2015年1月28日
#414 竹下 祥平 『相手を抜いて視界が開ける瞬間』
2年目、3年目と順調に出場試合数を増やしている竹下祥平選手。心技体すべてにおいて課題を自覚して、練習に取り組んでいる様子が、このインタビューからも伺えます。今シーズンどこまで躍進して、正念場の来シーズンを迎えることができるでしょうか。期待の竹下選手の“いま”をお届けします。(取材日:2015年1月8日)
◆試合に出られることで勝つことが目標に
—— 現在の調子は?
自分の調子としては、良いとは言い難いですが、悪くはないと思います。
—— 良し悪しの判断は、社会人で何年か経験することで、的確に把握できるようになるんですか?
そうですね。自分の体とのコミュニケーションというか、どこが悪いのかが分かってきますし、それを踏まえた上で、今の調子は悪くはないと思っています。
—— 悪い時と良い時とは、どういう周期で来るんですか?
怪我をすると状況も変わりますが、怪我さえしなければコンディショニングの部分は良くて、そこにメンタルの部分が関わってきます。
—— メンタルが良い状況の時は、どんな時ですか?
ラグビーに対して集中出来ていて、しっかりと今やるべきことが明確になっている時はそれを徹底してやれるので、良い状況の時ですね。
—— メンタルが良いと、プレーも良くなりますか?
影響は大きいと思います。
—— ラグビーに集中出来ない時は、何が原因ですか?
モチベーションが影響すると思いますが、選手としてはモチベーションをしっかりとコントロールしなければいけないと思います。1、2年目の時は、1週間のトレーニングの中で、自分の力を出してガムシャラに取り組んで、メンバーに入れなければ、すぐにその次の試合に向けて取り組むという感じでした。
今年からは、メンバーを外れたとしても、その週の試合でチームが勝てるように、ノンメンバーとして対戦相手よりも激しいプレーをして、メンバーがしっかりと練習出来ればチームが勝てると思うようになりました。どうチームに貢献するかを考えるようになったので、モチベーションを高い位置で保てるようになったと思います。
やることは変わらないので、特に影響はありません。チームとして1つの試合に勝つためには何をすべきかを考えられるようになってきました。
—— そう考えるようになったきっかけは?
きっかけとしては、最初は試合に出ることが目標だったことが、リザーブだとしても試合に出られるようになったことで、勝つことが目標になりました。そこでチームのために何が出来るのかと考えるようになりました。
◆怪我をしない体を作る
—— 調子が「良い」ではなく、「悪くはない」という要因は?
自分が目指しているプレーが出来て100%だと思っているので、それを考えるとまだ達していません。
—— 目指すプレーが出来るようになるためには何が必要ですか?
そこがモチベーションでもあり、スキルでもあり、フィットネスやフィジカルなど、全てにおいて成長が必要だと思います。調子が良い時は、普段よりも走れますし、何をやっても上手くいくので、そこを見過ぎているのかもしれません。
—— 調子が良い時は、具体的には何が違いますか?
やはり怪我とは言えないような小さな怪我でも影響はしてきます。小さい怪我などが全くない時には、自分の動きたいように動けますし、体がちゃんとついてきてくれるので、そういう状態になれば、一番良いと思います。
—— 小さい怪我と上手く付き合っていく方法などはありますか?
ラグビーは怪我がつきものですが、やはり一番は怪我をしない体を作ることが大事だと思います。僕の場合は毎年怪我をしてチームを離れることがあるので、それを改善していかない限りは、良いコンディショニングを保ち続けることは難しいと思っています。
—— 怪我をしない体作りのためには、何を重点的に行っているんですか?
いま取り組んでいるのは、体を大きくすることに力を入れています。体を大きくすることはサントリーに入ってからの課題ですが、更に大きくしていかなければいけないと思います。それが出来ていないから、今の位置にいるんだと思います。
—— 目標のどのくらいまで来ていますか?
