2013年10月23日
#351 成田 秀悦 『ファイナルでもメンバーに』
第5節終了時点のトライランキングは、1位:成田秀悦、彦坂匡克、3位:釜池真道、ジャック・フーリー、長野直樹。数多い走りのスペシャリストたちを抑えて、成田秀悦選手が堂々の1位にランクしました。シーズン途中でのトライランキング1位は2度目の経験。前回は最終2位に甘んじましたが、今回は果たしてこのまま突っ走るのでしょうか。成田選手に現在の心境を聞きました。
◆“つもり”だった
—— 第5節を終えて、トライランキング1位ですね
このパターン、2回目ですね(笑)。2011-2012シーズンも途中まではトライランキング1位だったんですが、最終的にはナドロ選手(ネマニ/NECグリーンロケッツ)が1位で、僕は2位でした。
—— あのシーズンと比べて、今シーズンの状況は違いますか?
フィジカル面で少しはレベルアップしているので、トライの獲り方が違いますし、簡単に倒れることはなくなったと思います。スピードは変わらずに、体重が3kg増えています。
体重が増えたことで、ライン際の勝負が怖くなくなった感覚があります。以前までは、ライン際を走っていると、タッチに出されることを恐れて、内に走ってしまっていましたが、いまはギリギリまではライン際で勝負出来ると思います。
—— どの時期くらいから体重が増えた効果を感じるようになりましたか?
今シーズンの開幕戦辺りからです。網走合宿の時に、練習試合4試合のうち3試合でリザーブメンバーに選ばれたんですが、あまり出場することが出来ませんでした。合宿中に同じ部屋だった大島(佐利)が「280分出場した」と言っていて、ほぼ全試合フル出場をしている一方で、僕が出場した時間を足してみたら、40分弱しか出場していませんでした。開幕に向けた大事な合宿なのにほぼ使われていなくて、他の選手に置いていかれていると感じました。
網走合宿には途中で敬介さん(沢木/U20日本代表ヘッドコーチ)が来ていて、そのことを指摘されました。「今やれば、まだ間に合う」と言われ、そこから具体的なトレーニングメニューを考え、実践してきました。ずっと「体を大きくしろ」と言われ続けてきたんですが、今年の網走合宿の後から実践し、急ピッチでトレーニングをしてきました。いままでも体を大きくすることを意識してトレーニングをしてきたつもりだったんですが、“つもり”だったんでしょうね。
体を大きくすることに関しては、敬介さんと誓約書を交わしました。7月31日に「毎朝、必ずウエイトトレーニングをすることを誓う」という内容です。開幕まで1ヶ月を切った時期で、しかもBチームでもリザーブでの出場だったので、かなり不安はありました。
これまでも朝練はやっていましたが、スピードトレーニングがメインだったので、網走合宿から帰って来てからはフォワードに混ぜてもらいウエイトトレーニングをするようにしました。フォワードの中でも、フロントローとロック、バックローでウエイトメニューが違うんですが、その中でも一番キツいと思われるロックのグループに自ら志願し入れてもらい、トレーニングをしています。
◆急に怖くなった
—— 沢木コーチがいなければ、トレーニング方法を変えようと思わなかったと思いますか?
敬介さんからはいつもアドバイスを頂いていたんですが、いつもとはニュアンスが違うと感じて、ここでやらなければ、もうアドバイスはもらえないと感じました。ダメになるにしても、本気でやってダメにならなければいけないと思いました。
—— かなり大変ですか?
さすがに同じ重さのウエイトでは出来ませんが、一緒にトレーニングをすることで、だんだん体が大きくなるのを感じました。開幕まではあっという間でしたが、食事にも気をつけながらトレーニングをしました。
—— スピードが落ちることは心配しませんでしたか?
もとからスピードには自信があったので、体重を増やしてもスピードが落ちる心配はしていませんでした。普段の練習で、スピードが落ちるような練習はしていないと思いますし、今までは体重計に乗ることが嫌でしたが、今は毎日体重計に乗る楽しさがあります。やっぱり練習をすると、その分体重は減ってしまうんですが、その後にしっかりと食事を摂り、体重を戻して帰るようにしています。
—— 体重を増やすことを決意した背景は?
セブンズでワールドカップに行って、チームに帰って来た時の置いていかれた感と、若手の著しい成長だと思います。長野に関しては、今までとは全く違うと感じるくらいに安定感があります。僕は昨シーズンの公式戦に1試合も出場出来なかった上に、今年の網走合宿でもほとんど出場することが出来ず、他のメンバーから置いていかれていると、ずっと感じていました。それを考えたら、急に怖くなったんです。
今年は今まで以上に危機感があります。昨シーズンは何かしらの言い訳を作って、ずっと誤魔化していたと思います。
—— 引退も考えましたか?
網走合宿の時に、今シーズンも1試合も出場出来なければ、引退しなければいけないと考えるようになりました。このままラグビーが出来なくなってしまうんじゃないかと思い、恐怖感がすごく強くなりました。
—— セブンズのワールドカップでは自信を得て、日本に戻って来たんじゃないですか?
