2013年5月29日
#331 シン ドンウォン 『ひとつのチームになることが大事』
今シーズン、福岡サニックスブルースから新加入したシン・ドンウォン選手。韓国籍でニュージーランド育ち、日本へやって来て福岡で5シーズンを戦った。人を引きつける笑顔の持ち主のドンウォン選手に、移籍にかける意気込みを聞きました。
◆レベルアップしたい
—— つま恋合宿ではSOS(Seeds of SUNGOLIATH/3年目までの選手)メンバーのMVPを獲得しましたね。サンゴリアスに加入して初めての合宿に、どういう気持ちで臨みましたか?
MVPを獲ったことは、とても嬉しかったです。僕にとってはサンゴリアスでの最初の合宿で、まずはサンゴリアスのシステムに慣れることを考えて合宿に臨みました。その結果、MVPを獲得出来たので、とても驚きました。
サンゴリアスの練習に参加して、とてもハードですが、面白いとも感じます。合宿中は、ロッカーグループ同士での対決があり、それが凄く楽しかったので、頑張れたんだと思います。その対決ではあまり成績は良くありませんでしたが、合宿全体を見て、MVPを与えてくれたんだと思います。
—— 5年間、サニックスでプレーしましたが、なぜサンゴリアスに移籍しようと思ったんですか?
チャレンジです。サンゴリアスはチャンピオンチームなので、色々なことを吸収してレベルアップしたいと思いサンゴリアスに入りました。5年間を同じ環境でトレーニングしてきましたが、新しい環境でチャレンジする事で、更なるレベルアップに繋がると考えています。
僕の弱みはスクラムだと思っているので、スクラムをよりレベルアップさせたいと思います。サニックスのメンバーも、僕のことを考えて送り出してくれましたし、サニックスは素晴らしいチームだと思います。
—— 対戦相手として5年間サンゴリアスを見てきて、サンゴリアスが強くなった理由は何だと思いますか?
外からサンゴリアスを見ていた時は“良いチーム”という感覚しかありませんでしたが、実際にチームの中に入ってみると、練習量などを含め、なぜチャンピオンチームなのかが分かりました。
—— サンゴリアスの練習量には慣れましたか?
自分のベースもありましたし、ある程度は慣れてきましたが、まだまだだと思います。
◆性格はフレンドリー
—— サニックスに入る前は、どこでラグビーをしていたんですか?
生まれは韓国ですが、8歳からニュージーランドに行き、ずっとニュージーランドでラグビーをしていました。僕の父親は大学で英語を教えていたんですが、韓国では勉強ばかりで、自分を表現するような自由な時間がありませんでした。母親がそのシステムでの生活があまり好きではなかったので、僕が8歳の時に、両親と弟の家族全員でニュージーランドに引っ越しました。
—— ご両親がニュージーランドを選んだ理由は?
カナダ、アメリカ、ニュージーランドが候補に挙がっていたんですが、アジア人が少ないという理由で、ニュージーランドになりました。ニュージーランドのクライストチャーチに住んでいましたが、僕らが住み始めた1995年には、あまり韓国人はいませんでした。
2002年以降から韓国人の家族が多く住むようになってきて、僕らはクライストチャーチに住むベテラン韓国人だったので、新たに引っ越してきた人たちからアドバイスを求められました。
—— なぜニュージーランドに決めた理由が、韓国人が少ないということだったんですか?
日本人同士でもそうだと思いますが、韓国人同士で話をしていたら、英語を覚えないと思います。そのために韓国人が少ないニュージーランドを選んだんです。僕が最初に行った学校では、アジア人の入学が初めてで、半年間くらいは全て英語での生活になりました。そのおかげで、早く英語を習得出来たんだと思います。
—— ニュージーランドでの生活はどうでしたか?
僕は韓国人ですが、ニュージーランドはホームです。僕の性格はフレンドリーだと思うので、ニュージーランドでの生活にはすぐに慣れました。
—— ニュージーランドに引っ越してからラグビーを始めたんですか?
13歳まではラグビーを知りませんでした。ラグビーを始める前は、バスケットボールをやっていましたが、高校(※ニュージーランドでは、13歳から17歳までの5年間)でも他の人と比べて体が大きい方だったので、誘われてラグビーを始めました。
◆とにかく走れ
—— ラグビーをやってみてどうでしたか?
ラグビーを始めて1年目の時は、「ボールを持ったらとにかく走れ」、「ボールを持った選手が前にいたら、とにかくタックルしろ」の2つしか言われなかったので、それしかやっていませんでした(笑)。それでも面白いと感じましたね。
ニュージーランドではラグビーが1番のスポーツです。友達から「今のプレーは良かった」と言ってもらったりして良いコミュニケーションが取れましたし、周りにいる人たちが良い人が多かったと思います。ラグビーを始めて1年目の時は、ルールが全く分かりませんでしたが、ルールを覚えると、更にラグビーが面白くなりました。
—— 高校を卒業して、日本に来たんですか?
日本に来る前に、イングランドに1年間住んでいました。高校を卒業するまでは、毎年カンタベリーの代表に選ばれていたんですが、ある時から自分の成長が止まっていると感じました。その時は何をやってもラグビーが上手くいかないと感じていたんですが、ニュージーランド政府には留学プログラムがあり、1年間イングランドのミリタリースクールに入り、そこでラグビーを教えたりしていました。
その学校では50人もの子供たちの面倒をみなければいけなかったんですが、5カ月間ヨーロッパを回れるというメリットがあったので、やることにしました。
—— 子供の面倒をみることは好きですか?
