SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2013年8月14日

#342 池谷 陽輔 池谷陽輔×尾崎章 『一緒に試合に出て、良いプレーをして良いスクラムを組んで、チームが優勝出来れば最高』

同期の2人はサンゴリアスのプロップの象徴。小野澤選手に次ぐベテランとして、フォワード最前線で戦い続ける2人の対話は、スピリッツ・オブ・サンゴリアス初の試みです。

◆「自分たちで考えて取り組むようにシフトできた」(池谷)

スピリッツ画像

—— 2人は小野澤選手に次いで、チーム2番目のベテランになりましたが、自分がそういう立場になったということについてはどう感じますか?

尾崎章(以下、尾崎):ベテランだからというよりも、良いチームにしなきゃいけないと思います。2009-2010シーズンの日本選手権1回戦で、NECに同点で負けて(※同点で試合を終え、トライ数もゴール数も同じく、抽選の結果により敗退)、それを機に「やっぱりもっと良いチームにしなきゃいけない」と考えるようになりました。

プロップとして、フォワードに対してどうすれば良いのかというところから始まって、池谷とも話して、同じ気持ちで取り組めるようにしようと思いました。当時は、チームがあまり良い方向に進んでいないと感じていて、どうにかしなきゃいけないとは感じていましたが、NECに負けたことで、より強く感じるようになりました。

池谷陽輔(以下、池谷):コーチだった直人さん(中村)や慎さん(長谷川慎)が、チームを離れた瞬間から「僕らはやらなければいけない立場になった」と思うんです。ただ最初の方は言われたことをやるだけで、後輩たちやチームに対して何か影響を与えられたとは思っていません。ここ2、3年はやっぱりチーム内での立場も上になってきて、昨シーズンはスクラムが上手く組めていない時期もありました。そこから特にチームを引っ張っていかなきゃいけないということを強く感じました。

尾崎:「言われてやる」から、「自分たちで考えてやる」という考えになりましたが、ここ2、3年はコーチと話し合って取り組んでいて、若手選手をそこまで到達させたいと考えています。

池谷:以前は監督やコーチが言うことが正しいことで、僕たちはそれを100%信じてやるのが選手として正解だと思っていましたし、それがチームとしても強くなることだと思ってやっていましたが、それだけではダメだということが明らかに見えたんです。自分たちで考えて取り組むようにシフト出来たことが、そういう意味ではベテランになったのかなと感じますね。

◆「2週間前の僕とは全然違う」(尾崎)

スピリッツ画像

—— 考え方や取り組む姿勢を変えて臨んだ2010年以降は面白かったですか?

尾崎:勝っているから面白いです。

池谷:自分たちで考えて、話し合いながら取り組んでいる部分も多いですし、この歳になっても成長出来ているのが感じ取れるんです。

尾崎:今日だって、2週間前の僕とは全然違うんです。日々成長出来ていると感じますし、そういう意味で凄いチームだと思います。それにチームの雰囲気も更に良くなっていると思います。

池谷:自分自身が良くなってくるのも分かりますし、チームが良くなっているのも目に見えるんです。チーム全体を見えるようになっていると思います。

—— チームを引っ張らなければいけないと、気づくか気づかないかで、その後が違ってくると思いますが、なぜ気がついたんだと思いますか?

尾崎:僕はやっぱり先ほど言ったNEC戦の負けからですね。

池谷:負けていたら何とかしなきゃいけないと、みんな思うでしょうけど、そこから自分が変わらなきゃいけないと無理やり変えたわけではないと思います。こういうことは、無理やり変えようと思って変わるものではなくて、やっぱり自分たちの立場が上になって、後輩たちのことが見えるようになったんだと思います。だからこそ、後輩たちの足りないところがちゃんと見えるようになったんだと思います。

—— チームにはずっとプロップ出身のコーチがいて、そのコーチがいなくなったことも影響がありますよね

尾崎:ずっと見てくれることも良いと思いますが、自分たちで考え、話し合って取り組むことが出来ることが凄く良いと感じます。そして、たまに指摘されることで、この現状を自分たちでどうやって変えていくかというサイクルが出来ていると思います。チームとしては、春季オープン戦で負けていますが、スクラムについては自信を持って良い部分だと思います。

◆「尾崎は気持ちの部分で群を抜いている」(池谷)

スピリッツ画像

—— サントリーに入って試合に出られるようになったのは何年目からですか?

