2014年5月14日
#377 野村 直矢 『ラグビーはグラウンドの外でも繋がっている』
◆引退する感覚がない
—— 昨シーズンをもって引退することとなりましたが、やり残したことはありませんか?
そういうことは考えたことがなかったですね。引退はしますが、スタッフとしてチームに残るので、自分が引退するという感覚がないんです。負けてから時間が経ちましたが、今でも身体は動かしています。もしかしたら、選手として戻るかもしれません(笑)。
—— 選手としてではなく、スタッフとしてチームに関わることについては、どう感じていますか?
ワクワクしています。選手としてしか見えない部分もあると思いますし、スタッフとして初めて見えてくるところもあると思っています。スタッフとしてチームに関わることは初めてなので、少し怖さもありますけどね。
—— ワクワクしているということは、選手としては悔いが残っていないということですか?
やろうと思えば、まだ選手としても出来ると思っています。ただ、サントリーとして、僕が選手として残るよりもスタッフになった方がベターなんだったら、引退するタイミングはいつでも良かったんです。チームに貢献出来るのであれば、立場は選手でもスタッフでもコーチでも、何でも良いんですよ。
3年前くらいから、引退した後はスタッフになれたらいいなと思っていました。コーチングにも興味があって、一度スタッフとしてチームのマネジメントや運営のことを知ってから、朗さん(浅田/元主務・元アシスタントコーチ)みたいにコーチになるのも遅くはないと思います。その時にチームから必要とされればの話ですけどね。
それに、練習でいきなり「入ってくれ」と言われてもいいように準備をしています。もし人手が足りずに、選手の練習に僕が入ることで、その練習がスムーズになるのであれば、いつでも入れるように準備をしています。
◆人生の中での初めての日本一
—— 選手として8シーズンを過ごしましたが、一番印象に残っていることは何ですか?
2006-2007シーズンで初めて優勝した時ですね。僕の人生の中でも初めての日本一だったので、「こういう感じなんだ」って思いました。優勝しても、次の日にはあっけらかんとしてるんだなって(笑)。けど、優勝するとスッキリしますね。優勝出来ずにシーズンを終えると、スッキリしないんですよ。
今のチームと昔のチームは全然違っていて、今はチームの規律や文化が出来ていて、最近の優勝も嬉しかったですよ。優勝にはそのシーズン毎に違う嬉しさがあります。
—— 2013-2014シーズンの嬉しさは何ですか?
嬉しさはないですね。悔しさは優勝出来なかったことです。自分のプレーに関しては、あまり試合に出られなかったので、試合に出られるレベルではなかったということだと思います。その中で、試合に出られなくても、やれることはあると思って動いていましたし、少しはチームに貢献できたとは思います。
試合に向けての準備でもそうですが、「これで良い」というものはないと思うので、スタッフになってもチームが良い方向に行くようにベストパフォーマンスを出していこうと思っています。 ◆2本のキックで自陣から敵陣まで —— 野村選手と言えばキックですが、一番印象に残っているキックはありますか? 僕が2年目の時にリーグ戦のトヨタ自動車戦で、自陣のインゴールで青木がターンオーバーして、そこからキックでハーフウェイラインまで戻したんです。そして相手ボールのラインアウトでペナルティがあって、そこからまたキックして、敵陣ゴール前5mくらいまでゲインしたんですよ。2本のキックで、自陣インゴールから敵陣ゴール前5mまで行ったのは印象に残っています。
