2014年11月19日
#404 辻本 雄起 『エナジーの部分で負けてはいけない』
若手とベテランのちょうど中間にいる辻本雄起選手。"気は優しくて力持ち"の典型的ラガーマンである辻本選手に、その内に秘めたる想いを久々のインタビューで披露してもらいました。
◆チームからの信頼を得なければいけない
—— サンゴリアスでのキャップはいくつになりましたか?
今年5年目で、8キャップになりました。1、2年目の時は出場がなくて、3年目の時に初キャップを取って、4年目の時には8試合くらいでリザーブには入りましたが、出場したのは3試合くらいでした。今年は、開幕3試合でメンバーに選んでもらいましたが、それ以降はメンバーから外れています。
—— 現時点での状況は、予想していた状況と違いはありますか?
もともと厳しい環境の中でやっていくことは分かっていたことなので、その中でどれだけチャレンジ出来るかということを考えて取り組んできました。多かれ少なかれ成長は出来ていると思いますし、練習試合などでは良いパフォーマンスも出すことは出来ていると思うんですが、トップリーグでプレーするためには、更にチームからの信頼を得なければいけないと思います。 グラウンドに立ちたいという想いはありますし、コンディションが悪くないのに試合に出られないというのは悔しいです。
—— あまり感情を表に出さないタイプですか?
思っていることを上手く表現できるタイプではないかもしれません。良いように捉えられることもあれば、損することもあるんですが、自分からアピールするタイプではないですね。ポジションがフォワードなので内に秘める闘志も大事だと思いますし、元気がないフォワードでは、試合が成り立たなくなってしまうとも思います。
チームから求められていることを自分の中にしっかりと落とし込んで、それをフォワードとしてエナジーに変えて、グラウンドで出さなければいけないと思います。その部分を大事にしながらやっていこうと考えています。フォワードとしてグラウンドの上では、個人としてもチームとしても絶対にエナジーの部分では負けてはいけないことだと思います。グラウンドの外では冷静に、そして自分には何が必要で、チームからは何を求められているのかを考えながら取り組んでいこうと思っています。
◆もっと違う世界
—— これまでの4年間で成長したところは?
精神的に成長したと思われているか分かりませんが(笑)、チームに入った最初の頃は、メンタル的に厳しくなることも多々ありました。それを経験出来たことは、自分にとってポジティブなことだと捉えています。 フィジカル的にはレベルアップが出来ていると思います。今のラグビーはS&C(ストレングス&コンディショニング)の部分が重要になってきていて、フィジカルの部分が強く求められていると思います。日本人選手が世界と戦うためにはフィジカルの部分がとても重要で、どのチームもフィジカルに特化して強化をしていると思います。僕もフィジカルの部分で成長は出来ていますが、そこにゴールはなくて、フィジカルのレベルアップは永遠の課題だと思っています。
—— フィジカルが年々向上していると実感は出来ていますか?
見た目にも身体が大きくなってきていると思いますし、プレーに関してもフィジカルを活かしたプレーが出来るようになってきていると感じています。
—— フィットネスについてはどうですか?
チームに入った頃は、フィットネスには自信がありましたが、フィジカルが弱かったんです。だから、フィジカル強化に特化しながら、フィットネスも更に上げていけるようにトレーニングをしてきました。そこはラグビー選手である以上、どの選手も目指しているところだと思います。個人的には、年々S&Cの部分は良くなってきていると感じます。
—— テクニックについては成長出来ていますか?
僕のポジションはフィジカルにプレーすることが必要で、ボールキャリーのコンタクトや強いタックル、ブレイクダウンでの仕事量などが、常に求められていることだと思います。仕事量の部分では、アンディ(フレンド/ヘッドコーチ)やベイクス(マーク・ベークウェル/フォワードコーチ)からも評価してもらっているので、あとはセットプレーでの理解度を上げてチームをリード出来るようになれれば、もっと違う世界が見えるような気がしています。
—— ラグビーの見方をもっと養わなければいけないということですか?
サントリーのアタッキング・ラグビーをするためには、ボールをキープし続けなければいけないので、セットプレーの重要度はとても高いんです。直弥さん(大久保/監督)からは「ラインアウトを構成出来るように」とずっと言われているので、今シーズンの春からは太一さん(田原)やシノさん(篠塚)から指導してもらい、春シーズンの練習試合ではコーラーをやらせてもらったりしました。
そこで上手く出来れば、チームから更なる信頼を得ることが出来て、スタメンとして出場させてもらうこともあったと思うんですが、僕がコーラーをしている試合ではラインアウトの獲得率が良くなかったりしたので、まだスタメンとしてメンバーに選んでもらえていないんだと思います。
◆瞬時に判断する
—— 今シーズンのラインアウトでは、ミスが目立つように感じます
データ上はあまり獲得率が高くありませんが、今シーズンのラインアウトはシンプルにしていて、テンポやリズムを重視しています。ですが、これまではジャンパーがある程度決まっていたんですが、今シーズンは誰でも飛べるようにしているので、シンプルなんですが、全員が高いクオリティーでやり切れれば、獲得率は上がってくると思います。今の段階では、目に見えた数字では悪いかもしれませんが、良い方向に進んでいると思うので、あとは細かいところを上げていければと思っています。
—— 個人的に更に成長するためには、どこを強化していこうと考えていますか?
