SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年7月 4日

#285 小野澤 宏時 日本代表74キャップ『1試合1試合ドキドキしながらプレーしている』

日本代表に多数の選手が選出されているサンゴリアス。現在の日本代表選手の中で最もキャップ数が多く、チームを引っ張る役割を担う小野澤選手に、新しい日本代表の今を中心に語ってもらいました。

◆スタッフが元気

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—— 新しい日本代表の雰囲気はどうですか?

スタッフが元気なので、良い雰囲気です。エディーさん(ジョーンズ日本代表監督)って、スタッフに元気な人を揃えるんですよ。現在の日本代表は若い選手が多いので試合だけじゃなくて、練習でも調子の波はありますが、その代わりにスタッフが何よりも元気です。スタッフみんながJP(ジョン・プライヤー/S&Cコーディネーター)みたいで、「よし!行こうー!」という雰囲気です。

薫田さん(真広/日本代表アシスタントコーチ)も元気です(笑)。朝からウエイトトレーニングをしています。敬介さん(沢木/ヘッドコーチ)にその話をしたら「薫田さんもやってんだぁ」って言っていました。新しい日本代表は、みんな元気に新しいことへチャレンジする雰囲気があります。

若手、ベテランともに前向き感がありますし、選手はチャレンジするだけですが、枠組みを決めるスタッフが元気だと、嫌な圧力はなく、スタッフからのプレッシャーも心地が良いです。

—— 若い選手も起用していますが、ベテランがサポートする側になるのではなく、フル出場もありますよね

正解は分かりませんが、いろいろな要素をチーム内に入れたいんだと思います。プラスになる要素はいろいろあって、豪快な人が持ち込む要素や、ベテランや若手が持ち込む要素もあると思います。いろいろなキャラクターが集まっているので、物凄いチームに化ける可能性はあると思います。

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—— サンゴリアスの選手が多く選出されていますが、これだけサンゴリアスの選手が日本代表に選ばれることは初めてですか?

坂田さん(正彰/チームディレクター)や直弥さん(大久保/監督)が日本代表の時は、バックスリーにはサンゴリアスから僕と純ちゃん(北條/サンゴリアスOB)、クリ(栗原徹/現NTTコミュニケーションズ)、尚史さん(吉田/現釜石シーウェイブス)の4人が選ばれていました。そこに祐也(斉藤/サンゴリアスOB)、慎さん(長谷川/現ヤマハ発動機ジュビロフォワードコーチ)が入っていたので、今と同じくらいサンゴリアスの選手が日本代表に選ばれていました。

—— 日本代表の中でもサンゴリアスの選手からは勢いを感じますか?

今サンゴリアスから日本代表に選ばれている選手は、JPのやり方も分かっていて、その中でこのトレーニングスケジュールではどう準備していけばいいかを分かっているメンバーなので、そういう部分でもチーム全体に落とし込んでいく役割もあると思います。

東芝の選手は豪快だと感じます。グラウンドの外ではサンゴリアスの選手とは違いますが、練習という評価される場所では、しっかり行動をする選手たちです。評価される場所に立つための方法は色々あるということを示せればいいのかなって思います。いろいろなキャラクターがいるので、チームが単色にならなくて良いと思います。みんなが同じ方法を取る必要はないと思いますし、なによりも練習の場が一番大事ということです。

◆細かいことを積み重ねて準備していく

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—— 平浩二選手がこの前のスピリッツ・オブ・サンゴリアスで、小野澤選手から「早く日本代表に戻ってこい」と怒られたと言っていました

エディーさんがサンゴリアスの監督だった時は、練習前にはいつもミーティングがあって、取り組むことを話し合ってから練習をしていましたが、日本代表では違っていて、グラウンドの中で枠組みだけを渡されて、選手がどういうコミュニケーションを取って、どう取り組んでいくかを見ていました。

そのエディーさんのイメージに関しては、サンゴリアスの選手の方が近いものを持っているんですが、他の成功体験を持っている選手は違うイメージを持っていて、そのイメージで話をすると面白いと思いますが、少し違うと感じていました。だから、そのイメージを分かっている平には、日本代表に来てもわないといけないと思ったんです。

