2013年4月 3日
#323 真壁 伸弥 『日に日にサンゴリアスが好きになっていった』
新しいキャプテンとして1年間を通じてリーダーシップを発揮し、見事チームを2冠に導いた真壁伸弥選手。いつも通りの謙虚なコメントの中に、体を張ってチームを引っ張り続けて目標を達成した自信が、秘められているのではないでしょうか。
◆若手選手が強くなければ、勝ち続けることは難しい
—— シーズン終了し、少し時間が経ちましたが、疲れは取れましたか?
今の時期はチームでの練習をしていないので、疲れは取れていると思います。ただ1年間を通して、やっていることは変わらないので、そもそも疲れていないのかもしれません(笑)。
—— 優勝から次にチームが始動するまでの間は、ホッと出来る期間ですか?
優勝の次の日から仕事がありましたから、慌ただしい日々が続いています。シーズンが終了しても、キャプテンというポジションは忙しいと思います。それとシーズンが終わったからホッとするというよりも、これから勝ち続けなければいけないという思いが強いです。ですので、初めて2冠を取った時のような爆発的な喜びは少なくなっていると思います。チームの中では「それだけのことをやっているんだから当たり前」という雰囲気はあります。
—— チームの中には自信やプライドが育っているということですか?
チームのカルチャーに対しての自信など、気持ちの面でもここ2~3年で強くなっていると思います。
—— 今シーズン1敗もしなかったことに関しては?
試合に出ているメンバー、出ていないメンバーに関係なく、チームとしての強さが出たと思います。具体的には、チームのトップにいる選手よりも、若手が成長したことが大きいと思います。チームとしてのレベルは、トップにいる選手よりも試合に出られないメンバーが、どれだけやっているかだと思います。
—— SOSのレベルアップが大きいと思いますか?
大きいと思います。トップ選手がいくら強くても、若手選手が強くなければ、勝ち続けることは難しいです。いくら強いチームでも試合に出れない選手にやる気がなければ、それがそのチームのレベルなんです。その部分に関しては、今シーズンのサンゴリアスにはやる気がない選手はいませんでした。
やる気がない選手がいないということは、チームとしての文化が出来ていること、チーム全体として「勝ちたい」という気持ちがあること、そしてチームの雰囲気が良いことだと思います。
—— その雰囲気はコーチやスタッフ、選手が作っていくものだと思いますが、その部分に関して、これまでのチームよりも成長していると思いますか?
今シーズンは選手1人1人が自立したと思います。選手自身でやっていかなければ試合に出られませんし、チームにもいられません。チームにしっかりとした規律があり、厳しい環境があると思います。例えば、ミーティングや練習に遅刻してくる選手がいるとすると、その選手は試合には出られなくなります。例え、その選手がいないことで試合に負けるようなことがあるとしても、チームの規律を守れない選手は、試合のメンバーには選ばれません。そういう厳しさがあるからこそ、今のチームがあるんだと思います。
◆キャプテンと言えないようなキャプテン
—— 監督も1年目、キャプテンも1年目という状況で、キャプテンとしてはどうでしたか?
本当にキャプテンと言えないようなキャプテンだったと思います。自分でもキャプテンではなかったと思っています。まずはラグビーのことを他の選手よりも分かっていませんし、チーム全体を見る力もありませんし、発言力もありません。出来ることは体を張ることだけでした。
それでもキャプテンを務めることが出来たのは、他の選手が「あいつはキャプテンらしいことが出来ない」と思っているからこそ、全力でサポートしてくれたからだと思います。先輩からも後輩からもそういう雰囲気を感じました。逆にそれが良かったのかもしれません。
例えば、私が間違っていることを言っていたり、言いたいことが定まっていないことがあったとすれば、先輩から厳しい指摘がありますし、後輩たちはそれを温かく見守ってくれました(笑)。私がコーチたちから怒鳴られても、温かい空気を作ってくれるチームだったので、本当に助かりました。
—— 辛かったことは何ですか?
シーズン終盤になってパフォーマンスが上がらず、試合には出られないかもしれないという気持ちが強くなった時と、負けないままトップリーグプレーオフトーナメント決勝に進んだ時のプレッシャーが強すぎて、辛くなる時もありました。トップリーグプレーオフで優勝した時に、ある意味吹っ切れた部分はありました。日本選手権で、例え私が出場出来なくても、「このチームであれば大丈夫」という気持ちでしたね。
プレーオフの決勝で、東芝から1トライも奪われませんでしたし、2回のシンビンで人数が少ない時がありましたが、自分たちのルールをしっかりと守ることが出来ました。そして相手チームよりも、「勝ちたい」という気持ちが違うとも感じました。
—— チームの中で誰かお手本にしている選手はいますか?
