2013年3月18日
#321 村田 大志 『チームの歯車となれる選手になりたい』
シーズン途中からレギュラーの座を掴み、“ファイナルラグビー”トップリーグプレーオフ2試合、日本選手権2試合のすべての試合でトライを決める成長ぶりを見せた村田大志選手。サンゴリアスで今、最も勢いのある村田選手に話を聞きました。
◆得るものしかない
—— チームの目標であった2年連続2冠獲得を達成して、今の気持ちは?
シーズン前からずっと積み重ねてきたものが形として残ったので、すごく嬉しい気持ちですし、グラウンドに立って優勝の瞬間を味わえたので、本当に良い経験になったと思います。昨シーズンも2冠を獲って、チームの一員として2冠に携われたことは嬉しかったんですが、グラウンドに立ってその瞬間を味わえるというのは、今まで味わったことがないような感動がありました。
—— 日本選手権決勝で、試合終了のホイッスルが鳴った瞬間はどんな気持ちでしたか?
ホッとした気持ちがありました。特に今年は全勝で日本選手権決勝まで進んで、凄いプレッシャーの中での試合だったので、他のみんなも、嬉しいという気持ちよりはホッとしたと思います。
—— 昨シーズンの2冠獲得の瞬間は、どんな思いでスタンドから見ていましたか?
このチームの一員で良かったという気持ちはありました。でも、やっぱり、どこかに「試合に出たい」という気持ちがありました。昨シーズンはシーズン終盤に怪我をしてしまったので、昨シーズンの日本選手権決勝の時は、試合に出られるという感覚は全くありませんでした。
—— その時は、今度どうなるかという不安がありましたか?
不安というよりは、次のシーズンが楽しみだと思いました。リハビリは大変だろうけど、また新しいシーズンで新しくチャレンジ出来るということは、すごく楽しみなことでした。
—— その自信はどこから来ていたんですか?
自信はありませんでしたが(笑)、怪我をして何もない状態からのスタートで、得るものしかないという気持ちだったので、そういう意味で楽しみだったんだと思います。
◆時間が足りない
—— 今シーズンが始まって、力がついてきていると、自ら感じるところはありましたか?
今シーズンは常に焦りがありました。スタートが他のみんなより出遅れていた分、ラグビーをしている時間も短かったですし、復帰した後もなかなか自分の動きが出来ない時間が長かったので、毎日毎日の練習を出来る限りの集中力を持ってやるしかないという気持ちでしたし、それでも時間が足りないと思っていました。練習は大変でしたが、やるしかないという気持ちで取り組んでいました。
—— 焦りがなくなってきたのはいつ頃からですか?
焦りがなくなることはありませんでした。試合に出ていても、いつ試合のメンバーから外れるかも分かりませんし、最初は自分のプレーが出来なかったので、まだまだという気持ちでずっとやっていました。
—— 学生時代のプレーとは、格段にレベルが違ってきていますか?
大学時代よりは上手くなっていると思います。サントリーに入社した当初は、フィジカルでは歯が立ちませんでしたが、今はボールを持った時にはしっかり前に出られるようになってきたので、そういう部分が学生時代と比べていちばん変わったところだと思います。あとはファンダメンタルスキルの部分では全体的に上がっていると思います。
—— その上達は数字でも見られましたか?
シーズン終盤ではウイングでのプレーが多くて、ウイングは数字では出ない働きが多いんですが、ボールキャリーの回数は増えてきていると思います。
—— リーグ戦の途中から試合に出始めましたが、その前はどういう気持ちでしたか?
やっぱり焦っていましたね。練習試合やサテライトでは試合に出ていましたが、自分らしくないプレーをしてしまったり、一時期は自分らしいプレーが何なのかも分からなくなっていました。いちばん酷かった時期は、メンバーに入ることが目標になってしまっていて、いざ試合に出た時にはしっかりとしたプレーが出来ない状態でした。今思えば、そういうことも経験が出来て良かったと思っています。
—— トップチームで試合に出続けられるようになったきっかけは何ですか?
自分でははっきりとは分かりませんが、チームの信頼を得られてきたからかもしれません。
—— トップリーグで試合をすることによって、新たな課題が出てきましたか?
ウイングとしての課題は常にありましたし、あとはどれだけ100%の力を出せるかというところがポイントでした。その部分は、試合を重ねる毎に良くなってきましたし、もしかしたら日本選手権決勝が自分の中ではベストのパフォーマンスだったかもしれません。
◆自然と出来るようになりたい
—— ウイングとしての自分の長所はどこだと思いますか?
