2014年3月19日
#371 尾崎 章 『いつかは引退する』
見るからにラガーマン、見るからにプロップ、ラグビーを体現しているベテラン尾崎章選手が、とうとう今シーズン限りで引退となりました。12年目、文字通り第一線で活躍してきた尾崎選手のサントリー、そしてラグビーへの想いを訊きました。
◆僕の責任
—— 今シーズンはプレーオフトーナメントファイナル、日本選手権準決勝で敗れ、シーズンが終了しました
負けてしまったので、この負けを次にどう活かすかだと思います。若い選手も多く出場したので、その若い選手が歳を重ねていって振り返った時に、「あの負けがあったから、自分たちはここまで来れている」ということを思ってくれればいいと思います。
—— 2009-2010シーズンの日本選手権1回戦でNECに抽選で敗れてから(試合は10対10の同点)、日本選手権3連覇、トップリーグ2連覇と続いてきました。今回の敗戦は、2009-2010シーズンの敗戦のようなきっかけになると思いますか?
負けという結果は同じですが、あの時とはメンタルの部分で、良い意味で違うと思います。振り返ってみると、昔は選手全員が同じ方向を向けていなかったかもしれないという想いがありますが、今はみんなが1つになって同じ方向を向いてやっているので、次のシーズンが楽しみです。
これから選手自身がもっと自分に厳しくなって、率先してやるようになると思いますし、自ら厳しいことを選択してやると思うので、絶対に強くなると思います。
—— 振り返ってみて、今シーズンのチームには何が足りなかったのでしょうか?
これは僕だけの考えですが、僕らベテランやリーダーたちがチームを良くしようとして、色々な決めごとを作って、みんなに促していたんですが、振り返ってみると、枠を作ってしまって、その形にみんなをはめてしまっていたと感じています。
選手自身が気づくのではなく、僕らが"させて"しまっていたので、本当はもっと違うレベルのことをしなければいけなかったと、反省しています。
昨シーズンまでは色々な決めごとを作って良い結果で終えることが出来ましたが、今シーズンはもうそのレベルではなかったのに、昨シーズンの成功例を当てはめてしまって、疑うことをしなかったと思います。
これまで勝ってきた通りにやれば、今シーズンも勝てると思いやってきてしまったところが、良くなかったと思います。日頃から試合に負けたら、「僕らリーダーの責任」と言ってきたので、今シーズン勝てなかったのは、僕の責任だと思います。
◆すべてはグラウンドに繋がる
—— 今シーズンはどのような決まりごとがあったんですか?
「ロッカーを綺麗にしましょう」とか「この場所を綺麗にしましょう」など、「僕らが言ってきた」ということが、結果的には「選手にやらせてしまっていた」んです。もしかしたら選手が自主的に行動を起こし、僕らが言わなくてもやっていたかもしれませんし、僕らはもっと違うレベルのことを言わなければいけなかったのかもしれません。
やはりリーダーの1人として、これまでやってきたこと、成功してきたことを疑わずに、さらに深く考えられなかったと思います。その時は表面上は考えていたと思っていたかもしれませんが、考えていなかったからこそ、今シーズンの結果に繋がったと思いますし、そこが僕の反省点です。来シーズンはもっと良いチームにするため、勝てるようにするために、次のリーダーたちが考えてやってくれると思います。
—— 次のレベルに行くためには、どういうことを考えながらやっていく必要があると思いますか?
"すべてはグラウンドに繋がる"と考え、やるべきだと思います。今の状況を乗り越えられれば、絶対にチームは強くなります。グラウンドの中ではチーム(コーチングスタッフ)が方針を示してくれるので、それに対してトレーニングを積んでいくんですが、それ以外の部分は選手しか出来ない部分なので、そこがこれから更に変わると、次のレベルに行くきっかけになると思います。
—— いろいろなチームと対戦してみて、今シーズンはどのチームもレベルアップしていたと思いますか?
どのチームもレベルアップしていたので、昨シーズン通りにはいかなかったと思います。ただ、まずは相手チームのことを考えるよりも、もう一度自分たちを見つめ直して、この負けをどう活かすかだと思います。次に向けて前を向いてやっていくことが大事だと思います。
だからこそ選手1人1人が、1日1日の練習に対して、簡単な言い方になってしまいますが、情熱を持って1つのトレーニングに対してもファイトしていくことが大事になってくると思います。
◆練習もさせてもらえない
—— 若手選手は負けることも少なかったので、そういった考えに至るまでには時間がかかるかもしれません。尾崎選手はいつ頃からそういう考えが持てるようになりましたか?
実際に僕も出来ているかは分かりませんが、僕の場合は2年目くらいから、「将来、いつかは引退することになる」と思いながらトレーニングをするようになりました。1年目の時は土田(雅人)監督の時で、僕と池谷は全然ダメで、他の選手と一緒だと危ないからと、練習もさせてもらえないくらいでした。そして2年目になった時に、このままだったら3年目の時に引退することになると思いました。
そういうことが想像できれば、毎日の練習の中で1つのトレーニングや1つのプレーを本気で出来ると思うんです。同じことをキヨさん(田中澄憲/現チームディレクター)も「遅かれ早かれ引退することになるんだから、1日1日でしっかりと良いチャレンジをして、自分自身にファイトしていたら悔いなく終われる」と、引退される時に言っていました。
—— 2年目で引退を想像しつつトレーニングしながらも、5年目くらいまではなかなか試合に出場できない時期が続きましたが、その時はどう乗り越えたんですか?
