SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年2月25日

#418 中村 亮土 『次に繋げるエネルギー』

シーズンが深まるにつれ、レギュラーに定着してきた感のある新人・中村亮土選手。本人も周りもそれに満足することなく、更なる上を目指しています。新人イヤー最終コーナーで戦いの真っ只中にいる中村選手に訊きました。(取材日:2015年2月10日)

◆コミュニケーションとフィジカル

スピリッツ画像

—— トップリーグのファーストステージでは試合に出られず、セカンドステージ第2節が初キャップでしたね。まず試合に出られていない時はどんな状態でしたか?

毎試合メンバーに入るチャンスを狙っていたんですが、リザーブのリザーブになる機会が多くて、試合会場で試合メンバーのサポートをしていました。会場には行くけれど試合には出られず、最初はやり切れない気持ちがありましたが、精神的にはブレることなく先を見据えて、今やるべきことをしっかりやっていこうという気持ちでした。何をしなければいけないかという課題は明確になっていて、「これが出来るようになれば試合メンバーに入れる」という自信はありました。

—— その時に感じていた「今やるべきこと」とは何でしたか?

1年目ということで、コミュニケーションが課題でした。僕と初めてプレーする人が多いので、他の人よりも密にコミュニケーションを取って、他の人がどういうプレーをするのかを理解することが必要でした。

あとは自分の強みを出すことも課題で、コーチ陣からは「この1年間はフィジカルを活かす」と言われていたんですが、その時はまだパフォーマンスに繋がっていませんでした。フィジカルを前面に出して、周りとのコミュニケーションを密に取ることを心掛けていました。

—— フィジカルがパフォーマンスに繋がっていなかった原因は、自分ではどう分析していますか?

どちらかと言うと、コミュニケーションの課題の方が大きくて、コミュニケーション不足により、自分の欲しいタイミングでボールがもらえなかったり、チームメイトが求めていることが分からなかったりした状態で、上手く噛み合っていなかったと思います。

—— フィジカルについては、社会人になってから更に成長していますか?

筋力的にはあまり変わらないと思いますが、自分の持ち味は相手をずらして、身体を上手く使ってゲインすることだと思っていて、その部分が成長出来ていると思います。

学生の時にこだわっていた部分はゲームコントロールでしたが、サントリーに入ってからは、同じ12番でも役割が変わりました。サントリーではゲームコントロールの部分はハーフバックスに任せて、1対1の局面でいかに勝つかが大事で、大学までは強くこだわっていなかった部分をこだわってやっているという点で、意識が変わりましたね。

—— 社会人1年目でもフィジカルで通用していて、大学時代のトレーニングが良かったと思いますか?

大学時代からしっかりとフィジカルトレーニングをしていたお陰で、社会人レベルでもすんなりと入っていけて、良いスタートが切れたと思っています。

◆続けることや自分に負けないこと

スピリッツ画像

—— 今年の日本選手権では、帝京大学がNECに勝ち、大学生でも社会人に通用することを証明したと思いますが、帝京大学の強さの秘訣は何ですか?

選手のレベルもコーチが求めることも、毎年上がっています。今の学生は素質もありますし、まじめで努力家だと思います。キツいトレーニングを妥協しない人間ばかりで、トレーニングをした分だけ強くなっていて、それが結果として目に見えるんです。帝京大学のスタンダードも上がっていて、妥協せずに危機感を持ってトレーニングをしなければ、試合には出られません。

—— 素質も大事ですが、まじめというのが大事ですよね

そこが一番大事な部分だと思います。何をやるにしても、続けることや自分に負けないことが大事だと思います。例えば、ウエイトトレーニングは辛いトレーニングですが、そういうトレーニングでいかに続けられるかで、肉体と同時に精神も鍛えられると思います。続けることの出来る精神力が帝京大学の強さでもあると思います。

—— そこは中村選手も大学時代に養えたんですか?

最初は素晴らしい先輩方を見て真似をしながら、一緒にトレーニングをしながら自立していき、後輩が出来た時には、その姿を後輩に見せられるようにしていました。

—— なぜそういうことが出来たんだと思いますか?

チームのスタンダードが上がっている分、やらなければ試合に出られないという気持ちがありました。しっかりとやらなければ、仲間からの信頼は得られないと思います。仲間から信頼されるために、そういう姿を見せることが必要ですし、信頼がなければ試合にも出られません。そして、人間的にも成長出来ないと思います。

—— 帝京大学の強い時期がまだまだ続きそうですね

続くと思います。

—— 帝京大学がNECに勝利する2週間前には、サントリーとの練習試合でも勝利していましたね

僕は試合に出ず、外から見ていましたが、帝京大学は凄く元気だったと思います。大学での長いシーズンを戦ってきた終盤に、あれだけ元気な姿を発揮できることが凄いことだと思います。その元気をサントリーは受けてしまったと思います。

—— 帝京大学からサントリーに入った選手として、そしてトップリーガーとして、どう思いましたか?

