2014年7月16日
#386 中村 亮土 『完璧じゃないと満足出来ない - 1』
学生時代から日本代表に選ばれ、日本代表として4キャップ(2014年7月3日時点)を持つ、帝京大学のキャプテンがサンゴリアスへやって来ました。期待の新人にこれまでの、そしてこれからのラグビーについて訊きました。
◆自分の誇れるもの
—— “土”が入っている名前は珍しいですよね
亮という字が入っている人は結構いると思いますが、土が入っているのは珍しいと思います。「大地のように力強くなって欲しいから土を入れた」と両親が言っていました。亮という漢字には朗らかという意味合いもあって、僕の名前(亮土)には「朗らかで、大地のように力強く育って欲しい」という願いが込められています。
—— ご両親の願いどおりに育っていると思いますか?
どうですかね(笑)。僕の周りの人に評価してもらいたいですね。
—— ご両親には、土に対する思い入れがあるんですか?
大地というと、力強いイメージがあるので、そこから取ったんだと思います。父親の仕事が土木関係で、会社の中で仕事をするよりは外で汗を流して働いています。僕が小さい頃は、父親の仕事現場に行って、その様子を見ていました。たまに父親に付き添ってもらって、ユンボ(油圧ショベル)の運転席に座らせてもらったこともあります。
—— 名前については、よく聞かれますか?
よく聞かれますね。まず“りょうと”という名前も珍しいですし、土が入っていることも珍しいですよね。よく“亮士”と間違われて、「士じゃなくて、土なんです」と何度も説明したことがあります(笑)。
—— 名前は気に入っていますか?
自分の誇れるものは名前だと思います。周りにいない名前で、たまに同じ名前の人と出会ったりすると、親近感が湧きますね。ただ同じ漢字の人には、これまで出会ったことがないと思います。
◆対抗意識をムキ出して練習
—— 日本代表に大学生の時から選ばれていますね
大学3年生の時に初めて呼んでもらいました。エディーさん(ジョーンズ)が日本代表ヘッドコーチになった年で、日本選手権の東芝戦で、たまたまエディーさんが見ている試合で良いパフォーマンスを出すことが出来たんです。たぶん試合会場ではその1試合しか見ていないと思うので、日本代表に選ばれた時は本当に驚きました。
—— その試合で良いパフォーマンスを出せた要因は?
タックルやボールキャリーをした時に、身体の強さで負けていなかったことが大きくて、ゲインラインもかなり切れましたし、社会人相手にも戦えていたところを見て頂けたんだと思います。特に調子が良いという感じではなかったんですが、自分たちよりも上のレベルの人たちと試合をすると、ワクワクするというか、心から「倒してやる」という気持ちが出てきます。
—— 中村選手は大学1年生の時から4年生まで、ずっと大学選手権で優勝していますが、1年生の時はどんな感じでしたか?
1年生の時には、対抗戦では何試合か出させてもらったんですが、大学選手権では1試合ベンチに入っただけで、それ以降の試合はメンバーに選ばれませんでした。だから優勝メンバーではありません。チーム内の競争が激しくて、まずはAチームで出られるようになることに必死でした。
—— 帝京大学の練習はハードでしたか?
本当にハードでしたね。練習ではBチームのメンバーがAチームに対して、「倒してやろう」という気持ちでチャレンジしてくるので、良いライバル意識を持って練習に取り組めて、お互いに高め合える関係があります。あまり部内での試合は行わないのですが、対抗意識をムキ出して練習をやっています。
◆練習量で差を縮めたい
—— Aチームのメンバーとして試合に出られるようになったのは2年生からですか?
そうですね。もともとは10番だったんですが、13番になってから試合に出られるようになりました。あまりパスは上手くはないんですが、ボールキャリーやディフェンスは強いと評価されていたので、13番に移ったことで試合のメンバーにも選んでもらえるようになりました。
—— 13番でプレーすることに抵抗はありませんでしたか?
試合に出られるのであれば、まずはどのポジションでも良いと思っていました。
—— いつから10番でプレーしていたんですか?
大学1年生までずっと10番でした。高校の時も10番だったんですが、パス練習をやったことがなかったんです。高校までは周りのレベルもそこまで高くなくて、僕のパススキルでもある程度は出来ていたんです。ただ、大学に上がった時に、パスのスキルが全然違うと感じました。だから、大学ではかなりパス練習をしました。
大学1年生の時と比べたら、パススキルは上がったと思いますが、それまで練習をやってこなかった分、他の選手に比べたらまだまだですね。僕は大学4年間だけの経験なので、他の選手の経験よりも全然少ないんですよ。
—— 今もパスは課題ですか?