—— 今の練習環境は、大学生になったばかりの選手にとっては、かなり高度な練習ですよね

成功体験の数が少ないので、大変だと思います。春の日本代表発表の段階では、ベテランと若手がセットになって呼ばれていたんですが、それを平が崩したんですよ(笑)。エディーさんに確認していないので分からないですが、絶対に意味のない選出はしないと思います。ポジションごとにベテランと若手をセットにして、言葉で伝えるだけじゃなくてイメージを体現するところも成長させようと考えていたのかもしれません。いちばんの繋ぎ目のセンターで進む速度が少し遅れたように感じたので、平には「何やってんだよ、お前」って言いました(笑)。

ただライアン(ニコラス)が日本代表に来てくれたので、ライアンのプレーを見ることで若手選手がイメージすることが出来るようになっています。それにライアンは、「このプレーは、こういう理由でフォワードがこのアングルに走っているんだから、バックスはこの位置に立たなきゃ意味がないでしょ」というようなことを若手選手にアドバイスしてくれています。僕らがそれを言葉で教えるよりも、ライアンが実際にそのプレーを見せた方が、理解するのが速いんです。

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—— アジア5カ国対抗戦で優勝しましたが、パシフィックネーションズカップでは惜敗でしたね

本当に細かいところでの意識のズレがあったんですが、2ケ月でそれを埋めることはなかなか難しいことでした。そのためには練習を大事にしていくしかないと思います。絶望的な危機感ではありませんが、すぐにガラッと良くなる感じでもありません。

結局、やれることがしっかりと出来て、初めて次のステップに行けるんです。それが出来れば、今回負けた相手に勝つことは出来ると思います。ただ相手チームも同じように積み重ねてくるので、その中でどれだけ加速度があるかというのが大事になると思います。加速度は大事ですが、1段飛ばしで階段を上がることは出来ないので、細かいことを積み重ねて、日々良い準備をしていくしかないんです。

—— トップリーグが始まれば、日本代表としてしばらく集まることが出来なくなりますが、間が空いても積み重ねられた状態から、またスタートすることは出来るんですか?

その対応は考えていると思います。これからどうなるか分かりませんが、今回初めてジュニア・ジャパンが作られて、定期的に集まってトレーニングをしているので、日本代表でも同じようなことをするのかもしれません。

◆趣味の延長みたいな感覚

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—— 次に日本代表が合流するのはいつになりますか?

7月の中旬に1週間くらい日本代表の菅平合宿があります。その先はまだ分かりませんが、こうやって試合がなくても集まって練習をしていくんだと思います。昔は試合がなくても日本代表の合宿があって、菅平で"やまびこ合宿"というものをやっていました。ただ少し前に、「試合もないのに合宿をしなくても良いんじゃないか」という雰囲気になって、試合がなければ合宿をしないようになりました。

—— 日本代表の選手の中で、面白いと思う選手はいますか?

若手選手はみんな面白いです。ただ僕から見たら、みんな若手になっちゃいますけど(笑)。名前を挙げるならば、立川選手(理道/クボタスピアーズ)です。彼は真面目だし上手いですね。あと藤田君(慶和/早稲田大学)は足が速いと思います。

—— サンゴリアスに新たに加わった小野晃征選手はいかがですか?

日本代表で以前から知っているので、「あの頃は若かったな。プレーも青臭かった」なんて話をします(笑)。あの頃と比べたら凄く良くなっています。ただまだこれから可能性のある選手なので、沢木コーチのもとで更に成長していって欲しいです。

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—— 日本代表74キャップを獲得しましたが、目標はありますか?

ジャパンの最多キャップホルダー(79キャップ)が見えてきて、緊張感があります。趣味の延長みたいな感覚でラグビーを続けてきたので、「最多キャップホルダーになってもいいのかな」って思います(笑)。ただ逆に趣味という感覚がなければ、これほどまでにこだわることは出来なかったと思います。

ジャパンの最多キャップホルダーは、高校時代から王道を歩んできた人が持つべきものだと思ってしまいます。トライ数についても2番手なんですが、1位と何本差があるのかも分からないですし、比べないようにしています。記録はいつか誰かに抜かれますが、1番にはなりたくないんです(笑)。

最多キャップ数やトライ数については、誰も気にしないで欲しいです。僕は1試合1試合ドキドキしながらプレーしているだけなので、たくさんキャップ数を持っているからという期待はされたくないです。

—— 今の調子は?