セブンズとしては良かったと思いますが、離れていた期間にチームは菅平合宿をやっていました。セブンズから戻ってきて、体の調子は良かったんですが、いざ網走合宿に臨んだら、思うような結果が出せず、焦りしかありませんでした。
◆次は自分だ
—— トレーニングを変えて、開幕戦には出場出来ませんでしたが、第2節からはメンバーに選ばれるようになりましたね
開幕戦の頃には体の調子も良くて、体重を重くしても上手くスピードに繋げられる状態になっていたので、自分の立場がBチームの一番下だったとしても、いつ呼ばれても良いように準備をしようと考えていました。
開幕戦でザワさん(小野澤)にアクシデントがあり、第2節ではウイングとして長野とタロウ(竹本竜太郎)が先発メンバーに入りましたが、僕も第2節前の練習では「次は自分だ」という思いでトレーニングに臨めたので、メンバーにも選んでもらえたと思います。
—— ニコラス選手が出血の際に一時的交替で入って、その直後にトライを獲りました
その後入替えでフタタブグラウンドに戻れたので、記録上の幻のトライにならなくて良かったです。 (笑)。出場して数タッチ目で上手くトライが獲れました。あのトライの時は、トゥシ、タロウ、僕と並んでいて、トゥシから飛ばして直接パスをもらいました。今までは、そのタイミングで僕がパスをもらうと、ライン際を攻めることになるので、タロウが一度勝負してからパスをもらっていたんですが、僕が直接パスをもらい、ライン際を攻めてトライを獲ることが出来たので、あのプレーは自信になりました。
—— トゥシ・ピシ選手は、成田選手の成長を見込んでパスをくれたと思いますか?
コールに対して咄嗟にパスをくれたんだと思います。ただ今までは、ああいうコール自体がなかったと思います。
—— 2011-2012シーズンの状態とは違う状態でプレー出来ているんですね
あのシーズンも自信を持ってプレーしていましたが、あの時よりも内容が違うと思います。
◆ディフェンスを改善
—— そんな今、課題は何ですか?
ディフェンスです。剛さん(有賀)にも言われたんですが、「アタックは問題ないから、これからはフィジカルが強いチームと戦うことが多く、集中的にディフェンスに力を入れた方が良い」とアドバイスをもらいました。アタックをやらなくなる訳ではありませんが、これからはディフェンスに力を入れていきたいと思っています。
ディフェンスについては、センターとのコミュニケーションや個人の1対1の場面を改善していかなければいけないと思います。体が小さい方なので、1対1の場面で体の大きい選手に負けないようにしなければいけないですよね。190cm120kgくらいの選手が相手だった時、仰向けに倒すことは出来なくても、止めることは出来ると思うので、そういうテクニックを身につけたいと思っています。
—— 体を大きくしたことで、今までよりはディフェンス面も改善されているんですか?
コンタクトの時に、違う感覚はあります。違うというところが目に見えて分かるようになれば、チームからの信頼にも繋がると思いますし、信頼を得られれば自信にもなると思います。
—— トライ王を目指していますか?
弱気なわけではありませんが、正直、あまり意識はしたくないですね。2シーズン前はトライランキング2位でしたが、シーズン終盤では結果を残せていないんです。強いチームとはフィジカル勝負になるので、そこでメンバーに選ばれなかったんだと思います。トライを獲ってチームに貢献したいという思いはありますが、あまりトライランキングを意識せずに、チームに貢献する働きが出来るようになりたいと思っています。そういう働きが出来れば、ファイナルでもメンバーに選んでもらえると思います。
7年目になりますが、ファイナルに出場したのは2008-2009シーズンの日本選手権決勝だけで、その試合では負けてしまいました。ディフェンス面を改善した上で、メンバーに選ばれたいですね。アタック面は調子が良いので、周りからも信頼されてパスも回ってくることが多くなりましたが、ディフェンス面では周りからサポートしてもらいながらプレーしているので、まだ信頼はされていないと思います。
—— ファンの方に注目して欲しいポイントはどこですか?
僕がボールを持ったら何かをする、という期待感は持ってもらいたいですね。ヒューイ(ピーター・ヒューワット/アシスタントコーチ)からは、常に「とにかくボールタッチを増やすように」と言われています。相手チームにとって、こんな僕でもボールタッチが増えれば嫌だと思われると思っています。ボールを持った時の動きは自信を持っているので、そこに注目して欲しいです。
ジャパンラグビートップリーグ 2013-2014シーズン トライランキング(第5節終了時点)
1位:成田秀悦(トライ数6/サントリー)、彦坂匡克(トヨタ自動車)
3位:釜池真道(トライ数5/NEC)、ジャック・フーリー(神戸製鋼)、長野直樹(サントリー)
6位:JP・ピーターセン(トライ数4/パナソニック)、徐吉嶺(ヤマハ)、ホラニ龍コリニアシ(パナソニック)、マーク・ジェラード(豊田自動織機)、ラディキ・サモ(近鉄)
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]