2014年6月11日
#381 成田 秀悦 『いつまでもチャレンジ』
見た目が"歳を取らない"選手代表の成田秀悦選手も、今年ようやく30歳を迎えます。毎年のように前年以上のスピードのキレを見せて、期待を高め、その速さに磨きをかけてきました。今シーズンは"本業"のスクラムハーフに戻り、一気に勝負をかける年となります。成田選手の心境を聞きました。
◆1枚羽織っているような感覚
—— 身体が大きくなりましたね
大きくしました。昨シーズン中に、このSPIRITS OF SUNGOLIATHのインタビューを受けたくらいから身体を大きくしようとトレーニングをしてきました。フォワードと一緒に朝練をしてきて、それをシーズンの終わりまで続けたので、たぶんですが、僕がいちばん朝練をやったと思います。
—— 朝練ではどういうトレーニングをしているんですか?
僕の場合は、ウエイトトレーニングのみです。6時から7時まで朝練をして、それから会社に行っていました。誰が何回来たかという記録をつけているわけではないので分かりませんが、たぶん僕がいちばん朝練に行ったと思います。
昨年のクリスマスの日に、朝練をやりにクラブハウスに来て、そこでビックリしたんですが、僕の他にツル(中靍)と慎太郎(石原)の2人が来ていました。他の人がクリスマスに来るとは思っていなくて、トレーニングをしながら3人で「今日はクリスマスだよな」って話をしました。
なので、トレーニングをした自信はあります。自信が持てたのも、成果が出てきたからだと思いますし、だからこれだけ続けられたんだと思います。最終的に2ndステージ以降の試合には出られませんでしたが、目指すべき体重まで増やすことが出来ました。
—— プレーにはどういう影響がありましたか?
スピードが落ちずに筋肉を増やせたので、イメージで言うと、身体の上に何か1枚羽織っているような感覚です。上手く表現出来ないんですが、これまでは裸でぶつかっていたのが、防具じゃないですが、何か付けてぶつかっているような感じがします。
—— ぶつかった際の衝撃が少なくなったということですか?
体重が増えたといっても、シーズンの途中で、体重が減った時期もあって、波がありながら増えていったという感じなので、体重が減っている時の練習で相手にぶつかる時には、心細いというか、ドキドキしていました。
しっかり水分を取り、ウエイトトレーニングもしっかり出来て、筋肉に張りがある時には、練習中に、心なしかいつもよりボールを呼んでいる時もありました(笑)。昨シーズンでその感覚を得ることが出来たのは良かったと思います。その経験があり、身体が良い状態の時の感覚が分かるので、その状態に持っていきやすくなったと思います。
—— 気持ちの面でも積極的になれて、実際にそれがプレーにも表れていますか?
トライの獲り方も前とは変わってきたと思います。前まではスピードを活かしてトライを獲っていたんですが、そこにオプションが増えたと思います。具体的に言うと、相手の外を抜いて、スピードでトライを獲っていたのが、ギリギリまで相手に近づいて、片手で掴まれたとしても、振り切っていけるようになったと思います。
—— オプションが増えたことで、更に楽しくなったんじゃないですか?
面白いですね。昨シーズンには、ヒューイ(ピーター・ヒューワット/BKコーチ)にも「たくさんボールを触って」と言われるようになりました。これまでは、みんなに「小指が引っ掛かれば、あいつは倒せる」と言われてきたんですが、昨シーズンからは「見てろよ」と思えるようになりましたね。
◆1からスクラムハーフをやる
—— 今シーズンはどう発揮しようと考えていますか?
今シーズンは、以前やっていたスクラムハーフにもチャレンジしているんです。3年振りですし、凄く新鮮な気持ちです。僕がスクラムハーフをやっていた時の映像を見返したりしていて、「酷いな」って思っています(笑)。昔のプレーは、自分がやりたいことしかやっていないようなプレーでしたね。マン・オブ・ザ・マッチを獲ったことがありましたが、それはたまたまその時に上手くいっただけで、チームプレーではありませんでした。
—— なぜチームプレーじゃなかったと思えるようになったんですか?
ウイングをやったからだと思います。外にいてボールを要求する立場として、僕の昔のスクラムハーフとしてのプレーを見ると、「いまボールをくれよ」と思う場面が何度もありました。当時は、自分勝手なプレーをして、それで上手くいっていると勘違いしていたと思います。
—— それが分かるようになったのは、ウイングをやった3年間の成果ですね
内側からの目線と、外側からの目線のどちらも経験することが出来た成果だと思います。
—— スクラムハーフとしても自信が出てきましたか?
