2012年11月14日
#304 新田 浩一 サンゴリアス初キャップ 『1番でやっていきたい』
2年目での初キャップ。スタメン、フル出場。今シーズン前半戦最後に登場した新1番が、その喜びと思いを語りました。
◆サントリーでラグビーをしているという実感
—— 1番での初キャップ、どうでしたか?
ファーストキャップで、スタメンで、しかも80分間出場出来たことをすごく嬉しく思いましたし、プレーしていて楽しかったです。トップリーグの試合に出て、初めてサントリーでラグビーをしているという実感が湧きました。
練習試合やサテライトでもサントリーを代表して試合に出ているんですが、やっぱりトップリーグは雰囲気や背負っている重みが違いました。めちゃくちゃ緊張をしていたんですが、それよりもサントリーの代表として、サントリーのラグビーが出来るという気持ちの方が強かったので、楽しかったですね。
—— メンバー発表で名前を言われた時、舞い上がったりしませんでしたか?
舞い上がるということはそんなになくて、試合の週の初めから上のチームで練習をしていて、自分の中でも「今週はチャンスだ」という思いもありましたし、監督からもはっきりと言われた訳ではないですが、「分かってるだろうな?」という感じの言葉を頂いていたので、月曜日から普段よりも集中して練習に取り組んでいました。
—— 新田選手は大阪出身ですが、ご両親は福岡まで応援に来られたんですか?
今回は見に来なかったんですが、一応すぐ報告をしました。前の週のパナソニック戦には大阪から見に来てくれていて、その次の日にはヤマハとの練習試合があり、2日連続で応援に来てくれていました。応援に来てくれた翌週の試合で、メンバーに選ばれて、しかもスタメンという話をしたら、驚いていましたね。
パナソニック戦の前からリザーブのリザーブでチームに帯同させてもらって、トップリーグで試合をする時の流れを、試合の前日から当日までメンバーと一緒に体験でき、今までとは違う緊張感や準備の質の違い、1人1人の意識の違いを目の前で味わえたので、自分がもしメンバーに選ばれた時はこうしたいというイメージはあったんですが、本当に試合に出られるとまでは思っていませんでした。
—— トップリーグの試合に出場出来た要因は何だと思いますか?
プロップの選手に怪我があり、1番をやる選手が少なかったんです。僕はもともと1番も3番も出来るんですが、昨シーズンくらいからずっと3番でプレーしていて、今シーズンのある時に直弥さん(大久保監督)から「1番やってみないか?」と言われ、1番でもプレーするようになりました。
ずっと試合に出るチャンスだと言われていて、それに向けて地道に頑張っていたから試合に出られたと思います。今回を機に、これからは完全に1番でやっていきたいという気持ちもあります。
◆もっとアグレッシブに
—— 1番と3番の違いは何ですか?
個人的にはそこまで違いは感じません。スクラムは3人がまとまって組んで、一緒の方向に押すわけなので、やることは一緒なんですよ。例えば、スクラムで右が出るという時は3番が前に出なければいけないですし、1番は右に寄らなければいけません。全体的に見たら、違いはないと思います。僕はあまり気にならないんですが、個人の性格によって違いを感じるところでもあるみたいです。
—— 性格的に1番が合っていると思いますか?
合っているかは分からないですが(笑)、僕は監督から1番と言われたので、1番だと思います。性格で言えば、3番はスクラムの時に相手の1番と2番の間に頭を入れて、両方からプレッシャーが来るので、我慢強くなければいけないと思います。
1番は逆に片方の肩にしかプレッシャーを感じないので、ガツガツ攻められるということが利点です。その半面、相手がいない方向に逃げることも出来ますし、周りに関係なくどんどん押していくことも出来るんです。けれど、そういう自分勝手なプレーをしてしまうとスクラムが組めなくなってしまうので、プレッシャーがかかっている方に寄っていき、相手を押さなければいけません。3番をサポートする役が1番だと思います。
—— サニックス戦でのスクラムはどうでしたか?
フロントローとしてセットピースは重要で、それが出来なければ試合に出られないというのは当たり前のことです。サニックス戦は、周りからは「大丈夫だったよ」と言われたんですが、自分の中ではまだまだだと思います。
何回も試合のビデオを見直したんですが、もっとアグレッシブに相手にプレッシャーをかけられるところがあったと思います。中途半端じゃなく力を出しきって、相手を圧倒しなければいけなかったと思います。だから、合格点にはまだまだですね。
—— 今後も試合に出るチャンスはありますよね
尾崎さんや池谷さんというすごいベテラン選手がいるんですが、若い選手から底上げしていかないと、チーム自体も強くならないと思いますし、いつまでもベテランの方々に任せてばかりじゃいけないという気持ちもあります。
◆少ないポイントに絞ってやる
—— ベテランの選手はいろいろと教えてくれるんですか?
