2014年6月 4日
#380 平 浩二 『100%の力で取り組み、後輩たちの力を引き上げる』
入団10年目の記念すべきシーズンを迎える平浩二選手。トップリーグ100キャップという目標を掲げながらも、後輩たちの成長にも期待を寄せています。平選手に新シーズンへ向けた意気込みを聞きました。
◆100キャップ
—— いつの間にか、田原選手と一緒にチーム2番目の年長者となりましたね
全然実感がないです。もう10年目です。
—— 10年目、節目の年ですね
あっという間でしたね。
—— 入部した時には、これだけ長く続けられると思っていましたか?
10年くらいやりたいなと思っていました。
—— 実際に10年が経ちましたが、どうですか?
実感がないです(笑)。もう少しでトップリーグ100キャップになるそうなので、記録として残るようになると実感してくると思います。
—— 100キャップは選手として達成したい数字ですか?
サンゴリアスのキャップ数は100を超えましたが、トップリーグのキャップ数の方はまだ超えていないので、そっちも100を超えたいですね。
—— これまでの10年間の中で、印象的な試合は?
エディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)が監督最後の年、2冠を獲った時の日本選手権決勝が印象に残っています。
それは、トップリーグプレーオフセミファイナルが終わって、ファイナルに向けて練習をしている時に、ダニー・ロッソウに思いっきりタックルされて(笑)、怪我をしてしまったんです。それでファイナルには出場することが出来ず、悔しい想いをしました。 そのシーズンは、初めてトップリーグで全試合フル出場をしていて、セミファイナルもフル出場をしていたので、ファイナルでもフル出場できれば、凄いなと思っている時に、怪我をしてしまったんです。
歩けないくらい大きな怪我だったので、日本選手権も出られないんだろうなと思っていましたが、トレーナーにサポートをしてもらって、日本選手権の決勝前に何とかグラウンドに立てる状態までには回復することが出来ました。ただ、それまでの1ヶ月間はボールも触っていなかったですし、自分の中でも体調は75%くらいだと思っていたんですが、それでもエディーさんは僕を決勝で使ってくれたんです。やはり体力的に、もの凄くしんどかったんですが、トライを獲って、優勝することが出来た時は、ずっと試合に出て優勝するよりも嬉しかったと思います。
—— 日本選手権の決勝はフル出場したんですか?
フルで出ました。そのシーズンで試合に出なかったのは、プレーオフファイナルと日本選手権準決勝の2試合だけです。プレーオフファイナルから日本選手権準決勝まで2週間空いたので、それがなければ、決勝には間に合わなかったと思います。
◆ファーストタッチでトライ
—— 1年目から試合には出ていましたか?
1年目の時は5試合に出場することが出来ました。
—— その試合数は、自分の中では多いと感じましたか?
当時は、5試合も出られたと思っていました。当時のサントリーはタレント集団で、日本代表選手ばかりだったので、試合に出られるようになるまでに3年くらいはかかるだろうと思っていました。
—— 平選手が1年目の時の監督は?
洋司さん(永友/キヤノン監督)で、僕の2年目からは清宮さん(克幸/ヤマハ発動機監督)です。
—— 1年目の時のポジションは?
最初はウイングでした。開幕戦はトヨタ自動車が相手で、最後の15分だけ出場したんですが、緊張して何も出来ず、それから数試合メンバーから外れました。 その後、ザワさん(小野澤宏時/キヤノン)が怪我をした時があって、僕が練習試合で良いパフォーマンスを出せて、トップリーグの神戸製鋼戦の先発メンバーに選んでもらいました。そこで、確かファーストタッチで、当時の日本代表だった伊藤剛臣さんを外に抜いてトライをしました。それが凄く自信になって、それから連続でメンバーに選んでもらえるようになりました。 それから1試合で1トライを獲るペースで出場していて、監督からも褒めてもらっていたんですが、今度は僕が怪我をしてしまって、そこからはほぼ試合に出ていないと思います。
◆13番が誰もいなくなった
—— そのまま試合に出続けていれば、今もウイングをやっていたかもしれませんね
いや、2年目の時に13番が誰もいなくなってしまったんです。僕がトライをした神戸製鋼戦で、大悟さん(山下/日野自動車)が大怪我をしたんです。その怪我の影響で、次のシーズンに13番をやる人がいなかったんです。 清宮さんから「センター経験者は?」という話があって、そこで手を挙げて、13番をやることになりました。試験的に13番で出させてもらったんですが、久しぶりのセンターで楽しくて、そこからずっと13番です。
—— ラグビーを始めてから、ずっとセンターだったんですか?
