2012年10月31日
#302 野村 直矢 『常にチームの中で一番元気でいたい』
基本は10番、そしてある時は12番、さらには11番の役割を担うこともある野村直矢選手。硬派なイメージからは意外なユーティリティープレーヤーぶりは、まさに"役に立つ"選手として、チームになくてはならない存在となっています。充実したシーズンになりそうな野村選手に現状と展望を聞きました。
◆10番が一番好き
—— 今シーズンはユーティリティープレーヤーとして活躍していますね
どのポジションでもプレー出来るように準備はしていますし、10番をやっていれば、ほとんどのムーブが頭には入っているので、ポジションが変わっても動けるんです。今シーズンは10番、11番、12番でプレーしましたが、昔から12番はプレーしていました。
—— 10番、12番に加えてウイングが増えたんですね
増えたというか、メンバー構成のところで、リザーブに僕とトゥシ(ピシ)が入った場合、外国人枠の関係で、日本人とトゥシが交替することは難しいんです。だから、僕がアタックの時だけウイングに入ることがあります。ディフェンスの時は、僕が10番で、トゥシがフルバックをやることもあります。けれど、ターンオーバーされた時などは、ポジションを変えていたらトライを取られてしまうので、コミュニケーションを取って、その時に一番良いポジションでプレーします。
—— もともとどこのポジションでも出来るプレーヤーを目指していたんですか?
目指していたわけではないですが、昔からいろいろなポジションをやっています。僕が1年目の時のトップリーグ開幕戦では、僕が15番をつけてフルバックをやりましたよ。剛(有賀)がその時怪我をしていて、夏合宿で僕がフルバックをやったら、そのままフルバックで開幕スタメンでした(笑)。
—— その時のフルバックでの出来はどうでしたか?
良かったですよ。キックも任されていましたし、カウンターも良かったイメージがありますね。ただ、普段やっていなかった分、ディフェンスで戸惑った記憶があります。第2節でも15番で出場しました。でも、10番が一番好きですね。
◆常に試合に出る準備をしてきた
—— これまで毎年着実に試合に出場してきましたが、2年前の2010-2011シーズンは1試合しか出場出来ず、落ち込んでいましたね
そう見えましたか(笑)。ちょうど成長する大事な時期に、メンタル的に弱い部分が出ていて、自分のわがままでいろいろな人に迷惑をかけました。その時は、まだ精神的に子供でした。
—— ラグビー人生の中でのピンチでしたか?
自分の中で一番ダメな時でしたね。社会人として5年目の年で、仕事の量も増えている時でした。今まで経験したことがない状況で、精神的に弱くなってしまいました。当時を振り返れば、日本一を目指しているチームの中で、僕が中途半端な気持ちになってしまい、みんなに迷惑をかけました。けれど、チームのみんなは普通に接してくれていました。
チームの仲間が同じ2冠という目標に向かって努力している中で、1人でも手を抜いたらその目標は達成出来ないということを、その時に改めて感じましたね。僕の状況は今、あまり詳しく話せないので、もしシーズン終了後にまた機会があったら、その時、話してみたいと思います。今はもう大丈夫ですよ。ハングリーですから(笑)。
—— その影響で、その年は出場数が少なかったんですか?
そういう訳じゃなくて、その時のチームの構想に、僕が入っていなかっただけだと思います。
—— どこが変わったから、その後、出場数が増えたと思いますか?
僕は別に何も変えていないです。常に試合に出る準備をしてきましたし、昨シーズンで言えば、第7節でチャンスをもらい、そこでしっかりと自分のプレーが出来たので、そこから試合で使ってもらえるようにもなりました。
試合のメンバーだとか、メンバーじゃないとかに関係なく、僕はトップリーグの試合に合わせて常に準備するように心がけていました。準備とは、体のメンテナンスだけではなく、ラグビーノートをめちゃくちゃ書きました。たとえ、試合のメンバーに入っていなくても、その試合に出場するメンバーたちは、どういったサインを使ってプレーするかとか、どういうテーマで取り組んでいるかとかを頭に入れるようにしていました。
—— そのラグビーノートを読み返したりしますか?
例えば、その週の試合の前には、昨シーズンの対戦の時には、ノートに何を書いていたのかなどを見ます。そこにはどういうチームかということを中心に書いていて、例えばパナソニックであれば、キックが良くてディフェンスが強いチームとかが書いてあって、そこに書いてあることと、今シーズンの他のチームとの試合映像を見て、どこが変わったのかということを確認します。
◆理解度が上がることで更にラグビーが面白くなりました
—— 自分では、毎年どういったところが成長していると思いますか?