仕事量については評価してもらっているところだと思うので、あとはセットプレーを統率出来るようになれれば、更にレベルアップしていけると思っています。もちろん自分のスキルを更に磨いていかなければいけませんが、チームのラインアウト獲得率を上げて、良いアタックに繋げるためにはどうしなければいけないかを考えていかなければいけないと思っています。
—— ラインアウトのコーラーとして、大切なことは何だと思いますか?
相手に良いジャンパーがいたり、2mを超える外国人選手がいたりした時に、瞬時にどこに立っているかを見極め、そしてサポートプレーヤーの体の向きはどうかを確認して判断しなければいけません。瞬時に判断することは1人では限界がありますが、ラインアウトを構成する上では、相手チームのキーになる選手を外したり、タイミングをずらしたりして、ボールを入れてもらうことを早く判断しなければいけないと思います。
—— 昨シーズンまではジョージ・スミス選手、今シーズンはスカルク・バーガー選手と、世界的な選手が同じチームにいますが、参考になることはどういうところですか?
ボールのもらい方や重要な場面での発言などは、よくチームのことを考えて行っていると思います。あれだけ実績がある選手なので、当たり前のことになっていると思うんですが、「こういう場面ではこういうことを言うとチームがまとめるのか」という部分は参考になります。 ボールのもらい方については、ランニングコースであったり、大事な場面での一瞬のスピードであったり、おとりのプレーなどが参考になります。
◆試合数と時間にもこだわりたい
—— セカンドステージやプレーオフ、日本選手権に向けての目標は?
個人的な目標としては、試合に出て結果を出すことです。もちろん自分のことだけを考えてればいい訳ではなくて、チームが良くなるために自分は何をするべきかを考えて、その上でチームプレーをしなければいけないと思います。そして、チームプレーをしながら、自分がチームから求められているプレーをしっかりと出せれば、おのずとチャンスは巡ってくると思っています。言葉で伝えることも大事だとは思うんですが、行動が伴っていなければダメだと思います。まずは行動で示して、周りをリードしていけるようになりたいと思います。
あと、それぞれの年のキャップ数が、3年目のシーズンは2キャップ、4年目のシーズンは3キャップ、そして今シーズンは現時点で3キャップなんですが、4年目の3キャップでは出場時間を合わせても24分くらいでした。今シーズンの3キャップでは70分くらいの出場時間しかありません。セカンドステージでは出場試合数と出場時間にもこだわりたいと思います。
—— 辻本選手が描いている理想の選手像と比較して、現在の状態はどのくらいですか?
まだまだです。試合にもあまり出られていませんし、実績も残せていないので、まだ半分にも達していません。
—— まだ楽しむ余裕がないという状況ですか?
もう5年目ですし、ただガムシャラに取り組むんじゃなくて、例えば、ミーティングで出たテーマに対して、どう取り組んでいくかを考えて実行していくことに楽しみを感じています。楽しみがなければ成長もないと思うので、嫌々取り組んでいる選手はいないと思います。「ラグビーが好き」「ラグビーが楽しい」という想いがあるから、チームが1つになって取り組めているんだと思います。
◆セカンドステージはフィジカルな戦い
—— 今シーズンのファーストステージを振り返ると、若手が多く出場していること、接戦で勝てていること、そしてペナルティー数の減少などが目立ちます。振り返ってみてどう感じていますか?
昨シーズンのプレーオフファイナルでは、ペナルティーゴールだけで24点取られています。自陣であれだけペナルティーを犯してしまっては勝てないという反省が活きていると思います。今シーズンからアンディがチームに来て、ペナルティーにランク付けをしました。チームとしてもペナルティーを犯した選手に対しては厳しく指導をしてきていて、セカンドステージでは強い相手とばかり戦うことになるので、ペナルティーの数が重要になってくると思います。
若い選手が試合に出ていることに関しては、選手がハードワークしてきた結果だと思います。そこで僕自身があまり試合に出られていないのは悔しいんですが、色々な状況があったりポジションでのコンビネーションがあったりするので、これからもハードワークを続けて、常に高いパフォーマンスを出せるようにしていかなければいけないと思います。 若い選手が試合に出ることは、チームにとっては良いことだと思います。若い選手全員が「いつまでもシニア選手に頼ってはいられない」と思っているので、それが試合メンバーにも表れていると思います。
ファーストステージでは接戦が多かったんですが、トップリーグでは楽な試合はなくて、「絶対に負けられない」という想いが勝ることが出来て、結果に繋がったんだと思います。「絶対に負けられない」という強い気持ちと、「最後までサントリーラグビーをやりきる」という意思を、チーム全員が持っているので、ファーストステージのような結果になったんだと思います。
—— セカンドステージでは、更にタイトな試合が続きますが、そこでの辻本選手の役割とは?