今はまだ勉強をしているところです。アタックもディフェンスも1から学ぶつもりで取り組んでいます。スクラムハーフとしてのスキルがあるから、自信を持ってまたスクラムハーフをやるんじゃなくて、まっさらな気持ちで、教えられたことを全て吸収しようと思っています。だから、アッシー(芦田)の意見や、フォワードに集まってもらって、「1からスクラムハーフをやるから、何でも話して欲しい」と伝え、スクラムハーフとしての信頼関係を築こうとしているところです。
—— 大学時代はスクラムハーフでしたよね
大学時代というよりも、社会人になるまで、小学1年生からずっとスクラムハーフでした。また今シーズンからスクラムハーフをやる上で、これまでの経験を捨てた訳ではないんですが、それほどウイングに賭けて取り組んでいました。
—— 今シーズンからは走れるスクラムハーフになるんですね
自分の良さは消さないようにしたいと思っているんですが、サントリーにはトライが獲れるバックスがたくさんいるので、その選手を活かせるプレーをしなければいけないと思いますし、その上でチャンスがあれば自分でも行けるようにしたいと思っています。
—— ディフェンス側としたら、パスなのかランなのかが分からず、守りにくくなりますよね
ウイングとしての経験もあり、相手がその部分で脅威に思ってくれたら、自分のアドバンテージになると思います。
◆聞く能力
—— 身体が強くなったことで、スクラムハーフとしてのメリットはどこになりますか?
スクラムハーフとしてもウイングとメリットは一緒です。ただ、スクラムハーフの場合は、相手がフォワードになるので、ウイングと同じようにはいかないと思います。ただし、相手がフォワードになれば、スピードでの優位性はあると思うので、それを上手く活かしたいですね。
—— スピードがポイントになりそうですね
スピードをアドバンテージにしたいんですが、一番やっちゃいけないのは自分勝手なプレーですね。それにはコミュニケーションが大事で、コミュニケーションを取る上で、聞く能力が大事だと思っています。
—— 聞く能力はどうやって伸ばしているんですか?
聞く能力は、試合中にコールを聞くということと、少しでも周りとの意識のずれがあれば、その選手に話を聞きに行くということになります。だから相手がフォワードであろうと、「今のボールは速く欲しかった?」とか「今のはランの方が良かった?」など聞きに行くようにしています。
先日のホンダとの練習試合で、スクラムハーフで出場したんですが、その時の僕のプレーを見たキヨさん(田中澄憲/チームディレクター)から、「ボールを持ったら一瞬バッと走り出すんだけど、スクラムハーフということを思い出してギリギリでパスを出していた」と言われました。僕も後からその試合の映像を見返して、確かにそういうプレーをしていたと感じましたね。
ウイングをやっていたからかもしれませんが、ボールを持ったら勝負をしたいという気持ちがあって、スペースを見つけたら自分で行くことは悪いことではないんですが、「ちゃんと周りを見て、考えてから行かないとダメだよ」とキヨさんに言われて、気づかせてもらいました。
◆良いチャレンジ
—— 今シーズンの個人としての目標は?
2つのポジションを本格的にやろうと思っています。この春シーズンは日和佐が日本代表で、フーリーもチームにいない状況なので、2人しかスクラムハーフがいなくて、僕にとっても良いチャレンジになると思っています。
—— フーリー選手、日和佐選手、芦田選手とのポジション争いに勝たなければ、スクラムハーフとして出場出来ませんね
今から本格的にスクラムハーフを始めて、もともとスクラムハーフをやっていた人に勝つことはかなり難しいことだとは思っています。それに1人は日本代表ですし、もう1人は長く南アフリカ代表で活躍している選手ですからね。ただ、何でも聞きたいと思っているので、2人がチームに戻ってくることは楽しみです。だから、ポジション争いに勝つというよりは、持っている技術を吸収して、勉強しながらやっていこうと思っています。
—— セブンズについてはどう考えていますか?
代表の候補に選ばれなかったので、チャレンジしたくても出来ない状況ではあるんですが、僕の中で、セブンズもやって、スクラムハーフもやって、そしてウイングもやるという余裕はないと思います。ただ、僕の武器はセブンズに合っているとは思っていますが、色々なところを見過ぎると、何も得られずに終わってしまうような気もしています。
—— 今シーズンで何年目ですか?
