2013年8月21日
#343 竹本 隼太郎 竹本隼太郎×竹本竜太郎 『心のブレーキを外して練習に臨む』
兄はサンゴリアス8年目、弟は3年目を迎える5歳違いの兄弟。兄弟であり、チームメイトであり、先輩・後輩でもある2人に、ラグビーへの想いを語ってもらいました。
◆先頭に立って頑張る
—— サントリーでは、同じチームに兄弟が所属するというのは初めてですよね
竹本隼太郎(以下、隼太郎):初めてということを聞いたことがあります。
—— 兄がいるチームに入る上で、色々と考えることはありましたか?
竹本竜太郎(以下、竜太郎):無意識のうちに兄から影響は受けていたと思いますが、兄にほとんど相談はしなくて、自分の意思でサントリーに入ることを決めました。兄がサントリーにいることは、僕がサントリーに入るきっかけではないと思っていますが、サントリーの環境などを聞いていましたし、当時はエディーさん(ジョーンズ/現日本代表ヘッドコーチ)がサントリーにいて、サントリーというチームが好きだったことが、大きな理由だと思います。
—— 大学は同じ慶応大学で、2人ともキャプテンをやっていましたね
隼太郎:慶応大学でも、兄弟がキャプテンになることは初めてだったみたいです。
竜太郎:大学時代も、兄がキャプテンをやったから、僕もキャプテンをやりたいとは思わなくて、ただ僕がキャプテンをやりたいという想いと、同期も僕をキャプテンとして認めてくれたので、やらせてもらいました。
—— なぜキャプテンをやりたかったんですか?
竜太郎:優勝をしたかったですし、それに向けて出来るとも思っていたので、キャプテンとしての意欲はありました。
—— リーダーシップを取る家系ですか?
隼太郎:僕はキャプテンをやりたかったという弟とは違います。共通している部分としては、タフで練習も真面目にやり、体を張ってチームをリード出来るところだとは思います。ただ僕は性格的に目立ちたがり屋ではないので(笑)、やりたいという気持ちは半分で、自分がキャプテンをやるとは思ってもいませんでした。
実際にキャプテンをやってみて、先頭に立って一番頑張ることが出来たと思っていますし、キャプテンをやって良かったと思いました。責任があるからこそ、自分の力よりも高いレベルで頑張ることが出来たんだと思います。
竜太郎:やはり発言をする立場になるので、言ったからには行動で示さなければ周りにも示しがつかないですし、そういった意味ではタフに出来たと思っています。
—— サンゴリアスでもキャプテンをやりましたが、その時も自分がキャプテンをやるとは思っていなかったんですか?
隼太郎:大学時代よりも、更にキャプテンになるとは思っていませんでした。凄い先輩方がいましたし、世界トップクラスの外国人選手もいました。そういうチームでキャプテンになるとは思ってもいませんでした。だから、キャプテンの要請があった時は、「なんで俺かな~」って思いましたよ(笑)。今考えると、キャプテンに指名されたのは、根本的なところで頑張り屋さんということだと思います。ポジティブで、規律を守ることが出来るところを評価して頂いたと思います。
◆厳しさも優しさも両極端
—— 兄弟で頑張り屋さんということは、ご家族の影響があると思いますか?
隼太郎:あると思います。父親は厳しいですが、厳しいだけではありません。厳しさも優しさも、両極端にあると思います(笑)。
竜太郎:両極端ですね(笑)。
隼太郎:小さい頃は、僕らが寝ている時に父親が帰ってくると、4兄弟いるので、それぞれのランドセルの中をチェックして、例えば、鉛筆を研いでいなかったり、教科書を忘れていたりして、次の日の準備を怠っている人がいると、夜中だろうが関係なく、兄弟全員が起こされたりしていました。弟の中で、誰か1人でも準備を怠れば、兄の監督不行届ということになるんです。逆に兄がミスをすると、兄はちゃんとしなければいけないということを弟たちに見せるんです。
竜太郎:兄弟全員が正座をさせられて、反省をしなければいけませんでした。
隼太郎:ラグビーで言えば、小学生の時に試合に負けた後に、10kmくらいの帰り道を歩いて帰らされたこともありました。結果も大事なんですが、トライを獲ろうとする意欲が感じられなかったり、気持ちが入ったプレーをしていなければ怒られていました。
—— お父さんに怒られた時は、どんな気持ちなんですか?
竜太郎:僕は小さかったので、あまり覚えていないんですが、練習の時に態度が悪くて怒られました。当時は、プレーに対して怒られると、「なんで親父から怒られなければいけないんだ」という想いになっていたと思います。反発もしていましたが、今考えると、正しいことを言っていると思うことがあります。
—— 優しい時はどういう時ですか?
隼太郎:10km歩いて帰って来た時に、冷たい麦茶や冷えたスイカ、かき氷などを用意してくれていました。飴とムチを使っていましたね。
—— お父さんが怒った時には、お母さんは?
