2012年8月23日
#292 小野 晃征 『リラックスして、シンプルに』
今シーズンからサンゴリアスの一員となった小野選手。福岡サニックスブルースからやって来た日本代表選手は、サンゴリアスでは初の他チームから移籍してきた日本人選手です。いつも絶やさない笑顔で早くもチームに溶け込んでいる小野選手に、開幕前の心境を訊いてみました。
◆他のスポーツの経験が上手く使えている
—— サントリーに移籍しようと思ったきっかけは?
僕は3歳の時からずっとニュージーランドで育って、19歳の時に日本でラグビーをするチャンスをいただきました。大学も休学し親元を離れ、プロとしてラグビーをやりたいという思いで日本に来て、こうして日本のトップチームでラグビーが出来るチャンスをいただけたので、サントリーに移籍しようと思いました。
—— 日本のチームに入るよりも、日本代表に選ばれる方が先でしたね
当時はカンタベリー大学の学生で、体育の先生を目指していました。大学で2年を終えた時に、当時の日本代表監督であったカーワンさんから直接連絡を受けました。
もともとは自分のラグビーがニュージーランドでどこまで通用するかという思いがあり、19歳の時に日本代表に選んでいただいたので、日本に行くことを決めました。
—— ニュージーランドにいるとラグビーをやることは自然の流れなんですか?
ニュージーランドではラグビーがナンバーワンのスポーツではありますが、実際にラグビーをプレー出来るのは1年のうちに6ヶ月だけなんです。ニュージーランドでは夏のスポーツと冬のスポーツを分けていて、夏はクリケット、テニス、タッチラグビーをやり、夏にラグビーをやることはありませんでした。
小さい頃はオールブラックスに憧れますが、中学生くらいになると、ただオールブラックスに憧れるのではなく、いろいろなスポーツをやりながらオールブラックスのファンになるという感じです。
—— クリケットやテニスの才能はあると感じましたか?
皆いろいろなスポーツをやりますが、運動神経が良い人は、結局はラグビーを選びますね。日本の場合は、1つのスポーツを選んだら、そのスポーツをメインにやっていくと思いますが、ニュージーランドでは、いろいろなスポーツを並行して行うので、いろいろなスポーツのスキルを身につけることが出来ます。他のスポーツの経験が、いまラグビー選手として上手く使えていると思います。
◆チームプレーが好き
—— ラグビーを選んだのは何歳の頃ですか?
高校を卒業してからだと思います。ニュージーランドでは中学校がなく、高校が5年間あるんです。13歳、14歳の時は、冬はラグビーをして、夏はボートをやっていて、15歳からは友達とクリケットをやるようになりました。ラグビーだけをやるようになったのが、高校を卒業してからです。
—— ラグビーを選んだきっかけは?
ラグビーが大好きということだけです。高校の時にラグビーで全国1位になって、その時のコアなメンバーが同じクラブチームでラグビーをやろうという話になったので、同じ仲間と一緒にラグビーをやることを選びました。
—— 競技としてのラグビーはどこが好きですか?
チームプレーです。練習でやったことがそのまま試合に出て、そして仲間と一緒に出来るところが好きです。僕は特にゲームをコントロールするポジションなので、いろいろな練習を見たり、いろいろなコーチからの指示を受けて考えたりして、それを実際にグラウンドで出来て、結果が出せた時は嬉しいですね。
—— それはニュージーランドの時からですか?
ニュージーランドでは地域によってラグビーのスタイルも違いますし、自分のプレースタイルと相手チームとの相性などを考えながら練習をしていました。
—— 自分の武器は何だと思いますか?
どこでどのコールを出して、チームを動かしていくかという判断力だと思います。そこがラグビーの面白さでもあると思います。
—— その面白さに気付いたのはいつ頃ですか?
仲間の力を伸ばして、チーム全体を動かしていくということがカンタベリーのラグビーだと思っているので、そういうスタンドオフ、インサイドセンターになりたいと思うようになりました。
チームが代表になると、動かす選手のレベルも上がり、判断も難しくなってきます。そこが面白い部分であり、毎年毎年レベルアップしている部分でもあると思います。
◆3年目くらいで落ち着いた
—— ジョン・カーワン前日本代表監督はどこで小野選手のプレーを見ていたんでしょうか?
「どこで僕のプレーを見ていたんですか?」と聞いたら、カンタベリーU19のオーストラリア遠征のDVDを見ていたみたいです。エディーさん(ジョーンズ日本代表監督)も当時はクイーンズランドのコーチをやっていて、クイーンズランドU19とやった試合を見ていたみたいです。「なんでアジア人がスタンドオフをやっているんだ」って聞いていたらしいです。
僕はもともと大学を卒業したら、チャンスがあれば日本に戻る予定だったんですが、19歳で日本代表に選ばれるとは思ってもいませんでした。
—— ご家族はまだニュージーランドにいるんですか?
両親と妹2人はまだニュージーランドにいます。父親がニュージーランドを気に入って、そこから英語を勉強したいという思いから、勢いでニュージーランドに引っ越したみたいです(笑)。
—— 日本に来て、いちばん戸惑ったことは何ですか?
