2013年12月11日
#358 平 浩二 『迷ったとしても「これをやり切れば勝てる」という基礎がある』
日本代表13番として2大会連続でワールドカップに出場した平浩二選手。日本代表を離れた後は、サントリーでラグビーと仕事を益々充実させている様子。「サントリーのラグビーは面白い」と語る平選手の、今の心境を聞きました。
◆若手選手はコアになって欲しい
—— 2ndステージ初戦の神戸製鋼戦でゲームキャプテンを務めましたが、キャプテンは珍しいですよね
珍しいですね。去年1回やっていますが、これで公式戦は2回目です。
—— 神戸製鋼戦の感想は?
前半は、ウインドウマンスの4週間、府中に残ったメンバーを中心に良いラグビーが出来たと思います。4週間のハードワークの成果が出ました。
—— キャプテンとしてはどこに気をつけましたか?
パク(スンチェ)さんやノム(野村直矢)が久々のスタメンだったので、その辺のコントロールに気をつけました。エナジーというか、やる気を出させるという点です。
最初のプレーで、パクさんがノックオンをしていまいましたが、たまたまパクさんのミスになっただけであって、気合いが入っている証拠だと思いました。
—— 幸先良いスタートですが、2ndステージの展望は?
2ndステージの相手は全部強いです。神戸製鋼戦のようなフィジカルなゲームが多いと思います。なので1戦、1戦、勝ってから修正していくことが大事なのではないでしょうか。負けられない試合ばかりですから。
—— 今シーズン調子はどうですか?
調子は良いんですが、小さい怪我を重ねてしまい公式戦にはあまり出場出来ていない状況です。この年齢になると急激にレベルが上がることもないので、今はコンディションを整えることと、フィットネスやウエイトなどの数値は絶対に落とさないようにすること、そしてスピードに特化してトレーニングをしています。
—— 今の時点での課題は?
年齢的に試合に出続けることが難しくなってくると思うので、フィジカルを鍛えつつ、スピードを重点的にトレーニングして上げていけば、試合に出て通用する部分を見つけ出せると思っています。
最終的にはスピードが上がるようにトレーニングをしていますが、ただ走るスピードじゃなくて、理にかなったスピードトレーニングの方法を用いてトレーニングをしています。今やっているトレーニングを若い時に経験出来ていければ、もっと良かったと思いますし、今の若手選手は良い方法でトレーニングしていると思います。
—— 今シーズンは若手選手の出場が多いですね
嬉しいですね。本音を言えば、若手選手が出場メンバーのコアになって欲しいですね。だから、僕が若手にポジションを奪われて試合に出られなくなってもいいと思っています。そうならないと、サントリーがこれからも強いチームでいることは出来ないと思います。
今のバックスはおっさん連中が多いですが(笑)、その人たちがいつまでも試合に出られる訳ではないですし、下からの追い上げがないとチーム自体が強くならないと思います。僕も若い時に試合に出たいと強く思いながらトレーニングをして試合に出させてもらったので、若手選手は遠慮することなく、僕のポジションを奪って頂いて構わないです(笑)。
◆常に自分の80%以上の力を出す
—— 平選手は何年目から出場していましたか?
1年目の時に数試合出場して、2年目からはほぼスタメンでずっと出させてもらいました。
—— 出場したいという想いをどうやって実現させたんですか?
練習中から自分の強みを出して、試合に出た時にも自分のプレーをしっかりと出してアピールすることが大事だと思います。僕の強みは、アングルチェンジや前に出ることだったので、若い頃はとりあえずボールを前に運んでやろう、上手くいけばトライまで狙おうと思ってやっていました。その強みは今でも変わりません。
—— 試合にずっと出続けるためのコツは?
パフォーマンスに波を無くすことです。波があると監督としても読みづらいと思うので、常に自分の80%以上の力を試合で出すことを心掛けていました。
それは難しいことで、僕も最初は出来ませんでした。当時の日本代表監督のJK(ジョン・カーワン)に、「お前はムラがある」と言われ続けていました。それを改善するために「お前の周りにいる、常にハイパフォーマンスを出し続ける小野澤やライアンに聞いてみろ」と言われ、実際に聞いてみたところ「キックオフまでの時間を逆算して、自分の良いリズムを作り出すことが大事」と言われました。
選手それぞれの方法があると思いますが、自分のいちばん良い方法を見つけられれば、試合に向けてのスイッチが入れられるようになり、良いルーティーンが作れるようになると思います。
—— 具体的に平選手はどういう方法ですか?
若い時は朝ご飯を食べずに、試合前に軽食を食べて試合に臨んでいたんですが、今は14時キックオフの試合であれば、しっかりと朝ご飯を食べて、そこから軽く1~2時間睡眠を取り、10時半くらいから徐々に体を起していき、14時のキックオフに合わせるようにしています。試合に出続けるために、ルーティーンを作ることも1つの方法だと思いますが、それだけが答えではないと思います。
—— その他にはどういう方法がありますか?
