2014年9月 3日
#393 小野 晃征 『10番として自分の役割を果たす』
「体が大きくなったのでは?」と小野晃征選手に会った瞬間に尋ねたら、「いや、変わりませんよ」と笑われました。「大きくなった」イメージは、日本での8年目のシーズンを迎えるキャリア、日本代表としての経験、そして新たに担うバイスキャプテンの責任感が、表われてきているからではないでしょうか。いつも程良く力が抜けている小野選手に話を聞きました。
◆いちばんの武器はエナジー
—— 開幕戦を振り返ってみてどうですか?
思ったようにはプレー出来ませんでしたが、最後まで諦めずにプレー出来たことが良かったと思います。開幕戦では、ノックオンがチームとして20回くらいあったと思います。暑さの中で汗でボールや体がウエットになり、コンタクトでボールをこぼして、サントリーのアタックのリズムが作れませんでした。
—— そういう状況の中で、ゲームを組み立てるポジションとして、どういうことに注意するんですか?
自分たちのやってきたことを信じるしかないですね。次のプレーのことしかコントロールは出来ないので、起きてしまったことは忘れてプレーします。ボールが滑る状況の中で、相手が倒しに来るので、ボールが敵になることもあるということを考えて、プレーしなければいけなかったと思います。
—— ボールが味方になることが良い状況ですよね
そうですね。僕らのスタイルとしては、ボールを持ってアタックしたいので、コンタクトが起きる度にノックオンしていたのでは、リズムが作れませんね。
—— まだまだ暑い中での試合が続くと思いますが、対策は考えていますか?
前に出ている時はボールをキープして、出ていない時にはしっかりと陣地を取ることが大事だと思います。その時の状況を考えプレーを選択していかなければいけないと思います。
—— 個人的に振り返ると、開幕戦のプレーはどうでしたか?
どの選手もプレシーズンから開幕戦のメンバーに入ることをターゲットに練習をしてきて、とりあえず、試合に勝てて良かったと思います。
—— 調子はどうですか?
身体もメンタルも調子が良いです。
—— 昨シーズンと比べて、変えた部分はありますか?
7年間、日本でプレーしていて、メンタルをリフレッシュさせることをテーマにプレシーズンを過ごしました。その間にニュージーランドでもラグビーをやらせてもらい、ラグビーの楽しさを改めて思い出すことが出来たと思います。
日本でラグビーをやることも楽しいんですが、違うスタイルのラグビーをやることで、また違う楽しさを感じて、リフレッシュすることが出来たと思います。
—— 昨シーズンの開幕戦と今シーズンの開幕戦ではメンバーが11人変わっていましたが、コミュニケーションの部分で問題はありませんでしたか?
若い選手が入ることのいちばんの武器はエナジーだと思うので、エナジーに加え、その選手が持っている強みを活かすことが、経験ある選手の責任だと思います。
—— 小野選手は27歳なので、まだ若いですよね
そうですが、トップリーグ8年目です(笑)。僕も若いエナジーを使って、頑張っています。
◆上手くコミュニケーションを取ってやっていきたい
—— 今シーズンからはバイスキャプテンですね
いちばん大事なのは、10番として自分の役割を果たすことです。ゲームコントロールとプレーの選択などの場面では声を出しているので、10番の選手としてしっかりと自分の役割をやるだけです。僕よりも経験ある選手がたくさんいるので、そういう選手の経験や考え方を、若手とコミュニケーションを取ってしっかりと選手に落とし込むことが大事だと思います。
—— 昨シーズンはフーリー・デュプレア選手とのコンビが多かったと思いますが、今シーズンは日本人選手とコンビを組んでいますね
サントリーのラグビーは、誰が試合に出ても、そのポジションの役割を果たせると信じているので、9番が変わったからプレースタイルが変わるということはありません。誰が出ても、しっかりとサントリーのラグビーをやることを意識しています。
それにトゥシ(ピシ)が12番にいて、ゲームコントローラーが2人いる状況なので、上手くコミュニケーションを取ってやっていきたいと思います。9番にフーリーがいなくても、12番にトゥシがいてくれるので助かっています。
—— 今シーズンからは多くのスタッフも変わり、外国人スタッフも増えましたが、外国人スタッフ、選手と日本人選手とのコミュニケーションをサポートする役割もあるんですか?
通訳としてヨッシーさん(吉水)が入ったので、その役割は減ったかもしれません。ただ、ラグビー以外の場面で、英語と日本語だと壁が出来てしまうので、そういうところでのコミュニケーションも大事になると思っています。
—— 他のチームでもヘッドコーチに外国人コーチが就くことが目立ちますが、海外からトップリーグが注目されていると思いますか?
ワールドクラスの選手とコーチが来ると、その国のメディアが取り上げてくれることが多くなると思いますし、日本代表の成績も上がってきているので、トップリーグも注目されてきていると思います。
そういう意味でも日本のラグビーが強くなってきていると思いますし、メディアにも取り上がられるようになってきていると思うので、あとは選手たちがラグビーの精度を上げていけば、もっとラグビーが盛り上がって、ファンが増えると思います。
◆しっかりと切り替えて臨む
—— 日本代表としてのターゲットは?
