SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年10月24日

#301 池谷 陽輔 サンゴリアス100キャップ達成 『プロップは信頼を勝ち取った選手が試合に出られるポジション』

今シーズン6試合目の10月13日トヨタ自動車戦でサンゴリアス100キャップを記録した池谷陽輔選手。サンゴリアス歴代プロップ3人目の偉業達成ですが、ますますパワーアップして成長し続けています。リザーブでの途中交替では、首をまわしながらグラウンドに走っていく姿が印象的ですが、その時の心境や現在の調子、そしてプロアスリートの息子としての心構えなどを聞きました。

◆仕事量を増やす

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—— 100キャップ達成おめでとうございます。100キャップ目は公式記録では後半37分からの出場だったので、3分間の出場でしたね

僕が交替して入る時に会場の電光掲示板を見たんですが、37分58秒だったので、出場時間はちょうど2分かなって思いました(笑)。

—— 100キャップを達成して思うことはありますか?

出場する時は特に何も考えていなくて、試合が終わって、耕太郎(田原/主務)から聞くまではこの試合で100キャップということを知りませんでした。

—— トヨタ自動車戦は、1トライで逆転される展開でしたが、そういう状況の時には何を考えながら試合に入るんですか?

残り時間が2分だったので、僕個人としては力を出し切って、自分の仕事をやろうと考えていました。

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—— 交替の時、首を回しながらグラウンドに入っていく姿が印象的です

僕が入る時は、だいたいスクラムの時が多くて、いきなり100%でスクラムを組まなければならないので、それで首を動かしていると思います。試合に入る時は、毎回同じですが、1つ1つ自分の仕事をやっていこうということと、今シーズン、監督から求められていることが、ワークレートをもっと上げることなので、常に仕事量を増やすことを考えています。

—— 仕事量を増やすためには、具体的にどういうところを変えなければいけないんですか?

今のサントリーのラグビーはプロップもボールキャリアーになりますし、走ることを求められます。僕の個人的な仕事としては、ブレイクダウンをしっかりやることだと思っているので、ブレイクダウンに行く速さと回数を上げることを考えています。

残り時間が短い時は、特にそのことを意識します。マイボールであれば、そのままボールをキープすれば相手に得点を取られないので、何としてでも自分たちが持ち込んだボールは、自分たちに出すということを意識しています。

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—— ブレイクダウンが終わった後、またすぐ次のブレイクダウンに速く行くためのコツは何ですか?

僕はもともとスピードがある選手ではないので、見極めが重要になります。このポイントには入らなければいけない、このポイントには入らなくてもいいということを瞬時に考え、行動に移します。ボールキャリアーに対して、何人の選手がサポートに入らなければいけないということが決まっているので、その時のプレーを見て、サポートが足りている場合は、次のブレイクダウンのサポートに行くことを考えます。

—— その見極めには経験が必要ですか?

単純に見れば分かることなので、そこまで経験は必要ないと思いますよ。自分の前に何人の選手がいるのかを見れば、前にいる選手はブレイクダウンに入るので、そこで人数が足りていれば、次のプレーに備えます。

ただし、あまりにも自分のプレーに入り過ぎて視野が狭くなっていると、周りの選手が見えなくなってしまうんです。もうボールが出ているのに、ブレイクダウンに入ってしまうと、また次のブレイクダウンに入れないといけないということになります。僕も昔はそういうプレーが多かったと思います。

◆目に見えて出来るようになっている

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—— ここ3年間くらいは、社会人生活の中で最も走っていると感じますか?

チームとしては走っていますが、僕個人としては瞬発力を求められていて、体重が重いのであまり長い距離を走ると膝に負担がかかるということもありますが、速く走るトレーニングをしています。他の選手が長い距離を走っている時に、僕やジャンボ(仲村慎祐)など体重がある選手は、デイブ(デイビッド・エッジャー/ヘッドS&Cコーチ)と一緒に、短い距離で瞬発力を上げるトレーニングをさせてもらっています。

短い距離といっても瞬間的な負担はかかってきますが、長い間ずっと走るよりは、膝にかかる負担は少なくなります。そのトレーニングを始めたのは、エディーさんがサンゴリアスに来てからで、それまでは他の選手と一緒に長い距離を走っていました。瞬間的にスピードを上げるトレーニングをしてからは、瞬間的に動く意識がすごく上がったと思います。

ずっと走っていると体力はつくと思いますが、瞬間的なスピードを求められた時には、特に僕らみたいな体重が重い人間には、そういうプレーは出来ないと思います。過去を振り返ると、今やっている瞬間的なトレーニングは、僕にとって必要なトレーニングだと感じています。気づくのが少し遅かったですけどね(笑)。

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—— 走ることだけではなく、他の場面でも瞬間的な判断が速くなっているんじゃないですか?

それはあります。頭で分かっていても、足が動かなければ次のポイントにはいけない訳で、判断が速くなったというよりも、判断に体がついていくようになったという感じですね。

—— その能力はまだまだ向上していますか?