隼太郎:横から口出ししても、火に油を注ぐだけになってしまうんです。父親が怒っている時に母親が口を出すと更に怒りだすので、怒りが静まるまで黙って待っていましたね。
◆いまだに怒られる
—— 将来、2人が父親の立場になった際には、お父さんのやり方を参考にしますか?
竜太郎:反面教師的な部分はありますが、一貫性があるので、その部分は凄く大切だと思います。
隼太郎:小学生の頃は、なぜ怒られているのかということが理解出来ませんでしたし、怒られることで、好きなラグビーを辞めたくなったこともありました。なぜラグビーを続けられているのか、なぜ毎日食事をして暮らせていけるのか、そのことに感謝はないのかと怒られていて、今考えると、感謝しなければいけないと思いますが、当時は理解出来ませんでした。
—— 今は怒られることはなくなりましたか?
隼太郎:いまだに電話で話していると、怒られたりすることがあります。
竜太郎:僕もたまに怒られますが、僕の話も聞いてくれるようにはなってくれたと思います。ただ話をする前に、一度自分の頭の中で整理をしてから話をするんですが、勢いに負けて上手く話せないことがあります。兄貴を見習いながら、父親との会話の仕方を勉強しています(笑)。
—— 4兄弟の中で今もラグビーを続けているのは?
隼太郎:僕が次男で、竜太郎が末っ子なんですが、長男以外は、今もラグビーをしています。兄貴は兄弟の中で一番ラグビーが好きだったんですが、今はラグビーはやっていません。三男は大学で一度ラグビーを辞めたんですが、社会人でも続けたいと思ったらしく、今はIBMでラグビーを続けています。
—— なぜ兄弟全員がラグビーを始めたんでしょうか?
隼太郎:僕の見解では、小学1年生からスクールでラグビーを始めたんですが、父親は野球をやっていたので、野球をやらせたかったと思うんです。近くに良いリトルリーグのチームがなかったんですが、体は動かした方が良いということで、知り合いがいた長崎ラグビースクールに入らせたんだと思います。だから、当時は父親もラグビーのことを全く知らなくて、子供を応援しているうちに、ラグビーを覚えていったんだと思います。
◆良い部分を捉えてポジティブに
—— 隼太郎選手の場合、同期にはキャプテン経験者が多くて、サンゴリアスに入った当初はどういう気持ちでしたか?
隼太郎:負けていられないという思いは一切なくて、自分は自分ですし、同期の他にも素晴らしい先輩方が大勢いました。今は、同期のみんなで食事に行ったりもしますが、当時は、みんなバラバラでしたね。あまりにバラバラ過ぎるのも良くないだろうと思って、2年に1度くらいは同期で食事に行っていたんですが、その時はお互いの胸の内を隠して、表面的なコミュニケーションしかしていなかったと思います(笑)。今は、お互いに本音で話をするようになりました。
竜太郎:兄貴たちの世代は、1年目から試合に出ていましたが、僕らの世代はなかなか試合にも出られませんでした。素晴らしい先輩方がいたということもありますが、そこはあまり関係なく、自分がやるべきことをやるだけだと思います。僕らの世代も人数が多いので、チームの底上げが出来るように頑張りたいと思っています。それに兄貴とはポジションも違いますし、自分のポジションでやるべきことをやるだけです。
—— お互いの姿を見て、頑張っていると感じるところはありますか?
竜太郎:兄貴がキャプテンをやっていた時は、必然的に発言するところをよく見ていました。その発言を聞いていて、良い部分を捉えてポジティブに持っていこうとしていると感じましたし、凄く刺激になっていました。兄貴の性格は、基本的には頑固で、あとはポジティブだと思います。その中で、チームに良い循環を作ってくれていると思います。
隼太郎:正直に言うと、僕よりも弟の方が頑張っていると思います。僕の場合は、効果を求めているので、頑張らなくてもプレーが良くなれば良いと思っています。何かを変えることにフォーカスを当てると、結果的に頑張っていることになります。それによって、過去の自分よりもプレーにしろ、フィットネスにしろ、良くなっている部分が出てくるわけです。
良くなっている部分を感じることで、テンションを上げているんです。達成感や、良くなったことで周りの人が褒めてくれたりすると、そこから更にどうしていくかという思いになるんです。そのサイクルがあるので、少しずつでも成長していけると思います。やると決めた時は自然と頑張っていますが、やらない時には自然と気持ちがオフになっています。だから、トータルで見ると、頑張っている量というのは、弟よりも負けていると思います。
—— 頑張っている弟に対して、さらに何かを伝えたいことはありますか?
