SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年10月15日

#399 金井 健雄 『やりたいことは尽きない。挑戦しなければ成長もない』

金井健雄選手の安定感はどこにあるのか?その姿を見るたびに、"不動"のたたずまいは何に起因するのか?いつも考えていました。そして今回のインタビューで、意外なことに、それは"興味"と"挑戦"にあることが分かってきました。

◆何にでも興味がある

スピリッツ画像

—— 金井選手は横綱の白鵬関に似ていますが、白鵬関は今年の9月場所でも優勝して、強いですね

強いですね。優勝回数が千代の富士と並んだんですよね。

—— 嬉しいですか?

嬉しいですね。顔が似ている同士ですから(笑)。

—— 顔が似ていると性格も似ていると思いませんか?

会ったことがないので、白鵬の性格は分からないんですが(笑)、5月場所で優勝した時に、奥さんのために翌日の会見を拒否したことについては、改めて凄いと思いました。

—— 金井選手の年齢の割にどっしりしている雰囲気も、白鵬関に似ているように感じます

性格だと思いますが、何にでも興味があるので、何が起きても吸収しようとするというか、心の中では驚いていると思うんですが、「こういうこともあるんだ」と思って納得しているんだと思います。色々なことを吸収するためには、自分の性格は合っているんだと感じます。

—— 色々と興味を持つと、色々なことをやりたくなると思うんですが、今はラグビーと仕事と、大変なことを2つ抱えていて、もしそれ以外に興味を持つことがあった場合は、どうしているんですか?

今でも色々なことに興味があって、実際にやってみたいという気持ちがあるんですが、その中には優先順位があります。仕事をもっとたくさんやりたいという想いもありますし、日本でラグビーワールドカップが開催されるまでは、ラグビー第一でやっていきたいと思っています。そして、その後にどうシフトしていくかも考えているところです。

◆世界で勝つために

スピリッツ画像

—— ラグビーに対する興味は尽きませんか?

行けるところまでは行こうと思っています。これまで怪我などで出遅れた部分もあって、やっと今シーズン回復して試合にも出られるようになってきているので、もっとガツガツ行きたいと思っています。

—— ラグビーに対する新たな興味はありますか?

日本に留まらず世界の選手を見て、色々なプレーを学べますし、若手で入ってきたメンバーの勢いを感じることで、チームが勝つためにどうしなければいけないのかなど、自分がどうしていかなければいけないのか、世界で勝つためにはどうしていかなければいけないのかなどを考えると楽しいですね。

—— 日本人選手は海外の選手に比べて身体が小さいわけですが、その日本人が世界で勝つためにはどうすればいいと考えていますか?

まとまりでは良い戦いが出来ると思いますが、いま日本代表が取り組んでいるように、個々が世界に近づけるようにS&C(ストレングス&コンディショニング)を鍛えていく方法があると思います。それに加えて、チームとしてのゲームの理解度を1人1人が上げていけるようにしていかなければいけないと思います。

タイトファイブは働き蟻ではないですが、ラックにどんどん入って行けばいいという考え方もありますが、日本人は"考えられるタイトファイブ"にならないといけないと思います。

世界の選手に対して、劣っている部分はS&Cなどで追いつけると思うんですが、それに加えて違う部分で勝てる部分を作らないと自分たちの強みは出せないと思います。それが"考える"という部分で、自主的に動けるとか、状況を判断して動ける部分が大切になると思います。状況を判断して早めに動くことで、相手のスピードに負けずに始めから差がつけられますよね。そういう部分を考えています。

◆いくらでも自由に

スピリッツ画像

—— 考えることに関しては限度がないですよね

「お前らは出来ないんだから、これをやっておけ」と押しつけられがちなんですが、逆に言えば、やることをしっかりとやっていれば、いくらでも自由に出来るポジションだと思います。やることをやらずに自由にプレーしている選手は、ただ単にわがままな選手になりますが、やることをやった上で、試合の流れを見て「あの場所に入れば、相手のディフェンスが空くんじゃないか」と考え、動ける選手になれればと思っています。

—— 頭と体がちゃんとリンクしていないと出来ないプレーだと思いますが、いつぐらいからそういうプレーが出来るようになってきたと思いますか?

