2013年5月15日
#329 辻本 雄起 『ブレイクダウンでファイトする部分は通用する』
この春、ニュージーランドにラグビー留学した辻本雄起選手。充実した留学生活を送り、現地のグループ会社で仕事もしたようです。サンゴリアスNo.1の“世界ラグビー通”が、初めて自ら体験した世界のラグビー。グラウンド、ホームステイ先を問わず、ニュージーランドならではのラグビーのシステムや文化について、語ってもらいました。
◆ウェリントンは育成のシステムが整っているところ
—— ニュージーランド留学はどうでしたか?
3月2日から4月30日までの約2カ月間、ニュージーランドのウェリントンに行ってきました。僕は初めての留学でしたが、世界最高峰のニュージーランドのラグビーを体験して、本当にラグビーが大好きな人たちが集まっていると感じました。ラグビーのスキルやフィジカル、プレーの勉強になりましたし、ニュージーランドの文化を学ぶことが出来て、すごく良い経験になりました。
ウェリントンは、ニュージーランド州代表選手権という大会の中で真ん中位のチームで、僕はウェリントンライオンズやハリケーンズに繋がるアカデミーでトレーニングをしていました。ニュージーランドの中でもウェリントンは育成のシステムが整っているところなんです。
—— どういうスケジュールで生活をしていましたか?
朝は、ウェリントンライオンズやウェリントン代表、ハリケーンズを目指す若手選手と一緒にトレーニングをさせてもらい、夜は地元のクラブチームで練習をして、土曜日にそのクラブチームの一員として試合に出させてもらっていました。
—— ライオンズやハリケーンズを目指す若手選手は、どんな選手たちですか?
それぞれのバックグラウンドはバラバラですが、18歳くらいから20歳代前半の選手で、朝の7時から8時半までの1時間半トレーニングをして、トレーニングが終わったら、学校に行ったり、仕事に行ったりしていました。
そのアカデミーには、ウェリントン州のコーチやハイパフォーマンスマネージャーなど、いろいろな役職のコーチがいて、週4回トレーニングをしてくれていました。週2回はウエイト、残りの2回はスキルのトレーニングを受けていました。僕は参加しませんでしたが、金曜日にはアカデミー生を中心に座学も行っていました。
◆選ばれた選手しかアカデミーに入ることが出来ない
—— 日本で行っていたトレーニングと比べて、新しい発見はありましたか?
プログラムの内容は、サントリーでやっているトレーニングとあまり変わりはなかったので、スムーズにトレーニングを受けることが出来ました。周りの選手は、若くて、ライオンズやハリケーンズを目指している選手ばかりなので、辛い練習でも「好きだからやっている」という気持ちが伝わってきました。
僕が一緒に練習をさせてもらっていたアカデミーには20人位の選手がいて、選ばれた選手しかそのアカデミーには入ることが出来ないんです。
—— 竹下選手も同じアカデミーに入ったんですか?
竹下も一緒でしたが、他のトップリーグのチームからも何人か来ていました。最初、日本人は僕らだけだと思っていたんですが、トヨタ自動車やホンダ、リコーからも来ていて、8人位の日本人がいたと思います。
—— アカデミーでのトレーニングが終わった後は何をしていたんですか?
ニュージーランドには、サントリーグループのフルコアという飲料メーカーがあり、その会社で仕事をさせてもらっていました。日本での仕事と仕組みは一緒なので、問題なく出来ました。ニュージーランドの人たちは、1週間分をまとめて買い物するので、かなりの量のドリンクの陳列や補充をしました。
地元のクラブチームの練習は、火曜と木曜だったので、仕事が終わったら、地元のクラブチームの練習に参加するか、自分たちでトレーニングをするというリズムで生活をしていました。僕はホームステイ先が少し離れたところだったので、ホームステイ先に帰ったらご飯を食べて、少しゆっくりしたらすぐに寝て、次の日はまた7時からアカデミーの練習に参加していました。
—— ホームステイ先はどうでしたか?
フルコアの社員の方の家にホームステイをさせていただいたんですが、ラグビーが大好きな家族で、色々なことに協力をしてくれました。会話もほとんどがラグビーのことで、日本で野球の話をする感覚で、ラグビーの話をしていました。
—— ホームステイ先の家族には子供もいたんですか?