試合に出ていないにしても、本当に悔しかったですね。

◆細かなスキル

スピリッツ画像

—— 社会人になってから一番成長した部分はどこだと思いますか?

自分では実感がないんですが、監督やコーチからは「1年前のお前とは違う」と言ってもらっています。ただ、まだ自分の目には見えていない状態です。先ほど話した持ち味を活かしてゲインすることについては、成長しているというよりは、こだわり始めたと思っていて、まだ成長するきっかけを掴んだくらいだと思います。

—— 成長の余地はどこだと考えていますか?

コミュニケーションについては、ラグビーをやっている間はずっとついてくるものだと思いますが、その他の部分では、細かなスキルを成長させなければいけないと思います。パス1つとっても、相手のタイプやスピード、スキルによって、投げるパスを変えなければいけません。

あとは、キックのスキル、ボールキャリアーになった時の細かなステップ、ボディコントロールなど、本当に細かいスキルを1段階上げていかなければいけないと思っています。

—— いまサントリーでは、10番と12番をやっていますが、どちらがやりやすいんですか?

好きなのは10番です。どちらのポジションでも、だいぶチームにフィットしてきたと思っています。

—— 筑波大学戦後の記者会見で、大久保監督は「今日の試合は12番よりも10番の方がフィットしていた」と言っていました

それはコーチングスタッフ陣も分かってくれていると思います。ただ、12番で出ている時は、チームから求められているプレーと、自分がやりたいプレーが重なる部分があるので、そこは前面に出していこうと思っています。

—— 12番をやっていて面白いところはどこですか?

ボールを持っている時も持っていない時も、相手との体のぶつけ合いが多いので、その部分が面白いですね。

—— 10番の面白いところは?

ゲームコントロールして、味方を活かすプレーが面白いと思います。僕は自分でボールを持っていくことも出来るので、選択肢が多いと思っています。

—— フィジカルが強いと意識したのはいつ頃ですか?

大学3年くらいだと思います。体作りを初めて2年の終わりくらいから良い状態になってきて、その時くらいから大学の中では負けない体にはなっていたと思います。

—— フィジカルには体の使い方も重要になると思いますが、体の使い方はどう学んできたんですか?

僕よりも体が強い人はたくさんいるので、必ず正面から当たらないようにしています。いかに相手の体から少しでもずらして、1歩でもゲインすることを考えているので、そういう場面では練習中でもショートステップを意識して取り組んでいます。練習試合も含めて、徐々に持ち味を出せるようになってきていると思うので、トップリーグでもメンバーに選んでもらえるようになってきたんだと思います。

—— アタックの時は相手タックラーと、ディフェンスの時はランナーとの駆け引きがあると思いますが、上手く駆け引きが出来る感覚は掴んでいますか?

今まで出来ていなかったことはあまりないんですよ。ただ、シーズンの最初の頃は、チームメイトと合わず、ボールをもらうタイミングが悪かったりしていたので、そこまで行っていなかったという感じでした。コミュニケーションの部分で、少し時間がかかってしまったので、パフォーマンスにも影響していました。

—— コミュニケーションの改善は時間が解決するものですか?

時間と質だと思います。練習で意識することも大事なんですが、試合の中でしか出来ないコミュニケーションもあるので、練習試合に出させてもらっているうちに、お互いを分かり合えるようになったと思います。

◆駆け引きが好き

スピリッツ画像

—— 大学3年生くらいからフィジカルが強みになったとのことですが、それ以前は何が持ち味だったんですか?

キックとタックルで、その部分は高校の時から強みでした。サッカーをやっていたので、キックは好きで、タックルについては、僕はもともとディフェンスのプレーヤーだと思っていました。高校の頃は、たぶんタックルが好きで、ディフェンスをすることが好きでしたね。そして、大学3年の頃に身体が出来始めてから、アタックが面白く感じてきて、自分から仕掛けるようになりました。

—— タックルが好きなのはなぜですか?

相手を倒すのが好きなのかもしれないですね。ですが、高校の時の方がタックルを得意だと思っていました。今は試合によってバラつきはあり、相手のレベルが上がった分、ディフェンスが難しくなりましたが、そこも駆け引きなので、また面白いと思います。駆け引きが好きなんだと思います。

—— サッカーを続けなかった理由は何ですか?

僕の父親がラグビー大好きで、直接「ラグビーをしろよ」とまでは言われなかったんですが、周りの人たちに元々ラグビーをやっていた人が多くて、周りの環境をラグビーで囲っていましたね(笑)。それで、高校に入った時に、父親の勧めもあり、「じゃあ、ラグビーをしよう」と切り替えました。

—— 大きな決断になりましたか?

そうですね。サッカーに未練タラタラでした。

—— サッカーではどういうプレーが好きだったんですか?