プレッシャーがある中で、正確なパスを出せるようにならなければいけません。日本代表でも相手との間合いがない中で、どれだけ正確なパスが投げられるかを求められています。
—— ディフェンスについては?
得意な方ではあるんですが、少し姿勢が高いので、今後インターナショナルレベルでやっていくために、練習から低く意識して練習をしていかなければいけないと思っています。
—— 社会人の中では通用すると思いますか?
僕は大学の時から日本代表に選んでもらっているので、「社会人=インターナショナルレベル」という考えがあります。だから、トップリーグで試合をする時にも、インターナショナルレベルのプレーをしなければいけないと思っていますし、どんな環境であっても、その意識を持って取り組まなければいけないと思っています。
—— 現時点での一番の課題は?
プレッシャーがある中でのあらゆるスキルですね。ニュージーランドの選手は、小さいころからボールを触っていて、そのレベルに追いつくことは難しいかもしれませんが、日本人はその分練習量が多いので、練習量で差を縮めていきたいと思っています。
◆キャプテンをやる覚悟
—— 大学選手権5連覇を果たしましたが、勝つことへのモチベーションは?
大学での環境が、「絶対に勝ちたい」と選手に思わせていると思います。僕らの代が入る前に大学選手権で優勝して、「僕らも優勝したい」と思って大学に入りました。だから、「優勝したい」という想いはぶれませんでした。優勝という目標がぶれなかったので、モチベーションも落ちませんでしたね。
—— 何回優勝しても変わりませんでしたか?
優勝している中で、少しずつ目標を高めていっているんです。最初は優勝することだったのが、次は優勝してトップリーグのチームに勝つこととか、少しずつ目標を高くしています。前の年代のチームを超えられるように取り組んでいたので、常に向上心はありました。
—— 実際に、前年のチームは追い越せていましたか?
追い越せていたと思います。
—— 大学4年生ではキャプテンを務めましたが、なぜキャプテンに選ばれたと思いますか?
帝京大学は、毎年学生が決めるんです。色々と話し合った結果、僕か東芝に入った李聖彰のどちらかがキャプテンをやることになって、2人で話し合って決めました。そして、僕がキャプテンで、李聖彰がバイスキャプテンになりました。
—— キャプテンをやりたいという気持ちはあったんですか?
ありました。みんなからは、2人のうちのどちらがキャプテンでも承認されていたので、その時には自分がキャプテンをやる覚悟がありました。
—— 自分にはキャプテンが合っていると思っていましたか?
僕は基本的にリーダー的な人間ではないと思います。自分の中で自信がない時には何も言えないんです。リーダーをやる人は、何においても自信を持って言えると思うんです。高校から大学に入って、周りが上級生で知らない環境の中だと、気が引けてしまうと思いますが、リーダー的な存在の人は、そういう環境の中でもどんどん発言が出来ると思っています。
僕はそういう環境の中で、周りに身を任せてしまいがちで、そういう部分を少しずつ変えていこうと思っています。
◆出来ないことが悔しい
—— 帝京大学に行こうと思ったのはいつ頃ですか?
高校3年生の春頃だったと思います。2008年の対抗戦で、それまで早稲田大学が7連勝していたんですが、その年は帝京大学が勝って、早稲田の連勝を止めたんです。高校の時には関東の強いチームに行きたいと漠然と思っていて、知識としては、対抗戦とリーグ戦の違いも分かりませんでした。
どの試合か忘れてしまいましたが、帝京大学の試合を見て、赤のジャージがカッコ良く見えて、それにディフェンスが凄く強かったんです。僕もディフェンスが好きなので、こういうチームに行きたいと思いました。
—— 帝京大学に行って良かったと思いますか?
帝京大学に行っていなければ、たぶんこの場にいなかったと思います。ただ、大学でのパフォーマンスとしては満足出来ませんでした。
—— 具体的にどこが良くなかったんですか?
完璧じゃないと満足出来ないんだと思います。だから、少しでも良くないプレーをしたりすると、満足出来ないんです。なかなか完璧に出来ることはないので、これまで完璧だったことはありません。満足するまでに近づいた試合は、先ほど話した日本選手権での東芝戦ですね。あの試合では、全ての局面で良いプレーが出来ていたと思います。
ただ、もう過去のことなので、そこで止まってはいけないと思っていますし、今はそこから落ちてしまっているんじゃないかと危機感を持っています。
—— 完璧じゃなければ満足出来ないというのは性格ですか?
完璧主義ではないんですが、良いところよりも悪いところを見つけてしまうんです。出来ないことが悔しいんです。
—— 理想はどうやって思い描いているんですか?
スーパーラグビーや色々な試合を映像などで見てきて、同じ状況はあまりないんですけど、過去の映像の中で、この状況ではこういうプレーがあったということと、状況を比べているんだと思います。
(つづく)
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]