2014年12月17日
#408 日和佐 篤 『ウイングがボールを持った瞬間にトライと分かるような形』
サントリーでも日本代表でも9番として活躍中の日和佐篤選手。どちらのチームでも中堅の役どころとなってきています。更なる成長が期待される日和佐選手の今の、そしてこれからのラグビーについて訊きました。
◆自分の限界がまだ分からない
—— 昨シーズンが終わってすぐ日本代表に参加し、サントリーでも試合に出場し、ずっと活動していると思いますが、調子はどうですか?
調子が良いかどうかは分かりませんが、悪くないですよ。凄く体調が良いとか、パフォーマンスが良いというのが、今のところあまりないですね。調子自体は良くなってきているんですが、まだMAXではないと思います。
—— 過去にMAXを感じたことはありますか?
あまり記憶にありませんが、一番走れていた時期などはありました。ただ、そういう時は体重が軽かったり、他の要因が大きいので、一概に調子が良いとは言えないと思います。調子自体は良いと思うんですが、自分の限界がまだ分からないというか、まだできそうな気もしますし、今が限界かもしれませんし、それが分からないですね
—— もっとできると思うところはどこですか?
もう少しスピードや筋力が上がると思います。年々、右肩上がりで来ているので、その状態を35歳くらいまで続けられればと思っています。
—— 筋力を上げるということは、筋肉の量を増やすということですか?
筋肉の量を増やして体重を重くするということではなくて、筋肉を強くすることですね。たぶん体重は今が一番良いと思います。
—— 成長は右肩上がりの直線ですか?それとも階段状ですか?
1年目の時はあまりウエイトトレーニングに取り組んでいなくて走ることに特化していたので、パフォーマンスが急激に上がり、ジャンプアップした感じがあり<ました。そこから緩やかに上がったり、下がったりを繰り返しながら、成長していると思います。
◆チャンスとピンチの管理能力
—— いま27歳ですが、ピークはいつ頃になりそうですか?
身体のピークは27歳~29歳くらいだと思うので、それを維持していきたいと思っています。今よりもう少し上がると思うので、その上がった状態を維持したいですね。経験などを含めて、頭脳のピークは32歳頃になるかなと思っています。
今はトップリーグ5年目で、まだ経験を積めると思いますし、来年2015年のワールドカップに出場できれば、更に良い経験ができると思っています。経験からくるコントロールの部分で、試合の流れを読んだり、チャンスやピンチに気づくというところが、経験を積むことで上がると思います。
—— 世界的なスクラムハーフとサントリーで一緒にプレーしていて、昔は分からなかったことが、今なら分かるということはありますか?
ジョージ・グレーガンとフーリー・デュプレアの2人に関して言うと、常に落ちついていると感じますし、チャンスとピンチの管理能力に長けていると思います。その部分が、1年目は分からずいつも同じようにプレーしていたんですが、最近は少しずつ分かってきたと思います。 昔は常にトライを獲りたいと思っていたんですが、今はチャンスをいかに点に結びつけるかを考えるようになりました。
敵陣22mエリアに入ったら、3点でもいいから何としてでもポイントを獲るということを考えるようになりましたね。そこで良ければ5点や7点と獲りたいですが、まずはポイントを獲れるようなゲーム運びを心掛けるようになりました だから、言葉は悪いかもしれませんが、相手の反則を誘うようなところもあります。反則をもらえたら、相手は10m下がらなければいけませんし、トライやポイントを獲るチャンスになります。
—— ピンチの時はどういうコンロトールをしますか?
ディフェンスをしていて、どこに穴があるかを探しますね。ディフェンスラインのここが抜かれそうとか、裏が空いていてここにキックを蹴られそうとかが、なんとなく分かってきたような気がします。
—— 昔と比べて、ポジショニングが変わってきましたか?
そうですね。遥かに良くなっていると思います。フーリーが来たことでディフェンスのポジショニングを変えたり、グラウンドを広く見られるようになったと感じています。そこが成長できた要因としては、プレーに余裕が出てきたことがあると思います。
◆いかに試合の流れを作るか
—— パスを出す時には、相手に合わせるんですか?それとも自分のパスに合わせてくれというやり方ですか?
昔は自分の出すパスのところまで来いと思っていましたね。けれど、ボールをキャッチすることが得意な人もいれば、不得意な人もいるので、相手に合わせることも大事だと考えるようになりました。僕がパスを出すところまでは来て欲しいと思うんですが、ボールを持った選手が活きるようなパスを出すことを心掛けています。
—— 今シーズンは先発で出場していて、試合を作るところも大切になっていると思うんですが、そこは昨シーズンと変わりましたか?
試合中に良い時もあれば悪い時もあるので、悪い時にいかに点を獲られないか、そして良い時にいかに点を獲るかを考えてプレーするようにしています。
—— 今シーズンの試合を見ていると、スロースターターのように感じますが、スタートダッシュを決めることは難しいんですか?