小学の時はウイングで、中学でセンター、高校1年ではウイング、2、3年はセンターをやって、大学ではセンターでした。
—— どちらが好きでしたか?
センターですね。特に13番はペネトレーターとしての役割を期待されるポジションで、僕はそこだけをやりたいと思っているんですよ。トライを獲りたいとは思っていなくて、いかにチームに勢いをつけられるプレーが出来るかを考えています。僕がラインブレイクで抜け出して、ラストパスをウイングに出すのが好きなんですよ。
—— オフェンスでもディフェンスでもいつも体を張っているポジションですよね
2番と13番は切り込み隊長ですよ。トライを獲るのは嬉しいですが、僕がラインブレイクをしたことでトライが生まれる方が嬉しいですね。例えば、僕がゲインしてラックを作って、次のフェーズとかで、僕が起き上がった時にはトライになっていたりすると嬉しいですよ。
—— そういう瞬間は、1試合にどれくらいありますか?
回数は考えたことはないですが、1試合に1回くらいはあると思います。ラストパスをしてトライを獲ってくれた回数は、かなり多いと思います。
◆日本代表は丸5年
—— 日本代表はいつから呼ばれたんですか?
社会人3年目からで、センターとして呼ばれました。
—— そこからずっと呼ばれていましたよね
初めて呼ばれた時から、丸5年ですね。ずっと呼ばれていましたが、当時の監督の中では僕は先発の選手ではなかったと思います。ザワさんも同じで、しかも同部屋だったので、「一緒に頑張ろう」という話をしていました。
—— 日本代表とサントリーでは、やはり違いましたか?
サントリーのラグビーとは全然違いましたね。日本代表も面白かったですよ。強豪国と戦えて、そこで勝てた時は嬉しいですね。当時の日本代表はキックを使って試合を組み立てていたので、ボールタッチは少なかったんですが、チャンスがあればアピールしようとやっていました。
◆相手の予想から少しずらす
—— 13番のディフェンスで、楽しいと感じるところはありますか?
13番のポジションだと、相手がバックスに展開して、どこにボールが来るのかが、だいたい予想できるんですよ。そこで自分の読みと相手の攻撃が一致した時、ドンピシャでタックルに入った時などは面白いですよ。 あとはピンチの時に、相手を外に追い込んでいくディフェンスの要にもなりますし、色々なディフェンスのシチュエーションがあるので、面白いですね。
—— 改めて、ラグビーの面白さは何ですか?
僕はアタックの方が好きなので、ボールを持ってゲインしたり、ラインブレイクやチャンスメイクをしたり、それによってチームが勝てば面白いかなと思います。
—— ラインブレイクなどが強みだと思いますが、なぜラインブレイクが出来るんですか?
ボールをもらう前に、ちょっと動いたりしているんですよ。相手からビッグタックルを食らわないように、相手の予想から少しずらして、正面からタックルをもらわないようにしています。あとは、ダブルタックルされるように、相手の間に入っていくようにしています。僕1人に相手が2人来れば、次がチャンスになります。
—— 1人にタックルされるよりも、2人にタックルすされる方が痛いですよね
それによって次のフェーズが少しでもチャンスになれば、痛いのは別にいいんです。
—— 自己犠牲の精神を強く感じますが、そこの楽しさはいつ頃から持っているんですか?
社会人になってからだと思います。大学の時は、ほとんどボールを離さなかったと思います。相手と2対1の状況で、味方のウイングが余っていたとしても、自分で勝負に行っていましたからね。
◆走るコースとアングルチェンジ
—— 社会人になって、なぜ変わったんですか?
その状況だったら、パスをした方が確率は高いですよね。ただ、大学の時はトライを獲りたかったので、自分で勝負をしていました。社会人では、接戦になることが多いので、そういうプレーで確実に得点を重ねることが大事になるんです。 まあ、2対1の状況だったら、普通はパスですよ。相手を引きつけて、パスして簡単にトライを獲ることがベストの選択だと思います。
—— 相手を引きつけるためのコツは?
