SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年11月28日

#306 成田 秀悦 ワールドカップ・セブンズ2013出場権獲得 『セブンズで自信を取り戻した』

仲宗根健太選手と共にセブンズ日本代表チームに参加、最年長選手としてワールドカップ予選大会でチームを引張った成田秀悦選手。7人制、そして15人制への想いを語ってもらいました。

◆相手選手が膝に手をついた

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—— 少し痩せましたか?

7人制でかなり走りましたからね。今の7人制日本代表は昔の7人制に比べて、もの凄く走る回数が増えましたし、体をぶつける回数が増えました。

—— スタイルが変わった理由は何ですか?

前のチームは、日本人は体が小さいから、いかにぶつかる回数を減らして、ボールを繋いでいくかというスタイルでしたが、今の瀬川監督(智広/7人制日本代表ヘッドコーチ)のセブンズは、いかにブレイクダウンを多く作って、相手を散らして攻めていくかというところがポイントなので、めちゃくちゃ走ります。だから7人制日本代表に行っても、サントリーのラグビーをやっているような感覚があります。

最初、今のスタイルでプレーすることには疑問を感じました。日本人は体が小さいのに、「そんなにぶつかって大丈夫なのかな」って。練習でもブレイクダウンばかりで、今までやっていたセブンズを覆されたので、正直、「これで勝てるのかな」と思っていました。ですが、今回のシンガポールセブンズの香港との決勝戦で、前半が終わってすぐに相手選手が膝に手をついた瞬間、「あ、やってきたスタイルは間違いじゃなかった」と思いました。

決勝戦の前半は0対12で負けていたんですが、相手の方が前半終わった段階で、膝に手をついていて疲れていて、後半は明らかに動けなくなっていました。後半は日本のブレイクダウンになるたびに香港の選手が嫌な顔をしていて、日本の後半最初のトライでは、7~8フェーズくらい攻撃を重ねて、相手が動けなくなったところでトライを取ったので、その時に「こういうセブンズもあるんだなぁ」と感じました。

—— これからもそのスタイルで戦っていくんですか?

このスタイルで世界を相手に戦っていくと思います。ですが、相当キツかったです(笑)。

—— ワールドカップは2013年6月にロシアで開催されますね

僕は今までロシアには1回しか行ったことがなくて、しかも良い思い出がないんですよ。まだワールドカップのメンバーに選ばれた訳ではないので、何とも言えないですが。

◆サントリーに帰って来られないというプレッシャー

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—— いつから今の代表メンバーで練習をスタートさせたんですか?

セブンズのアジアシリーズが8月末から、ボルネオセブンズ、上海セブンズ、ムンバイセブンズとあって、今回のシンガポールセブンズがワールドカップ・セブンズの予選を兼ねていました。仲宗根は第1戦のボルネオセブンズから参加していて、僕は第1戦は呼ばれていませんでした。

ボルネオセブンズで日本が優勝して帰ってきて、次の上海に向けて日本代表の合宿が始まる時に、直弥さん(大久保監督)に呼ばれて、「セブンズに呼ばれているけど、どうする?」と話をされました。その時、僕はサントリーでも試合に出られず、もがき苦しんでいた時期だったので、敬介さん(沢木ヘッドコーチ)に相談をして、自分の今の状況を変えたいと思い、セブンズに参加することを決めました。

セブンズに行くことを決めたんですが、中国の国内情勢の関係で、日本代表が上海セブンズに参加することを辞退しました。直弥さんから最初は「上海だけ」と言われていたんですが、「次のムンバイにも行って来い」と言ってもらったので、すぐに気持ちを切り替えて、ムンバイとシンガポールに参加しました。

—— 今回の7人制日本代表では最年長でしたね

早くも最年長です(笑)。若い選手が多かったので、これまで僕が経験してきたことを伝えるという役目もありました。けれど、坂井(克行/豊田自動織機)がキャプテンをやっていて、僕よりも若い選手なので、最初は年上の選手がリードするとやりにくく感じると思ったので、発言は控えるようにしていました。

—— スピリッツ・オブ・サンゴリアスでの仲宗根選手のインタビューでは、成田選手からアドバイスをもらったと話していました

要所要所では他の選手にもアドバイスをしていましたし、他の選手たちが気を遣って「どうなんですかね?ナリさん」って聞いてきてくれていたので、その時は僕が若い時に経験したことや、先輩から言われていたことだけを話しました。

その時の状況によって色々なことを話しましたが、例えば、若い選手が煮詰まってしまって悩んでいる時に、「自分も若い時にこういうことで悩んだ」とか「こういう時もあったな」ということを思い出して、自分の時はどうだったかを話していました。

—— シンガポールセブンズでの調子はどうでしたか?