もう8年目になります。今年で30歳ですよ。
—— 年齢を感じる時はありますか?
前に、SPIRITS OF SUNGOLIATHの中で選手2人で対談するコーナー(ダブルス)があって、元さん(申騎/2012年度勇退)と対談をしたんですが、僕がこれまで元さんやキヨさんなど、そういう先輩方を見てきて、本当に凄い人たちを見てきているので30歳でラグビーを続けることが凄いと感じていないんですよ。
ラグビーを続けていく上で、努力は必要なんですが、そういう先輩方を見ているので、いつまでもチャレンジをしたいと思っていますし、成長もし続けていきたいと思っています。
—— 1つのポジションを獲得するという野望はありませんか?
これだけウイングをやったり、スクラムハーフをやったりしているので、ポジションは確保したいですね(笑)。サンゴリアスとして50キャップは超えているんですが、9番のジャージを着たのは2回しかなかったんです。あとは14番と、一番多いのは20番だと思います。 ただ僕の中で、この歳になったかもしれませんが、先発で試合に出場したいというこだわりはないんです。若い頃は、「9番のジャージを着て試合に出たい」とか、「ジャパンに選ばれたい」とか言っていたと思うんですが(笑)。今はリザーブでも、ウイングでも、スクラムハーフでも、チームに貢献出来るのであればどこでも良いと思っています。
—— 今後、試合の途中でスクラムハーフとして出場することとなった場合、試合のテンポを変える役割も出てくると思いますが、自分の役割としてその辺はどう考えていますか?
ホンダ戦の後に、アンディ(フレンド/ヘッドコーチ)やヒューイから「良いペースチェンジ」と言ってもらえたんですが、まだ自分の中でしっくりきていなくて、こういうプレーをしたからペースが上がったという部分があまりよく分かっていないので、そこは勉強していかなければいけないと思っています。
これまでは、試合のテンポを上げるために、どんどん自分が仕掛けてテンポを上げていたと思っていたんですが、これまでとは違ったテンポの上げ方もあるんだと気づきました。昨シーズンで言えば、フーリーから日和佐に交替することでテンポが上がっていましたが、日和佐がどんどん自分で仕掛けていたわけではないので、パスの捌きでテンポを上げていたのか、他に方法があるのか、勉強しなければいけないところだと思います。まあ、いつまでも勉強していちゃダメですけどね(笑)。
ウイングとしての経験もあるので、ツルや長野にアドバイス出来る面もあると思いますが、昨シーズンの1年間で、ザワさん(小野澤宏時)を間近で見られたことは、大きな経験だったと思います。ずっとAチームでプレーしていたザワさんが、昨シーズンは怪我もあり、同じBチームで一緒に練習している姿を見て、後輩への伝え方やチームの盛り上げ方、そして最後にザワさんから「俺はここまで見せたから、それを実行しないと」と言われて、本当に勉強になりました。
—— 小野澤選手は今シーズンからキヤノンイーグルスに移籍しましたが、対戦する時にはメンバーに選ばれたいですね
ザワさんとは合宿などで、よく一緒に行動をしていたので、ザワさんの移籍が決まって、少し早めに教えてもらったりしました。実際に対戦することとなったら、絶対に抜きます(笑)。これまで練習などで何回もマッチアップして、勝ったり負けたりしてきましたが、もし今後マッチアップすることになったら、絶対に抜きます。
—— キヤノンイーグルスとは1stステージの第3節ですね
トップリーグでも楽しみですし、練習試合などでも楽しみですし、今度からザワさんと敵として当たれるというのは、面白いですね。絶対に抜かせないし、絶対に抜きたいです。
昨シーズンは、ザワさんを超えたいと思ってウイングをやっていました。同じチームだと超えたかどうかの判断が、試合に出たか出なかっただけでしたが、今度からは敵として戦うわけなので、一番分かりやすい勝負の付け方が出来るんですよ。 昨シーズンはザワさんにべったりとついて、色々なことを聞いてきたので、だからこそ勝ちたいと思っていますし、勝つことが出来たら、「勝った」ということをめちゃくちゃ言ってやりたいです。ただ、もし負けたら、あの人の性格上、めちゃくちゃ言われると思います(笑)。
それは僕だけじゃなくて、ヤス(長友泰憲)も同じ気持ちだと思いますよ。「ザワさんは見てくれているかな」という気持ちは別にないんですが、いつかは「変わったね」と言われたら嬉しいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]