今でも指摘される時があるので、まずは最低限のプレーをやらなければいけないと感じています。そういうプレーがやりたいと思いながらも、まだ現実的にはまだ出来ているとは言えないかもしれません。

—— いつ頃までには出来るようになりたいと考えていますか?

すぐにでも出来るようになりたいので、日ごろからチャレンジはしているんですが、それがしっかりと結果に出ていないですね。ただ、常に挑戦はしていきたいと思います。

タイトファイブの選手だと、そういう挑戦をしなかったり、挑戦しても「お前らはそういうことをするな」と言われがちなんですが(笑)、僕は挑戦することが重要だと思っていて、挑戦しなければ成長もないと思います。

—— そういう考え方は学生時代から持っていたんですか?

チームの中には、細かな戦術が決まっていなかったり、キック主体だと自分がどこにいればいいのかが分からなかったりするチームもあるんです。学生時代は多くのチームで、ハーフ団がその時その時で決めていて、戦術ってあまり決まっていなかったりして、色々なところにいても良いんです。ただ、サントリーの場合は、どこに誰が行くということが決まっていて、誰が試合に出てもサントリーのラグビーが出来るように取り組んでいます。

そのラグビーでも、精度の問題はあると思いますが、昨シーズンは勝てませんでした。これまでのラグビーに加えて、"プラスα"の部分を加えていかなければいけません。その"プラスα"が、選手1人1人が考えて動けることだと思っています。

—— かなり高度なラグビーになってきているんですね

そうですね。だから、学生の頃には、そういう考え方はありませんでした。

◆自由がないラグビーは面白くない

スピリッツ画像

—— 考える選手が多くなっていますか?

ベテラン選手は凄く考えていると思います。ハーフ団のコミュニケーションや判断に加えて、他の選手が「ここが空いている」とか「ここが行ける」という、ポジティブな主張をしっかりと伝達出来るチームが良いチームだと思います。

—— そういう選手が多くなってきたのは、いつぐらいからですか?

もともと自分の中では意識していましたが、今のサントリーのスタイルになって、昨シーズン負けたことは何かが足りなかったからだと思うので、意識的に考えるようになっていると思います。

—— 考える面白さは実感していたんですか?

縛られるラグビーというか、自由がないラグビーは面白くないと思うので、戦術の中で、アクセントになるようにプレーを仕掛けていければと考えています。

—— 自由がある大切さを感じるようになったのはいつ頃からですか?

大学時代か社会人1年目くらいから、もともと背も高くないですし、身体能力が高いわけでもないので、どこかで他の選手との違いを出さなければいけないと思っていました。スピードがなければ他の選手よりも先に動き出さなければいけませんし、手の届かないところに行きたいとか、「そこにいてくれて助かったよ」と思われるようになりたいと、常日頃から考えています。

◆嗅覚を持つために

スピリッツ画像

—— 現時点で、どれくらいの完成度ですか?

身体の状態も影響しますが、まだ2~3割程度だと思います。まだまだやることはたくさんありますし、昨シーズンまでチームにいたジョージ・スミスは、良いところに入っていける選手だったと思います。ジョージだから出来るという部分もあるかもしれませんが、その嗅覚を持つためには、チャレンジしていかなければいけないと思うので、「ジョージは凄いね」と思うだけじゃなくて、「自分たちももっと出来ることがあるんじゃないか」と思っています。

1stステージの神戸製鋼戦で、村田大志が外を抜けた時に、スカルク・バーガーはいち早くサポートに入ってきたんです。あのプレーは、大志が抜けることを分かっていて、他の選手よりも早く動き出したことで、しっかりとサポートに入れていたんだと思います。結果的にそのプレーではトライになりませんでしたが、もしディフェンスが1人しかいなければ、スカルクにパスをしてトライに繋がっていたかもしれませんよね。

昨シーズンが終わった後にニュージーランドに短期留学をさせてもらったので何となく分かるんですが、海外の選手は自分が思ったプレーをどんどんやるという感じで、ゴール前に行くとどんどん自分で攻めるので、ほぼパスが回ってきません(笑)。日本人選手は逆に、個人が強くないので譲り合うことがあるかもしれません。だから、個性を出す部分と嗅覚の部分は、どんどん試していかないと、成長していかないと思っています。

—— 留学はどのくらい行っていたんですか?