瀬川監督と1対1の面談をした時に、良いところも悪いところも言ってくれて、「ブレイクダウンでは弱いね」という話もされました。監督の中では僕は先発メンバーとは考えられていなくて、試合途中でギアチェンジする時の選手と考えられていたと思います。けれど、そんな中でアクシデントがあって、シンガポールセブンズのプール戦の2戦目で、僕と同じポジションの和田(耕二/トヨタ自動車)が怪我をしてしまったので、それ以降は先発フル出場をしました。

和田はチームの中で絶対的エースという存在で、その代わりに僕が入って負けたりしたら、サントリーに帰って来られないというプレッシャーがありました。あんなプレッシャーを感じたことはありませんでした。

2010年のアジア大会でもリザーブでの出場が多くて、大事な場面で出場することが多くてプレッシャーを感じましたが、今回のシンガポールセブンズでは、先発で出場して試合を組み立てたりしていたので、もし負けた時には何を言われるか分からないと思っていました。

—— 2010年のアジア競技会の時は後半でのトライが多かったと思いますが、今回は前半からトライを取りましたか?

アジア大会の時は後半にトライを取ったり、ノートライだったりしていたんですが、今回の最後の方は頼りにしてくれて、ボールも回ってきたような気もするんですけどね(笑)、それは聞いてみないと分からないです。

—— シンガポールセブンズで優勝した要因は何だと思いますか?

ブレイクダウンとフィットネスです。サントリーでブレイクダウンやフィットネスのトレーニングをしているので、それを日本代表でも出さなければいけないと思っていました。

◆前回のワールドカップでの思いを晴らしたい

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—— 2013年のワールドカップへの思いはありますか?

エディーさん(ジョーンズ/ラグビー日本代表ヘッドコーチ)から「7人制と15人制のどちらでも活躍する選手は世界にもいない」と言われて、一時期セブンズのことは考えないようにしていました。最後にセブンズに行ったのは、2011年の香港セブンズで、その時にはスコットランドやアメリカにも勝って、良い成績を残すことが出来たんですが、エディーさんから「セブンズは卒業して、そろそろ次のステップに」という話をされました。

それ以来、セブンズのことは考えないようにしていたんですが、サントリーから大島や仲宗根が選ばれたりしていて、合宿に行く前には、必ず僕に話を聞きに来ていたんです。大島や仲宗根とセブンズの話をしていると、やっぱりセブンズのことを考えたりしていましたね。「セブンズで活躍した時期もあったな~」なんて(笑)。

セブンズに行くことで、もの凄く調子が良いシーズンもありましたし、セブンズのワールドカップという話になると、前のワールドカップには長野と一緒に出場していて、1勝も出来ずに悔しい思いをしたという記憶しか残っていません。もし挑戦出来るのであれば、前回のワールドカップでの思いを晴らしたいという気持ちがあります。

—— 更に先の話ですが、オリンピックで7人制ラグビーが正式種目になりましたね

長友と網走合宿の時にロンドンオリンピックを見ていたんですが、盛り上がり方が凄いですよね。言い方は悪いですが、マイナースポーツでもメダルを取れば、メディアの取り上げ方も違ってくるので、長友と一緒に「オリンピックに出てみたいね」という話はしました。けれど、まだ先の話ですし、そこまでラグビーをやっているのかとか、走れるのかということを考えると、「オリンピックを目指すぞ」とは言えません。例えば、僕がいま社会人1年目だったら、話は別ですけどね。

—— サントリーのベテラン選手を見ていて、オリンピックを目指すという気持ちになりませんか?

ザワさん(小野澤)や元さん、北條さん(純一/2010年度引退)のように30代になってもスピードやパワーが落ちない人達を見ていると、僕も30代になってもスピードを維持したり、スピードアップしたりということを考えますが、まだオリンピック目指すという気持ちにはならないです。オリンピックが大き過ぎて見えないですね。

7人制ラグビー自体が、ずっとオリンピック種目であれば、オリンピックを目指すという目標も見えてくると思いますが、2016年のリオデジャネイロオリンピックで初めて正式種目として採用された訳なので、イメージが持てないんです。オリンピックはあんなに夢のある大会で、あんなに人々が感動し、銀座でパレードをすれば50万人もの人が集まる大会なので、想像出来ない世界です。

◆もう一回り体を大きく

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—— 昨シーズンはトップリーグでトライランキング2位になりましたが、今シーズンの調子はどうですか?