池谷:僕は2年目です。

尾崎:僕は2008年ですね。みんなには5年目で試合に出たと言っていますが、実は6年目です(笑)。

—— 試合に出るために5年間頑張るということは凄く大変なことだと思うのですが、どうでしたか?

尾崎:最初から5年間頑張ると思っていたら多分無理だったと思うんですが、2年目くらいから今年で最後という思いで1年1年やっています。1年間で出来ることをやろうという気持ちで取り組んでいます。

—— 池谷選手から見て、その当時の尾崎選手のことをどう見ていましたか?

池谷:尾崎は、周りから見て頑張っているというレベルじゃなくて、気持ちの部分で常に群を抜いているんですよ。

尾崎:俺のことを言うなんて、今日は珍しい(笑)。初めて聞きました!

池谷:本人には一度も言ったことがないんですけど、そういう部分はかなり尊敬しているんですよ。練習中とか試合中に、尾崎みたいにスイッチオン出来る人はいいなと思っています。

尾崎:ちょっと、恥ずかしくなってきたよ(笑)。

池谷:それが今まで一緒にやってこられた要因だと思います。確実にチームに良い影響を与えています。尾崎は入社1、2年目の若手の頃から、入社5、6年目の先輩に噛みついていましたからね。先輩、後輩関係なく、スピリットの部分でチームに良い影響を与えていると思います。

◆「3番がいかに気持ちよくスクラムを組めるか」(尾崎)

スピリッツ画像

—— 2人ともずっとポジションは変わっていませんか?

尾崎:僕は最初、池谷と同じ3番でプレーしていましたが、慎さんに「体が小さいとトップリーグじゃキツイから、1番やってみたらいいんじゃない?」と言われました。1度1番でプレーしてみたんですが、スクラムが上手く組めずに、3番に戻ったんです。

その後もずっと試合に出られずに、慎さんが最後の年に、もう1度1番を勧めてくれて、僕もその年で最後かもしれないと思っていたので、再度1番に挑戦しました。慎さんに言われた1番でもダメだったらしょうがないという気持ちでポジションを変えて、そこからずっと1番です。ポジションを変えたタイミングも良くて、そこからは試合にも出られるようになりました。

—— 3番から1番に変わることで、いちばん大変だったことは何ですか?

3番は、スクラムの時に相手の1番と2番が両肩にいるので、そこで姿勢を保つということは難しいんですが、バランスは取りやすいと思います。1番だと、片方にしか相手がいないので、ぶつかった時にバランスを取るのが大変でした。本当にここ2年くらいでやっとコツを掴めるようになったと思います。

—— 池谷選手はずっと3番ですか?

池谷:学生の時からずっと3番です。僕の場合は、ラグビーをやるんだったら、3番しかありませんでした。

—— 1番と3番で組んでいると、2番を支えているという感覚なんですか?

池谷:やっぱり1人だけでは絶対組めないので、全員がまとまらなければいけません。2番をサポートする時もありますが、感覚としては、2番が上手くスクラムを組めれば、僕らはしっかりとスクラムを組めるんです。だから、2番に対しての要求は多いです。

尾崎:1番と2番がしっかりと連動することで、3番がしっかりと動けるようになるんです。

池谷:1番は左側に相手がいないので、行こうと思えばいくらでも行けるんですよ。ただ1番が行ってしまうと、3番は相手の1番に持って行かれてしまうんです。1番と2番がしっかりと支えてくれると、3番が前に出られるんです。

尾崎:僕の中では2番と連動することが大事で、3番がいかに気持ち良くスクラムを組めるかは、1番と2番にかかっていると思います。

池谷:前の3人が崩れてしまうと、後ろの5人がいくら強くても、どうしようもないんです。

尾崎:1番と2番が上手く組めているのに、3番だけが崩れてしまうという時がありますが、1番と2番がしっかりと組めていれば、どうにかなるという感覚があります。

池谷:1番、2番、3番が上手く組めるということが基礎で、そこで後ろの5人の力がなければ、スクラムは押せません。僕らは上手く組めていて、前に押したいのに、前に行く推進力がない時もあります。その理由としては、フランカーやNo.8の頭の中が次のアタックに行ってしまっているとか、ロックが疲れていて足が止まってしまっている場合などがあると思います。

