2015年1月14日
#412 宮本 賢二 『ここからやれるだけのことをやっていきたい』
前髪だけ白髪と、俊足がトレードマークの宮本賢二選手。入団時からどちらも変わらずに社会人5年目のシーズンを迎えています。「試合出場」を目標に掲げて挑戦中の現状と展望を訊きました。
◆「ラグビーが好き」という考え方
—— 現在の状態は?
今シーズンの春に比べたら良くなってきていると思います。春は良くなかったというよりも、自分にプレッシャーを掛け過ぎていて、少し重荷になっていた部分がありました。けれど、その考えを少し変えてから、自分の中では、成長出来るように意識を変えてやっていけているので、メンタル的にもラグビー的にも良くなってきていると思います。
—— 重荷になっていた部分は、具体的にはどういう部分ですか?
ずっとラグビーをやってきている中で、若い選手も入ってきて、自分がどうしなければいけないのかが分からない時期がありました。先のことを考えすぎていたのかもしれません。
—— どう考え方を変えたんですか?
今までは「やらなきゃいけない」という変なプレッシャーを自分に掛け過ぎていたんですが、今はもう単純に、「ラグビーが好き」という考え方です。考え方を変えたことで、ラグビーそのものを楽しんでいるので、とても楽になりました。
ラグビーを20数年やってきて、先を考えると、どうしても終わりが見えますよね。終わりを考えてしまうと、「全てをやり切ろう」という気持ちが強くなってしまい、僕にとってはその気持ちがあまり良くありませんでした。だから、今は「現状を楽しもう」という考え方にシフトしました。
—— かなり先のことを考えていたんですか?
状況を見れば、後輩も良い選手が多いですし、危機感を感じでいましたね。最初は、「もし今年引退だとしたら、自分には何が出来るだろうか」と考えていて、20数年間やってきたこと全てを出し切ろうという気持ちだったんです。それが重荷になっていて、練習中の少しのミスでもストレスになっていたんですが、この1年で20数年間の蓄えを一気に出せるわけでもないので、考え方をシフトしました。
◆個性を活かして試合に
—— これまでトップリーグでのキャップは2キャップで、あまり試合に出られていない状況だと思いますが、その状況についてはどう考えていますか?
正直、2011-2012シーズンに試合に出て以来、ずっとトップリーグの試合には出ていないんですが、結果どうこうと言うよりも、みんなが僕を認めてくれている部分はあると思っています。その部分を活かして、チームに貢献出来れば良いと思っています。
—— 練習試合などでは活躍していますが、それでもトップリーグでの出場は少なく、体の大きさなどの身体的な部 分で試合に出られないという要素もあるのであれば、それは悔しいことですか?
悔しくはないですが、それを乗り越えなければ、試合に出られないので、自分がやれることをやるだけだと思っています。例えば、体を大きくすることについては、少しずつ上がってきています。
—— ポジションを変更しようと思ったことはありましたか?
9番であれば、僕と同じような体格の選手がいますが、9番をやろうと思ったことはありませんでした。大学時代は9番に日和佐がいたので、巡り合わせもあると思います。大学の時は身体的には通用していたので、9番をやるという考えにはなりませんでした。
—— 身体的な部分では、大学とトップリーグでは違いますか?
全然違うと思いますし、僕がサントリーに入ってきた時よりも、今の方が更に違いがあると思います。
—— ラグビーは色々な体格の人が出来るスポーツだと思いますが、今のラグビー界では体が大きい方が有利になりますか?
ただ大きいだけでもダメだと思います。例えば、マツ(松島幸太朗)だって、ライアン(ニコラス)と比べても大きくはないですよね。けれど、体のバネは凄いですし、1人1人の個性があって、それを活かして試合に出ていると思います。
◆ディフェンスの課題をクリアにするために
—— 試合に出るために、体を大きくすること以外での課題は?
あとはディフェンスだと思います。ディフェンスは嫌いではないですが、得意とは言えません。ディフェンスの課題をクリアするためには、意識だと思います。スピードの部分では問題ないと思うので、しっかりと下に入ることと、入ってからのテクニックだと思います。
—— 今の状況を突破できるイメージはありますか?
体を80kgまで持って行かないと、僕の中で納得いかないですね。今が77kgなので、あと3kg重くしたいと考えています。僕はあまり体重が増えないタイプなので、かなり大変だと思います。
—— 体重を80kgにして、スピードは問題ありませんか?
それはやってみないと分かりませんね。昨シーズンは76kgだったんですが、重く感じることもありました。けれども、その体重でやっていくうちに、体の調子が変わってきます。体質上、一気に体重を増やすことが出来ないので、徐々にやっていくしかありません。
—— スピードは上がっていますか?