自分の過去を振り返っても、リーグ戦の前半戦に1試合も出場していないシーズンはなかったので、もどかしさはありますし、一時期は自信も失っていました。僕はもう若手じゃないですし、中堅の年齢なので、若い選手に自分の経験を伝えていかなければいけないですし、見本にならなければいけない年齢だと思っている中で、試合に出られないという苦しい時期が続きました。セブンズに行くことで自信を取り戻したので、これがサントリーの中でも良い方向に変わっていくように一生懸命やるだけだと思います。

—— 1試合も出場出来なかった要因は何だと思いますか?

毎試合、直弥さんとも話をしているんですが、自分の最大の武器でもあるスピードが上手く出せていなかったり、いろいろな要因があると思います。開幕前に少し怪我をしてしまい1ヶ月くらい休んでから、スピードが落ちたと言われたこともありました。今はもう完治してスピードも戻ってきて、自信もついてきているので、良い方向には向いていると思います。

あとは、ウインドウマンスの時期は試合も多いので、そこでいかにアピール出来るかが重要になってくると思います。それともう一回り体を大きくして、自信を更につけたいと思います。セブンズで仲宗根のプレーを見て、サントリーで練習しているせいか、ブレイクダウンスキルが他の選手とは明らかに違っていました。僕もサントリーで練習をしているので、あとは体を大きくして、いかにスキルを発揮するかだと思っています。

—— 成田選手から見ても、セブンズでの仲宗根選手は良かったですか?

良かったですね。ボルネオセブンズの時に仲宗根が代表に選ばれた時は、正直言って「なんで仲宗根?」って思っていました(笑)。その大会で日本は優勝して帰って来ましたが、試合結果や映像などを見ると、仲宗根はあまり試合に出ていなかったので、「やっぱり仲宗根はセブンズには合わないんじゃないか」と思っていました。けれど、今回のシンガポールセブンズでは、仲宗根は全試合に出場していますし、実際に一緒にプレーしてみて「凄いな」って感じました。

セブンズに向いている向いていないじゃなくて、サントリーで練習したスキルをセブンズでも出すことで、チームにも信用されたんだと思います。タックルに行けば相手を止めるし、ジャッカルに入ればボールを獲っていました。たぶん仲宗根はチームの中でもターンオーバーが一番多かったんじゃないかと思います。そこで優勝にも貢献していると思います。

大会が終わった後、仲宗根に「サントリーに戻ったら、またキツい練習が待ってるな」と話をしたら、「セブンズであんだけ走りましたし、そんなに大変じゃないんじゃないですか」と軽く言っていたので、「仲宗根はだいぶ自信をつけたな」と感じました。

—— 成田選手もかなりの自信をつけたんじゃないですか?

今まで多くのセブンズの大会に出ましたが、今回ほど試合に出たのは初めてで、1対1で止められることはないと思いました。それで自信をつけることが出来たので、残りのシーズンでは飛ばしていこうと思います。

成田秀悦選手&仲宗根健太選手 7人制日本代表での成績

■成田選手
<第16回アジア競技大会(2010/広州)>
(プール戦)
第1戦 モンゴル代表 出場なし
第2戦 マレーシア代表 先発フル出場 2トライ
第3戦 タイ代表 後半0分出場
第4戦 香港代表 後半3分出場
(決勝トーナメント)
準々決勝 インド代表 先発フル出場 1トライ
準決勝 韓国代表 出場なし
決勝 香港代表 出場なし

<HSBCアジアセブンズシリーズ第4戦シンガポールセブンズ(ワールドカップ・セブンズ2013アジア地区予選)>
(プール戦)
第1戦 インドネシア代表 後半0分出場 1トライ
第2戦 スリランカ代表 前半6分出場 1トライ
(カップトーナメント)
準々決勝 シンガポール代表 先発フル出場 1トライ
準決勝 フィリピン代表 先発フル出場 1トライ
決勝 香港代表先発フル出場

■仲宗根選手
<HSBCアジアセブンズシリーズ第4戦シンガポールセブンズ(ワールドカップ・セブンズ2013アジア地区予選)>
(プール戦)
第1戦 インドネシア代表 先発出場→後半6分交替 1トライ
第2戦 スリランカ代表 先発フル出場
(カップトーナメント)
準々決勝 シンガポール代表 先発フル出場
準決勝 フィリピン代表 先発フル出場 1トライ
決勝 香港代表先発フル出場

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)

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