例えば、夏の終わりから秋口までは汗でボールが滑るとか、雨でボールが滑るとかを考えて、ちゃんとボールをキャッチしてから攻めることを考えていました。ただ、今シーズンは確かにスロースターターな試合が目立つので、そこが課題でもあると思います。
—— その他に、今シーズン気をつけていることはありますか?
一番はやはり試合のコントロールですね。リザーブで出場する時は、だいたい試合の流れが決まっていて、勝っている時は点差を維持させたり、更に広げることを考えますし、負けている時はどんどんボールを動かすことを考えながらプレーできますが、今シーズンは最初から試合に出ているので、いかに試合の流れを作るかを考えています。 80分間速いプレーはできないと思うので、緩急をつけて、速いプレーとコントロールするプレーの両方を考えながらやっています。
◆ナイス、真壁!
—— 今シーズンは接戦が多くて、1つのミスで勝敗が決まるような試合が続いていますが、あのような試合では、どういうことを考えてプレーしているんですか?
まずは勝つことですね。その中で、トライが獲れそうもなかったら、ショットで3点を積み上げていくとか、逆にショットが安定していない試合であれば、トライを狙いにいきます。もちろん試合序盤であれば、トライを狙いにいきますし、その時の状況でショットを狙う時もあります。 試合終盤の残り時間5分で、点差が3点や4点ある場合は、先ずはショットで追いつかれない点差まで広げることを考えて、その次にトライとコンバージョンゴールが決まっても追いつかれない点差まで広げることを考えます。
—— セカンドステージ初戦のヤマハ戦では、4点リードしていて残り3分でゴール前まで攻められましたね
あの時の状況であれば、どう守るかになりますね。ヤマハのスコアの主なパターンが、五郎さん(五郎丸歩)のキックになるので、まずはペナルティーをしないことと、4点差以上離すことを考えていました。あそこでトライを獲られれば逆転される状況だったので、まずはしっかりと守ることを考えましたね。
—— チームが一体となって守らなければいけないと思いますが、そこのコントロールはどのようにしているんですか?
雨が降っていた影響で、外側でのプレーが極端に少なかったと思います。それにゴール前ということで、ラックからのピック&ゴーが凄く多かったので、そこをしっかり守ることを円陣で意思統一しました。だから、みんながしっかりと意識することができて、勝つことができたんだと思います。真壁さんがボールを奪い返してくれたので、「ナイス、真壁!」と思いながらキックしました(笑)。
—— 接戦で勝つことができている要因は何だと思いますか?
まずはポイントを獲るところでしっかりと獲れていることと、獲られたくないところで止められていることがあると思います。けれど、自分たちがトライを獲られている時間帯が、前半や後半が始まって早い時間帯になるので、それをいかに無くすかという部分を修正しているところです。
—— 今シーズンはキックを使うことも多くなっていますね
ここ4~5年はずっとボールを繋いでプレーしてきましたが、そうなると対戦相手の中には、ディフェンスラインの後ろに1人しか置かずに守ることもあるんです。そこでキックを使って、相手のウイングを下げてから攻める方法を取るようになっています。
—— これまでみたいにフィットネスでのアドバンテージはなくなってきていますか?
どのチームもフィットネスに力を入れて強化しているので、それで差がなくなってきていると思います。最近は相手が疲れる時間帯が遅くなっていると感じますね。あと、今年に限って言うと、日本代表のスクラムなどセットプレーが良かったので、その影響かは分かりませんが、スクラムやラインアウトに力を入れるチームも増えていると思います。
◆フォワードは朝5時半とか6時から
—— 今年の日本代表でも活躍されたと思いますが、日本代表も変わってきているんですか?
凄く力がついたと思います。まずはフィジカルとセットピースが強くなったと思います。スクラムも強くなりましたし、ラインアウトも獲得率が上がっています。日本人は体格的に海外の選手と比べると小さいので、昔はブレイクダウンなどフィジカルのバトルで相手に一歩前に出られたり、ボールを持って当たっても一歩前に出られなかったりする場面が多かったんですが、そこが少しずつ改善してきていると思います。
—— そこを改善するのは大変なことですよね
日本代表の練習では、フォワードは朝5時半とか6時くらいからウエイトトレーニングが始まって、その後にご飯を食べて少し休んで、またウエイトトレーニングをするという流れなので、身体を作る時間が凄く多くなっています。 だから、日本代表に選ばれている選手は、身体がとても大きくなっていると思います。その中で、身体が大きくなったからといって、スピードを落とすことはできないので、バックスで言えば、スピードトレーニングも行っています。
—— 日本代表で行ったトレーニング方法を、選手が各チームに持ち帰っているんですか?
たぶん良いところを持ち帰っているんだと思います。だからトップリーグのレベルも年々上がっているんだと思います。
◆まだまだ良くなる
—— 毎年、シーズン中にターニングポイントの試合があって、チームの状態が一気に上がることがありましたが、今シーズンは?
