2014年9月17日
#395 スカルク バーガー 『日本の中で良い選手になろうと努力しています』
南アフリカの大物スカルク・バーガー選手。第2節、第3節と連続して「マン・オブ・ザ・マッチ」を獲得し、期待通りの活躍を見せています。そのバーガー選手に迫る初インタビューです。
◆ボールキャリアーにとって大きなチャレンジ
—— 初スタメンとなった第2節トヨタ自動車戦でマン・オブ・ザ・マッチを獲得しましたね
良いスタートが切れました。今はトップリーグでプレーしているので、これまでとは違うスタイル、そしてサンゴリアスのカルチャーを勉強しているところですが、上手く適応出来ていると思います。もちろんこれから向上していかなければいけないところもあります。
—— 南アフリカと日本とでは、スタイルはかなり違いますか?
かなり違います。僕としてはフィジカルの部分でどう競り合わなければいけないかという部分が変わってきます。スーパーラグビーでは全体的にレベルも高く、その中でも総合的にフィジカルでなければいけません。日本はそのスタイルとは違います。トップリーグの試合では、ふり幅が大きくて、アタックからディフェンスへの切り替えが速いですね。それに日本の方がフィットネスはタフだと思います。
あと日本のディフェンスは凄く低いです。それに対応するために新たなスキルを身につけて、中を抜けていくスタイルに変えなければいけないと思っています。スタイルを変えるということは簡単なことではないので、新たなチャレンジだと思っています。これまでのチャレンジよりも難しいチャレンジになります。
—— 低いタックルは苦手ですか?
体が大きいからかもしれません。僕がタックルをする場合、体が大きいので相手の上の方にタックルをしてしまうことが多くなると思います。ストーマーズ(スーパーラグビーに所属する南アフリカのチーム)でプレーした時もフォワードのタックルは80%くらいの確率でボールに向かって行くようなタックルです。日本ではまったく逆のような感じです。ボールキャリアーとしてボールを持っていく選手にとっては大きなチャレンジです。
南半球のラグビーはボールに当たっていくラグビーで、日本とはスタイルが違うラグビーになります。なので、ボールキャリアーとしては肩を相手に向けて勢いをつけて抜けていくことが多いんですが、それを日本でやれば簡単に足をすくわれてしまいます。タックルをされてオフロードでパスをすることがあるかもしれませんが、パスを成功させることが難しくなりますね。
—— 日本でのラグビーに対応出来れば、更にレベルアップ出来そうですね
まったく新しいことなので、学んでいくことが大事です。他の選手を見て、僕はどうやって走ればいいかなどを学んでいければと思っています。そうしていくことで、低いタックルに対してどう対応していくかが、更に分かっていけると思います。
—— 自信はありますか?
あります。プレースタイルも大事ですが、色々なことを見て、対応していくことが大事だと思います。
◆日本のラグビーは速くてタフさがある
—— 同じ南アフリカ代表のフーリー・デュプレア選手がチームにいますが、サントリーに入る前に何か話は聞いていましたか?
フーリーは仲の良い友達でもあり、「日本でプレーした方が良い」と助言をくれた仲間の1人でもあります。彼はトップリーグでも活躍し、日本に貢献している選手の1人だと思います。実際にサントリーに入ってみて、フーリーからもらったアドバイス通りのチームでした。日本のラグビーは速くて、南アフリカとは違うタフさがあるということです。
—— 海外のスーパースターが、いま日本のチームに加入することが多くなっています。日本のラグビーの認知度が海外でも高くなってきているんですか?
少し前までは、南アフリカの選手が日本に来ることはあまり興味がなかったかもしれません。けれど、今ではフーリーやジャック・フーリー(神戸製鋼)、アンドリース・ベッカー(神戸製鋼)がいま日本でプレーしていて、そういう時期なんだと思います。
南アフリカのハードワークすることや規律を守るということは、日本のラグビーに合っていると思います。そして、体力的な部分のフィジカルを持っている選手が多くて、南アフリカの選手にとっては、日本は良い場所だと思います。
—— 海外のチームでプレーすることは初めてだと思いますが、どうして海外のチームでチャレンジしようと思ったんですか?