その当時は、あまり良い考えではないかもしれませんが、「自分の中で良いチャレンジをして、良いプレーをしていると感じているならば、いつ終わってもいい」と思ってやっていました。
「今年で引退かな」と思ってシーズンをスタートしても、そういう想いでやっている中で、シーズンが終わった時に「今年も違った。また違った」ということを繰り返していました。そして、ある時から試合にも出られるようになってきました。
—— その想いがブレることはありませんでしたか?
ブレそうになる時はありましたが、引退を決めるのは選手ではなくチームなので、僕としては「準備をしっかりすることしか出来ない」と思ってやっていました。
—— 自分との戦いを続けてきて、やはり試合に出るということは嬉しいですよね
試合に出られて勝つと嬉しいですね。
—— 試合に出続けられるようになってきて、気持ちに変化はありましたか?
毎日の練習にチャレンジするだけだったので、試合に出続けられるようになってきたとは思ったことがないですね。毎試合不安になって、試合が終わってから「今日は良くなかった」とか思ったりしていました。
特に全勝で終わった昨シーズンは、ケガ人も多くて、あまり調子が良くなくても試合に出させてもらっていて、「ちゃんと良いプレーをしなきゃダメだ」と思いながらやっていました。
◆サントリーに育ててもらった
—— これまでのシーズンを通して、一番辛かった時期はいつですか?
あまり辛いとかは、考えたことがないですね。
—— では、これまでやってきた中で、良かったと思えたことは何ですか?
試合に勝つと、すべてが報われるような気がします。ノンメンバーなど試合に出ていない選手も、報われるんじゃないかと思うんですよね。初めて2冠を獲った2011-2012シーズンは、怪我をしていてプレーオフや日本選手権には出ていないんですが、チームに"日本一の怪我人"にしてもらって有難かったです(笑)。だから、復帰した次のシーズンでは、「もう1回2冠を獲りたい」という想いでやりました。
今シーズンは無冠に終わってしまいましたが、何においても常に右肩上がりということはないので、ここからどう進んでいくかが大事になると思います。そこを突き抜けられれば、もっと強いチームになれそうですよね。
—— ポジション柄、怪我との戦いもあったかと思いますが、怪我には強い方ですか?
8年目か9年目くらいまでは、ほとんど怪我をしなかったんですが、それ以降から怪我をするようになってきました。S&C(ストレングス&コンディショニング)やメディカルの人たちには、本当にお世話になりましたね。けど、このチームは、「怪我をして出来ません」「じゃあ、ダメだね」となるのではなくて、出来るようになるために、どうやってアプローチしていくかを柔軟にやってくれるチームで、だから僕もこの歳までプレーできたと思います。
このチームじゃなければ、僕はすぐにダメになっていたと思います。サントリーじゃなければ、ここまでプレー出来なかったと思います。他のチームでプレーしたことがないので分かりませんが、僕は本当にサントリーに育ててもらったという想いが強いですね。
—— これまで体型などは変わっていませんか?
入ってきた時は、体重が120kgくらいあったんですが、今はその時よりも10kgくらい体重が減って、更に身体が強くなっています。
—— 髪型はずっと変わらないんですか?
周りからは、「なんでその髪型なの?」って聞かれるんで、「サッカーが好きで、ロベルト・カルロスに憧れて」って冗談で言っているんです(笑)。本当は、1年目の途中から坊主にしたんですが、「練習にも参加させてもらえないのに髪型なんて気にしてられない」と、自戒の意味も含めて始めたんです。
坊主にしたのはそういう理由だったんですが、坊主は合理的ですし、最近は坊主のイメージも良くなってきたので、「もうこのままでいいか」ってなりましたね。
◆日本代表3キャップ1トライ
—— 今シーズンを持って、引退することとなりましたが、引退は自身で決めたんですか?
「今シーズンで引退」とチームからは言われましたが、6年目くらいから「本当に今年1年だけだ」という想いでやってきたので、自分で決めたようなものだと思います。
—— やり残したことはありませんか?
チームのことではなくて、個人のことで、引退するからもう言っていいと思うので言いますけど、ワールドカップに出たかったですね(笑)。
—— ワールドカップに出場できなかったのは、日本代表に選ばれたタイミングの問題でしたか?
いや、自分のスキルの問題です(笑)。日本代表では、3キャップ1トライです。
—— 素晴らしい!トップリーグではトライをしたことはありましたか?
トップリーグだと4トライです。ただ、ここ最近はトライをしていないですね。
—— 日本代表での思い出はありますか?
日本代表としての思い出は、ほとんどないですね。日本代表よりも、サントリーの思い出の方が強いです。
—— サントリーでのキャップ数は?