試合中にプレーする時間は長くありません。実際に自分がボールを持ってプレーする時間は、凄く短いんです。1回のプレーで、ボールを持って3分も走るわけではなくて、長くても10秒くらいで、タックルであれば3秒くらいだと思います。その短い時間で100%出しきることが大事で、それを積み重ねていけば、試合が終わった時に良い試合になっていると思います。
—— 集中力が大事になると思いますが、集中力を維持するための方法は?
今でも試合の終盤で集中力が切れそうになる時があるんですが、そういう時にチームの頑張っている人の顔を見たり、声を聞いたりして、自分を奮い立たせるようにしています。
◆原点に帰れる
—— ラグビーをしていて面白いと感じる時はどんな時ですか?
サントリーのアタッキングラグビーを80分間出して勝てた時ですね。勝てなかった時期は、やっぱり迷った時に帰る場所がなかったんですよ。それが今は迷ったとしても原点に帰れるので、試合中に迷ったとしても、「シェイプを作って、僕らのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーをやろう」という原点に戻れるから、今の強さがあると思います。その「これをやり切れば勝てる」という基礎があるので、みんなの方向性がブレないんですよ。
—— 日本代表への意識はありますか?
僕は日本代表で完全燃焼しました(笑)。2019年に日本でラグビーワールドカップがありますが、2015年のワールドカップには、2019年に出られるメンバーを連れていった方が良いと思うんです。僕が決めることではないですが、2019年のために、2015年を経験をした方が絶対に良いと思います。特にワールドカップは。
ただ2015年に日本代表として結果を残すことも大事だと思います。今の日本代表に福岡くん(筑波大学)や藤田くん(早稲田大学)が選ばれていることは、良いことだと思います。エディーさんが日本代表ヘッドコーチになると決まった時に、「2019年を見据えて若手選手を選ぶ」とメンバー発表の前から言っていましたし、僕も2011年のワールドカップが終わった時に「これでジャパンも最後かな」と思ってしまったので、そのタイミングが一致したんです。
—— ワールドカップには2回(2007年、2011年)出場しましたが、どちらが印象的でしたか?
2007年の時は、「ワールドカップに行きたい、出たい」というだけの気持ちでしたが、2011年の時は「試合に出場して勝ちたい」という想いでした。2011年の時は思うような結果を残すことが出来なかったんですが、逆にただ出たいと思って出場した2007年ではトライを獲ることが出来て、結果を残すことが出来たと思います。
2011年の時に30歳で、社業をやりながらラグビーをしている中で、どうしてもラグビーを引退した後の人生の方が長いですし、2015年の時には34歳で、現役をやっているか分からない年齢でもあるので、「ジャパンは最後かな」という想いになってしまいましたね。
◆僕は感覚派
—— 仕事にも更に力を入れていくんですね
日本代表が終わって、仕事の内容も質も変わったと思います。ラグビーを引退してからもバリバリ仕事をしていきたいですね。
—— サントリーの仕事は自分に合っていると思いますか?
合っていると思います。今の仕事も好きですが、これからは更に好きにならなければいけないと思います。
—— プロ選手になろうとは思いませんでしたか?
僕は今の日本のラグビーの環境では難しいと思いましたね。ニュージーランドやオーストラリアは、地域毎にプロチームがあり、ホーム&アウェーで試合をしたり、地元の仲間たちがサポーターになってくれて、そういう環境があれば日本のラグビーも強くなって、更に盛り上がっていくと思うんですよ。ただ形はどうであれ、ラグビーをやるのであれば、プロの意識を持ってやらなければいけないと思います。
—— これからの目標は?
チームが勝ち続けることです。その中で、若手選手が育ってきて、僕を引きずりおろしてくれたら嬉しいですね。それが将来のサントリーに繋がっていくと思います。
—— 若手選手に指導なども行っているんですか?
僕は感覚派なので、教えられないんですよ。「そこが空いてるから、そこに走ればいいじゃん」という感じなので、ザワさん(小野澤)みたいに理論的に説明が出来ないんです(笑)。
—— ラグビーも仕事も面白くなっている中で、家庭についてはどうですか?
結婚はしていますが、子供はまだですね。
—— 子供が出来たら、ラグビーをやらせますか?
一度くらいは機会を与えるかもしれませんが、そこで泣いたり、嫌だと言ったら、辞めさせると思います。僕が初めてラグビーをやった時は、足が速かったのでウイングをやったんですが、ボールを外でもらって痛い思いもせずにトライを獲っていたので、「これで点が取れちゃうの」と思って面白くて続けたんです。けど、自分の子供に、痛い思いや辛い思いをさせてまでやらせようとは思いませんね。だから一度経験をさせて、リアクションを見てからどうさせるかを決めたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]