私の場合は、チーム全部がお手本です。高校、大学とあまり考えずにラグビーをしてきたので、社会人チームの中でどう過ごすべきかを勉強させてもらっています。
—— 今シーズン一番成長した部分はどこですか?
「責任あることを任せて欲しい」と思える気持ちだと思います。昨シーズンは、正直、優勝させてもらったというイメージが強くありますが、今シーズンに関しては、「優勝するためには何をしなければいけないのか」という意欲が出てきたことが、一番の成長だと思います。
—— 話すことには慣れましたか?
未だに話をするのは苦手ですね。だから今はもう単語で言いたいことを伝えています(笑)。私が言いたいことを単語で話をして、その補足でジョージ(スミス)が話をしてくれます。ジョージの話だと、他の選手もしっかり聞きますからね(笑)。私にはまだ発言力が足りないと思います。
その人の話を聞くということは、その人自身がしっかりと取り組んでいて、結果を残しているからだと思います。だから、私の場合はまずやるしかないんです。SOSのメンバーであっても、もともと素晴らしい経験をしてきた選手ばかりなので、経験という面で言えば、私よりも遥かに上にいる選手なんです。
—— アフターマッチファンクションでの挨拶には慣れましたか?
それは慣れました。自分の中で定型文を作って、その状況に合わせた挨拶をするようにしています。ただヤマハ戦でのアフターマッチファンクションでは、清宮監督(ヤマハ発動機ジュビロ)が予想外の突っ込みをしてきたので、焦りました(笑)。その突っ込みを笑顔でかわして、もう一度定型文を言い直しました。
—— 経験が少ないにも関わらず、なぜキャプテンに指名されたんだと思いますか?
発言ではなく、身体で示せるキャプテンが必要だったと思います。
—— キャプテンをやって嬉しかったことは何ですか?
日に日にサンゴリアスが好きになっていったことです。高校や大学の時は、人のためというよりも自分のためにラグビーをやっていたような気がします。キャプテンになって、このチームのためにラグビーが出来たことが本当に嬉しく感じました。スポーツをやっていて良かったとさえ感じました。
このチームはチーム全体で1つのことに向かって支え合っていて、その素晴らしさを感じました。これまでラグビーをやっていて泣いたことはなかったんですが、今シーズンのトップリーグプレーオフ決勝中に初めて泣きました。
トゥシ(ピシ)がトライした時と、優勝が決まった瞬間に泣いていました。小野澤さんから、「トップリーグ優勝で満足している」と指摘されたんですが、感情をコントロール出来ませんでした。他の選手は誰も泣いていなかったんですが、私だけ泣いてしまいました(笑)。そんな私を受け入れてくれているので、サントリーは懐が深いと思います。
—— 一番嬉しかった勝利は?
日本選手権決勝が一番嬉しかったですね。
◆やれるならばキャプテンを続けたい
—— 全勝でしたが、10点差以内の試合が4試合、それについてはどう思いますか?
勝負事なので、毎試合勝つのは難しいことだと思います。それでも勝ち続けられたのは、僕の場合は負けてしまったら、「これまでの努力が水の泡になってしまう」という思いでやっていました。2シーズン前は、リーグ戦で3敗していて、その時はどうすればいいのか分からなくなってしまっていました。今はチーム全体に、立ち返れる場所があるということが浸透しています。僕としては、立ち返らずに勝ち続けたいという思いがあります。
—— 今までは自分のプレーに集中出来ていたと思いますが、キャプテンでも同様に集中出来ますか?
僕の場合は、出来ませんでした。他の選手が「お前は自分のプレーだけに集中しろ」と優しい言葉を掛けてくれるんですが、どうしてもチーム全体を考えてしまい、自分のプレーに集中する事が難しかったですね。キャプテンとして初めて参加した網走合宿の時は、「自分らしくない」と思いながらプレーしていました。
—— これからもずっとキャプテンを続けたいと思いますか?