教えてもらっています。夏の菅平合宿で、合宿中は朝の6時くらいから練習をしていたんですが、僕が全然スクラムを組めなかった時に、尾崎さんから「一緒にスクラム組もう」と言ってくれて、次の日の朝5時に起きて、朝練の前にマンツーマンでスクラムを組んでくれました。その練習を圭太さん(長谷川)が周りで見ていてくれたりしたので、すごい先輩愛を感じました。本当に感謝しています。
—— 当時から比べると、どの辺が良くなったと思いますか?
今シーズンからフォワードコーチのベン(ダーウィン)がチームに来たということも大きいと思いますが、1つ1つのことを頭の中でしっかりと消化していくことが大事だと思います。これをしなければいけない、あれもしなければいけないと、いろいろなことを考えながらスクラムを組むと、上手く組めなくなってしまいます。スクラムであれば、意識するポイントを3つだけに絞って、それだけを意識して練習からやり続けるようにしています。良いヒットが出来た時は問題ないんですが、もし押されてしまった時にでも、意識せずに体が動いて3つのポイントが出来るようにトレーニングをしていて、少ないポイントに絞ってやるということが、徐々に出来てきていると思います。
—— その3つのポイントは?
1番と3番では少し違うんですが、1番であれば、しっかりとバインドして当たれる姿勢を作って、ヒットの後に膝を下げ相手の下を取り、右側に寄せて3番をサポートするというのがポイントです。スクラムの基本なんですが、それだけを意識して、無意識でも出来るようにしています。混乱してしまった時は、その基本さえも出来なくなってしまうので、本当に厳しい状況の時は、意識することを1つに絞ることもあります。
もし1つだけ意識することになった場合は、良いセットを作るということだけを考えるようにしています。混乱したり、興奮してくると、セットがバラバラになってしまうので、そこだけを意識してやろうとしています。
—— そこが社会人1年目と2年目の大きな違いですか?
1年目と2年目の大きな違いとなると、もっと全体的なことになります。僕は中学1年生まで野球をやっていて、中学2年生の時に友達から誘われてラグビー部に入部しました。強い中学ではなかったんですが、たまたま東海大仰星高校から声をかけて頂き、東海大仰星に行きました。その高校は周りがすごい選手ばかりだったので、おんぶに抱っこ状態で練習をしていく中、成長させてもらい、一緒にラグビーをやっていた人たちが東海大学に行くので、僕も東海大学に行くことを選んだんです。
そういう周りの影響でラグビーをやっていたので、大学から社会人になる時に、初めて自分の意思でサントリーに行くことを決めました。けれど、自分がサントリーでラグビーをすると決めたのに、社会人1年目の時はこれまで同様、周りに頼ってしまっていて真剣にラグビーが出来ていませんでした。
社会人1年目は、周りがやるからやるという状態のまま終わってしまったので、2年目からは自分の意思でラグビーをすると決めました。1年目で学ぶことが出来たので、2年目からは真剣に向き合ってラグビーが出来ていると思います。そこが1年目と2年目の大きな違いだと思います。
◆自分がラグビーをやりたいからここに来た
—— 1年目の時は先輩から厳しく言われたんですか?
先輩というよりは、エディーさん(現ラグビー日本代表ヘッドコーチ)から(笑)。エディーさんからは、「辞めろ」に近いことは何回も言われましたね。けれど、そこで初めてラグビーと真剣に向き合えましたし、周りがラグビーを続けるからラグビーをやるんじゃないという気持ちになりました。元々そういう気持ちでサントリーに入ったつもりでしたが、1年目の時はまだ甘えた気持ちが残っていたと思います。「自分がラグビーをやりたいからここに来た」ということを1年間で学ばせてもらいました。
—— エディーさんから言われたことで、一番印象に残っている言葉は何ですか?
ラグビーを9年間やってきて、自分の中ではラグビーが好きだと思っていたんですが、「ラグビーが好きだったらもっと出来るだろ。お前はラグビーが好きじゃない」って言われた時は、本当に落ち込みました。そこでエディーさんに言われて真剣にラグビーと向き合って、「サントリーでラグビーがしたい」「サントリーで試合に出たい」というしっかりとした気持ちになれたので、今回の初キャップに繋がったと思っています。
—— どこが一番変わったと思いますか?