その試合は、7対24で負けていて、僕が入って31対31の同点にすることが出来ました。雪の影響で1週遅らせた試合で、その翌週にジャパンの発表があって、僕もスコッドに入ったので、すごく覚えています。 —— 高校から15年間一緒にプレーしてきた篠塚選手とは、一緒にはプレー出来なくなってしまいますね あいつは高校の時からずっと試合に出ていて、僕は社会人4年目くらいから、試合に出たり出なかったりを繰り返して、色々なことを見てきました。篠塚だって、今後ずっと試合に出続けることも難しくなってくることがあるかもしれないので、そういう時にはアドバイス出来ることがあると思います。けど、ずっと試合に出て、頑張っている姿を見たいですね。 —— サンゴリアスで得たものとは何ですか? 同期の篠塚や青木、隆道(佐々木)、剛(有賀)はずっと試合に出ていて、僕は試合に出たり出なかったりして、若手の選手も試合に出られなかったりして、みんなが試合に出続けられるわけじゃないので、試合に出られない選手にアドバイス出来るだけの経験を積んだと思いますし、悔しい想いも積んできたので、そういう経験を積むことが出来て良かったと思います。 ◆今シーズンが本当に勝負 —— 選手を辞めて、改めて感じたラグビーの面白さは何ですか? いま感じるラグビーの面白さは、ラグビーはグラウンドの外でも繋がっているということだと思います。例えば、昔のサントリーで言えば、自分のことをメインに考えている選手が多くて、個々の力は凄いんですが、勝てない時期がありました。
勝てるようになった時には、チームの一体感や選手同士のコミュニケーション、規律やルールがしっかりと出来ていて、そういうことを守れる選手が多くなって、周りのことを気遣える選手や自分から動きだせる選手が多くなって、そういう部分って、グラウンドにも繋がっていると思うんですよ。 —— 自分のことをメインに考えていた選手が、なぜ変われたんだと思いますか? 勝てなかったからだと思います。だから、昨シーズン勝てなかったということは、これからサンゴリアスが良い文化を作っていくためには、今シーズンが本当に勝負のシーズンになると思います。選手やスタッフが変わるということではなくて、また勝てるチームになるためには、大事なシーズンになると思います。 ◆みんながグラウンドでベストを出せるように —— 今シーズンからはスタッフになるわけですが、具体的にはどういう仕事をやっていくんですか? 具体的な内容は、やってみないと分かりません。ただ、僕が出来ることは、選手を辞めたばかりですし、選手会長もやっていて、選手から一番近い立場にいるので、選手のことを一番見られるスタッフにならなければいけないと思います。 —— 次の選手会長には、どういったことを引き継いでいって欲しいですか? サンゴリアスが大事にしている、グラウンド外でも自分たちのプライドを持ってやっていって欲しいと思います。 —— 最初は同期が9人いて、今は5人になりましたね。まだ半分以上の同期がチームに残っていますが、同期に対してメッセージはありますか? 同期のみんながグラウンドでベストを出せるように、僕もベストパフォーマンスを出します。 —— これからに向けた中期的な目標はありますか? 今シーズンからはスタッフとしてチーム運営に関わらせてもらいますが、将来はキヨさん(田中澄憲/チームディレクター)のように、チームディレクターになってチームを動かしていけるようになりたいと思います。その時に、一緒にプレーしていた同期や仲間の誰かと、チームを良い方向に持っていけるような人になりたいと思っています。 ◆まだ成長出来る —— 8年間、応援してくれたファンの皆さんにメッセージをお願いします 8年間、応援ありがとうございました。試合に出られる時、出られない時はありましたが、いつも会場で声をかけて頂き、本当に支えになりました。これからもチームに残るので、変わらぬ御指導、御鞭撻のほど、宜しくお願い致します。 —— サンゴリアスのメンバーにメッセージをお願いします 同期のみんなには、長期的な怪我をしないで、長くラグビーをやって、自分のベストを出せるように頑張って欲しいです。31歳になりますが、僕自身もまだ成長出来ると思っています。川沿いを走ったりしているんですが、まだタイムが伸びているんですよ(笑)。ウエイトでも、昨シーズンにはベストを更新することが出来たので、同期のみんなもまだベストを更新出来ると思います。
他のメンバーについては、負けた次のシーズンが凄く大事だと思います。若い選手の中には、昨シーズン負けて、社会人で初めて負けることを経験した選手もいて、負けた後にチームがどう進んでいくかが大事なので、今シーズンに向けて良い準備をして、また2冠を獲れるように1人1人がチームのことを考えて行動できるようになって欲しいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]