単純な方法は、パスダミーですよね。2対1の状況で、一度パスダミーを入れるとディフェンスの動きが止まるので、そこでもう一度自分で仕掛けようとすると、確実に止めようと来るので、そこでパスを出すんです。
—— パスであったり、ボールをもらう時であったり、ダミーを入れるプレーが得意なんですか?
僕は、パスダミーは得意ではないですよ(笑)。それにパスも下手ですし、キックも出来ないんですよ。ただ、僕のプレーで評価してもらっているところは、走るコースとアングルチェンジだと思います。
—— どうすればアングルチェンジが出来るんですか?
僕の場合は、とっさに動く感じなんです。高校くらいからずっとやっているので、経験ですかね。高校の時は、アングルチェンジをするとすごく抜けたので、そればかりやっていました。高校時代は、大学生や社会人に試合の映像を見ていて、大悟さんがそういうプレーが上手で、そこから真似してプレーしていました。
—— サントリーの若手選手たちが、平選手のプレーを盗んでいる感じはしますか?
人それぞれに色があるので一概には言えませんが、僕と同じようなタイプは、大志(村田)とか、もしかしたら江見も同じタイプのような気がしますね。
—— 得意なプレーについては、極めたと思いますか?
まだだと思いますが、どこが極めた状態かも分かりません。ただ、まだ改良する余地はあると思っていて、例えば、1歩踏んで、アングルチェンジした後の次の1歩をもっと速く出来れば、もっと抜けるようになるかなと思っています。
—— そのためには、何が必要ですか?
俊敏性とスピードだと思います。トゥシ(ピシ)は、そういうプレーが上手いんです。
◆後輩に出て欲しい
—— 10年目のシーズンですが、チームの一員としての役割はありますか?
僕は何かを教えられるタイプの人間ではないんですが、若手に何かは伝えていなかければいけないと思っています。例えば、練習中に、僕が100%の力で取り組むことで、後輩たちの力をもっと引き上げられればと思いますし、試合中にも率先してそういうプレーを見せていければ、チームが良い方向に進むんじゃないかなと思っています。若手が「あんなオッサンが頑張ってるから、僕も頑張ろう」と思ってもらえたらいいですね(笑)。
—— 自分の中で、オッサンの意識はありますか?
いや、もう32歳ですから、ありますよ(笑)。フォワードだったらまだいけると思いますが、バックスの中では、だいぶ上の方ですよ。
—— 体力的にはどうですか?
モチベーションなどのメンタルの方が大変ですね。正直な話、僕の中ではトップリーグの試合でも若手に出場してもらいたいんですよ。トップリーグの100キャップは取りたいんですが、後輩に出て欲しいという気持ちもあって、どちらを優先するかといえば、後輩の出場ですね。
—— 今シーズンはどんなシーズンになりそうですか?
チームとしては2冠の奪回です。勝っていた2シーズンは、練習でも試合でも、変えたといっても、ほぼ同じことをしていたんです。それではやはり勝てないので、生活の面も含めて、今シーズンは変わるはずです。 周りのチームのレベルが上がっていますし、今までは僕らが1歩先を進んでいた2年間だったんですが、今ではもう追いつかれ、追い越されてしまっていると思います。アタッキング・ラグビーは変わりませんが、今までとは違うことをすることで、選手のモチベーションにも繋がると思います。
—— 個人としては、どういうシーズンにしたいですか?
将来は大志が13番を背負っていくと思うんです。チームでも経験を積んで、日本代表に定着してもらいたいですね。もし大志が調子を崩した時に、誰も13番がいなくなってしまうことは避けなければいけないので、しっかりと試合に出られるように準備はしたいと思います。
—— 引退について考えたりするんですか?
年齢もあるので、少しは考えていますよ。ただ、そこについては、チームがどう判断するかだと思います。
—— ファンの皆さんには、今シーズンのサントリーのどこに注目してもらいたいですか?
そこはもちろん、アタッキング・ラグビーですよ。この軸はブレちゃいけないので、その軸に何を追加していくかだと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]