子供の面倒をみることは好きですが、12歳から18歳までの子供たち50人だったので、かなり大変でした。僕も当時は18歳だったので、5人くらいは同い年の子がいました(笑)。
—— イングランドから日本に来たんですか?
イングランドでの1年間が終わり、一度ニュージーランドに戻り大学に入りました。大学に通いながら、ハイスクールオールドボーイズというクラブチームでプレーしていました。大学2年まではそのクラブチームでプレーし、大学3年の時にサニックスからオファーが来て、2008年4月20日に日本に来ました。
◆2年目以降は3番
—— 日本に来ることもチャレンジですね
プロップをやる前は、フランカーでプレーしていたので、周りの選手と比べても体が小さい方でした。1年間の契約で、どこまで体を大きく出来るかが、以降の契約の判断材料だったので、サニックスでの1年目は大変でした。
—— 1年で体は大きくなりましたか?
大きくなりました。日本に来た時は体重が92、3kgでしたが、その年のトップリーグ開幕の時には、98、9kgくらいまで大きくなっていました。夕食を食べた後、寝る前にまた食事をしたりして体を大きくすることに必死でした。
—— サニックス1年目の時は、どれくらい試合に出たんですか?
サニックスでの5年間で、4試合だけトップリーグの試合に出場出来ませんでしたが、それ以外は全て出場しました。1年目は1番で出場し、2年目以降は3番での出場でした。これまで1番ではプレーしたことがありましたが、3番はサニックスで初めてプレーしたので、難しかったですね。まだまだ3番の勉強をしなければいけません。
—— 日本に来る前に、それだけの試合に出られると思っていましたか?
日本に来る前は、これほど試合に出させてもらえるとは思っていませんでした。サニックスに入った当初は、メンバーに選ばれれば良いと思っていましたが、メンバーに選ばれるようになってからは、自信が持てました。
—— ラグビーにおいて、自身のプレーの特徴は何ですか?
サンゴリアスに入る前までは、フィットネスが強みだと思っていましたが、サンゴリアスには僕よりも凄い人がたくさんいました(笑)。フィットネスには自信があったんですが、今はチームの中で真ん中くらいですね。
—— サンゴリアス1年目の今年は、試合のメンバーに選ばれるためにはどう勝負していきますか?
引き続きフィットネスをレベルアップさせていき、スクラムを更にレベルアップさせていきたいと思っています。どちらか一方が良い選手だけではなくて、全てにおいてレベルが高いプレーが出来る選手になることを目標にしています。
スクラムについては、体を大きくすることと、スクラムは8人で組むので、前の3人がしっかりと支えなければいけません。そのポイントをしっかりとレベルアップさせていきたいと思っています。尾崎さんと池谷さんに毎日テクニックを教えてもらっています。
—— ポジションはどこをやりたいですか?
今は3番をメインにプレーしていますが、1番でもプレー出来ます。
◆日本のラグビーは好き
—— ラグビーの魅力はどこにありますか?
チームメイトがいることです。サンゴリアスに入った当初は、周りのメンバーのことをあまり知りませんでしたが、一緒にハードトレーニングをしていくことによって、ひとつのチームになれたと思います。ラグビーはチームスポーツなので、チームメイトがひとつのチームになることが大事です。
—— シン・ドンウォン選手は笑顔が素敵ですね
親を見て学んだこともありますが、ニュージーランドという新しい環境で生き抜くためには必要なスキルだったので、自然と出来るようになった部分もあります。
僕が韓国で生活していた時は、太った子供でした。6、7歳の頃の写真を見ると、可愛いんですが(笑)、今とは違い太っていました。ニュージーランドに行った時も、ご飯を一杯食べて更に太って、スポーツは嫌いだったんですが、我慢して続けました。
—— 今シーズンの目標は?
1つはサニックスから来た選手ではなく、サンゴリアスの選手になることです。あとは試合のメンバーに選ばれて、トップリーグでプレーすることです。
長期的な目標としては、毎年何かを学んでいきたいという想いがあるので、日本の中で自分のラグビーがどれだけ通用するかチャレンジしていきたいです。
—— 今は少し日本語を話せますが、全て日本語で答えられるようになるのはいつ頃だと思いますか?
これまで日本語の勉強をしてきたわけではなくて、選手同士での会話で日本語が話せるようになりました。サンゴリアスでは先生に日本語を教えてもらって、来年の4月までには完璧に日本語を話せるようになりたいです。
—— ニュージーランド、イングランド、日本では、ラグビーのスタイルは違いますか?
全然違うと思います。日本のラグビーは速くて、どの選手も高いスキルを持っているので、日本のラグビーは好きですね。
—— ファンの皆さんに、見て欲しいポイントは?
80分間プレーする事が出来たら、僕だけをずっと見ていて欲しいです(笑)。アジア人枠で試合に出られるのは1人なので、試合に出るためには、パクさんにチャレンジしなければいけません。もしチームが僕ではなくパクさんを試合のメンバーに選ぶのであれば、パクさんが僕よりも素晴らしいということです。そうなった時には、もっともっとレベルアップするだけです。ただアジア人枠を使うかどうかはチームが判断する事なので、まずは試合メンバーに選ばれる対象になるためのアピールをしなければいけません。
(通訳:白倉綾子/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]