SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2013年8月 7日

#341 小野澤 宏時 『試合に出たい』

日本代表最多80キャップを記録した小野澤宏時選手。サンゴリアスでは今シーズンから最年長選手になりました。日本代表とサンゴリアスでの新しいシーズンに向けての意気込みを聞きました。

◆次はどうかの繰り返し

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—— チーム最年長となりましたね

単独での最年長に躍り出ましたね(笑)。日本代表では単独最年長が長いので、あまり気になりません。

—— 今シーズンで何シーズン目になりますか?

14シーズン目になります。また新たな気持ちで、新しいシーズンに臨んでいます。ウェールズ代表が初めて来日した時に日本代表デビューを果たし、そして先日ウェールズ代表が2回目の来日をした際にも出場することが出来ました。だから、また新たなことが始まる気がします。

—— 先日のウェールズ代表との試合は2試合行い1勝1敗、日本代表もレベルアップしていると感じますか?

結果を出すことが出来たので、それ相応の力はついてきていると思います。日本代表として活動していると、その日の練習ではこれがダメだったということが連続してくるので、以前の日本代表と比較して力がついてきていると実感することは、あまりないですね。

秩父宮で行われた2戦目のウェールズ戦は外から見ることになり、「出たいな」と思いました(笑)。昨シーズンが終わり、そのまま日本代表に参加して、いつも通りやっている感覚があったんですが、コンディショニング不足でメンバーから外れて、外から試合を見ることになった時に、試合を見てどう感じるかと思っていたんですが、「試合に出たい」と思いましたね。

「試合に出たい」という想いを確認して、また練習し始めることが出来ます。試合を見る前は、もしかしたら「もういいかな」と思うかもしれないと思っていたんですが、試合を見たら「プレーしたい」と思いました。それが良かったです。

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—— 日本代表では最多キャップ(キャップ数80)を更新しました

周りが騒いでいたので、早く終わらせたいという想いはありました。あまりにも周りから言われると、目標ではないことが、目標になってくるというか、最多キャップを更新することが目標になってきていて、その目標を達成した時には、「もういいかな」って感じるかと思いました。でも、最多キャップを更新した時には、コンディショニング不足もあり、なにかモヤモヤした気持ちが残りました。

ただ、それが何に対してのモヤモヤかが分からず、その気持ちのままウェールズとの2戦目を見たんです。コンディションが上がってこないモヤモヤなのか、目標じゃなかった目標を達成したことのモヤモヤなのか、自分が試合に出ていない状況の中で、どの気持ちが前面に出てくるかが分からずに試合を見ました。

—— 実際に最多キャップを更新した時の気持ちはどうでしたか?

これで、周りから何も言われなくなると思いました(笑)。「やった」という感覚よりも、「終えた」という感覚で、これで周りから「記録に対してどうですか?」と言われなくなると思っていました。ずっと試合に出ていることにストレスを感じているのかと勘違いをしそうになりましたが、ウェールズ戦を外から見て「出たい」と思えたことが、嬉しかったですね。だから、今はモヤモヤもなくて、後はやるだけという気持ちでいます。

—— トライ数についても、また周りがソワソワする時期が来ると思います(テストマッチ通算トライ数世界最多トライ数:69/小野澤選手のトライ数:55 ※2013年6月1日時点)

その時に考えます。「お前は結局、試合に出たいんだよ」と自分に言い聞かせます(笑)。

—— 試合に出たいという想いは、1年目から変わっていないと思いますが、その想いはどこからきているんですか?

あまりはっきりとは分かりませんが、単純にプレーがしたいだけだと思います。練習をしていても楽しいですし、自分の中で良くなったと感じた部分を、グラウンドで試してみて、試合ではどうなるんだろうと思いますし、練習して更に精度やフィジカルを高めて、次はどうかということの繰り返しです。

◆もっと良い練習を

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—— 昨シーズンを改めて振り返ってみて、どういうシーズンでしたか?

クラブハウスの改築の関係で、よみうりランドのクラブハウスを借りて練習をしていたので、いつも通りのケアが出来ないことで、いつもやっていたケアの重要性を知ることが出来ました。この歳で新たな発見があったことに驚きました。

ここ3シーズンくらいは、シーズン毎に期間が切れている感じがしないんです。日々の練習にもターゲットがありますし、試合があればそれに向けてより良くしていくことを考えています。自分の中での80%は常に出せるようにしているんですが、その80%の基準が自分の中で高くなっています。80%は最低で、自分の中で行ける時は100%を出すんですが、シーズン中に自分の100%を更新することもありました。だから、自然と80%の数値も上がってくるんです。

—— 昨シーズンは新キャプテンで臨んだシーズンでしたが、ベテランとして何かサポートしたことはありましたか?

