2013年8月28日
#344 ツイ ヘンドリック 『チャレンジャーとしてベストを尽くす』
パナソニックから移籍してきた日本代表の6番。サンゴリアスの同じポジションには前人未到の2年連続トップリーグMVPのジョージ・スミス選手がいます。他にもNo.8などさまざまなポジションでプレー出来るツイ選手の、サントリーでの新たなチャレンジに期待しましょう。
◆特別な時間
—— 出身は?
ニュージーランドのオークランドで生まれました。ずっと都会で育っています。
—— ラグビーを始めたきっかけは?
ニュージーランドでは国民的なスポーツなので、周りのみんなもラグビーをしていましたし、学校が終わったらラグビーをして遊んでいました。私のスタートはラグビーリーグからでしたね。
—— その頃のラグビーの魅力は何ですか?
最初は、みんなと一緒に遊びたい、楽しみたいというところから始まりました。だんだんラグビーが分かってきて、ボールキャリアーとしての細かいテクニックを学んで、そこから面白いと思うようになりました。
—— ラグビーは自分の体を使って、時には痛い思いをしながらやるスポーツですが、ニュージーランドではそれがプライドであったりするんでしょうか?
難しい質問ですね...。男ならラグビーをするものだ、ニュージーランドのプライドだ、というふうに考えている人が多いのではないでしょうか。
—— 他のスポーツに興味はありましたか?
バスケットボールが好きでした。家の近くにバスケットのコートがあったので、よくそこで兄と一緒に遊んでいました。バスケットボールはボールハンドリングのスキルアップにとても良いと思います。ボールに向かってジャンプをしたり、リバウンドのタイミングはラインアウトとよく似ていますし、ラグビーと共通のスキルが多いので、すごく役に立っていると思います。
—— バスケットボールよりラグビーを選んだのはなぜですか?
ずっとラグビーはメインスポーツとして続けていました。選んだというよりは、昔から自然にラグビーをプレーしていた感じですね。11、12歳くらいの頃からバスケットボールは家の近くで遊ぶだけになりました。
—— ラグビーをする上で、自信を持ち始めたのはいつ頃ですか?
高校最後の年ですね。その年にはオークランドハイスクールのチームに選ばれました。それ以前はあまりラグビーに集中していなかったというか、それが大きなきっかけになりました。15、16歳になるとオークランドのチームのトライアルがあるのですが、それに受かりたい、チームに入りたい、という気持ちで真剣にラグビーを始め、高校最後の年にやっと受かりました。自分にとって特別な時間でしたね。そのラグビーチームからオークランド大学への奨学金を頂いたのですが、日本の帝京大学に来る道を選びました。
◆良い機会
—— なぜ帝京に?
全く違う環境でプレーすることは、自分にとってすごく良い機会だと思っていました。お話を頂いて、世界を経験するという意味で日本に来るのはすごく良いチャンスだと思ったんです。
—— 一人で日本に来るのに不安はありましたか?
僕自身はあまり不安を感じませんでした。太平洋諸島の人間が国を出て日本に行く、家を出る機会を頂けることはとても珍しいので、家族では僕だけだと思います。今はもうみんなサポートしてくれていますが、最初の頃は母親が心配していましたし、父親は怒っていましたね(笑)。家族は、兄が2人、姉が2人いて、兄姉の中でも海外に出ているのは僕だけになりますが、僕にとって難しい決断ではありませんでした。
—— イメージしていた日本と、実際に日本に来た時にはギャップはありましたか?
あまりないと思います。ただ、日本人は想像していたよりずっと優しくて親切で、日本は素晴らしい国だと思いました。文化もすごくしっかりしているので、日本はとても好きです。
—— ニュージーランドにいた時から日本には興味を持っていましたか?
ニュージーランドにいた時の日本は、人から聞いた話、映画で見たレベルですが、イメージはありました。高校のクラスメイトに日本に行ったことのある人がいたので、話を聞いたこともありました。立正大学に行って今はサニックスでプレーしているシリバ・アヒオ、山梨の学校に行って今は三菱でプレーしているミロ・デイビッドと同じ学校に通っていました。
日本に来たらお寿司を食べてみたかったです。実際来てみたら、日本食はもっとたくさんあって、何を試しても美味しかったです。
—— 生涯日本に居たいと思いますか?