指名して頂けるならばやりますが、今の私であれば、キャプテンだろうが、いち選手だろうが、チームのことを考えられるので、キャプテンという役割がなくなったとしてもやることは変わりません。ただ、剛さん(有賀)や隆道さん(佐々木)がチームからいなくなった時のことも考えなければいけないと思います。しっかりと後輩たちに伝えられる力を、私も身につけていかなければいけないと思っています。そういう力を身につけるにはキャプテンをやることが近道だと思うので、やれるならばキャプテンを続けたいと思います。
—— 来シーズンの目標は?
もちろん2冠です。全勝については、今シーズンも考えていなくて、練習1回1回の積み重ねが、今シーズンの結果だと思います。来シーズンはリーグ戦のシステムが変わりますが、決勝戦をしっかりと見据えてスケジューリングをして、その中で1試合1試合を積み重ねていくことが大事だと思います。
—— 前シーズンのチームを超えるという目標も変わりませんか?
今の状態で満足してしまったら、あとは下がっていくだけです。そのことはチーム全員が理解していて、チームの文化になっていると思います。他のチームはよりアタックを強化してくると思いますし、ディフェンスを強化してくるチームもいると思います。
それを考えると、来シーズンは今シーズンのチームを超えていかなければ勝つことは出来ないと思います。個人的にも、前シーズンの自分を超えなければいけないと思います。私の場合は、まだ伸びしろがたくさんありますから。
—— サンゴリアスの文化とは具体的にどういうことですか?
「自分たちのルールをしっかりと守る」という規律です。簡単に言うと、リスペクト、プライド、ネバーギブアップの3つがあって、それを守りながらアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを構築していくことです。これまでしっかりと積み重ねてきた部分があって、努力し続ければ結果がついてくるということもチームで理解していると思います。努力し続けるためには、リスペクト、プライド、ネバーギブアップの3つをしっかり理解して、いつも心の中に留めておかなくてはいけません。
—— アグレッシブ・アタッキング・ラグビーの良さは何ですか?
明確な目標があり、その目標を果たすためにはこれをしなければいけないという確固たる意志がなければ、目標を達成することは出来ないと思います。それはラグビーに限らず、他のスポーツやスポーツ以外のところでも必要なことだと思います。サントリーの場合は、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーで勝つことが出来、結果を残してきたので、チームの中で芯になっています。
ディフェンスではなく、アタックということに関しては、アタックしなければ点が入らないということもありますが、アタックをすることでディフェンスも良くなるんです。練習の中で、誰も止められないアタックをすれば、ディフェンスをする側もどうすれば止められるかを考えるようになります。アタックもディフェンスもどちらもスキルアップすることが出来ます。チームの中にしっかりとした芯があるから、誰が試合に出てもサントリーのラグビーが出来るんです。それがチームの価値だと思います。
◆日本が世界のトップ10に入れるようにしたい
—— 4月からジャパンの合宿が始まりますが、これまでジャパンでは9キャップですね
キャップ数よりも、ここで使いたいと思われる選手になりたいですね。そして日本が世界トップ10に入れるようにしたいと思います。外国人の選手と体をぶつけることは嫌いではなくて、むしろ好きなので、日本代表でプレーをすることは楽しいですね。ただまだ日本代表では信頼を勝ち得ていないと思うので、信頼を得るためには4月からの合宿が大切だと思っています。
—— 外国人の選手にはフィジカル負けしていないということですか?
今はまだ負けていると思います。外国人選手は本当にフィジカルが素晴らしくて、その中で勝っていかなければいけないので、これから身体を作っていかなければいけないと思います。今シーズンの課題はスキルとフィジカルです。そこがレベルアップ出来れば、日本代表でもメンバーに選ばれると思っています。
—— その強化のスケジュールのイメージはありますか?
仕事もあるので、なかなか時間が作れていないので、これからになります。日本選手権が終わって、やっとこれから仕事で会社に貢献出来ると思っているので、なかなかそれに充てる時間が取れない状況です。
—— 1シーズン応援してくれたファンの皆さんにメッセージをお願いします
大きな声援で盛り上げてくれる方が多くて、メールで励ましてくれる方もいて、本当に有難い気持ちです。私たちも、ファンの皆さんが見ていて楽しくて、興奮するようなラグビーが出来るように頑張りますので、ラグビーを盛り上げる意味でも、お知り合いの方を誘っていただき、会場に足を運んでいただきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]