SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2014年4月23日

#374 村田 大志 『開幕戦に照準を合わせる - 2』

◆入ったからには最後までやろう

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—— 大学を卒業する時にはラグビーを辞めようという気持ちはなかったんですか?

大学卒業する時もありましたね(笑)。その時はもうラグビーを続ける気持ちがなかったので、他のチームから声をかけて頂いていましたが、全て断っていたんです。社会人でラグビーを続けて、途中で通用しないと思ってから、仕事を始めるよりは、最初から仕事をしていた方が、先があると思っていたんです。 そういう時に、坂田さん(前ゼネラルマネージャー)に声をかけて頂き、サントリーは仕事をしながらラグビーが出来て、「サントリーはめちゃくちゃ良い会社だ」と思いました(笑)。それにサントリーだったら、就職活動をしていてもなかなか入れるような会社じゃないですし、すぐに断らずに、考えてみようと思いました。 かなり悩みましたが、坂田さんから「そろそろ決めて欲しい」と言われて、その場の勢いで「行きます」って言ってしまいました(笑)。当時の話を坂田さんに聞いたら、「来ないだろう」って思っていたそうです。坂田さんの押しのお陰で、サントリーに入ることが出来ました(笑)。

—— 卒業する度に悩んでいた理由は何ですか?

自分の力に対して悩んでいました。実力があったり、自信があれば、悩まずに続けてきたと思いますが、卒業して次のステップに上がる時に、自分の可能性を考えて、通用しないんじゃないかと悩んでいましたね。

—— 実際にサントリーに入ってどうでしたか?

もちろん通用するとは思っていませんでしたが、レベルの高さに、「当分試合には出られない」と思いましたね(笑)。

—— サントリーでの1年目が終わった時は、続けるか悩みませんでしたか?

それはさすがに考えませんでした。入ったからには最後までやろうと思っていました。僕が入る1年前にエディーさんが監督になって、日本選手権で優勝していて、僕が入った時には全員が2冠を目標に取り組んでいたので、選手全員のモチベーションが凄く高くて、試合のメンバーに入る隙がないように感じました。

—— その時にメンバーに入るために、どういうことを考えたんですか?

その時は我慢しなければいけないと思いましたね。社会人は甘くないと思っていましたし、今は経験を積む時期で、いま我慢すれば、次のシーズンにはどうにかなるかなと考えていました。ただシーズン後半に怪我をしてしまい、「シーズン最後まで持たなかったか」と思いました。

—— 我慢すると思えたということは、経験を積めばメンバーに入れるという感触があったんですか?

社会人でラグビーをすると決めた以上は、試合に出たかったので、しっかりとトレーニングを積んでいけば、サントリーのラグビーをやる上で必要なことは身についていくと思いましたし、自分の強みは変えずに伸ばしていこうと思いました。試合に出るメンバーを決めるのは僕ではないので、いつか勝負が出来る日が来るまで、我慢してトレーニングをしようと思っていました。

◆重要な試合を見分ける

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—— 勝負が出来ると思えたのはいつ頃ですか?

怪我から復帰したのが2年目の網走合宿の時で、その時はプレーが酷過ぎて、ずっと敬介さん(沢木/現U20日本代表ヘッドコーチ)に怒られていたので、練習に行くのが嫌になっていました(笑)。ただ、敬介さんは期待していない人には怒らない人なので、敬介さんの期待に応えなきゃいけないという想いで練習に取り組んでいましたし、「みんなに追いつきたい」という気持ちでやっていたら、途中から良い感じになってきているのを感じることが出来ました。

—— いつ頃から試合に出られるようになりましたか?

ウインドウマンス前のサニックス戦でリザーブに選んでもらえて、ウインドウマンス明けのNTTドコモ戦でウイングとして先発メンバーに選んでもらいました。そこで良いプレーが出来ました。

—— ウイングとしてメンバーに選ばれた戸惑いなどはありませんでしたか?

試合のメンバーに選ばれるならば、「ウイングだろう」という思いがありました。ザワさん(小野澤宏時)がウインドウマンス中に日本代表でチームから離れていた時に、練習試合でウイングとして出場していたので、チームからも「ウイングにチャレンジしろ」というメッセージだと感じていました。

—— 少ないチャンスをものに出来た要因は何だと思いますか?