尾崎:前の3人がしっかりと組めている時は、後ろの5人にそのことを伝えますし、例えば2番が青木だとすると、青木がしっかりと後ろに伝えてくれます。2番はスクラムのリーダーだと思います。例えば、僕が押したいがために行ってしまうとバランスが崩れるので、そういう時は青木が「ザキさんもっと寄って」とか言ってくれます。

◆「色々な状況で組み方を考えています」(池谷)

スピリッツ画像

—— スクラムでは、誰か1人が疲れていたり、手を抜いていたりするとすぐに分かるんですか?

尾崎:すぐに分かります。

池谷:敵陣か自陣か、あとはゴール前かピンチか、色々な状況でスクラムの組み方を変えています。例えば、ボールを出すのはオープンサイドが多いので、次のプレーを考えて、オープンサイド側の押す力が弱くなったりもします。オープンサイドだけ頑張ってもダメですし、オープンサイドにボールを出すために、ブラインドサイドはしっかりと支えなければいけません。

—— スクラムを組んでいる最中に話をすることはありますか?

池谷:組んでいる時は力んでいて話せないので、組む前に話します。後ろの5人がいつも通り組めている時は、前の3人だけで話すこともあります。「こっち側は大丈夫だから、前に出て良いよ」とか、押し方の話になります。

尾崎:「こっち側が厳しいから、真っ直ぐでいい?」という話にもなります。それでスクラムを組んでみて上手くいかない時は、次のスクラムの前に話し合います。

—— 試合が終わった後に話をすることもありますか?

池谷:最近は試合中にスクラムが少ないので、「あのスクラムは、あぁしたかったね」とか「あのスクラムは良かったね」という話をします。最近は試合に出る時間も少ないので、実際に組んだ選手に「あの時はどうだった」と聞いたりしていますね。毎試合、良い点と悪い点が出てくるので、次の練習から悪い点は改善して、良い点は伸ばしていくようにしています。

◆「池谷のスクラムは強い」(尾崎)

スピリッツ画像

—— 先ほど池谷選手から尾崎選手の良いところを聞きましたが、逆に尾崎選手から見て、池谷選手の良いところはどこですか?

尾崎:同期だから言うわけじゃなくて、そして僕が言わなくてもトップリーグのどのチームも分かっていることだと思いますが、「池谷のスクラムは強い」ということです。池谷が4、5歳若ければ、今のジャパンにも呼ばれていたと思います。スクラムの強さは日本一だと思います。

—— スクラムの強さの秘密は?

尾崎:コア(体幹)が強いところじゃないですかね。あとは、やっぱりお父さんが...(池谷選手の父は元プロ野球選手)。

池谷:それは関係ないだろ(笑)。畑が全く違うから。俺は中学校の時に、3球でピッチャーを辞めさせられたからね。

尾崎:こだわりを常に持って今までやってきたからだと思います。2年目から試合に出ていて、色んな先輩とスクラムを組んできて、あの人はあぁだったということを理解していて、それを話せることが強さだと思います。

—— お父さんがプロスポーツ選手ということで、プロとしての厳しさを自然と学んでいたと思いますが、その部分が周りから見ていて見えることはありますか?

池谷:それはないと思いますよ。家にいる時は普通の父親ですから。

尾崎:いやいや、影響ゼロではないだろ。

池谷:吉田さん(一郎/ヘッドトレーナー)は野球の仕事もしていたので良く分かっていると思いますが、昔のプロ野球選手は次の試合がナイターだと、その日の試合が終わると夜遅くまで飲んで帰ってきて、朝遅くまで寝ているんですよ。厳しい世界ではあるので、登板の前後はピリピリしていましたね。興奮して寝られない時もあったみたいです。

—— 試合で興奮して寝られない時はありますか?

池谷:僕の場合はありません。父親を見ていたからかもしれませんが、緊張はしますが、基本的に平常心タイプです。だから尾崎みたいなタイプは羨ましいですね。

尾崎:俺も余裕で平常心だよ(笑)。僕は試合の後は眠れないです。

—— いつ頃からスイッチの切り替えが出来るようになったんですか?