今までは受け身な部分が多かったんですが、自分から発信することが大事だと気付いたことだと思います。まだ若干受け身な部分が残っているかもしれないんですけど(笑)。その他に変わったこととして、しっかりと自分の体を使うことを意識して、この大きな体を少しずつ使えるようになってきたと思います。僕はプロ選手ではないですが、学生ではないのでプロの意識でラグビーに取り組むことがすごく大事だと思います。
社会人1年目の時はまだ体が作れていなくて、脂肪が多くてブクブクした体形だったんですが、チームに入ってすぐにエディーさんから「ラグビー選手じゃない。その体じゃラグビー出来ない」って言われました。体のこともエディーさんから言われていたので、1年かけて体形も変わってきました。意識を変えることによって、体も変わってきたと思います。
◆明るい性格で、人前に出ると大人しくなる
—— 中学2年生の時に誘われて始めたラグビーはどうでしたか?
もともとラグビー部のある中学校だったんですが、他の学校と合同でチームを組まなきゃいけないくらい人数が少なかったんです。当時から僕は体が大きい方だったので、その友達からは中学1年生の時からラグビー部に誘われていたんですが、僕は野球をやっていたので、ずっと断っていたんです。中学2年生の終わり頃に、「3年になったら合同チームじゃなくて、自分たちの学校だけでチームが作りたいから頼むわ」って言われたので、野球部を辞めてラグビー部に入りました。
—— 最初のポジションはどこですか?
足はそんなに速くなかったんですが、センターをやらされていました(笑)。中学はそのままセンターをやって、高校ではバックスではなく、フォワードになるだろうなって感じていたんですが、いきなりプロップをやるとは思ってもいませんでした。基礎も分からない状態でプロップをやっていました(笑)。
—— 高校ではどの時期から試合に出ていたんですか?
周りにすごい選手が多かったので、僕の同期は1年生とか2年生から試合に出ていたと思います。僕が試合に出たのは3年生からです。大学では2年生くらいから出ていたと思います。
—— これまでキャプテンやバイスキャプテンの経験はありますか?
これまで一度もやったことはないですね。よく喋る方なんですけど(笑)、キャプテンなどをやるタイプじゃないのかもしれません。
—— 自分ではどういう性格だと思いますか?
明るい性格ではあると思うですが、自分から騒いでいても、人前に出ると大人しくなる性格だと思います(笑)。
◆5キャップ獲得を目標に
—— トップリーグ初出場を果たしましたが、今シーズンの目標は何ですか?
今シーズンが始まる時に立てた目標がトップリーグ出場でした。ただもっと具体的な目標が必要だと思い、絶対にトップリーグ出場を果たして、5キャップ獲得するということを目標にやっています。トップリーグ出場を果たしましたが、1試合だけで終わりにしたくないので、ウインドウマンス(※)に入って練習試合が多く組まれているので、そこでどれだけ自分をアピールするかが大事だと思います。頂いたチャンスを活かせるように頑張りたいと思います。
※:ウインドウマンス=毎年6月と11月を協会代表チーム間の国際試合優先期間として定め、南北半球の交流を中心に、国際試合が行われる月間
—— 自分のアピールポイントはどこですか?
これまでの話の中であまり出て来なかったんですが、運動量だと思っています。これまでのラグビー人生で、プロップの中では運動量で負けたことがないと思います。自分の中では、サントリーのプロップの中でも一番だと思っています(笑)。
—— ラグビーの魅力はどこにありますか?
ラグビーは自己犠牲のスポーツで、自分が体を張ってボールを繋いだり、ボールを守ったりして、みんなでボールを繋ぐスポーツなので、僕の中では、チームとしての達成感が好きなポイントです。
前に進んでトライを取らなければいけないのに、後ろにしかボールを投げられないので、みんなで力を合わせてボールを運んで行かなければいけないというところが、他のスポーツにはないと思います。トライを取った人だけが偉いわけじゃなくて、みんなでパスを繋いだ結果がトライになるというところが良いですね。
—— 1番というポジションの役目は何だと思いますか?
スクラムでもそうですが、最前線に立っているので、プロップが一番体を張らないといけないと思います。フォワードは体を張らなければいけないんですが、プロップとしての一番の役目は体を張ることだと思います。体を張るということに関して言えば、サニックス戦ではあまり出来なくて、ミスが多かったので、その部分もまだまだです。
今回はスタメンで80分間プレーさせてもらいましたが、まだまだチームの信頼は得られていないので、これからもっと体を張って、チームの信頼を得られるプレーヤーになりたいと思います。あとフィットネスはあると思うんですが、まだ良い時と悪い時の波があるので、1つ1つのプレーの質を高めて、仕事量を上げていきたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]