2013年10月 2日
#348 パク スンチェ 『讃え合い綺麗な心で友達になれるスポーツ』
韓国から来日2年目のパク・スンチェ選手。今季の開幕戦で初キャップを獲得し、第2節でも連続出場を果たしました。韓国代表ではキャプテンとしてチームを引っ張るパク選手。その素顔に迫るインタビューは、韓国語に堪能な仲村慎祐選手に通訳兼コメンテーターとしてお手伝いいただきました。
◆気持ちが良かった
—— 来日2年目で初キャップとなりましたが、トップリーグの試合に出場してみていかがでしたか?
パク:すごく緊張はしましたが、グラウンドに出たら気持ちが良かったです。頭と体がリンクして、しっかりとプレーすることが出来ました。リザーブでの出場でしたが、ベンチから試合を見ていて気持ちが盛り上がってきたことで、気持ち良くプレー出来たんだと思います。
—— 1年目と比べて、どこが良くなったと思いますか?
パク:体も変わりましたし、フィットネスも上がっています。それにサントリーのラグビーをより理解出来るようになったことだと思います。いまは自信を持ってプレー出来ています。
—— 2戦目のトヨタ自動車戦では、緊張せずにプレー出来ましたか?
パク:緊張はしました(笑)。どの試合でも、いつも緊張します。
—— これまでの試合の中で、いちばん緊張した試合は?
パク:今シーズンのトップリーグ開幕戦です。5月に行われた日本代表対韓国代表の試合では、あまり緊張はしませんでしたが、開幕のNTTコミュニケーションズ戦はもの凄く緊張しました。
開幕戦では、自分だけじゃなく他の選手の試合前の様子を見ていて、開幕戦に懸ける想いが伝わってきて緊張しました。グラウンドに入ると、その緊張が気持ち良くなったんです。その感覚は初めてだったので、驚きました。
—— 韓国代表ではキャプテンを務めていますが、キャプテンには向いていると思いますか?
パク:高校でも大学でもキャプテンをやっていたので、韓国代表でもキャプテンを務められると思っていました。まだ日本語が上手ではなくて、発言したくても発言出来ない時があり、周りからはグラウンドでも大人しそうと見られているかもしれませんが、韓国ではグラウンド内でも発言し、引っ張っていけるようにしています。
今は少しずつ日本語も上達してきて、簡単な日本語であればグラウンド内で発言出来るようになってきました。「集中して」とか本当に簡単な日本語ですけどね。
—— 日本に来てから、日本語を勉強し始めたんですか?
パク:そうです。初めて日本語の勉強をしました。
仲村:かなり喋れるようになりましたね。
パク:簡単な日本語は分かりますが、まだまだです。ひらがなやカタカナでもメールは出来るようになりましたが、漢字はまだ難しいです。
—— 仲村選手が日本語の先生ですか?
仲村:僕は先生じゃないですよ(笑)。パクさんと話をする時は、日本語と韓国語のどちらも使って話しています。僕も分からない韓国語がたくさんあるので、例えば「リンゴ」という韓国語が分からなかった時は、「赤くて丸い果物は、何て言うの?」という聞き方をして教えてもらっています。
◆韓国のリーグ戦は4チーム
—— 日本に来る前は、どこでラグビーをしていたんですか?
パク:韓国の会社のラグビーチームでプレーしていました。韓国では日本のトップリーグのようなリーグ戦は4チームだけで行っています。4チームだけなので、3月と6月と10月だけ試合を行うんですが、10月だけは大学のチームも一緒に入ってトーナメント戦を行うんです。僕が4年間在籍した前のチームは、僕がいた4年間のうち3年間優勝しました。
—— 韓国代表は大学生からも選出されるんですか?
パク:大学生も代表に選ばれることがあります。
—— 韓国でいちばん人気のスポーツは何ですか?
パク:いちばんは野球で、次がサッカーです。ラグビーをしている人は、あまり多くはありません。
仲村:僕も韓国で経験があるんですが、韓国の方に「体が大きいけど、何かスポーツをやっているの?」と聞かれ「ラグビー」と答えると、「何それ?」と言われたことがあります(笑)。
—— 2016年リオデジャネイロオリンピックから7人制ラグビーが行われますが、韓国の取り組みは?