2ステージ制になって、ファーストステージの上位4チーム同士がセカンドステージを戦っているので、拮抗した試合が続くと思います。だから、点差が離れる試合は、ほぼ無いと思います。ただし、拮抗した試合が続いている中でも、まだ1つしか負けていない(セカンドステージ第1節終了時点)ので、1つずつ勝てるようにしていくだけです。
—— 今シーズンから少しやり方を変えていると思うんですが、チームの完成度としてはどのくらいですか?
するというところは、チームの一番の土台になっていて、チーム全員が意識していると思いますが、今シーズンからヘッドコーチとフォワードコーチが新しくなって、少しずつやり方が変わっている中で、ファーストステージの途中くらいから良い方向に向かい始めたと思います。
—— 実際にプレーをしている選手としては、チームが変わり始めていると感じるところはどこですか?
今までは、例えば僕が1年目の時は、エディーさんがいてチームがあるというような感じがしていましたが、逆に言えば選手自身がエディーさんに甘えていたかもしれないので、今は選手自身がチームを引っ張らなければいけない時期なんだと思います。
—— そのためには選手間の意思の統一が大事になりますね
今シーズンから、週の始めに1週間のトレーニング内容がアナウンスされるんですが、それに対して監督やヘッドコーチから選手側の意見を求められ、各パートのリーダーたちが選手の意見を吸い上げて話し合い、そこで話し合った内容を伝えるということをやっています。 選手の意見がコーチ陣に伝わるようになっていますし、コーチ陣の意見も選手1人1人にしっかりと伝わるようになっているので、良いコミュニケーションが取れていると思います。
—— 今シーズンこれからの展望は?
勝ち方を知っている選手もいますし、勢いがある選手もいるので、それがミックスされて良いチームになっていくと思います。手応えとしては、伸びしろがたくさんあると感じているので、まだまだ良くなると思っています。 セカンドステージの目標としては、まずはトップ4に入ることで、そこが大変なので、その目標をしっかりとクリアすることが大事になります。その後は、どれだけ勝ちを積み上げられるかになります。
—— 若手が遠慮するような雰囲気はありませんか?
剛さん(有賀)の世代がベテラン世代になってきて、一方的に意見を伝えるのではなくて、若手から意見を吸い上げるようになってきていると思います。
—— その中で、日和佐選手の役割は何だと考えていますか?
中堅の世代になるので、間を繋げることを意識しています。若手選手の尻を叩かなければいけないと思いますし、ベテラン選手の意見を伝える役目もあると思うので、パイプ役になれればと思っています。
—— 日本代表でも中堅ですよね
日本代表でも各パートでリーダーが決められていて、リーダー同士でどうチームを作っていくかという話し合いをしています。
◆まずはベスト4
—— 試合では日和佐選手のどういうところをファンには見てもらいたいですか?
やはり速いテンポで試合を動かすところを見てもらいたいですね。ただ、テンポが遅いからといって悪いというわけではなくて、セカンドステージ第1節のヤマハ戦で言えば、あの状況では速いテンポのラグビーは難しくなるので、ああいうラグビーになる時もあるんですが、できる状況の時には速くて面白いラグビーを見せられるようにしたいと思います。
—— 見ていて日和佐選手の調子が良いと分かるポイントは?
僕がイメージするトライは、ウイングがトライをすることです。ウイングが気持ちよく走ってトライを獲ることが、僕が一番嬉しいトライで、そのためには速いラグビーをして良い形を作ることが必要になります。理想としてはウイングがボールを持った瞬間にトライと分かるような形にすることですね。そういう形でラグビーができていれば、調子が良いと分かると思います。
—— 改めて、これからの目標は?
やはりまずはベスト4に入ることですね。どの試合でも負けたくはないので、1試合1試合勝ちを積み上げていってベスト4に入り、優勝できる権利をもらうことが大事になります。そして、それからファイナルラグビーでの戦い方になります。
正直、リーグ戦とファイナルラグビーでの戦い方は違います。リーグ戦で勝つことに越したことはないのですが、ファイナルラグビーではいかに自分たちのプレーをするかになります。感覚としては、このセカンドステージはファイナルに向けた準備期間だと思っています。 この準備期間でどうファイナルラグビーにピークを持っていくかが優勝するためには大切で、今のチーム状態は右肩上がりなので、上手くピークを持っていきたいと思っています。
—— 選手としての中期的な目標はありますか?
まずは来年のワールドカップに出場することですね。その後は、海外に挑戦していきたいと思っていますし、日本がスーパーラグビーに参戦できるので、その力になれればと思っています。
—— スーパーラグビーのハイランダーズとパナソニックでプレーする田中史朗選手の活躍は刺激になっていますか?
そうですね。日本人でも活躍できるんだと思いますし、他のポジションはどうしても体格の影響が大きいと思うので、スクラムハーフというポジションは日本人でも活躍できるポジションだと思います。僕も海外でプレーするチャンスがあれば、挑戦してみたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]