今、振り返ると全てが難しかったです。文化、言葉、ラグビー、生活と大変で、日本に来て3年目くらいでやっと落ち着いたと感じました。ニュージーランドでは上下関係がないですし、日本では人と話をすることもストレスに感じていました。あと漢字も書いたり読んだり出来なかったので、レストランに行ってもメニューが読めませんでした(笑)。
ラグビーについても、これまで見てきたラグビーとは違うものでしたし、日本人がどういうプレースタイルか分からなかったので、慣れるまでには2年くらいかかりました。グラウンドで使う言葉も知らなくて、「順目」(同じ方向にアタックすること)さえも知りませんでした。だから外国人選手に「順目って何だ?」って聞いていました(笑)。英語で順目は「same way」と言うんですが、順目と言われても全く分かりませんでした。日本代表に選ばれたことは、自分にとってもプラスになりましたが、最初はそういう壁が多くありました。
—— 最初、日本代表以外ではニュージーランドで生活していたんですか?
日本代表に選ばれてすぐにサニックスと契約をして、福岡に行きました。
—— サニックスに決めた理由は何ですか?
正直な話、契約の際に福岡に行ってホテルに泊まったんですが、そこからの景色が、海が見えて、畑があって、そこに羊がいたらニュージーランドだと思ったんです(笑)。実際に住んでみたらニュージーランドとは違いましたが、福岡は人も優しくて住みやすかったですね。
—— 3年目以降はどうでしたか?
やっと自分がやりたいラグビーが出来るようになったと思いました。2年目までは、周りに選手に合わせて動かしてもらっていたという感じで、他の選手もやりにくかったと思います。
—— トップリーグで試合をしてみてどう感じましたか?
体の大きさはニュージーランドの方が大きくて、コンタクトやフィジカルの部分では不安はありませんでした。ただ最初の頃は、相手チームがどうこうというよりは、チームメイトと合わせることにいっぱいいっぱいで、自分がどうやるべきかに集中していました。
—— ニュージーランドと日本のラグビーを比べて、最も違う部分はどこですか?
やっぱりフィジカルですかね。外国人選手は上半身が凄く強くて、上半身の力で相手をコントロールしようとするので、ニュージーランドのラグビーはレスリングに近いものを感じます。日本だと人間をターゲットにするんですが、外国人選手はボールをターゲットにプレーしている印象を受けます。
◆まだまだ足りない
—— サニックスも走るラグビーをしていますが、サンゴリアスに入ることで不安などはありませんでしたか?
昨シーズンのサンゴリアスとサニックスとの試合を振り返ると、シーズン中で一番大変な試合でした。日和佐と2人でその時の映像を見たんですが、その時のことを思い出して2人で吐きそうになりました(笑)。
サニックスでやっていたラグビーが本当に楽しかったので、日本一のチームでもっとボールを動かしてアタック出来るようサンゴリアスに入りました。僕がチームをコントロールするポジションにいるので、凄く楽しみではあります。
—— 体力的には問題ありませんか?
まだまだ足りないです(笑)。
—— チーム内でのポジション争いについてはどうですか?
今、チーム内にスタンドオフが4人いて、誰が出ても同じラグビーが出来るようにアドバイスをもらったり、コミュニケーションを取っていて、誰が出ても同じラグビーが出来れば、チームとしてのレベルも上がると思います。その中で、4人が持っている判断力のところでポジション争いをしています。
—— サンゴリアスに入って、凄いと思ったところはありますか?
立ってプレーする意識です。常に立ってプレーし次の仕事を探していて、サントリーのラグビーは常に15人が立ってプレーしていなければ出来ないラグビーだと思うので、そこが一番の違いだと思います。
◆ミスしたあとの5秒が大事
—— いよいよトップリーグが開幕しますが、目標は何ですか?
サンゴリアスは昨シーズン2冠を獲得し日本一のチームになりましたが、今年のコンセプトが「ハハングリー」なので、昨シーズンよりスキルもフィジカルもレベルアップしていきたいと思います。
何試合に出場するということを決めてしまうと、もし出られなかった時に、マイナスなことを考えてしまうので、毎日ベストを尽くして、そこでコーチ陣がチームのプラスになると判断してくれれば試合にも出られると思います。まずは自分が出来ることを毎日しっかりやることが大事だと思います。
—— 苦しい時に思い出す言葉などはありますか?
リラックスですね。試合の流れが悪い時って、色々なオプションがある中でどれがベストかを考えてしまうんです。それで考えれば考えるほど、マイナスの方向に行ってしまうので、そこでリラックスして、シンプルに考えチームを動かしていくことが必要になります。
—— これまで怪我などをしたことはありますか?
あまり体が強い方ではありませんが、大きい怪我はないですね。
—— 中期、長期的な構想はありますか?
全くないですね。行ける所まで行くことを考えています。19歳で日本に来た時は、長期的な目標も考えていましたが、目標を達成出来なかった時にマイナス思考になってしまっていたので、今は1シーズン以降の目標は考えずに、1週間毎や1ヶ月毎に目標を立ててやっています。
—— 自身の性格については、どう思いますか?
どちらかと言うと、ネガティブに考えるタイプかもしれません。ただラグビーをしている間は周りからのプレッシャーもあるので、笑顔を見せて楽しむことが大事だと思っています。あとはオンとオフの切り替えに気をつけています。
グラウンドに出たらラグビーだけに集中することを考えていますが、その中でどうしてもミスは出てしまうので、ミスしたあとの5秒が大事で、そこで笑顔を見せて切り替えるようにしています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]