居られたらいいですね。今はちょっとわからないです。
◆良い巡りあわせ
—— 日本の大学のラグビーはどうでしたか?
すごく良かったです。まだまだ日本全体としても伸びしろがあると思います。帝京での一年目は、パナソニックの堀江翔太がキャプテンだったのですが、彼のプレーを見てもその頃からポテンシャルが高いなとずっと思っていて、実際に今はスーパー15のメンバーに入りましたね。
日本の選手はポテンシャルが高いし、これからどんどん楽しくなると思っています。日本に来て今年で7年目になりますが、この7年間で進化していく日本のラグビーを見るのはすごく楽しかったです。世界的スーパースターの選手たちがどんどん日本に集まってプレーしているので、日本は今とても良い環境にあると思います。
—— 卒業後パナソニックに行くことは、自分で決めたんですか?
そうです。スターティングメンバーになるために、自分を追い込んでチャレンジできる良い機会だと思いました。自分に興味を持ってくれたのがパナソニックだけだったということもありますが(笑)。
—— 2年後サントリーに入り、今後思い描くステップアップはありますか?
あまりプランニングはしていないので、計画的に決めたことはありません。すごく良い巡りあわせで今はサントリーに入れたことが、とても嬉しいです。正直、日本代表チームに選ばれるとは思っていませんでした。実際に選ばれた時は、高校時代トライアルに選ばれた時のような、自分のラグビーに自信を持つ気持ちを思い出しました。日本代表になって、ワールドカップも経験させて頂いて、良い方向に全てが進んでいるので、ラグビー人生は楽しいですし、これからも楽しみです。
—— ツイ選手が素晴らしいチャレンジャーだからですね
そうかもしれません。
◆意識してスイッチを入れる
—— 2年間サントリーと敵として戦い、対戦チームとしての印象はどうでしたか?
1年目はサントリー戦に全敗していますし、2年目は自分がチームに選ばれず、サントリーと対戦するときは一度も勝てなかったので、いつか勝ちたいとずっと思っていました。英語で「もし相手を倒せなかったら、そのチームに入ってしまえ(If you can't beat them, join them.)」という言い回しがあるのですが、まさしくその通りになったなと(笑)。
—— 二度目の自信になったという日本代表への選出ですが、今、自分のプレーに対する自信とその裏付けというのはどこにありますか?
強いて言うなら、ボールキャリアーとしての部分だと思います。自分で自分の強みはよく分かりません。難しいですね。
—— 優しいツイ選手ですが、試合の際はアグレッシブにスイッチが切り替わるのですか?
他の皆もそうだと思うのですが、自分も意識してスイッチを入れています。フィールドに立ったら、スイッチを入れないといけないと思っています。対戦相手に友達がいたとしても、友達だからといってフレンドリーにプレーすべきではありません。
—— 普段の性格はどんな感じですか?
大人しくて、のんびりしていると思います。
—— 子供の頃と比べ、今のラグビーの面白さは何ですか?
全部です。自分はボールキャリアーなので、相手をスマッシュするのも楽しんでいます。良い質のプレーができることがラグビーをしていて一番楽しいですね。
—— 今シーズンの目標は?
もちろん優勝です。ジョージ(スミス)が同じポジションにいるので、いつも時間があればフィールドの外でも中でも彼からいろんなことを学んで、ベストパフォーマンスをする、自分の出来る全てを尽くすことを常に意識しています。ジョージに対してはチャレンジャーとしてベストを尽くして挑み、それによってチームに貢献したいと思っています。
—— 日本に来て7年、結婚して父親になって、これからのベースは日本になりますか?
日本にずっと住めればいいなと思います。家族も府中の暮らしを気に入っていますし、日本での生活を楽しんでいます。
—— 最後にファンに向けて、見てほしいところは?
今シーズンも開幕をすごく楽しみにしています。いつもサポートしてくれている皆さんに、今年も良いトライを取って、自分のベストのプレーを見ていただきたいです。街で見かけても怖がらないで、いつでも声をかけてくださいね。
(通訳:白倉綾子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]