2014年6月25日
#383 佐々木 隆道 『存在感を出しチームを引っ張る』
キャプテン役を担ってから時が経ち、ベテランと呼ばれる年齢に入りつつある佐々木隆道選手。そういう常識を超えて、常に動き続け、進化し続ける佐々木選手からは、目が離せません。新たなシーズンに向けての意気込みを聞きました。
◆最大限のチャレンジ
—— 過去を振り返ってみて、これまでのラグビー人生の中で、様々な浮き沈みがあったと思いますが、現時点の状況はどうですか?
あと何年ラグビーが出来るか分かりませんし、その限られた時間の中で、選手としてラグビーに対して最大限チャレンジしていきたいと思っています。ただ、そんなに肩肘張らずに、行けるところまでは行ってみたいというのが、正直な気持ちです。
昨シーズンは今までやってきたことを貫いて、良い結果を残すことが出来ませんでしたが、だからと言って、全てを変えるわけじゃなくて、今まで大事にしてきたことをベースに、自分も新しいことに取り組んで、気持ちを新たにやっていきたいという想いがあります。
ラグビー選手として、サントリーの中では大学卒業してすぐにプロとしてやっているのは、剛(有賀)と僕だけで、剛は剛でラグビーが終わった後のことを考えて行動をしていると思います。今の日本のプロラグビー選手は、ラグビーが終わった後の仕事へ、現役の内からどうやって繋げていけばいいのかを悩むと思いますし、僕も正直、まだはっきりと分かっていません。
そこに正解はないと思うんですが、僕が色々と活動をしていくことで、後輩たちの新しいアイデアになれば良いと思っていますし、僕の進む道を見て、「あれじゃダメだ」とか「あれは良いな」とか思って、自分なりにアレンジしていって欲しいと思います。そして、「プロ選手になろう」と思う若い選手が、もっともっと増えてくれれば良いと思っています。
—— 日本ではまだプロ選手は多くなく、引退後のケースもまだまだ少ないですよね
小野澤(宏時)さんや大畑(大介)さんなど、僕らの前の世代の人たちが、やっとプロ選手として認められて、その先輩たちの中で引退した人たちが、いまコーチになったり学校の先生になったりして生活を送っている中で、次の僕らがその選択肢だけでいいのかなとは思っています。
—— 若い頃はそこまで先のことまでは考えなかったと思うんですが、先を考えるようになった今、何かきっかけがありましたか?
バックローの選手は長くても34~35歳くらいで、下手したら32歳で終わるかもしれませんし、31歳で終わるかもしれません。引退というものが、すぐそこにあるんですよ。その中で、引退後に何をしたいかを考えた時に、僕は「指導者になりたい」ということに気づいたので、そのために空いている時間があれば、その準備を少しずつするようになっています。
◆低さと勤勉さ、仕事量
—— 選手として最大限のチャレンジをしていくとのこと、具体的にはどう取り組んでいこうと考えていますか?
必要とされる間は、自分の精一杯をチームに注ぎたいですし、若手に席を譲ることは全く考えていません。席は取られるもので、「若手に育って欲しいんで引退します」と自分からはならないと思います。そういう意味で、まだまだ成長出来ると思っていますし、成長している内はチームから必要とされると思っています。
—— バックローというポジションで、日本人選手としてはどこを伸ばしていけばいいと思っていますか?
今のラグビーはフィジカルがほとんどで、そこにアジリティー(敏捷性)やパススキルが必要になってきます。今の日本代表を見ても、バックローに日本人選手はほとんどいませんし、体が大きくて何でも出来なければいけないポジションです。日本が世界を相手にどこで戦うかと言えば、低さと勤勉さ、仕事量になると思います。
—— 現在、サッカーワールドカップが開催されていますが、サッカーにおいても仕事量は重要ですよね
サッカーにしてもラグビーにしても、走れる選手でなければ、日本代表には選ばれないと思いますし、日本人が世界で戦うためには、相手よりもフィットネスで上回らないと、厳しいと思います。どうしても年齢によって身体的には劣ってきて、それは避けられないことなので、そこをどうやって補っていくかだと思います。
—— サンゴリアスの若手選手も世界で戦うためには、更に厳しい練習をしなければいけないと感じますか?
