2015年2月11日
#416 フーリー デュプレア 『良い部分は残していきながら成長していく』
前々回のワールドカップで南アフリカを優勝に導いた世界的なスクラムハーフであるフーリー・デュプレア選手。“アグレッシブ・アタッキング・ラグビー”を中心に、サントリーサンゴリアスが追及すべきラグビーについて訊きました。(取材日:2015年1月26日)
◆メンタルをしっかり準備
—— 復帰しましたが、今の調子はいかがですか?
復帰することが出来たことは嬉しいです。まだ100%ではないですが、それに向かって頑張っていて、毎週良くなっていると思います。
—— 復帰して実際にチームに入って感じるチームの状況は?
トップリーグでトップ4に入れなかったのは、とても残念な結果だったと思います。ただ選手としては1つになって、毎週毎週しっかりとトレーニングをして、日本選手権にチャレンジしていくしかありません。
—— 厳しい戦いが続いていく中で、大切にすべきポイントは何ですか?
毎試合が最後の試合だと思わなければいけません。どういう勝ち方をするかというよりも、勝たなければいけないということです。長いシーズンですが、どの選手もフィジカル的には問題ありませんが、メンタルの部分をしっかりと準備していかなければいけないと思います。
◆アグレッシブにプレーしていくこと
—— デュプレア選手が考える「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」とは、どんなラグビーですか?
ボールを継続して持ち続けて、たくさんのオプションがあるラグビーです。そして、それをもとにアグレッシブにプレーしていくことです。
—— オプションがたくさんあって、選手自身が迷ってしまうことはありませんか?
たしかにそういう時もありますが、今はそこまで難しくはなく、シンプルに出来ていると思います。
—— 4年前のサンゴリアスはほとんどキックを蹴りませんでしたよね
今でも他のチームと比べると、キックを蹴る回数は少ないと思います。試合の中で、キックを蹴らなければいけない場面は訪れます。その部分では、もっともっと賢くプレー出来るようになると思っています。ディフェンスとしてのキックではなくて、アタックとしてのキックを使うこともあります。
—— デュプレア選手の中に、変わらない「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」の考えがあるんですか?
スプリングボクス(南アフリカ代表)では少しはキックを使うこともありましたし、サントリーでプレーしている時は、自陣からでもボールを持って攻めることもあります。クイックリスタートをすることもありますし、そうなると試合が少しずつ速くなってきて、速くボールを動かすことを考えながらプレーしなければいけません。チームによって選択するプレーは変わってきますが、僕の中で「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」の根本は変わりません。
—— 今シーズンのサンゴリアスの「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」はどう感じていますか?
まだ復帰してあまり経っていませんが、以前のようなアタックは出来ていないのかもしれません。チームとしてもたくさんの変化がありましたし、その変化の中で多くの人が同じ方向を向くようになるためには時間がかかります。
—— 来シーズン以降を見据えて、デュプレア選手が考えるサンゴリアスの「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」とは?
サントリーの特徴だと思うので、やり続けることが大切だと思います。ただし、その中でも考えて、賢くプレーしていかなければいけないと思います。相手のディフェンスが強くて、そのラインを崩せないことも時にはありますが、信じたものをやり通すことはとても大事なことです。
今シーズンは苦しい試合が多かったんですが、それは自分たちが信じたことが上手くいかない時に、「なぜ上手くいかないんだ」と疑いが出てきてしまっていたのが大きかったと思います。
—— 上手くいかないことが起きてしまった理由は何ですか?
先ほども言ったように、今シーズンはたくさんの変化がありました。そのために、全員が同じ方向を向けていないことがあったと思いますし、同じ方向を向くためには時間がかかるということです。
◆出来る限りシンプルに
—— 賢くプレーするとは、具体的にどういうことですか?
説明することはすごく難しいんですが、もっと頭を使って考えて、正しい判断をすることが必要だと思います。もちろんそのためには経験も必要です。
—— 全員が同じ方向を向くために、デュプレア選手が他の選手にアドバイスをすることはありますか?
それは一番やろうとしていることですが、選手としてはどうしても限界があるので、選手として出来る範囲でアドバイスをするようにしています。どの選手も、必ずどこかで迷いは出てくるので、出来るだけその迷いを少なくすることが、僕らが出来る一番のことだと思っています。
「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」を考える上では、とても良い質問をされていると思います。選手だけではなく、コーチ陣も含めて全員が「サントリーのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーはこれだ」という同じ答えを出さなければいけません。そこが統一出来ていなければ、全員が同じ方向を向いて進んでいけないと思います。
—— デュプレア選手はどのポジションの選手に対しても、的確なアドバイスを与えてくれると言われています。アドバイスをする時に心掛けていることはありますか?
出来る限りシンプルにすることを心掛けています。アタックについてアドバイスすることが多いんですが、その中で大事なことを2つか3つに絞って与えられるようにしています。そして、同じメッセージだとしても言い続けることが大事だと思います。それでも実現させることは、難しいと感じています。
◆ディシジョン・メーキングが重要
—— もしデュプレア選手が指導者になった時には、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーをやりたいと思いますか?
そう思いますね。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーの良さは、どう見るかにもよりますが、常にボールを持って攻めることもアタックとして捉えられますし、ボールを蹴るスタイルでもアタックとして捉えられます。常にさまざまなオプションを持ってアタックをすることが、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーに繋がると思います。アグレッシブ・アタッキング・ラグビーには「ディシジョン・メーキング(意思決定)」がとても重要になってくると思います。
—— 日本の学校教育の影響もあると思いますが、多くの日本人は上の人の言うことを聞いて、自分で考えないことが多いと言われています。その点について、デュプレア選手はどう思いますか?
日本人の中にも、サントリーの中にも自分で意思決定をして、発言や行動が出来る選手がいます。若い選手はシニア選手から色んな事を聞いて、多くのことを吸収しなければいけませんが、その中でも自分はスペシャルなプレーヤーだと認識出来ていれば、意見をたくさん言えると思います。
—— スペシャルなプレーヤーと意識することが大切なんですね
自分から言うことはないと思いますが、心の中では「自分はスペシャルなプレーヤーだ」と思っている選手が何人かはいると思います。スペシャルなプレーヤーと認識しなければ、ディシジョン・メーキングにも繋がっていかないと思います。
ラグビーは難しいスポーツで、15人が同じ考えで、同じ方向を向いてプレーしなければいけないんです。その15人の中で何人かの選手は、自分の信念をもって状況を打開できる選手が必要です。
—— 15人の中で、そういう選手が何人くらいいると良いと思いますか?
キーのポジションに4人くらいいると良いと思います。もちろん他の11人が自分の仕事をしっかりやらなければいけません。例えば、ある1つのプレーの中で、良いラインを走るだけの仕事の選手もいるかもしれませんが、良いラインを走るための判断をたくさんしていると思います。 大きな判断をしなければいけないキープレーヤーもいますが、もちろん15人全員が良い判断をしていかなければいけないんです。
—— これからのサンゴリアスで一番大切なことは何だと思いますか?
サントリーの良かったことや文化をしっかりと残していって、そこに足りない部分ややらなければいけない部分を追加していき、全員が同じ絵を見て、進んでいくことが一番大事だと思います。
今シーズンはここまで良いシーズンとは言えない状況ですが、それを全て忘れるのではなく、良い部分は残していきながらも成長していくことだと思います。
(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]