セカンドステージはフィジカルな戦いが続きますし、チームとしてもウインドウマンスをフィジカルに重点を置いて取り組んでいます。前に出られなかったり、ボールをキープ出来なかったりしたら、サントリーラグビーが出来なくなってしまうと思うので、セカンドステージに向けてフィジカルとアタッキング・ラグビーに対する理解度を、より精度を上げてやっていこうと考えています。
—— アタッキング・ラグビーの理解度については、チームとしても更に精度を上げなければいけないでよね
サントリーのアタッキング・ラグビーは、誰かに頼って出来るものではなくて、選手1人1人が各ポジションでやるべきことがあると思うので、選手個人が1%でも2%でも上げて、それが結集出来れば必ず結果がついてくると思います。
—— チームとしての結集具合はどうですか?
昨シーズンに2冠を獲れなかった状態から今シーズンがスタートして、チームとして何かを変えなければいけなくて 、新しい戦術などを取り入れてきました。それがファーストステージでは、本来やらなければいけないことや忘れかけていた部分で、若干のずれが生じていたと思います。
ファーストステージの後半からは、「サントリーラグビーはこれだ」ということをシンプルにやった結果が、試合にも表れていたと思います。点差としてはあまり離れませんでしたが、内容の部分で、サントリーラグビーが出せるようになってきたので、チームとしてやらなければいけないことが再認識出来てきたと思います。
◆新たなエッセンスが加わった
—— 5年目を迎えて、グラウンド外での役割も求められていますか?
今年はロッカーグループのリーダーをやらせてもらっていますが、選手会長の太一さんが、グラウンドに繋げるためにグラウンド外での規律をリードしてくれています。ですが、言われたことだけをやっていたのでは、実際にグラウンドでも言われたことだけをやるようになってしまうと思います。
試合では1人1人が自立して、何をやらなければいけないのかを考え行動しなければいけません。それはグラウンド外でも同じです。例えば、クラブハウスでゴミが落ちていたら拾うという当たり前のことが広がっていけば、チームは良くなると思います。
—— 昨シーズンと比べて戦術のオプションも増えていると思いますが、選手内で共通の認識を持つという部分では上手くいっていますか?
もともとあったことに新たなエッセンスが加わったという感じです。どういう選択をするのかはリーダーが決めるんですが、チームとしてやらなければいけない根本の部分を全員が分かっていれば、上手くいくと思います。シーズン最初の頃は迷いなどもあったかと思いますが、これからはどんどん良くなっていくと思います。
—— 日本の世界ランキングが6月には10位まで上がりましたが、日本のラグビーの良さはどこだと思いますか?
僕が言える立場ではありませんが、日本人の良さは、どのスポーツにおいても俊敏性と言われていると思います。身体能力の部分では、世界の選手と比べて劣ってしまうので、組織的なプレーでカバーしようとしていると思います。日本は個に対して組織で対抗しようとしているので、そこは見ていても面白いと思います。
選手全員が連動していたり、組織だった陣形を整えたり、よく走って選手1人1人が凄く動いている姿が、初めてラグビーを見た人でも分かるくらいになれれば、凄いことだと思います。そのラグビーはサントリーでも目指しているラグビーで、誰かに頼るんじゃなくて、1番から15番までの選手が与えられた役割をやり切れれば、見ている人も面白いと感じてもらえると思います。
—— 9キャップ目を獲得する試合では、どういうプレーを見てもらいたいですか?
チームから難しいプレーは求められていないので、スペースにボールを運ぶために、強いボールキャリーであったり、1mでも2mでも少しでも前にボールを運ぶことであったり、良いアタックに繋げるためにしっかりと仕事をしたいと思います。それに、ボールを取られた時は、全力でボールを獲り返す姿やラインアウトで良いボールを出して良いアタックに繋げるところなどを見て欲しいですね。見て欲しいところが多いですが(笑)、そういうところを1つ1つ見て欲しいです。
そういうプレーがトップリーグでも出せるようになれば、チームからの信頼を得られて、ずっと試合に出続けられる選手になれると思います。僕はその信頼がまだ足りないと思うので、どんな相手でも高いパフォーマンスが出せる選手になりたいですし、ならなければいけないと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]