今のフィットネスのベースを下げずに、もっと身体を大きくしなければいけないと思います。ただ、それがなかなか難しい。あとは、もっとラグビーのことを考えて取り組むべきだと思います。僕らと若手の差は、そういうところだけだと思います。フィットネスは確実に若手の方があるので、いかに的確にコミュニケーションを取れるかとか、どこにチャンスがあり何をしなければいけないのかを見極めて行動するということを、1人だけでやるんじゃなくて、チームの中でコミュニケーションを取りながら出来るようになれば、成長出来ると思います。
—— 若手選手がその部分に気づくのは大変ですね
そこは間違いながらやっていけばいいんですよ。最初から出来る人なんていないですし、僕もこの歳になって、昨シーズンよりも更に考えて取り組んでいますし、今シーズンは新しいコーチングスタッフという部分もありますが、いつも新鮮な気持ちで出来るように、あまりやり過ぎないながらも、しっかりと身体は追いこんで、ギリギリのところを探しながらやっているので、ラグビーが更に楽しくなりましたね。
◆適応力、対応力も伸ばしていかなければ
—— 昨シーズンは優勝できませんでしたが、昨シーズンと一昨年のシーズンを比べて、どこが違いましたか?
サントリーがフィットネスに特化して取り組んで成功したことで、周りのチームもフィットネスの強化を進めて、フィットネスでアドバンテージを持っていたサントリーに、フィットネスの部分で他のチームが追いついてきたんです。それでもまだアドバンテージが残っていたので、一昨年は勝つことが出来たんです。
昨シーズンはフィットネスに加えフィジカルも上がっていましたが、ずっと同じことをやり続けていたので、相手はその戦い方に勝つ戦法を立ててきて、サントリーはそれに対応しきれずに負けてしまったんです。僕はそう分析しています。
—— 昨シーズン負けた要因の中で、自分自身が改善すべきところはありましたか?
もちろんフィジカルで勝てない部分もありましたし、そこは個人で伸ばしていかなければいけないところだと思っています。昨シーズンは怪我からスタートしたということもあって、春シーズンにしっかりと走り込みが出来なかったんです。
今年の春シーズンは、これまでしっかりと走り込んでいて、今の時点で昨シーズンのフィットネスを超えていると思っています。あとは試合でどんどん身体を慣れさせていけば、確実に昨シーズンよりも良くなると思っています。
—— 昨シーズンはペナルティーが多かったですよね
自分たちは正しいと思うプレーをやっていたんです。ただ、レフェリーはそのプレーでペナルティーを取ったんです。今だったら「そのプレーを捨てて、違うプレーに変えよう」という感覚があって、昨シーズンの最後の方でそういう感覚が芽生えましたが、それがなかなかチームとして、みんなで変えきれなかったんです。言葉は出るけど、プレーに出せなかったんですよ。そこの適応力、対応力も伸ばしていかなければいけないと思います。
レフェリーも人なので、どうしても人によっては若干の違いは出てきてしまうんです。だから、その日に合ったプレーを選択していくことをしなければいけないと思います。他のスポーツでも同じで、例えば野球のピッチャーで言えば、「そこのボールがストライクになるんだったら、ストライクゾーンはここだな」と思って、投げるコースを決めていくと思うんですよね。
ペナルティーが多いことも敗因の1つだったと思うので、自分たちでもっともって考えて、自分たちがグラウンド上で、意思決定をしていけるようなチームになろうとしています。
◆少しの部分で変わる
—— これまでは相手がどういう戦法を取ってこようが、自分たちのスタイルを貫いてきましたが、昨シーズンは無冠に終わってしまいました。佐々木選手から見て、今シーズンはチームがどういう戦い方をしようとしていると思いますか?
アタックし続けるという部分はこれまでと変わりませんが、本当に少しの部分で変わったと思います。
—— 少しだけ変えることが、大きな違いになるんですか?