それは難しい質問ですね。僕の中で、海外でプレーするという選択肢が出てきました。ヨーロッパでプレーする選択もありましたが、そういう時にフーリーと話をしたんです。フーリーは日本でプレーすることを勧めてくれ、長い時間悩みましたが、今は日本の文化やこれまで経験したことがないことを経験することが出来て、凄く楽しんでいます。良い決断をしたと思っています。
—— フーリー・デュプレア選手が勧めた最大のポイントは?
1つ目は生活が楽しいということ、2つ目は、南アフリカにいてスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)などに選ばれ有名になると、プライバシーが保たれることが難しいということです。ラグビーのフィールドは日本でも南アフリカでも変わらないですし、サンゴリアスのロッカーで感じることは、スプリングボクスで感じることと、ほとんど変わりません。それに日本にいると、家族と過ごす時間を長く確保することが出来ます。
◆同じような道を辿ってきた父
—— 家族はみんな日本に来たんですか?
そうです。妻と子供2人で暮らしています。
—— 聞いた話では、子供2人のうち1人は、自身と同じ“スカルク・バーガー”と名付けたそうですね
そうです。更に、僕の父親も“スカルク・バーガー”です。父はスプリングボクスでもプレーしていました。それぞれミドルネームが違っていて、5世代に渡って、“スカルク・バーガー”です。フーリー・デュプレアも、子供に同じ名前を付けています。
—— 南アフリカでは、同じ名前を付けることが一般的なんですか?
アフリカの文化ですね。
—— 2人目の子供は違う名前なんですか?
違います。2人目の子供は、ニコ・クリスチャン・バーガーという名前です。基本的には長男が名前を引き継いでいくんです。
—— お父さんがラグビー選手だったことは、スカルク・バーガー選手にとって影響はありましたか?
やはりそう思います。僕が育ったところでは、クリケットかラグビーしかありませんでした。学生の時はクリケットもラグビーもどちらもプレーしていて、18歳の時に、クリケット選手として契約する話もありました。最初はクリケット選手としてやっていましたが、1年ちょっとでクリケットを辞めて、ラグビーに切り替えました。
僕の父親はラグビー選手だったので、小さい頃からたくさんラグビーの試合を見に行きました。父親が有名だったので、外に出るといろいろな人から声を掛けられて、よく呼び止められていました。そういう環境で育ったので、父親が有名な人ということはすぐに気づいていました。
—— お父さんからはラグビーを教わりましたか?
小さい頃はラグビーやクリケットを教えてもらいましたね。多くのプレーをしてきた父を持ったことで、色々な影響を受けてきたと思っています。僕と同じような道を辿ってきた父がいて、多くのアドバイスをもらえて良かったと思います。
—— おじいさんはラグビー選手ではないんですか?
それは違いますね(笑)。あと、子供は今後ラグビー選手になるか分かりませんが、様子を見ていると、チャンスはあるかもしれません。
◆ラグビーに対するチャレンジが楽しい
—— スカルク・バーガー選手は子供の頃から体が大きかったんですか?
クラスの中でも背は高かったですね。体は細かったと思いますが、ラグビーをやることでがっしりした体になりました。
—— ラグビーを始めた頃は、ラグビーのどこが楽しかったんですか?
いつも試合を楽しんでいましたね。試合以外でのトレーニングなどでは、あまり楽しいと思っていなかったかもしれません。80分間試合に出ることが、本当に楽しかったですね。80分間戦った後のグラウンドには23人しか立つことが出来ず、そしてその後に飲むビールが凄く美味しいんです(笑)。
—— 80分間の中で、具体的にはどういうところが楽しいと感じるんですか?
ラグビーに対するチャレンジが楽しいんです。それは毎週違うチャレンジで、色々な経験を積んでいる中で、自分たちが目標とする場所へ辿り着かなければいけません。ラグビーとは常に何が起こるか分からないスポーツで、その中で起こらなくてもいいことが起こってしまった時に、いつも通りやったプレーが違った結果を導くプレーになってしまうこともあります。それは自分のことであったり、チームメイトのことであったりして、解決策を見つけるために凄く考えさせるスポーツです。
—— 80分間の中で自分を表現するためにやりたいプレーはありますか?