僕はズルいところがあって、重要な試合を見分けるというか、「この試合で活躍すれば、トップリーグの試合に出られる」というようなことを考えながらやっていました。

—— それが感じられても、集中した時に100%の力を出しきれない選手もいますよね

重要な試合だからといって、特別なプレーをするわけではなくて、自分の力を100%出しきることだけを考えてやっています。それ以外のことを考えてやったことはないですね。

試合では100%の力を出せないことの方が多くて、プレッシャーから体が硬くなることもダメですし、逆にリラックスしすぎて集中していないプレーをすることもダメだと思います。サントリーはその選手の120%を期待してメンバーに選ぶチームではないので、いつもの力の100%を評価してもらって、その力がトップリーグで通用するかを判断してもらっているので、いつも通りの100%の力を出すイメージでやっています。あまり余計なことを考えてもしょうがないですからね。

—— 日本代表に選ばれ、試合のメンバーに選ばれるようになると、今度は更にレベルの高い海外のチームと対戦することになります。そこでどうやって勝利するかを考えることは楽しみですよね

初めて日本代表に選ばれたので、まだ分からないですね(笑)。今回のターゲットは6月のイタリア代表に勝つことだと思うので、それに向けてしっかりと準備をしていくと思いますが、実際に合宿に入ってみないと、全く分からないという感じです。

◆若手の成長次第

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—— 社会人になって優勝しか知らなかったと思いますが、昨シーズンは優勝することが出来ませんでした。どういう想いがありますか?

正直、「負けるんだ」と思いました。僕が出ていない試合で、あれだけ負けたことも初めてでした。リーグ戦では僕は出場しませんでしたが、NECとパナソニックに負けて、プレーオフのファイナルでもパナソニックに負けて、そこで初めてトップリーグで出場した試合で負けました。 その時は「サントリーが負けるのか」という感じで、実感が湧かなかったんですが、日本選手権準決勝の最後の5分くらいは「怖い」と思っていました。

—— 勝っていた2012-2013シーズンと負けた昨シーズンでは、感じるものが違いましたか?

自分自身の調子も違うので一概には言えませんが、チームとしてはモチベーションの部分が一番難しかったんじゃないかと思います。勝ち続けることは良いことだけじゃないですし、チームスローガンが「STILL HUNGRY」だったとしても、他のチームの方がハングリーになりやすい環境ですよね。

—— 昨シーズンではフィットネスのアドバンテージが少なくなっていましたね

そこはしょうがない部分ですよね。日本代表の合宿に参加した選手は、エディーさんの文化を各チームに持ち帰っていますし、エディーさんがサントリーの監督になって、サントリーが勝つことで、相乗効果で日本のラグビーも良くなり、そしてエディーさんが日本代表の監督になって、更に日本のラグビーが良くなりましたよね。日本のラグビーが強くなり、良いこととして捉えています。

—— 無冠で終わったことで、更にハングリーさが強くなりますか?

強くなっていると思います。今はシーズンオフですが、クラブハウスに行けば、仕事終わりに若手選手が凄くトレーニングをしていますし、今シーズン更にチームが強くなるのは、若手の成長次第だと思います。

—— 昨シーズンは多くの若手選手がトップリーグの試合に出場し、チーム内でも良い刺激になっているんじゃないですか?

試合に出ることで若手選手も良くなっていると思います。ソネ(仲宗根)も良くなりましたし、長野も良くなったと思います。試合に出たことで気づくこともあったと思いますし、僕自身もそうでした。僕らよりも、更に試合に出ている人たちにチャレンジすることになるので、普通のことをしていたのでは、試合には出られないと思います。ただ、若手選手全員から「やってやる」という気持ちは伝わってきます。

◆難しいことは波を無くすこと

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—— 話が変わってしまいますが、これだけ考えてラグビーに取り組んでいると、コーチなどに向いているんじゃないかと感じます

直弥さんを見ていると、凄く我慢強いと感じます。監督やコーチは待つことが凄く重要な仕事で、選手に与えたことを、その選手が出来るようになるまで待たなければいけませし、選手が成長するのを待たなければいけないので、僕はそういう仕事は向いていないと思います(笑)。

—— 選手として難しいと思うことは何ですか?