なるんです(笑)。あまり具体的には言えないですが、楽しくなっていますよ。コーチングスタッフも新しくなりましたし、コーチやスタッフが進化したサンゴリアスを作ろうとしている中で、僕らもそれに対して、しっかりと努力していくという形が出来ていると思います。
—— 佐々木選手の代が上から3番目の代となり、昨シーズンと比べて更にチームが若返ったと思います。若手が多い今のチームをどう見ていますか?
まだ一緒にトレーニングをする時間は短いですが、考えて取り組んでいるとは言えませんね。練習試合などでも、シニア選手が入るだけでラグビーが変わりますし、これまでそれだけのコミュニケーションで、あれだけ出来ていたのが、逆に凄いと思いますよ。
—— 若手主体のチームに、シニア選手や日本代表選手が加わると、手応えは出てくるでしょうね
そうですね。ただ、日本代表選手は素晴らしい選手ばかりですが、いまチームに残っている選手が、いかに伸びるかが重要なんです。代表選手が凄いのは分かっているので、若手選手の中から1人でも多くの選手が試合に出られるようなチームになっていければ、またサンゴリアスは変わっていけると思います。
—— 若手選手の成長がなければ、今シーズンも厳しい結果になりますか?
このまま同じことを続けていくようであれば、昨シーズン試合に出ていたメンバーとあまり変わらないと思いますが、みんなが少しずつ変わってきているので、僕も凄くプレッシャーを感じています。更に、今シーズンからはNo.8でもプレーするようになりましたし、新しい外国人選手が加わり、そういう意味でも新鮮ですし、楽しみですね。
その中で、自分の精一杯を出してメンバーに選ばれれば、もちろん嬉しいですし、例え望んだ結果にならなくても、僕は僕の努力をし続けるだけだと思っています。
◆社会に貢献して、未来へ繋げていく
—— 負けた次の年は特に大事だと思いますが、今シーズンのチームの目標は?
あまり先のことは考えていません。勝ちたいという想いと、自分たちがやったことを正当化したいと言うか、「そりゃ、これだけやったら勝てるよね」と思いたいですね(笑)。
—— 昨シーズンからトップリーグのシステムが変わりましたが、実際に1シーズン戦ってみてどう感じましたか?
結構、タフでしたね。言い方は悪いんですが、2ndステージで下位グループに行きそうなチームは、上位リーグに上がることを目標に1stステージにピークを合わせて来ていたんですが、僕らはファイナルにピークを合わせるように調整をしていたので、そのギャップで大変でした。
—— 客観的に見て、2ステージ制というのは、全体をレベルアップさせるシステムになっていると思いますか?
1つのミスや1つのペナルティーで試合が決まるような回数が増えたので、全体のレベルは上がっていると思います。
—— 個人としての目標は?
試合に出て、チームに貢献することです。あと、グラウンド以外の部分でもチームに貢献出来る働きをしたいという想いがあります。自分たちがいる意味をチームの中で考え、存在感を出したいですし、もちろんグラウンドでもチームを引っ張っていけるような選手になりたいと思っています。まだまだ成長出来ると信じてやっています。
—— 成長出来れば、ラグビー選手としての人生が延びていきますよね
そうなれば嬉しいですね。
—— 新しいことへのチャレンジは?
サントリーとしてどういう社会貢献があるのかを考え、僕らがそういう活動をすることで、サントリーとして社会に貢献すること、そしてプロラグビー選手として、そういう活動を通して、自分の未来に繋げていくことが大事だと思っています。今まではそういうところに目が向かなかったというか、はっきり言うと、そういう活動をすると、その分休む時間がなくなるので、プレーの妨げになるとさえ思っていました。
今シーズンに関しては、そういう活動がリカバリーだと捉えて、積極的に行動していこうと思っています。社会貢献活動は夏シーズン前くらいまでに限られてしまうと思いますが、春シーズンの段階で、昨年は1シーズンを通しても1~2回だったのが、4~5回は参加させてもらっています。チームに対して参加させてもらいたいというアピールをして、チームの方針などを考慮した上で、出来る限りそういう活動に参加しながら、自分を高めていきたいと思っています。
—— ファンに対してはどうですか?
もちろん大事な存在ですし、いつも感謝をしています。チームが決める活動に加えて、僕らからチームに対して、「こういう活動をしていきたい」と提案をしてきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]