精神的な部分でも凄く楽しんでいますし、フィジカルの部分でも楽しんでいます。常にボールの周りで参加していたいと思っています。学校でラグビーをやっている時には、常にボールを持って走り回りたかったですね。1日中ボールを持って走り回っても良いと思っていました(笑)。その思いは、今でも変わっていません。
—— 試合中にあまりボールを持っていない状況が続いた時は、スカルク・バーガー選手がボールを持ちたいと思っていると見ていればいいですか?
そうですね(笑)。ラグビーの中では、試合中にチームとしてあまりボールがもらえない状況が続く時もあります。そうなったときには違うプランを立てなければいけません。その他には、タックルをしてターンオーバーを狙って、チームに貢献するしかないと思います。ただ、ボールを持った時には凄く大好きな時間になります。それにボールを持って使うということはサントリーのスタイルだと思います。
◆人生を良くするために
—— 今までの試合の中で、最高の80分間はどの試合になりますか?
う~ん、難しい質問ですね(笑)。思い浮かぶ試合は何試合かあります。1つ目は2007年のワールドカップでチャンピオンになった試合です。選手全員が80分間ベストなプレーが出来たかどうかは分かりませんが、本当に感動的で、自分の中でもベストな80分間だったと思います。自分のパフォーマンス全てがチームにとって重要とは限りませんが、チームとしてみんなで分かち合えた試合だったと思います。
それにスプリングボクスではトライネーションズカップで2回勝ちましたし、それにワールドカップで勝ち、そういう試合は僕の中で印象に残っています。
—— 話している時の笑顔を見ても、人生の楽しみ方を知っているように感じます
人生を良くするために生きていると思っています。楽しいことをすることが大好きですし、僕がフィールドでプレーしている時と、フィールドの外にいる時とでは、かなり違うと思います(笑)。
—— 今後のラグビー人生の目標は?
世の中は素早く変わっていきます。来年はワールドカップがありますし、多くの選手がワールドカップに出ることを考えていると思います。いま、僕の目の前にあるゴールは、サントリーで勝つことです。その目標を成功させるシーズンでなくてはいけません。そのことだけに集中したいと思っていますし、サントリーでプレーし、サントリーが良くなるようにしていかなければいけません。もし代表に選ばれ、試合に出ることになれば、それはとても光栄なことだと思っていますし、選ばれた時には全力でプレーします。
—— 体力面ではまだまだレベルアップしていますか?
凄く良い状態で、次の試合に向けた1週間の中でも良くなっています。2002年からは1つのチームでしかプレーしていませんが、1つのところでずっとプレーしていることでマンネリ化してしまう可能性はあります。今は新しいことを覚え、それに適応するためにトレーニングをしているので、凄く良い状態ですね。そして、日本の中で、良い選手になろうと努力をしています。
—— これまでポジションは変わっていますか?
最初のサントリーの試合では6番をやって、トヨタ自動車戦では7番、そしてキヤノン戦では8番をやりました。南アフリカでは8番でもプレーしたことがありますが、主に6番か7番でプレーしていました。
若い頃にオープンサイドフランカーでプレーするように言われて、1つのポジションで固定されたことによって、そのポジションにおいて最大限のパフォーマンスを発揮出来るようになりました。試合で起用されたポジションでベストのパフォーマンスを発揮できるようになることは重要です。
そして、歳を重ねることによって、他のポジションとの流れを分かるようになってくるので、個人的には、最初から色々なポジションでプレーするよりも、1つのポジションでプレーすることが良いと思います。
あと、試合を重ねることによって、若い頃よりも色々なことが吸収できる選手になっていくと思います。ただ、若いことでの良さもあると思うので、今の自分と若い頃の自分を比べて、どちらが上手かったかは分かりません(笑)。
—— スカルク・バーガー選手のプレーで、ファンの人に注目して欲しいポイントはどこですか?
僕としては楽しむことが大事だと思っています。僕がプレーしている姿を見て、僕自身が楽しんでいると感じてもらって、ファンの皆さんも楽しんでもらいたいと思います。走り回って、ボールを持っている姿を見てもらうだけでも良いですし、そこが僕のプレーで一番伝わるプレーだと思います。高いエナジーの中でプレーしている姿をぜひ見てもらいたいですね。
(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]