7歳と5歳の子供がいて、男の子と女の子がいました。男の子はラグビーをしていて、庭で一緒にラグビーをして遊んだりしました。
—— 竹下選手は違うところにホームステイをしたんですか?
竹下は、ウェリントン市内の家族の所にホームステイをしていました。僕は市内から車で1時間くらい離れたところでした。
◆自分の中で危機感を感じた
—— ニュージーランドでの生活で気に入ったことはありますか?
テレビでスーパーラグビーの試合を家族で見たり、ウェリントンでの試合に連れて行ってもらったりしました。ホストファミリーのみんなは、色々なスポーツが大好きで、奥さんはラグビーとネットボールが好きでした。ネットボールはニュージーランドとオーストラリアで人気の女性のスポーツで、バスケットボールに似たスポーツなんです。ネットボールは、バスケットと違いドリブルが出来なくて、選手によって役割が決まっていて、その役割に沿ってプレーするんです。
—— ニュージーランドで学んだ文化は何ですか?
街を歩いていて、「背が大きいね。ラグビーやっているの?」とか話しかけてくれますし、空き地などでは、親子でラグビーをしている姿をよく見かけました。ラグビーが根付いていて、日本で言えば、野球やサッカーのような感じでした。
—— ニュージーランド留学を経験して、課題は見つかりましたか?
ウエイトなどは僕とあまり違いはないんですが、実際にグラウンドで体をぶつけると、重みがあったり、タックルをされてもボールを繋ぐのが上手くて、身体能力が高い選手が多いと思いました。僕はずっとフィジカル強化が課題でしたが、よりフィジカルを鍛えなければいけないと思いましたし、より素早く動ける体が必要だと感じました。
—— 世界に通用すると感じる部分はありましたか?
ブレイクダウンでファイトする部分は通用すると感じました。
—— ニュージーランドに行く前と行った後では、ニュージーランドに対するイメージに変化はありましたか?
僕は今年で26歳になりますが、世界的に見たら26歳くらいの選手は、スーパーラグビーで50試合くらいに出場している選手が多くて、20歳や21歳くらいの選手も出場しているんです。日本では大学を卒業して、1年目、2年目の選手は若手と言われますが、海外では20歳くらいでトップチームの試合に出場をしていて、自分の中で危機感を感じました。今までのんびりしていたわけではありませんが、意識を変えなければいけないと思います。
—— ニュージーランド留学をすることになった経緯は?
サントリーからニュージーランドへの留学は、昨年から始まり、1年目は西川と竜太郎(竹本)が留学をしました。2人とも凄くレベルアップして帰ってきて、トップリーグでも活躍をしたので、今年も留学をさせてもらうことになりました。留学をさせてもらえたということは嬉しいことでもありますが、活躍しなければいけないというプレッシャーもあります。
◆フィジカル面でもっと強くタフな選手に
—— 今シーズンの目標は?
チームに貢献出来るように、フィジカル面でもっと強く、タフな選手になって、トップリーグの試合に今まで以上に出場することです。僕はもう若手でもないですし、自分の色を出して、後輩たちを引っ張っていかなければいけないと感じています。
—— 出場試合数については、具体的に何試合という目標はありますか?
具体的な数字で考えてはいますが、まずはしっかりと自分のやるべきことをやって、100%チャレンジした結果、試合のメンバーに選ばれるようにしたいと思います。毎試合、毎試合しっかりとチャレンジして、みんなの信頼を勝ち取って、試合のメンバーに選ばれるようにしたいと思います。
—— その目標を達成するためのポイントは何ですか?
まだまだ課題はありますが、フィジカルレベルは少しずつ上がってきているので、ボールを持ったらどんどん前に出て、ブレイクダウンでもしっかりと仕事をして、1つ1つのプレーの精度を高めていきたいと思っています。
やるべきことは凄くシンプルで、ボールキャリアで前に出るとか、ブレイクダウンで走る、ラインブレイクされたらしっかりと戻る、そしてファイトするということをしっかりとやっていけば、自ずとみんなからの信頼を得られると思っています。サントリーはブレイクダウンで良いボールが出せれば、良い形で攻撃へと繋がっていくので、責任を持ってプレーしたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]