ゴールをアシストするのが好きでした。ポジションはフォワードで、ゴールを決めることが仕事だったんですが、絶妙なスルーパスとかが好きでした(笑)。ゴールを決めるよりも、良いタイミングでパスを出して、味方に決めてもらう方が面白く感じていたので、もともとスタンドオフのような、味方を上手く使うようなプレーヤーなんだと思います。

でも、今シーズン、チームから12番として求められているのが、自分から仕掛けるプレーです。どちらのスタイルでも出来るようになれればいいなと思っています。

—— サッカーではなく、ラグビーを選んで良かったと思うことは何ですか?

サッカーを続けていたとしても、今のようなトップレベルでプレーすることは出来なかったと思います。そこは父親がしっかりと見抜いていたんだと思います(笑)。サッカーをやっていた時は、市内ではそこそこのレベルでしたが、全国に名前が知れ渡るほどの選手ではありませんでした。

◆出来るという手応え

スピリッツ画像

—— トップリーグセカンドステージの第2節神戸製鋼戦がデビュー戦となりましたが、振り返ってみてどうでしたか?

ずっと試合に出られなかった時もやれる自信はありました。試合に出たことで、その自信が確信となりました。その中でも上手くいかないこともあり、両方の部分を味わえて、満足感も悲壮感もなかったので、今が良い状態だと思っています。

—— 精神的には安定している方だと思いますか?

安定している方だと思います。試合のメンバー発表の時に、選ばれないと分かっていても実際に発表の時に、自分の名前が呼ばれないと、沸々とエネルギーが湧いてきますが、そこまでブレるような精神状態にはなりません。

—— それはなぜだと思いますか?

やることが明確になっていたことと、先を見据えていたからだと思います。ファーストステージやセカンドステージでアピールをして、プレーオフや日本選手権でメンバーに入ることを考えていました。

—— 大学時代に勝ち続けた自信が影響していると思いますか?

サントリーに入った時から大学は関係ないので、大学時代の自信はもうないですね。社会人を経験して、出来るという手応えと根拠のない自信がありましたね(笑)。

—— これまでのシーズンを振り返ってみてどうですか?

プレーオフに出場できなかったことは非常に残念でしたが、あまり振り返ることはありません。悔しさは次に繋がるので、負けたことに対しては悔しさしか残りません。気持ちとしては、「次にやってやろう」という気持ちだけですね。これまでの悔しさもずっと貯まっています(笑)。

—— その悔しさはどうすれば晴れるんですか?

過去に戻らない限り悔しさはなくならないので、ずっと貯まっていくと思います。僕の場合は、悔しさをエネルギーに変えているので、どんどんエネルギーが貯まっていきます。でも、相手を恨むようなネチネチするようなタイプではありませんよ(笑)。これまでに負けた試合は、今でも覚えています。だから、例えばシーズンを全勝で終えたとしても、次に繋げるエネルギーがあります。

—— この先の目標は?

日本選手権の優勝しか見ていません。

—— 日本代表についてはどうですか?

日本代表はサントリーで試合に出続けて、日本選手権で優勝しなければ見えてこないと思います。だから、1戦1戦ベストを出して日本選手権で優勝すれば、日本代表も見えてくると思っています。

—— これまでに挫けたことはありますか?

これまではありませんが、これからだと思います。ようやく始まったと思っています。日本代表を外れたことに対しても悔しさしかありません。最初の頃は、サントリーで試合に出なければ日本代表に呼ばれないという焦りがあったんですが、日本代表を外れてからは吹っ切れました。日本代表を外れたことで、逆に良い状態になったかもしれません。

◆自分の気持ちを出せるところ

スピリッツ画像

—— サントリーに入る前に考えていたイメージと今の状態を比較して違いはありますか?

思っていたイメージと似ていますが、正直に言えば、イメージよりももっと出来ていて欲しかったですね。

—— いま思うラグビーの面白さはどこですか?

全部面白いんですよね(笑)。ラグビーが一番面白いスポーツです。ラグビーの面白いところを強いて挙げるとすれば、自分の気持ちを出せるところだと思います。相手と接触しないスポーツは気持ちを前面に出せなかったり、気持ちで負けていたとしても相手には伝わらない部分があると思うんですが、ラグビーでは気持ちで負けていたら、それが相手にも伝わってしまうんです。ラグビーを始めて8年目になりますが、上手く面白さを伝えられないですね。次のインタビューの時までに考えておきます(笑)。

—— 気持ちがパフォーマンスや結果に表れますか?

出ますね。やっぱり相手に向かっていくような気持ちでなければ出来ないスポーツで、そういう気持ちがなければ逃げてしまったりひ弱になってしまうと思います。試合が始まる時点で、貯まった悔しさをすべてエネルギーに変えて、試合に臨んでいます。

スピリッツ画像 スピリッツ画像

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