選手として難しいことは、波を無くすことだと思います。その日の練習では良いプレーをしていても、次の日の練習では良くないプレーをしていたのでは、信頼はされません。けれど、低いレベルで安定していても意味はないので、高いレベルをずっと保つことが一流選手で、サントリーにいる外国人選手を見ていると、そう感じます。

—— サントリーにいる外国人選手を見ていて、高いレベルを保つコツなどは感じますか?

そもそも僕らとの経験値のレベルが違いすぎますし、ワールドカップで勝つことをターゲットにしてトレーニングをしてきた人たちなので、僕らが思いもつかないことを考えていると思いますし、想像も出来ないような環境に身を置いてきたからこそ、トップリーグでいつでも同じパフォーマンスが出せるんだと思います。

—— そういう境地にたどり着けそうですか?

それは無理ですね(笑)。僕自身、目指しているところはありませんが、自分がどれだけ成長出来るかを楽しみにしています。どういう選手になりたいかという選手像は持っていますが、「どういうレベルに行きたい」とか「ここがゴールだ」ということは考えていません。

—— どういう選手像を持っているんですか?

オールブラックス(ニュージーランド代表)の13番の選手で、コンラッド・スミスという選手が好きで、運動能力は高いと思うんですが、オールブラックスの中で一番高い部類ではないと思うんです。その中で、自分の役割をしっかりと見つけて取り組んでいると感じます。
彼のようなプレーは、日本人選手でも出来るようになると思うんです。僕は凄く足が速くてたくさんトライを獲れる選手でもなければ、相手を吹き飛ばしながら進んでいくような選手でもないんです。コンラッド・スミスも凄く考えた結果、ああいうプレースタイルになったんだと思うので、そういう選手になりたいと思っています。

—— 対戦出来たら面白そうですね

面白くないですよ(笑)。倒されちゃいますよ。対戦するのは怖いですが(笑)、一度生でプレーしているところは見てみたいですね。

◆自分の役割を見つけられたらいい

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—— 今シーズンの目標は?

もちろん2冠を獲りにいくことですが、2冠を獲りにいく中で、ずっと13番を着たいと思っています。

—— 昨シーズン無冠だったことは、どれだけ悔しいものですか?

僕がサントリーに入った時期もありますが、優勝するのが普通になっていたので、まだ実感が湧かないというか、悔しさというよりも「本当に獲れないんだ」という感じです。けれど、「また獲りたい」と思っています。あの優勝した感覚というのは、素晴らしいものだったし、あの感覚が味わえないのは寂しいですね。

—— 今シーズン勝たないと、更に厳しい状況になってしまいますね

昨シーズンまではサントリーが日本選手権で3連覇していたので、他のチームは3年間日本選手権で勝てなかったということです。もう1回すぐに勝つことは、他のチームもなかなか出来なかったことなので、凄く難しいことだと思います。その分、今シーズン勝つことが出来れば、その喜びは今までよりも大きいと思いますし、その中に若い選手が増えているべきだと思います。そうならなければ、また勝てないとも感じています。

—— 日本代表での目標はありますか?

早く日本代表の中での自分の役割を見つけられたらいいなと思います。今までと同じことをやっていたのでは試合に出られないと思うので、「自分がチームの中で必要とされるにはどうすればいいのか」を見つけられるようになればいいと思っています。日本代表で色々なことを吸収して、サントリーに帰ってきて、チームに還元出来るようになりたいですね。
エディーさんが監督なので、アタッキングチームだと思いますし、アタックの部分は求められると思います。日本代表にはスペシャルな選手がいるので、そういう選手をサポート出来るように頑張りたいと思います。

—— 4年目のシーズンとなりますが、ファンの人に注目してもらいたいポイントはありますか?

「前のシーズンよりもいいよね」と言ってもらいたいですし、日本代表に行くのであれば、「日本代表に行って成長したね」と言ってもらいたいので、しっかりと成長した姿を見てもらいたいと思います。
体も心も充実しなければ良いプレーは出来ないと思いますし、あと開幕戦を経験したことがないので、そこに照準を合わせられるようにしたいと思います。

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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