日本代表に選ばれているうちは、それに相応しい練習や態度、パフォーマンスをキープすることが当たり前だと思いますが、日本代表期間以外の時には、あまり日本代表のことは考えていないですね。 チームで良いパフォーマンスを出していれば、日本代表に選ばれると思っているので、サントリーにいる時はサントリーのことだけを考え、日本代表にいる時には日本代表のことだけを考えています。
切り替えも大事だと思います。日本代表で集まる選手はチームも違いますし、普段のトレーニング方法も違うので、しっかりと切り替えて、臨むことが大事だと思います。
—— 日本代表でやっていることは、サントリーでやっていることとは全く違うんですか?
ラグビー自体も毎年スタイルが変わりますし、練習方法も新しい方法が出てくるので、エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)もサントリーでやっていた時と日本代表でやっていることは全然違うと思います。
日本代表は色々なチームから選手が集まるので、色んな性格やスタイルなどをまとめなければいけません。そういう意味でも練習の内容を変えなければいけませんし、もっと個人に合ったトレーニングをしなければいけないと思います。
—— だいぶ日本語が上手になりましたね
一応、日本語の勉強をしているんですよ(笑)。自分で漢字の勉強をしています。自分の名前を漢字で書くのは、どうですかね(笑)。ラグビーを引退してからのことも考え、将来はニュージーランドに戻りたいと思っているんですが、日本での経験もありますし、どちらのラグビーのことも知っていますし、日本語も英語も話せるので、そういう経験を活かした仕事を探せればと思っています。
あと、日本のラグビーにお世話になっているので、日本のラグビーをもっと強くしたいという想いもあります。そういう意味でも日本語は大事だと思って勉強をしています。
—— 指導者を目指すんですか?
ラグビーが大好きで、趣味がラグビーのような感じです。選手としてはどのチームにもスタンドオフが2人~3人いて、他のポジションが出来れば、更に枠は広がりますが、コーチはチームに1人~2人くらいしかいなくて、選手よりは安定していると思うので、指導者を目指すかもしれません。
◆サントリーのラグビーはこれだ
—— 昨シーズンは無冠に終わりましたが、その敗因はどこにあったと思いますか?
直弥さん(大久保監督)がいつも言っていますが、ずっと勝ち続けるチームはいませんし、プレーオフでは決勝まで進み、日本選手権では準決勝だったので、決して悪いシーズンではないと思います。どのチームもそこを目指してやってきて、準決勝、決勝まで進めることは凄いことだと思います。
準決勝や決勝で負けはしましたが、その試合の中でキーとなる時間帯が2回~3回はあったと思います。今まではそのキーとなる時間帯で、サントリーの流れで進められていたのが、昨シーズンはサントリーの流れで進められませんでした。
やってきたことは決して間違っていなかったと思いますが、相手もサントリーを倒しに来ているので、そのキーとなる時間帯を相手に取られてしまったと思います。
—— 今シーズンのサントリーのキーポイントはどこだと思いますか?
優勝出来ていたシーズンは、どのチームよりも一歩進んだトレーニングや試合が出来ていたと思いますが、昨シーズンではそのギャップが縮まって、優勝出来なかったと思います。今シーズンは更に「サントリーのラグビーはこれだ」ということを、選手、スタッフが考え、その考えをクリアにして戦うことが大事だと思います。
昨シーズンまでのことを一度リセットして、どこがサントリーのラグビーかを明確にして、もう一度チャレンジしなければいけません。
—— 小野選手のラグビーはこれだというポイントはありますか?
小さい体でもファイトして諦めないことを意識しています。10番は一番ゲインラインに近いところに立っているので、体が大きい選手が走って来るのが当たり前で、そこで当たり負けをしないことが大事です。そこで自信をつけてプレー出来ています。
—— 体が大きい選手に当たり負けしない秘訣はありますか?
相手のスペースを詰めて、やりたいように動かさないことです。体が大きい選手は下に入られることを嫌うので、自分の高い位置から相手の低い位置に入って、相手を倒すことを心掛けています。
◆ベストのラグビーを決勝の舞台で
—— これまでバイスキャプテンやキャプテンの経験はありますか?
高校でもキャプテン役を務めましたし、サニックスでもバイスキャプテンを2年間務めました。その時はまだ23歳くらいでしたが、バイスキャプテンの経験もあります。
—— そういう役割は合っていると思いますか?
どうなんでしょう。ただ、僕は声を出して周りを使うタイプで、個人技でプレーするタイプではないので、そういう意味でコミュニケーションはしっかりと取れていると思います。周りの選手をしっかりと使って、周りの選手の強みを引き出してプレーしているつもりなので、それを継続してやっています。
—— 改めて、今シーズンの目標は?
もちろん優勝することです。ベストのラグビーを決勝の舞台で披露できるように、楽しむことが目標です。
—— いつも楽しんでラグビーをしているように見えます
好きなラグビーが出来ることは幸せなことなので、そのことを常に考えながら、どれだけ辛いことがあっても、楽しいことがあっても、幸せと思って取り組んでいます。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]