重さは今くらいで大丈夫だと思いますが、大きさはまだまだですね。体との付き合い方も大切で、あまり体を大きくし過ぎて、どんどん体重が増えていってしまうのであれば、ある程度で止めなければいけないと思います。理想としては、筋肉量を増やして、脂肪を減らして、体重はあまり変わらずに体を大きく出来れば良いと思っていますが、そこはまだ到達したことのない領域なので、これからやってみてどうしていくかになると思います。
去年、一度、体を大きくすることに特化して、筋肉も増えましたが、脂肪も増えて、ただ体を大きくしたら、走れなくなってしまったので、もう少し脂肪の量をコントロールしながら大きくしていけるようになりたいですね。
—— 脂肪を増やさずに体を大きくすれば、スピードや走ることには影響しませんか?
大島さん(佐利)は体が大きいのに、あれだけ走れるので、僕にも出来ると思っています。いま理想とする形に対して、現時点では50%くらいだと思います。良く言えば、まだ伸びしろがたくさんあると言えると思います(笑)。
◆試合に対する準備の姿勢
—— 現時点でのサンゴリアスキャップはいくつですか?
9キャップになります。2年目の昨シーズンに3試合出場して、今シーズンはファーストステージの第5節までは全て出場し、セカンドステージはNTTコミュニケーションズ戦に出場しました。
—— 3年目で9キャップというのは、自分ではどう思いますか?
1年目は試合に出られずに2年目で3キャップだったのですが、今シーズンは出場する機会をいただけています。正直、今シーズンこれだけ出られるとは思っていませんでした。
—— 昨シーズンまでと比べて、今シーズンこれだけ試合に出られているのは、なぜだと思いますか?
試合に対する準備の姿勢だと思います。練習での態度や試合に向けた準備の部分で、特別に何かが伸びたということはないと思います。「チームのために」と考え始めてから、やることは変えていません。
—— プレー自体は変わっていませんか?
まだ変わりきれていないと思いますが、変えようとはしています。ボールを持ったら前に行くというスタイルは変わっていませんが、その中でもハンドリングスキルにチャレンジしなければ上達もないと思うので、少しずつ改善出来るようにしています。
前までは、ボールを離せるところで離さなかったりしていたところが、少しずつ離せるようになってきたり、先輩たちに聞いてキックについても習得できるように取り組んでいます。
—— これから更に試合に出場するためには、何が課題だと思いますか?
僕のポジションのライバルは剛さん(有賀)で、剛さんと僕との圧倒的な差はコミュニケーション能力だと思っています。ポジショニングやスキルの部分もありますが、喋るという部分で、直弥さん(大久保監督)にも、「若い選手でバックスを組むとコミュニケーションが少なくなる」と言われるので、そこでいかにコミュニケーションを取れるかが、改善しなければいけない課題だと思います。
セカンドステージ第6節のNTTコミュニケーションズ戦は、9番、10番以外は3年目までの選手になる時があって、その中で、これまではコミュニケーションが取れていなかった部分が、この試合では少し話せるようになってきました。結局はあの点差(18-17)でしたが、バックスが若い選手になっても、相手に点数を与えなかったことは成長した部分だと感じました。
コミュニケーションの部分でも、少しずつ成長は出来ているんですが、ベテラン選手に比べると出来ていないと思うので、これからいかに底上げが出来るかだと思います。
—— コミュニケーションを改善するポイントは?
疲れてくると声が出なくなってしまうので、とりあえず声を発することを心掛けなければいけないと思います。意識しなければ変わらないと思うので、そこが足りなかったんだと思います。一番のポイントは練習から常に意識して声を発し続けることだと思います。
◆スキルと判断
—— 今シーズンも終盤に入ってきましたが、目標は何ですか?
優勝を目指してやっているので、どんな形であれ、その目標は達成したいと思っています。
—— リーグ戦では神戸製鋼とパナソニックに負けていますが、目標を達成する感触としてはどうですか?
パナソニックとの試合では、あれだけの点差(8-45)になりましたが、ちょっと噛み合わなかったミスからインターセプトされ、そこから流れが悪くなってしまっただけであって、あそこでしっかりと取り切っていれば、結果は分からなかったと思います。勝つチャンスはあったと思います。
—— その後のNTTコミュニケーションズ戦は、試合終盤までリードを許す展開となりましたが、あの試合についてはどうですか?
あのような試合をしていたらダメだと思います。出来るのにやらないことが一番ダメな事だと思うので、それがチームとしてのストレスになってしまっていたと思います。シーズンが長いので、疲れが溜まっていると思うんですが、パナソニック戦のような雰囲気はありませんでしたし、自分たちがやりたいことが出来ていなかったと思います。
—— 個人的な目標は?