キャプテンがやりやすいと思えることはやってきたつもりです。その他のことは、真壁に「邪魔じゃなかったか」とか、「もっとこうやって欲しいということはないか」ということを聞きたいですね。

—— 小野澤選手から見て、真壁新キャプテンはどうでしたか?

調子が良い時と、あまり良くない時とで、見ていて分かりやすいので、あの人間味溢れている感じが良いと思います。

—— チームにとって、ターニングポイントとなる試合はありましたか?

チームにとっては分かりませんが、個人としては第2節の九州電力戦だと思います。接戦で勝つことは出来たんですが、個人として、まだまだ力が足りないと思いました。もっと良い練習をしなければいけませんし、もっと自分たちにフォーカスしなければいけないと感じましたね。

もちろん開幕戦に勝つことが出来たことは大きかったと思います。あの暑い中、相手がNECだったので、もしかしたら何かあるかもしれないと思いましたが、みんながそういう想いで試合に臨めば、ある程度は、ブレずに結果を出すことが出来ると思います。ただシーズンを通して、そういう想いで試合に臨めない時もあるので、もっと自分たちにフォーカスして練習しなければいけないと感じました。

◆考えない強さ

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—— 今シーズンの目標は?

ウェールズが2度目の来日ということで、過去に行われたサントリー対ウェールズ代表の試合が、J-SPORTSで放送されました。その試合を子供が見たそうなんですが、ウェールズ戦の前に8歳の子供から「お父さん、最近ぜんぜん本気でプレーしてないじゃん」と電話がかかってきました(笑)。子供には「最近では、最近なりの全力を出しているつもりですが」と言ったんですが、気づかされる部分がありましたね(笑)。

当時はフルバックで出場していたので、ボールを持つ回数も多かったんですが、いきなりパワー全開でプレーしていたと思います。当時はそれしかなかったですし、今その時の映像を見ると、危なっかしいと感じます。じゃあ、今は何があるんだ?と聞かれれば困りますが、子供に言われたことがショックでした。子供に「こじんまりしている」と言われて、悔しかったですね(笑)。

子供ながらにプレーの勢いを感じたんだと思います。そういうプレーもあって良いと感じさせられましたね。チームのコミュニケーションが取れてきているからこそ、もっと個人にこだわっても良いかなという想いはあります。みんなで何かをすることは、もちろん大事なんですが、そればかりになって個人の加速度がないという意見も家族から出ましたから、個人にもフォーカスしたいと思います。

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—— 『倒れるな』(小野澤宏時著/ベースボール・マガジン社)では、これまでのラグビーを振り返りましたが、本を出したことで気持ちに変化はありますか?

意外と、昔のことを覚えていないと感じましたね。それもあった上で、子供の意見があったので、“個人にフォーカスする”と思ったのかもしれません。自分でも無意識のうちに考えていた部分を、子供に指摘されたような気もします。今の方が、言い訳じみているかもしれません。何事もやってみなければ分からないんですが、経験がある分、それをやったらこうなると予想して、やらないという判断を下しているんだと思います。色々考えずに、とりあえずやってみるという考えも良いと感じましたね。

当時を振り返ると、乱暴でしたし、そういう年齢でしたし、その選択肢しかなかったという思いはありますが、色々と考えていない中で、考えていない強さはあったと思います。当時は、80分間体力がもつかという不安を抱いていました。敬介さん(沢木/現U20日本代表ヘッドコーチ)からパスを受けて、チームに勢いをつける走りを、ひたすら出来るかということを考えていて、相手のことは一切考えていなかったと思います。とにかく自分の体力が持てば、何とかなるということを繰り返していました。

そういうことを思っていたところに、子供から「ぜんぜん本気でやってないじゃん」という言葉をもらい、子供には「今も本気なんだよ」と言いながら、自分が思っていたところに子供からドカーンと指摘をされ、ショックを受けたんですよ(笑)。

—— 本を出して良かったですか?

良かったかもしれないですね。本に出てくる母親や敬介さん、葛西(祥文/中・高時代の監督)さんが、常識では考えられない人達なので、自分も同じように常識では考えられないくらいになれているかと思いますね。自分は何なのかを考えさせられましたし、人間は人からの影響でしか成立しないものだと感じることが出来ました。

周りに常識では考えられない人達ばかりいたので、それに対応するためにやってきたから、今があると思います。本を読んで頂いて、「何だ、こいつ」と思われたら、こいつに対して、自分はどうするかを考えていただければと思います。

—— 今シーズン注目して欲しいポイントは?

僕がどれだけ個人にチャレンジしてくるか、常識では考えられないくらいになれているかということですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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