昨シーズンの後半に怪我をしてしまいましたが、その怪我がやっと治ってきました。その怪我をした部分がまだ使い切れていない状況ですが、日本代表にはいろいろな引き出しを持った選手がいるので、自分でも試しながらプレーをしています。

トシ(廣瀬俊朗/東芝ブレイブルーパス)は自分なりのやり方でここまで経験を積んできた選手で、お互いにいろいろなトレーニング方法を試してみたりしているので、楽しいですよ。

—— 廣瀬選手を日本代表キャプテンに選んだエディーさんの選択は、さすがと感じました

エディーさんには「今の状態ならばこれ」というイメージがあって、答えは絶対に教えてくれないんですが、単純にその人の生き方がチームのプラスになる選手、悩みながら準備をしてそれがチームのプラスになる選手などを考えて、今の日本代表を選んだのだと思います。

実際にトシがキャプテンとしてチームを率いて、若いチームで波がある中、新しい文化を作っていくには適任だと思いますし、何の違和感もありませんね。選ばれた選手には必ず役割があるはずなので、平を怒ったんです(笑)。

◆積み重ねたエネルギー

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—— 今シーズンの目標は何ですか?

代表としては、もうこの年齢で自分に出来ることが急に変わることはなくて、自分の中でのいつも通りを示して、もし悩んでいる選手がいれば自分の経験を話していこうと思います。先ほども言ったように、出来たことが出来て、出来なかったことを出来るようにしていく準備が大事で、昨シーズン、タケ(竹本隼太郎)が散々言ってきた「良い準備をしよう」の積み重ねを代表でもやっていくだけです。

—— サンゴリアスは今シーズンから新しい監督になりますが、小野澤選手にとっての何人目の監督になりますか?

5人目です。キャプテンも真壁(伸弥)に代わりますけど、楽しんだ方が良いんじゃないかなって思います。タケが良い文化を作ってくれたと思うので、あとはどの立場であれ、いちプレーヤーとしてチャレンジする環境が大事だと思います。ベテランだからベテランらしいことをしようとするよりは、自分に出来ることを一生懸命やって、少しでもレベルアップしようとする47人が集まれば強いチームになると思うので、楽しんでやっていこうと思っています。

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—— 昨年の2冠を獲得したチームと、これまでのチームとではどこが違いましたか?

これまでのチームをぶつ切りには見ることは出来なくて、結果が出ない時に積み重ねたエネルギーが絶対にプラスに働いていたと思います。だから何が違うかというのは難しいんですが、選手が良いチャレンジをしたということだけだと思います。結局、選手に出来ることは、良い準備をして、グラウンドという評価される場所で良いチャレンジをすることだけだと思うので、何が違うということはあまり深く考えないようにしています。

—— サンゴリアスの中で、いつものことをいつも通りにやるという選手が増えてきたんじゃないですか?

ハードワークを楽しむ人が多いですね。他の選手が楽しんでいるかは分かりませんが、そういう選手が増えているということは、スタッフが元気だからだと思います。

ここ数年は、「サンゴリアスの強さは?」と聞かれると、「スタッフが元気」とか、「スタッフが早起き」とか、「チーム内で早起きの人が多い」って答えています。みんなが元気でハードワークを楽しむという感じですね。強がるわけじゃないですけど、それが出来るということが強みでもあると思います。

何をやるかは人それぞれ違いますが、「僕は自分を成長させるために、こんなことをやっていますよ。それが普通ですけど、何か?」という感じの人が増えたように感じます。

—— 以前、ジョージ・グレーガン選手からいろいろと学んだと言っていましたが、今の外国人選手はいかがですか?

フーリー(デュプレア)も謙虚というか、自分の経歴に甘えないですし、どうすればもっと上手くなるのかという向上心があって、ピュアですね。あと「この部分が弱いんだよね」と笑いながら、弱い部分を伸ばそうとトレーニングするところが凄いと感じます。あれだけの経歴があれば、「自分はこの方法でここまで来た」というスタンスを取れるのにもかかわらず、自分を成長させるために更に良いトレーニング方法を求めているんです。僕もいつまでもそういう姿勢でいたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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