SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年10月22日

#400 宮本 啓希 『しんどい状態の中でもう1つしんどいことが出来るかどうか』

◆若手とシニアを繋げる

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—— 第6節までは全ての試合でメンバーに選ばれていますが、今シーズンのここまでを振り返るとどうですか?

チームの中で若い選手が年々増えてきている中、僕も今年6年目で、チームの中ではちょうど真ん中くらいの年代になりました。それほど意識をしている訳ではないんですが、自然と考える時間も増えてきて、若手とシニアを繋げる位置にいたいと考えるようになりました。

—— その両者、若手選手やベテラン選手とのコミュニケーションを意識しますか?

グラウンドの中では特に意識しています。シニア選手は自発的に発することが出来るんですが、若手は受け手に回ることが多くなってしまうので、「こうしろ!」と言うんじゃなくて、「こうじゃない?」と言うようにしています。

サントリーのやりたいラグビーの形があり、その中での動きは15分の1であって、1人1人がやる動きは決まっていると思います。それに基づいて、話をするようにしています。

—— 宮本選手が若手の頃には、自分から発することは出来ましたか?

僕個人としては、昔からずっとラグビーをやってきた中で、コミュニケーションを大切にしてきたと自負しているので、自ら発することに関してはポジティブだったと思います。ただ、自分が発するだけがコミュニケーションではなくて、話を聞いて、それに対して発して、受け取るという部分が一番大切だと思うので、そこを意識しています。

—— 今の若手選手はもっと「発した方が良い」ということですか?

発した方が良いということの方が多いですね。若手は「聞け」「受け取れ」ということよりも、自分からもっと「出す」ことをやるべきだと思います。

例えば、バックスリーの選手は外にいることが多くなりますが、前にスペースがあった時に、そこで「ボールが欲しい」というコールを出せるかどうかです。サントリーの形でアタックするという中で、形を意識し過ぎてしまい、ボールを呼べなかったりすることがあります。

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—— その気持ちは分かりますか?

僕も迷ってしまっていた時期もあったんですが、今は「どこかにスペースがあれば呼ぼう」と心掛けています。ヒューイ(ピーター・ヒューワット/バックスコーチ)からも「いつもスペースを見つけろ」と言われるので、そこを意識しています。若手に伝える時は、「俺はこうやっているけど、もっと呼んでも良いんじゃない?」って話しますね。

—— そういう若手がコールを出せるようになったら嬉しいですか?

やっぱり嬉しいですね。最初は「ボールが欲しい」というコールだけが出ると思うんですが、例えば、僕がセンターにいた時にウイングから「ボールが欲しい」と言われても、「じゃあ、どういうボールが欲しいの?」って思いますよね。だから、そういう時は、「俺もスペースは見えてて、欲しいのは分かるんだけど、じゃあ、どうやって欲しいの?って思ってしまうねん」って伝えるようにしています。

そうすると、そこまでボールが運ばれてくるために、どういうサインがあって、どういう動きがあるのかを考えるようになる訳です。それを考えた上でより具体的なコールを出してくれると、クリアで分かりやすいので、凄く助かりますね。

—— より早くコールを出せるようになってくれた方が良いわけですか?

早ければ早いほど、内側にいる選手にとっては助かりますね。9番と10番はより敵に近いので、尚更そう思っていると思います。僕は12番が多いので、9番や10番に次いで、早く欲しいですし、内側に行くにつれて、早く欲しいと思っていると思います。

—— 全然コールを出せない選手もいるんですか?

全然出さない選手はいないですが、僕が言ったことで、さらにすぐにコールを出すようになってくれたら、良い方に向いてくれたと思いますね。

◆イメージすることが楽しい

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—— 「コミュニケーションを早くする」というテーマがあると思いますが、以前と比べて、普段の会話の中でも、早くなったと感じます

そう感じて頂きありがとうございます。例えば、会話をしていて、自分の思っていることだけを話していたんじゃコミュニケーションじゃないと思っています、相手の話を受け取って、自分の思っていることを話すことで会話が進んでいく訳で、その中で「この人はこの会話をどういう方向に持っていきたいのか」と考えながら話していて、それがラグビーにも繋がっていると思います。

ラグビーでは、アタックをしていて「次にどこにスペースが空くか」というイメージをしながら動けているので、スペースが出来て、イメージ通りに出来た時にコールを出せるということがあると思います。

—— イメージする力も伸びたと思いますか?

今は「イメージすることが楽しい」と感じていますね。上手くいかないこともありますけど、2つ先のフェーズまで考えてプレーするようにしています。

—— そのイメージは何パターンも考えるんですか?

基本的にはスペースがあれば行きますし、スペースがなければ、スペースを空けるための方法を考えるようにしています。そんなに難しいことを考えるわけじゃなくて、何度もアタックを繰り返していく中で、スペースが出来るか出来ないかの2パターンです。スペースが出来なければ、アタックの人数を見て、この状況で「どうスペースを空けるか」を考えています。

◆早くセット

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—— 映像などでその時のプレーを見返すことは?

練習が終わったらその日のうちに練習の映像が見られるようになっているので、その映像を見返して見て、「あの時はこう思っていたけど、映像で見たら違っていた」ということもあるので、もし次の日の練習で同じシチュエーションになったら違う方法を選んだりして、「この状況の時はこの方法が良いのか」と勉強しながら取り組んでいます。

—— 実際に同じシチュエーションになった時には、新しいアプローチの方法が描かれるんですか?

描けますし、周りからの助けもあります。周りから声が出ている時は、考える前にその声を信じてパスをする時もあります。

—— どういうことを意識したことで、今の状況があるんですか?