していると思います。ウエイトトレーニングの時に、ロースキップという速くスキップをするトレーニングをやっていて、最初の頃は腿を上げるイメージでやってみろと言われていたんですが、腿を上げると速く動かせないですし、速く動かすと腿が上がらないという感じでした。それが何ヶ月間かトレーニングをしていると、ちゃんと出来るようになるんです。僕も尾崎も仲村もやっていますが、目に見えて出来るようになっているので、そこが面白いですね。

他の選手が、それをどうプレーに活かすかというところまで考えてトレーニングをしているかは分かりませんが、僕もそのトレーニングの効果が分かってきました。シーズンが終わって、新しいシーズンが始まる時に、ロースキップをやろうとしても出来なくなっているんです。毎日トレーニングをしていると、また出来るようになるので面白いですよ。

◆日ごろから細かなコミュニケーション

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—— 長谷川慎さん(ヤマハ発動機ジュビロFWコーチ)、中村直人さん(キヤノンイーグルススクラムコーチ)と、サンゴリアスにはプロップの選手で100キャップを獲得した選手がいますね

僕は、プロップは信頼を勝ち取った選手が試合に出られるとポジションだと思うんです。慎さんや直人さんは信頼を早くから勝ち取って、それを持続させてやり通したと思います。今の僕の持ち味はセットプレーだと思っているので、そこは譲らず更に信頼を勝ち取り、長く試合に出るためにもっともっと頑張らなければいけないと思います。それに加えて、フィールドプレーも頑張らないといけないですね。

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—— 3番として信頼を勝ち取るためには何をしなければいけないと思いますか?

3番はスクラムで言えば、一番負担のかかるポジションなんです。けれど、1人ではスクラムを組むことは出来ません。同じチームの1番、2番の他に、ロック、フランカー、No.8の選手にも協力をしてもらわなければいけないので、ここはこうして欲しいとか、日ごろから細かなコミュニケーションを取って、周りの選手と共同してスクラムが組める状況を作る必要があります。

試合によって周りに入る選手が違ったり、人によって癖があるので、細かなコントロールも必要になってきて、そこが出来ないとスクラムは組めないと思います。あと途中で試合に入った時は、相手にプレッシャーを掛けなければいけないですね。

—— 先発した時と、途中交替で入ったときとでは、相手選手の体力の消耗の違いを感じますか?

やっぱり先発の時は相手選手の体力もあるので、スクラムを押せと言われても、なかなか難しいことがあります。途中から入った時は、相手選手も疲れているので、崩しやすくはありますね。どこのチームもだいたいプロップの選手は途中で交替すると思いますが、途中から入ってきた選手は、疲れている選手よりも強くスクラムを組める自信を持って臨んでいると思います。

◆プロの世界でやってきた父親は尊敬しています

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—— 子供の頃は、周りは野球をやる環境だったと思いますが(父親が元プロ野球の池谷公二郎投手)、野球人とラグビー人の違いはありますか?

僕が見てきた野球人は、父親世代の野球人なので、今の野球人とは少し違うかもしれません(笑)。山本浩二さん(元プロ野球選手/2013WBC日本代表監督)は見たままの豪快で親分肌な人で、父親も仲良くさせてもらっていますが、父親はピッチャーだったので、王様という感じでした。我が道を行くという感じの人で、父親が家にいる時は、常に気を張っていなければいけませんでした。その姿を見て育ったので、子供の頃はあんなに周りに厳しく接する人にはなりたくないと思っていました(笑)。

だからラグビー人とは違うと思います。昔はその環境が当たり前で育ってきたので分かりませんでしたが、今思えば、父親も相当なプレッシャーがあり、ストレスがあり、それを発散する場が家庭しかなかったんじゃないかと思いますね(笑)。そういう意味で、プロの世界でやってきた父親は尊敬していますし、すごい人だと思います。

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—— 社員選手でありながら、ラグビーの世界ではトッププレーヤーで、そういう選手生活の中でお父さんの影響はありますか?

ランニング1つに対しても、父親は努力をしていた人間で、そういう姿を見てきたので、スポーツの世界は甘くはないと思いますし、努力はしなければいけないと思っています。

—— 今シーズンの目標は?

1分でも2分でも長く試合に出られるように、チームからの信頼を勝ち取って、もっともっと強くなりたいですし、もっともっと良いプレーヤーになりたいと思います。常に上を目指して、向上心を持ってやっていきたいと思います。チームとしては、リーグ戦1位を含めた3冠を獲ることしか見ていないです。

—— ファンの人に見て欲しいところはどこですか?

何人もの名プレーヤーがいたサンゴリアスですが、いまアグレッシブ・アタッキング・ラグビーという文化が出来て、確固たる形が出来てプレーしている僕たちのチームを、過去を知っている人たちは、昔のチームと比べてみて、今のサンゴリアスがどうかというところを見て欲しいですね。僕としては、常に今が一番良いと思っているので、そういうところを見て欲しいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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