隼太郎:弟だけではなくて、他の人にも通じる部分だと思いますが、何のためにやっているのかというと、自分のプレーを変えたり、自分が活きて周りを活かすためにやっているんだと思うんです。そのために頑張っているのであれば、もっと効果を求めるべきだと思います。頑張りを批判するわけではありませんが、頑張ることにはとことん頑張って、オフの時には気持ちを整えたり、力を抜いたりとメリハリをつけた方が良いと思います。
竜太郎:SOS(入部3年目までの選手)と言われるメンバーは頑張っていると思います。ただ兄貴の言うことは正しいと思っていて、練習で出来ているのに試合では出来ていなくて、試合でのパフォーマンスを出すための努力は足りないと思います。
隼太郎:目標は絶対にぶれちゃいけないんです。目標と目的が一緒になってしまっていて、頑張るということは手段なんですが、その手段が目的になってしまっている人がいると思います。
◆弱みは見せられない
—— 同じチームにいて、兄弟を意識することはありますか?
隼太郎:自分のことに集中をして、意識しないようにしています。ただ僕は5歳年上で、経験や考え方の部分でリードしているので、無意識のうちに弱みは見せられないという想いはあると思います。
竜太郎:僕は兄貴に聞く立場になることが多くて、2人で話すこともあるので、僕のことを分析もしてくれていると思います。その上で話を聞いて、僕がもっと成長出来る部分を聞いたりはしますが、弱い姿を兄貴に見せたくはないという想いはあります。
—— 他に兄弟でやっているラグビー選手のことを意識することはありますか?
隼太郎:地元では、平さんが近くに住んでいて、平さんのお兄さんと、僕の兄貴も近いんです。僕の1歳上が平さんで、平さんの1歳上が僕の兄貴、そして僕の兄貴の1歳上が、平さんのお兄さんになるんです。家も近くて、ラグビースクールも中学も一緒だったので、意識するというよりは、寄り添っていたという感じですね。
—— 兄弟で一緒にラグビーをしていて、良かったと思うことは何ですか?
隼太郎:他のことにも言えることだと思いますが、意識することの回数によって記憶になると思います。ラグビーのプレーも意識と回数によって身になると思います。兄弟でラグビーをやることによって、練習や普段の生活の中でもラグビーの話をすることが多くなるので、必然的に意識する回数も多くなります。
竜太郎:僕らの場合は兄弟が4人もいるので、その回数は他の兄弟よりも多かったと思います。
—— 兄としては、弟は今後どんな選手に育っていって欲しいと思いますか?
隼太郎:入社当時から比べて、パフォーマンスは上がっていると思うので、それが上がり続けてくれれば良いと思います。2年目までは順調に上がってきて、今、緩やかになっていると思うので、ここで落ちないで欲しいですね。
普通は、落ちる時に落ちて、上がる時に上がると思いますが、パフォーマンスが落ちそうになる時に落ちるのではなくて状態をキープして、上がる時には更に上がるように、そこを考えながらやって欲しいと思います。そして納得しながらやって欲しいと思います。何のためにやっているのか、更に言えば、自分は何なのかということを考えて、やれれば良いと思います。要するに、力を発揮できればいいんです。
竜太郎:自分は何なのかについては、1年目の時も考えましたが、今は3年目になって、シーズン前のこの時期は良く考えています。ここで結果を残すか、残さないかで、今後の人生が変わってくると思いますし、チームの中核を担う選手になっていかなければいけないとも思います。チームをリードしていかなければいけないんですが、まだ練習試合などでも上手く発揮できていない部分ではあります。僕はフルバックというポジションなので、バックスだけでなく、フォワードもリードしていける存在にならなければいけないと思いますし、練習からチーム全体を意識して、チームにとってプラスになる存在であり続けたいと思います。
◆チームの信頼を得る
—— 今シーズンの目標は?
竜太郎:開幕戦とファイナルの試合に出ることです。その試合に出るということは、チームの信頼を得ているということだと思いますし、チームの信頼を得ているということは、全試合に出場することも出来ると思います。
隼太郎:昨シーズンは、フィットネスで過去最高値を出したので、今シーズンは更に伸ばしたいと思いますし、もっと筋力をつけて、なおかつスピードチェンジの回数を増やして、判断を良くして、良いプレーを増やしたいと思います。ワークレートやチームへの影響力を増やしていきたいですね。昨シーズンよりも良いパフォーマンスをして、試合に出続けたいと思います。怪我については予期出来ないので、考えられるケアと準備をし続けるだけだと思います。
—— ラグビーをやっている、やろうとしている子供たちにアドバイスはありますか?
竜太郎:元気があり余っている子供たちには、ラグビーはピッタリのスポーツだと思いますし、他のスポーツに比べて、痛みや仲間を得られるスポーツだと思います。以前、トッド(クレバー/現NTTコミュニケーションズ)がサントリーを離れる時に言ったことで、トッドは海外に行くのが好きで、海外に行くにはどのスポーツが良いかと考えた時にラグビーを選んで、ラグビーをやったことで色々なことを経験してきたと言っていました。やることで損をすることはないスポーツがラグビーだと思います。
隼太郎:ラグビーじゃなくても良いとは思いますが、スポーツはやった方が良いと思います。僕もラグビーを始めた当初は、ラグビーの良さは分かりませんでしたし、他のスポーツでも有り難味を感じることは出来ると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]