考えるだけじゃなくて、早くセットして、自分が行かなければいけない定位置に早く行って、状況を見ることが大事だと思います。ただ、敵がいることなので、イメージだけでは出来ないですよ。行くべき場所に早く行って、周りの状況を見ることで、初めて判断が出来ると思います。

早くセットすることは、ずっと言われてきたことで、常にコーチからも「早くセットして判断しろ」と言われていました。ただ、意識はしていたんですが、セットして周りを見ると、「そこじゃなかったな」ということがありました。

—— 早くセット出来るようになったのはなぜですか?

例えば、相手が蹴ってきて早く戻るとか、タックルされて次のフェーズで早く自分のポジションにつくとか、そういうところを意識してやることが大事だと思います。先ほど話した15分の1で、決められた仕事は絶対にあるので、そこに早くつくことが一番大事です。セット出来なかった時は、早く戻るとか、そこの意識が低かったと思います。

本当に意識することが大事だと思います。セットして前を見るんですけど、サントリーのラグビーをしながら「ここでスペースが出来るな」というイメージの中で、セットしてコールを出す大きなコミュニケーションだけじゃなくて、セットするまでに近くの人にコールを出す小さなコミュニケーションの2通りあると思っていて、その小さなコミュニケーションも大事だと気づきましたね。

◆余裕を持って出来ている

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—— いま調子はどうですか?

自分の中で凄く調子が良い時と、凄く悪い時を作ってはいけないと思っていて、パフォーマンスを一定に出せるようになることが、僕の中でのテーマでもあるので、そういった部分を考えると、自分で言うことではないんですが、今のところは余裕を持って出来ているので、悪くはないと思います。

—— 凄く調子が良いという時期をずっと続けられれば、更に良いですよね

そうなれば一番良いですけど、いま僕が大事にしている部分だけでは、そこに到達することは出来ないと思います。もっとボールを持って自分でキャリーしていけるようになっていくことが必要だと思います。

—— チャレンジはしているんですか?

ボールのもらい方とか、そういう部分を意識しています。年々、自分の中で余裕を持って出来ているという感覚になってきているので、良い状況だと思います。

—— 今シーズンは若手選手が出場することが多くなっていますが、チームとしての完成度はどうですか?

まだファーストステージで、チームのピークは2月、3月頃になってくると思います。現時点では、まだ成長段階ではあるんですが、今シーズンの初戦から比べると凄く良くなっていると思います。アタックするという意識や気持ちの部分も上がっています。

若手選手は、日本選手権3連覇の最初の優勝を知らないメンバーが多くなってきて、当時の状況を知るメンバーは僕の1つ下の代の選手くらいになってきました。そういった状況の中で、チームにもムラがあると感じたんですが、今はアタックするという状況に再度変わってきているので、良い方向に向いていると思います。

—— チームが若返っている中で、特に気をつけていることはありますか?

「普段の生活がラグビーに繋がる」と思っていて、選手会として決めた今年のテーマは、“自立する”ということです。これまでは練習でもクラブハウスの生活でも、とても良い環境を与えられています。でも昨シーズン負けたことで、「与えられることに甘えていて、自立していなかったんじゃないか」という話になったんです。

今年から太一さん(田原)が選手会長になって、今シーズンは“自立する”ということを意識できるような取り組みをやっていくことになりました。今まではクラブハウスの掃除を分担して、「風呂掃除は誰、グラウンドは誰、ウエイトルームは誰」というようにパートを決めていたんですが、今年からそれを廃止しました。

廃止することにはメリットとデメリットがあって、例えばクラブハウスにゴミが落ちていて、そこで気づかないふりをすれば、それで済むかもしれませんが、そこで拾うかどうかなんですよ。与えられる環境がなくなった状況で、自分からどうやって動くかを意識するのは、グラウンドの中と一緒だと思うんです。しんどい状況の中でも、もう1つしんどいことが出来るかどうかは、自分の意識次第じゃないですか。

それがラグビーに繋がると思います。この状況で走っていたらチャンスで、周りからもコールが出ているのに、「そこは走れへん」と諦めてしまえば、チャンスを潰すことになるんです。もしそういうプレーをしている選手がいたら、特に若手に対しては、言うようにしています。そして、言うだけじゃなくて、自分でも意識しなければいけないと思っています。

◆気づくことを増やしていきたい

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—— チームとして出来つつあるんですか?

5節の神戸製鋼戦が終わってから6節の近鉄戦の間に練習試合3試合を行いましたが、「しっかり走る」という意識がどんどん出てきています。クラブハウスの中では、昨シーズンから色々と変えていて、ゴミの捨て方もちゃんと徹底出来るようになってきていると思います。良いことは継続していきたいですけど、もっと気づくことを増やしていきたいですね。

—— 今シーズンの目標は?

チームとしては結果を出すことが大事になると思うので、2冠を獲ることですね。個人的には、しっかりと若手とシニア選手の間に入って、ラグビー面でも生活面でも、しっかりとリンク出来るようにしていきたいと思います。今は試合に出させてもらっていますが、先ほど言った凄く調子が良い状態がずっと続いて、ずっと先発で試合に出られるようにしていきたいですね。

—— チームソーシャルなどでは司会をやることが多かったと思いますが、今も担当しているんですか?

今はマイクを握ることがなくなりましたね。後継者が出てきたわけじゃなくて、たまたま僕がやっていただけだったんですけど、ナリさん(成田)も上手ですし、最近はナリさんとツジ(辻本)でやったり、ソネ(仲宗根)がやったりしていて、ソネの司会も面白いですよ。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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