試合に出たいという気持ちはありますが、それよりもチームが勝つことが一番なので、その中でメンバーに選ばれればチームから求められることを発揮したいですし、僕よりも良いパフォーマンスをしている選手がいて、メンバーから外れた場合でも、メンバーに選ばれた選手が試合で良いパフォーマンスを発揮出来るようなサポートをしたいと思っています。
—— 中期、長期的な目標はありますか?
長期的に安定してサントリーのジャージを着ることです。そのために課題を明確にして、1つ1つ改善していかなければいけないと思っています。 いま取り組んでいるのは、スキルの部分で、特にブレイクダウンのスキルは指摘をされていますし、自分でも感じているので、隆道さん(佐々木)や大島さんに話を聞いて、改善していけるようにしています。
具体的に言うと、マイボールでブレイクダウンになった時に、サポートに入ってしっかりとボールをプロテクトする精度が低いと感じているので、その精度をもっと上げていかなければいけないと思っています。
—— その精度を上げるために必要なことは何ですか?
僕の中ではスキルと判断が必要だと思っています。どうブレイクダウンに入るかというスキルもありますし、誰をターゲットにしなければいけないかという判断の部分で、僕は一瞬考えてしまっているので、そのために先に食い込まれてしまうことがあります。そこを意識して練習していくしか改善の方法はないと思います。
—— ブレイクダウンの次の課題は何ですか?
ボールを動かすハンドリングですね。僕の場合は、ボールを持ったら真っすぐ行くことが多いので、相手に的を絞られやすいと思います。オプションが増えると、ディフェンスする側は、パスにもランにも気をつけなければいけなくなって、そうすると前が空いたりします。あとキックの精度も低い方だと思うので、反復練習をしていかなければいけないと思います。
—— 上達している実感はありますか?
ウエイトの合間にブレイクダウンのトレーニングをしていますし、キックも全体練習の後にトレーニングをしているので、1年目の時に比べると上達していると思います。まだまだ上達しなければいけませんが、少しは成長出来ています。
◆課題は改善していける
—— 一番伸ばしたいところはどこですか?
ボールを持って走ることが僕の持ち味だと思うので、そこを伸ばすために、いま言ったようなパスやキックなどの上達が必要だと思っています。ボールを持ってアタックするためにオプションが必要だと思います。
—— 大学時代からボールを持って走ることが多かったんですか?
高校や大学時代に、試合でボールを蹴った記憶がほぼありません。パスをすることはありましたが、相手の印象としては、パスをせずに走ってくるという印象が強かったと思います。
—— やはりボールを持って走ることにラグビーの面白さを感じていますか?
ボールを持って相手を抜くことが面白いですね。相手を抜いてトライまで行かなかったとしても、僕が抜けたことでチャンスメイクが出来て、トライに繋がった時にも面白さを感じます。
相手を抜くにしても、極論を言えば、ツル(中靍)みたいに相手に触られずに抜ければ良いんですが、僕はそこまで足が速くないので、相手をずらして当たり勝って、ゲインをしていくイメージを持っています。平さんや剛さんがそうやって抜けて行っているので、そういうプレーをフルバックとしてやっていきたいと思っています。
—— 相手を抜いた瞬間が面白いんですか?それとも相手を抜いて走ることが面白いんですか?
相手を抜いて視界が開ける瞬間が面白いですね。前に人がいるのに、そこに走った時に「前が開けて誰もいない」という感覚が楽しいんですよ。カウンターを仕掛ける時には、そういう場面が多くなります。
—— 視野は広い方ですか?
いまは狭い方だと思います。最初は周りを見るんですが、前が空いていると感じると、ボールを持って走って行ってしまうので、「そこを直せ」と言われています(笑)。穴に対して一点で突っ込んでいくのではなくて、フットワークを使ったり、少し横に振っておいてから攻めたりとか、穴を広げて攻めることが必要だと思います。
—— 課題を改善していく自信はありますか?
自分の理想とするところに持っていくことは難しいことで、理想に近づけば、更に上を見るようになっていくと思うんですが、理想に近づくことは可能だと思います。実際に上達はしていると思うので、自分の取り組み次第で、課題は改善していけると思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]