チームプレーだと思います。あと、僕は手を抜かないですね。元気がない日はなくて、昨日はすごく元気だったのに、今日は落ち込んでいるということがないです。グラウンドに出ていたら、常にチームの中で一番元気でいたいし、チームの盛り上げ役でいたいです。若井さん(コンディショニングコーチ)、僕が静かな時はないですよね?
(隣にいた若井コーチが)ノム(野村)は若手にも真剣に指導しますし、ノムがリーダーをしているロッカーグループは、全員で食事に行ったりするので、良いチームワークがありますよ。
今サンゴリアスは、若いメンバーが本当に多くて、トップリーグの試合に出ているメンバー以外は、ほとんどが若い選手です。会社でも、同じところで働いているラグビー部のメンバーは全員年下なので、「ちゃんと引っ張っていかなきゃ」って思うんです。昔じゃ考えられないですよ(笑)。昔から、元気で盛り上げ役ではありますけどね。
成長した部分としては、7年もサントリーでラグビーをやっていて、経験や理解度は成長していると思います。理解度が上がることで、更にラグビーが面白くなりましたね。サントリーは、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーで、いつも形を作ってアタックしているんですが、その理解度も1年目の選手とは違います。それと10番でプレーしていて、いつもチームの先頭に立ってプレーしているので、理解するのも早いと思います。
—— 理解度が上がると、相手チームを分析する力も上がるんですか?
分析に関しては、スタッフが全部やってくれていますし、サントリーのラグビーの場合、対戦相手の強みを消すラグビーはしないんです。例えば、すごくボールを動かしてくるチームと戦う時も、いつものディフェンスを変えて、こうディフェンスしようということはしないんです。僕らは相手チームにフォーカスするというよりも、自分たちにフォーカスしているので、特に分析ということはないですね。まぁ、毎週録画したトップリーグの全試合は見ていますけど(笑)。
—— 相手チームが何をやろうとするかという理解度も上がっていますか?
上がっていると思います。実際にグラウンドで相対した時に、どういうプレーをしてくるかとか、サントリーがこういうプレーをしたら嫌だろうなとか、そういうことは考えられるようになったと思います。
◆どこのポジションもやっちゃうよ
—— ラグビーの楽しさは変わっていますか?
試合に出られない時期もあったので、毎試合毎試合、試合に懸ける思いは強くなっています。昔よりも試合に対する準備をしっかりするようになりました。例えば、日々のルーティンを崩さないとか、年齢も上がってきたので体のメンテナンスに気をつけるようになりました。体のどこかに痛むところがあったら、無理に激しいトレーニングをしないとか、コントロールするようにして、試合に向けてのコンディションを気にするようになりました。
—— 毎年良くなっているという感覚はありますか?
まだまだこれからも良くなっていくと思います。
—— 先発した時と、途中交替で入ったときとでは、相手選手の体力の消耗の違いを感じますか?
先発は試合開始後20分くらいまでには、しっかりと試合を作らなければいけなくて、チームをリズムに乗せるプレーや、速いラグビーをやったり、コントロールする時間帯もあったりします。途中出場の時は、だいたい残り時間が20分とかになるので、天候にもよりますが、点差によって、もう1回テンポを上げるとか、頭の中でのイメージなどの準備が違いますね。
—— 今シーズンの目標は?
2冠です。その瞬間に、2つともグラウンドに立っていたいです。昨シーズンはプレーオフの時だけでしたからね。けれど、もちろん決勝だけじゃなくて、全試合グラウンドに立っていたいですよ(笑)。
けれど、今は外国人選手枠の関係で、先発出場したら、試合終了までグラウンドにいられないかもしれないんですよ。全試合終了の時にグラウンドに立っていたいと言うと、全試合途中出場という可能性があるので、どっちか1つは優勝の瞬間にグラウンドに立っていたいです(笑)。先発出場にしろ、途中出場にしろ、グラウンドでチームに貢献していたいですね。
—— ファンに見てほしいところはどこですか?
どこのポジションもやっちゃうよってとこですね。フォワードと9番以外はプレー出来るので、急なアクシデントで誰かが出られないという状況になっても、どのポジションでもプレーします。
—— その中で10番が好きなんですね
はい、10番です。相手が一番攻めてくるところで、ディフェンスでも体を張るポジションだし、アタックでも常にボールを動かすポジションで、アタックでもディフェンスでも起点になっているポジションだと思います。常に体を張っていたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]