確認をしていないので、はっきりとした数字は分かりませんが、100キャップは行かなかったですね。狙ってキャップ数が増える選手だったらいいですけど、僕はそんな選手ではなかったので、キャップ数は後からついてくるものだと思っています。50キャップを超えさせてもらっただけでも有難いです。
—— 後輩たちにはワールドカップに出て欲しいと思いますか?
やっぱり、今はエディーさん(ジョーンズ)が日本代表のヘッドコーチをやっていますし、敬介さん(沢木)も日本代表に関わっているので、トップリーグでしっかりと勝ち、また2冠を獲って、サントリーの選手が少しでも多く日本代表に選ばれて欲しいと思っています。
—— プロップというポジションで世界と戦うことは大変なことだと思いますが、強い日本代表になっていくためにはどこがポイントになると思いますか?
今の日本代表は、昨年のオールブラックス戦ではスクラムでターンオーバーもしましたし、他の試合を見ても対戦相手は日本のスクラムを嫌がっていると感じるので、今の日本代表がやっているように、スクラムでは低さと8人で組むことを追求することだと思います。
それにスクラムのルールも変わって、そのルール変更は、どちらかと言えば日本に有利に働いていると思うので、このまま追及していけばいいと思います。エディーさんが日本代表のヘッドコーチになったことで、世界を相手にしたコーチングをやってくれているので、いちラグビーファンとして楽しみですよ。
—— プロップとして、あるいは1番として、伝えていきたいサンゴリアス・プライドはありますか?
新田も石原も、動ける上にスクラムも組めるので、すごく良い選手だと思いますし、世界などもっと自分よりも強い相手を意識してトレーニングをしていけば、もっと強くなれると思います。日本選手権準決勝の東芝戦ではスクラムで押されてしまいましたが、何度も言いますが、この負けを次にどう活かすかだと思います。
スクラムだけを切り取れば押されたということになると思いますが、シーズン全体を通して見れば、ターンオーバーの数も多いですし、ルール変更もサントリーにとっては良い方向に働いているので、このままで良いというわけではありませんが、今シーズンの自分のプレーを見直して、良くしようと思えば、もっと強くなれるので、心配はしていないですね。
結果的に見て、東芝戦は相手の方が上だったということだと思います。そして自分たちの弱いところから目をそらさずに、そこに対してどうするかだと思います。次のシーズンでは、それを乗り越えてくれると思うので、期待しています。
—— 引退することが決まって、気持ちや生活の部分で変わったところはありますか?
これまでラグビー界を離れて会社で働いているOBの方々は、土田さんを筆頭に仕事が出来る人ばかりなので、僕もそうなりたいですね。ただ、仕事が出来ると思われたいということじゃなくて、会社でしっかりと務めを果たすことで、後輩たちの見られ方も変わってくると思うので、今まで以上にちゃんとしなければいけないという想いがあります。
—— 仕事の面での目標はありますか?
まだ漠然としていますが、仕事が出来るようになりたいですね(笑)。先ほどの話になってしまいますが、ラグビーでも仕事でも一緒で、チームや課、会社が決めたことに対して、しっかりとフォーカスしてブレずにやるということが大事だと思います。
◆12年間、応援ありがとうございました
—— 今はシーズンオフの期間ですが、またチームが始動したら、ウズウズしてくると思いますか?
まだ分かりませんが、ウズウズしたら、OBにプロップだった人が多くて、ヤマさん(山岡)や圭太(長谷川)、林、東野、伊勢田とかがいるので、集合して、飲みに(笑)行きたいと思います。
—— 今後、ラグビーに関わっていきたいと思いますか?
伊勢田や俊平(伊藤)とかは応援団をやっていて、僕は応援団として関わるかは分かりませんが、1人でも多くの方を試合会場に連れていきたいと思っていますし、僕がしっかり仕事や行動をすることで、ラグビーをしている人やしていた人に対して良い印象を持ってもらえるようにして、サンゴリアスのファンを1人でも増やせるようにしたいと思います。
—— これまで応援してくれたファンの方へメッセージをお願いします
僕らのチームの場合は、試合が終わった瞬間から、次の試合の準備のためのコンディション作りをしているので、試合後にファンの人たちのところへ行き、1人1人にサインや挨拶をすることが、なかなか出来なかったんですが、本当に皆さんには感謝しています。12年間、応援ありがとうございました。あとサントリーのみんなには、育ててくれて感謝しているということを伝えたいです。
—— 若手選手へ伝えたいことはありますか?
ラグビーを永遠に出来るわけではないので、引退することをネガティブに捉えるんじゃなくて、引退することを一度イメージすることで、練習に対する気持ちの入れ方も変わってくると思います。いつかはプレー出来なくなるということを自分に言い聞かせることで、何をしなければいけないかが見えてくると思うので、そういう想いを持って強くなっていって欲しいと思っています。
—— 尾崎選手は自身がイメージしていたよりも、長くプレーできましたか?
長くやらせてもらいました。妻には「ラグビーを引退してから結婚する」と言って、「それ何歳よ」って言われたことがありました。今だから冗談で言えますが、そういうことがあったので、「引退してから結婚してたら、36歳で結婚だったね」って(笑)。結婚できて、本当に良かったと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]