上がっている感覚はありませんが、落ちている感覚もありません。周りの選手なども影響してくると思いますが、僕自身が速いと感じていたのは、高校や大学時代だと思います。ただ、数値的には変わってはいないと思います。スピードも速くしていけるようにトレーニングをしています。
◆気づいたことは言うように
—— これまでのチーム状態と比較して、今のチーム状態はどう考えていますか?
負けている時は、外から見ていても迷いが感じられますよね。試合に出ている人にしか、その時の状況は分からないと思いますが、客観的に見ると、サントリーのラグビーが出来ていないと感じます。出来ていないというのが、相手がサントリーのラグビーをさせないようにしているのかもしれませんが、それは乗り越えなきゃいけないところだと思います。
—— これまで今シーズンの様なシーズンが無かったように感じますが、どう感じていますか?
サントリーだけじゃなくて、全チームが同じような状況だと思います。どのチームも安心して戦える相手はいないと思います。
—— サントリーのチーム状況は悪くはありませんか?
悪くはありませんが、負けた時は色々なことを見直しますよね。ラグビー以外の私生活のことも含めて、もう一度自分たちの規律を見直そうというところから再度始まります。例えば、忘れ物をしたとか、時間に遅れたとか、サントリーの場合は、そういうところから見直していくんです。
—— 宮本選手は中堅の年代になってきて、チームで任されている役割はありますか?
チームで決められている訳ではないですが、気づいたことは言うようにしていますし、自分でやるようにもしています。
—— 宮本選手から見て、今の若手選手はどういうタイプですか?
大人しいとか、物怖じしているような感じはありませんが、もちろんサポートはしてあげなければいけないと思っています。
◆ゲームを動かしたい
—— 試合に出場した時には、どういうことをターゲットにしていますか?
たくさんボールを触りたいので、そのためにたくさん動かなければいけないと思いますし、しっかりとコミュニケーションを取らなければいけないと思います。ウイングのポジションでは、その部分をしっかりとやらなければ、ボールをもらうチャンスが少なくなってしまうと思います。ディフェンスについては、自分の責任をしっかりと内側の選手に伝えてディフェンスすることが大切になると思います。
これまでの試合でも、僕がボールを持つと、トライに繋がることが多い方だと思いますし、僕がボールを持つことで、チームがアタックしやすくなっていると思うので、そこは自信を持ってやっていきたいと思います。
—— 試合を外から見ていて、サンゴリアスの流れが良くない時には自分が出れば流れを変えられると思うことはありますか?
それは、試合に出ていない選手みんなが思っていると思いますよ。試合を外から見ていると、客観的に見られるので、そういう思いになるのは当たり前だと思いますし、試合に出ていない悔しさもあるので、どの選手も「自分が出たら」という思いになっていると思います。ただ、試合の中の状況は、試合に出ている選手にしか絶対に分からない部分でもあります。
—— 宮本選手が試合に出た時には、どういうプレーを見てもらいたいですか?
1~2年目の時はトライしかしていなかったと思いますが、もちろんトライは獲らなきゃいけないと思いますが、今は試合の流れであったり、テンポであったり、ゲームを動かしたいという思いがあります。
◆目標を持たせる
—— 中期、長期的な目標はありますか?
ラグビーで言えば、いつ引退するか分かりませんが、子供たちにラグビーを教えることに携わりたいと思っています。
—— 子供たちにラグビーを教える上で、一番のポイントはどこだと思いますか?
スキルは大事だと思いますが、目標を持たせることが大事だと思います。ラグビーの楽しさと厳しさは、紙一重だと思います。そこを教えるのは、本当に難しいと思いますが、考えてラグビーをやるということを伝えていければと思っています。
—— ラグビーをやる上で、考える部分はどのくらいの割合ですか?
無意識が8割くらいだと思います。だいたい無意識に体が動いていて、ポイントで意識するところがあると思います。そのポイントの部分を、子供たちには教えていきたいと思っています。
—— 今の指導の方法は、教えたことをやればいいということが多いんですか?
今は、そういうやり方はほとんどないと思います。スクールや学校の指導者によって、方法はまちまちだと思いますが、一方的に押し付けるような指導方法は取っていないと思うので、良い若い選手が育ってきているんだと思います。
—— 選手としてはどう考えていますか?
僕自身は、まだまだ成長出来ると思っていますし、自信も持っているので、あとは意識を高く持ってやるだけだと思っています。例えば、先ほど体重の話をしましたが、僕が社会人1年目から高い意識で取り組むことが出来ていれば、もう80kgになっていたかもしれません。
正直、1年目の時から変な自信を持ってしまっていて、今年になって、やっと自分に素直になれたというか、ラグビーに素直になれたと思います。だから、ここからやれるだけのことをやっていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]