習でチャレンジすることが大切です。フィットネスのチャレンジ、パフォーマンスのチャレンジなど、色んなチャレンジがあります。相手は関係なく、自分にチャレンジするんです。
あと、ラグビーはチェスゲームに似ていると思います。フォワードで攻めてからバックスに展開するとか、スペースはどこにあるか、今の状況であればどういうサインプレーをするかなど、試合中に細かく色々なことを考えることが面白いですね。
—— その面白さに気づくには経験が必要ですか?
そうね。経験が必要です。僕が若い頃には、12番だけじゃなく13番や15番でもプレーして、昨シーズンはフォワードでもプレーして、色々なポジションを経験したことで、全てのことが見えるようになったと思います。相手が何をやろうとしているのかも分かるようになりました。フィジカルなプレーも好きなので、どんどんラグビーが面白くなっています。
—— 子供にもラグビーをやらせますか?
前はラグビーをやっていましたが、今はサッカーと水泳をやっています。けれど、あまり勝ち気じゃありません(笑)。少し優しすぎるかもしれないですね。息子がラグビーをやっていた時は、グラウンドで何もせずにボーっとしていたから、僕が外から見ていて、「何やってんの!タックル!!」って大声を出しちゃいました(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]