パク:7人制ラグビーには力を入れていて、7人制ラグビーの代表は韓国内でずっと合宿をしています。僕のところにも一度電話がきました。ただトップリーグが始まっていましたし、サントリーが大事なので断りました。もし将来、オリンピックに出られるのであれば、興味はあります。
◆ずっと試合に出ること
—— 目標は何ですか?
パク:怪我をしないでずっと試合に出ることと、優勝です。大学時代は大きな怪我もしましたが、今は怪我をしなくなりました。
—— 試合に出続けるための課題は何だと思いますか?
パク:全体的にレベルアップさせて、チームのプラスになることが大事だと思っています。そのためにはパワーとフィットネスをもっとレベルアップさせないといけません。
—— 試合に出てみて、良かった点はどこですか?
パク:開幕戦で言えば、フェーズプレーでタイミングよく入れてゲイン出来たところは良かったと思います。もちろん自分の得意なプレーのレベルアップも必要ですが、ブレイクダウンなど、まだまだ力が足りないプレーを良くしていかなければいけないと思っています。
いま全体練習が終わった後に、SOSメンバーでコンタクト練習をしています。その練習でブレイクダウンの練習もしていて、すごく勉強になっているので、これからも高い意識で練習に取り組みたいと思っています。
—— 長期的な目標はありますか?
パク:サントリーに入ったことで、韓国人で他のチームに入った人たちよりも多くのことを学べていると思います。このチームで更に勉強をして、将来韓国に帰った時にはラグビーを教えて、韓国のラグビー界に貢献出来るようになりたいです。
—— ラグビーの面白さはどこですか?
パク:ラグビーは激しいスポーツですし、試合中は闘志剥き出しで戦ったりしますが、試合が終われば敵味方関係なしにお互いを讃え合い、そこには憎しみもなく綺麗な心で友達になれるスポーツだと思います。
なぜラグビーが敵味方関係なく、そういう状態になれるかは分かりませんが、本気で体をぶつけ合うからだと思います。
仲村:僕もその通りだと思います。試合中はお互いに全力でぶつかり合っているので、思いっきり怒った後にスッキリする感覚と似ているのかもしれないと思います。僕もラグビーを通じて友達も出来ましたし、そういう意味でもラグビーには感謝しています。
◆相撲でチャンピオン
—— 何歳からラグビーを始めたんですか?
パク:15歳くらいからラグビーを始めましたが、それまでは相撲をしていました。相撲ではチャンピオンになったこともありました。相撲の道を進む選択肢もありましたが、怪我をして3ヶ月間相撲から離れた時期がありました。その後復帰はしましたがスランプに陥り、今まで勝っていた選手に勝てなくなってしまったんです。
そしてスランプに陥っている時に、学校の先生にラグビーを勧められて、そこからはずっとラグビーをやっています。ラグビーを始めた当初は、ボールの動きが予想出来ないところやパスが面白かったんです。
—— 生まれは韓国のどこですか?
パク:仁川(インチョン)です。ソウルから1時間くらいなので、韓国の中では都会だと思います。
—— 日本に来る時の家族の反応は?
パク:家族からは「もう大人だし、自分で生きていかなければいけないんだから、自分の責任でやりなさい」と言われました。だから、日本に来ることを反対されることはありませんでした。
—— ファンの人たちに注目して欲しいポイントは?
パク:昔からボールキャリーは好きだし得意だと思っていて、サントリーでもボールを持つ機会が多くなってきているので、僕がボールを持ったら注目して欲しいです。
—— 仲村選手から見て、パク選手の良い点は?
仲村:身体能力がすごく高いですし、フェーズプレーでは良いコースに走り込んでくるので、綺麗にラインブレイクすることが多いと思います。体が大きいので激しいプレーを得意とする選手に見えるかもしれませんが、もちろん激しいプレーも出来るんですが、スマートなラグビーも出来るので、両方を持ち合わせた選手だと思います。
—— 韓国語が分かる仲村選手がいて心強いですよね
パク:すごく力になっています。
仲村:ありがとうございます。
—— パク選手から見て、仲村選手の良いところはどこですか?
パク:パワーとコンタクトがすごいと思います。普段の生活では、笑顔と性格が良いと思います。
仲村:自分で訳すのは恥ずかしいです(笑)。
パク:一緒に頑張りましょう。
(通訳:仲村慎祐/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]