今年の3月くらいから2か月ほど、ニュージーランドのオークランドに行きました。

—— 留学中にも試合に出ていたんですか?

地元のクラブチームで6~7試合くらいに出場しました。良い経験が出来ました。

—— 他にサンゴリアスから行った選手はいましたか?

僕1人だけでした。向うにも日本人の方はいたんですが、ほぼ外国人の方たちとしか接しませんでした。

◆自分の役目をしっかりと考える

スピリッツ画像

—— 今シーズンの開幕戦ではスタメン出場しましたが、第5節までを終えて、他はリザーブでの出場です。この状況についてはどう考えていますか?

昨シーズンもスタメンで使ってもらっていたんですが、怪我などでチームから離れなければいけない状況が多かったんです。今シーズンに関しては、心身ともに良い感じに来ています(笑)。リザーブが良いというわけではないんですが、年齢的にもベテランに入ってくると思うので、後半から出場してしっかりとスクラムを決めて勝利する、という役目もあると思います。

スタメンで出場する場合は、しっかりと試合を組み立てる一員になりたいと思っています。スタメンかリザーブに関わらず、与えられたところでしっかりと仕事をすることをチームから求められていると思うので、例えメンバー外であっても、腐るわけではありません。

—— その安定感はどこから来ているんですか?

それは自分の役目をしっかりと考えることだと思います。

—— 調子自体はどうですか?

良いと思います。試合に出たら、活躍できると思っています。

—— 今シーズンで成長したところはどこですか?

留学して一度チームを離れたり、外からチームを見たり、今シーズンから新しいコーチがチームに入って、チームとしてどういうラグビーをするのかを模索しているところを見ることなどが初めての経験で、与えられる立場から見ることが出来る立場や年齢になったので、ちゃんとチームに加担出来る存在になれたような気がします。

—— リーダーシップを取れる立場になってきたんですね

チームの中でリーダーの役割を与えられているわけではないんですが、みんながリーダーシップを取れるチームが良いチームだと思うので、リーダーの役割がなかったとしても言うべきことは言うことが必要だと思います。

—— やりたいプレーは出来ていますか?

今のところ程々には出来ていますが、やりたいことは尽きないですよね。プロップなんで、憧れるプレーもあります(笑)。ただ、プロップにはプロップにしか出来ないプレーもあるので、何度も言いますが、プロップとしての最低限の役割を果たしながら、"プラスα"の部分で凄いと言われるようなプレーをしていきたいですね。

◆絶対に勝ち取らなければいけないシーズン

スピリッツ画像

—— 今のチームの状況はどうですか?

1stステージ第5節までの状況は、手探りの状態が続いてしまいましたが、練習試合のホンダ戦と帝京大学戦では良い形が出来ていたので、選手が自主性を持ってやっていかなければいけないと思っています。チームが負けたことを誰かのせいにしても負けは負けで、今シーズンも負けて終わってしまうと、サントリーは"少し強いチーム"止まりになってしまうと思います。そして、いつの間にか勝ち方を忘れて、中堅チームになっていき、最後には落ち崩れていってしまうと思っています。

だから、今シーズンに関しては、誰のせいにするわけでもなく、絶対に勝ち取らなければいけないシーズンなんです。選手自身が考えて、それをぶつけていき、選手全員のベクトルを同じ方向に向けていかなければいけないと思っています。

—— 選手全体として、そういう考え方が広がっているんですか?