尾崎:クラブハウスに来たら、勝手にスイッチが入りますね。

池谷:こういうタイプの人間は、スイッチを入れようと思って入れているんじゃなくて、ザワさん(小野澤)もそういうタイプですけど、スイッチが勝手には入っちゃうんだと思います。

尾崎:だから、僕からラグビーを取ってしまったら、スイッチの入らない人間になってしまいます(笑)。

◆「みんなで成し遂げた時の喜びのひめい」(池谷)

スピリッツ画像

—— 改めてラグビーの面白さはどこですか?

尾崎:やっぱり大変なことを、みんなで乗り越えていくっていうところじゃないですかね。僕はフォワードなので、結局は8人の話になってくるんですが、敵も体が大きいし、外国人もいる中で、タックルなど大変なことをして、味方にボールを渡して、みんなで力を合わせて勝つことが良いところだと思います。

みんなで力を合わせるということは、試合に出ている15人だけじゃなくて、クラブの総合力が大事だと思います。そのためには、厳しいことも言える歳になってきました。

池谷:昔は、"クラブの総合力"なんて言えなかったですからね(笑)。

尾崎:やっぱり勝つための集団なので、そのために後輩たちにも伝えられるようになって、その時に本当にベテランになったと思うかもしれないですね。

—— ますますラグビーが面白くなっていっているんじゃないですか?

尾崎:ますます面白くなっていますし、昨シーズンが完璧な形で終わったので、更に強くして、何かを進化させていかないと、昨シーズンは超えられないと思います。

—— 池谷選手にとって、ラグビーの面白さはどこですか?

池谷:尾崎が言ったように、みんなで1つのことを成し遂げるために取り組み、みんなで成し遂げた時の喜びを味わうために、大変な日々を一緒に共有していけるんだと思います。

◆「2冠に対するハングリーさは変わらない」(尾崎)

スピリッツ画像

—— 今シーズンの目標は?

尾崎:もう一度、2冠を獲ることです。2冠を何度獲っても、それに対するハングリーさは変わらないですね。僕が昨シーズンどんなことをやってきたかと振り返ると、そこまで良いプレーはしていないと思います。もっと良いプレーが出来ると思いますし、良い若手が多いので、負けたくないと思います。一緒に練習をしているので、自分の足りない部分に気づかせられますし、直弥さん(大久保監督)が以前「これでいい、ということはない」と言っていて、もっと強いチームになれると思っています。

池谷:目標は2冠です。もしかしたら他の人も思っているかもしれませんが、今まで試合に出ている時も出ていない時も、完璧な試合をしたと思えることがないんです。チームの成長はもちろんですが、個人の力をもっとレベルの高いところに成長させたいと思っていますし、このチームはそういう選手ばかりだと思います。極端に言えば、昨日より今日は成長させたいし、今日よりも明日の方が成長していたいという想いを持って、今シーズンンもやっていきたいと思っています。

—— 他の同じポジションの選手が成長することで、自分も成長出来るという話を、他の選手からもよく聞きます

尾崎:いや、僕は...(笑)。まずは自分が成長しないととは思いますが、それだけじゃないと思う部分もあって、その考え方が出来るようになったことが、ベテランになってきたと感じる部分でもありますね。ただ、まずは自分がもっとしっかりやらなければいけないという思いがあります。自分を成長させるために同じポジションの選手に教えることもありますが、2番の選手や逆の3番の選手に教えたりもしています。それは池谷も同じだと思います。

池谷:3番には日本代表の畠山もいますし、新田も体が大きいのにフィットネスが高くて、めちゃくちゃ良い選手だと思います。新たに加わったシンさん(ドンウォン)だって、新人の山田だって、走れるし良い選手だと思います。他の選手は僕よりも良いところがたくさんあると思っています。ここ2年くらいで思うようになったのは、僕が伝えられることは伝えていきたいということですね。それがチームや個人のレベルアップにも繋がって、僕が他の選手よりも劣っているところは、更に成長させていこうと思っています。

スピリッツ画像 スピリッツ画像
スピリッツ画像 スピリッツ画像

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