ずっとセンターをやってきたので、他のウイングの選手よりもインサイド選手と、よりコミュニケーションを取りながらディフェンスが出来るところが強みだと思います。オフェンスについては、ボールキープだと思います。僕のボールキープのポイントとしては、ディフェンスに真っ直ぐ当たらないようにして、ハンドオフを使いながら、適当な間合いを作ってしっかりとコンタクトして、良いリリースをするということを意識しています。
—— そのスキルは学生時代から得意としていたんですか?
学生時代はそこまで考えていませんでした(笑)。学生時代はぶつかって寝るということしか考えていなかったんですが、社会人になってからはぶつかってから寝ることさえも出来ませんでした。少しでも姿勢が高い状態でぶつかると、そのまま抱えられてしまうので、そこは改善されたと思います。
—— どうやって改善していきましたか?
コンタクトについてはチームでも練習をしているので、その練習で身につけられましたし、試合や練習で他の選手のプレーを見て学ぶことがたくさんありました。
—— 新しいことを教えてもらった時には、すぐに出来るようになるタイプですか?
ものによりますね。例えば、倒れた後にすぐに起きて、素早くスイープに行くことは得意で、すぐに出来るようになったと思います。逆に難しいと思うのは、走るスキルですね。今は意識したら出来るようになってきましたが、自然と出来るようになりたいです。
◆シーズンが終わってしまう寂しさ
—— トップリーグプレーオフ2試合、日本選手権2試合の全てでトライを取りましたが、終盤に来てレベルが上がったと思いますか?
全てのトライが自分の力だけのものではないと思いますが、ボールを持って走る時に自分の中にどんどん余裕が出てきています。トップリーグプレーオフの準決勝、決勝を経験出来たことが、自分の中での自信になりましたし、負けたら終わりという状況でも、自分が試合に出て勝てたことが大きかったと思います。
—— 経験を積んだことにより余裕が出てきたんですか?
経験を積んだこともあると思いますが、走るスキルも上がっていると思います。ボールをもらった瞬間に周りが見えるようになりましたし、いろいろなオプションが出来るようにもなりました。特に日本選手権決勝で、ステップを踏んでディフェンスをかわしてトライを取りましたが、僕がトップリーグの試合に出始めた時は、自分の中ではああいったオプションはありませんでした。そういうことを踏まえると、頭の中に余裕が出てきたと思います。
—— そういったプレーが出来るようになっている今は、ラグビーをしていて面白い時期じゃないですか?
日本選手権決勝が終わった時は、これでシーズンが終わってしまうという寂しさがありました。ただチームとして最高の形で終えることが出来たので、本当に嬉しかったですね。
—— 自分の中で理想とするプレーに近づいてきていると感じますか?
近づいているとは思いますが、これからも近づき続けることが大事で、ここで終わってしまうと普通のプレーヤーだと思うので、来シーズンがすごく大事になってくると思っています。
—— 理想のプレーヤーとは?
チームが求めていることをしっかりと理解して、そのプレーを発揮出来る選手がいちばん良い選手だと思っています。フィジカルがある選手、スピードがある選手というだけじゃなくて、しっかりとチームの歯車となれる選手が必要とされると思うので、そういう選手になりたいと思います。
◆HUNGRYを続けられない選手は試合にも出られなくなる
—— 来シーズンに向けて、何トライしたいというような具体的な数字で目標を持っていますか?
トライ数はあまり気にしていませんが、やっぱり試合には全試合出たいです。ただそのためには怪我をしないことが大事だと思うので、コンディショニングをしっかりしながら、良い状態で試合に臨んでいきたいと思います。
—— 2冠を獲得したことにより、HUNGRYさが欠けてしまう心配はありませんか?
HUNGRYさを体現するのが若手の役目だと思いますし、HUNGRYの状態を続けられない選手は試合にも出られなくなるというだけの話だと思います。今のサントリーの若手選手は、試合に出たいと思っている選手ばかりだと思うので、これからも僕はHUNGRYにやるつもりですし、他の選手も特に意識しなくてもHUNGRYな状態でいられると思います。
—— 中期的な目標はありますか?
ジュニア・ジャパンに選んでいただいたので、まずはジュニア・ジャパンでしっかりと結果を出したいと思います。そうすることによって、その先も見えてくると思います。例えジュニア・ジャパンで結果を出せなくても、サントリーでもっとハードワークするだけです。そういう意味では、中期的な目標もありますが、まずはしっかりと目の前のことをやっていって、それに対してどんな結果が出るのかが楽しみですね。
—— 国際試合の経験はありますか?
僕は経験がありません。今回が初めての国際試合になるので、どうなることやらという感覚で楽しみではあります。ジュニア・ジャパンに選ばれた選手を見ると、僕よりも若い選手が多くて、若手中心の構成なので、相当厳しい戦いになるとは思います。その中で、僕がどういう態度でいるかが大事で、そういう選手が日本代表にも選ばれていると思うので、しっかりした態度で臨みたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]