選手は危機感を持っていますね。どこのチームもギリギリの状態で、若手とベテランとの融合など、そういう部分を上手くしていくためには、そのチームにいる選手がいかに自分たち自身で協力し合えるかになってくると思います。

サントリーも今シーズンの最初の頃は、責任の押し付け合いじゃないですが、「フォワードがこのプレーをしていない」とか「バックスがゲインしていない」とか、どっちが悪いという考え方になりがちだったんですが、結局は選手同士が助け合って、自分たちでプラスの方向に持っていかなければいけないんです。

—— 2ndステージに向けて、更にチームの状況は良くなりそうですか?

良くなっていく予感はしているんですが、あとはどういうラグビーをしていくかという考えを、選手だけじゃなく、コーチやスタッフも含めて、ひとつにまとまっていけばいいと思います。ホンダ戦と帝京大学戦はサントリーラグビーが出来ていますし、それがトップチームになれば身体能力も上がるので、更に速い展開が出来ると思います。

◆自分が良い選手になった時に

スピリッツ画像

—— 日本代表は意識していますか?

意識はしているんですが、出遅れた部分があったので、まずは自分自身が良いプレーをすることが先だと思っています。エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)は色々なところを見ていて、今の日本代表に選ばれている選手は、そういう評価の元に選ばれていると思うので、チームが勝つことや自分自身が成長することが必要になると思っています。

来年2015年にはワールドカップがありますが、「今年のうちには日本代表に選ばれなければいけない」という焦りは特になくて、2年後だろうが5年後だろうが、自分が良い選手になった時に日本代表に選ばれればいいなと思っています。

—— 留学してみて、これまでやってきたことや日本のラグビーが正しい方向に進んでいると感じることはありましたか?

外から見ると、良い部分と悪い部分が見えますね。海外ではその選手の判断でプレーしていることがありますが、それに比べて日本は戦術にこだわりすぎているように感じます。あと、身体の作りが、海外の選手はもともと大きい身体を絞って動けるようにしていますが、日本人は身体を大きくしながら絞らなければいけないので、そういう中でいかに身体を作れるかだと思います。

—— 改めて、今シーズンの目標は?

トロフィーを1つでも獲ることですね。サントリーがまた上向きに戻り、歴史に名を刻めるようなチームになるためには、まずは結果にこだわらないといけないと思います。そのために、自分としてはチームが勝つために、ベテランとしての役割を担っていかなければいけないと思います。

大事なセットプレーの場面などでは、チーム全体に意識づける働きであったり、あと最近は「エナジー」という言葉をよく使っているんですが、エナジーを奮い立たせられるように叫び続けています(笑)。

—— ファンにはどういうプレーを見てほしいですか?

プロップの仕事はあまり目立たないことが多いんですが、スクラムで押すところや良いボールを出すところなど、プロップとしての最低限の仕事をしているところを見てほしいですね。そして、自由なプレーのところでは、加点枠として捉えてもらいたいですね(笑)。ただ、最低限の仕事が出来ていなければ、マイナス査定をしてください。

—— ファイナルラグビーではスタメンで出場したいですか?

ファイナルラグビーではスタメンで出場できるようにアピールはしていきますが、今はチームが勝つことを優先しているので、スタメンかどうかはそこまでこだわりません。スタメンで出場していてもベスト4止まりという結果よりも、チームが勝つためにはどこの立場でも仕事をします。勝たなければ何も評価されないですし、チームが評価されなければ、個人も評価されないので、そこを考えてやっていきたいです。

あと、僕は昨シーズン、プレー出来ていませんでしたが、ベテランが若手に「このラグビーをしたら勝てる」ということを教えてあげて、それが結果に繋がっていくと、プラスのサイクルになっていくと思います。そういう意味でも、今シーズンは本当に大事な年だと思います。そして、誰に何を言われようと、言うべきことは言います。悪い時に責任を押し付け合うのではなく、みんなで作り上げていきたいです。

スピリッツ画像 スピリッツ画像

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