2012年6月13日
#282 有賀 剛 バイスキャプテン『直弥さんを男にしたい』
山下大悟、佐々木隆道、竹本隼太郎という歴代キャプテンをサポートし、新キャプテン真壁伸弥のもとでもバイスキャプテン5年目を務めることになった有賀選手。日本代表にも召集されるなど、7シーズン目の更なる活躍が期待されます。
◆質を高めていくトレーニングにフォーカス
—— 日本代表に選出された直後に怪我をしてしまいましたね
サンゴリアスとして合宿をしている時に日本代表選出の連絡があり、気をつけてトレーニングをしていたつもりでしたが、疲労から怪我をしてしまいました。せっかく日本代表に選んでもらえて、参加したい気持ちは凄くありましたが、不運なことにまたこのタイミングで怪我をしてしまい残念な気持ちでいっぱいです。ですが、ただまだ春シーズンなので、ゆっくりと体づくりをしていこうと思っています。
感覚としては完治までにそこまで時間はかからないと感じていますが、日本代表はすぐに試合が始まりますし、焦る必要はないと思うので、パシフィックネーションズカップへの出場は難しいと考えています。
—— 日本代表に選出された時はどう感じましたか?
実は正式に発表される前から、日本代表スタッフからは「コンディションはどうか?練習は出来ているか?」ということを聞かれていました。正式発表された時は、もちろんやってやろうという気持ちはありましたが、13番(CTB)での選出だったので、動揺はありました。
エディーさん(ジョーンズ/日本代表監督)とはサンゴリアスで2年間一緒にやっていますし、細かな説明を聞かなくても13番での選出というエディーさんの狙いはだいたい理解出来ました。それに自分の中でもチャレンジだと思い、13番でやってみようと思っていました。
—— エディーさんが監督の時、サントリーで13番での出場はありませんでしたよね?
サンゴリアスの13番には良い選手がたくさんいるので、僕が13番で試合に出ることはありませんでした。
—— これからは13番も意識しますか?
サンゴリアスでは13番で試合に出ることはないかもしれませんが、何かあった時にも対応出来るように、自分のプレーの幅を広げる意味でも日本代表で13番をやることはプラスになると思います。
—— 自分としてはコンディションはどうですか?
昨シーズンが終わった後、次のシーズンに向けて比較的早くから動き始めて、長い時間をかけてゆっくりとやってきたので、近年ではいちばん良い状態でしたし、去年のシーズン中よりも良かったと思います。ここ2年間は手術を繰り返して、そのリハビリがメインになっていたので、本格的なトレーニングがようやく出来始めたと思っていました。3月下旬からトレーニングを始めて、調子が上がって来ていました。
合宿中もトレーニングメニューを調整せずに全て取り組んでいましたが、そこに落とし穴がありました。若手選手と同じメニューでハードなトレーニングをする年齢じゃなくなってきたなと感じました(笑)。ハードトレーニングはしなければいけませんが、若手と同じような追い込み方ではなく、質を高めていくトレーニングにフォーカスしていった方が良いんじゃないかと思うようになりました。
◆体を張ることがいちばん大事
—— ラグビーは怪我が多いスポーツですが、自分の中で怪我についてはどう捉えていますか?
どうしても怪我が多いので、怪我をしないようにするための方法は色々と考えていますが、怪我を恐れて全力プレーをしないということはあり得ないと思っています。怪我をしないために手を抜いたプレーはしたくありませんし、ラグビーでは体を張ることがいちばん大事なことだと思うので、そこは曲げたくありません。
—— お父さん(有賀健/元ラグビー日本代表)も怪我が多かったんですか?
大きな怪我をしたことはあると言っていましたが、僕ほど怪我はしなかったと言っていました。
—— それだけ日本のラグビーが激しくなってきたということですか?
僕の学生時代を思い返すと、大学生でもトップリーグの下位チームであれば、勝てるかもしれないと思うことがありました。現に僕らの代の早稲田大学はトヨタに勝ちましたよね。ただ、今の若手選手と話をすると、「トップリーグのレベルが凄く上がっていて、大学生では太刀打ち出来ない」と言うんです。それだけ社会人と学生の差が開いてしまったのかと感じます。ただ僕の考えでは、社会人のレベルが上がっているだけではなく、学生のレベルも下がっていると思います。
—— 社会人のレベルが上がっているということは、トップリーグが出来て良かったということですよね
海外の超一流選手も来日してプレーしていて、そこから吸収出来る部分は大きいと思います。エディーさんは目の付けどころが凄くて、日本は大学生活の4年間で世界との差が凄く広がっていると言っていました。海外の選手は19歳とか20歳でプロ選手になって世界で戦うので、大学生のラグビーに対する姿勢から変えていかなければ、差を縮めることは難しいと思います。
—— 母校に行って練習を見るとどう感じますか?
一生懸命練習していると思いますが、技術面ではなく、ラグビーに対する姿勢などが社会人とは全く違います。そこを変えなければ、いくら教えても吸収出来ないと思います。僕が学生の時は、もっと一生懸命だったと思います。根本的に、「もっと勝ちたい」と思っていましたし、ラグビー部として「日本一になる」という目標がはっきりしていたと思います。ただ学生は社会人に比べて、部員数が何倍も多くて、それをまとめて1つの方向へ持っていかなければいけないので、その点は難しいと思います。
◆グラウンドの外でどう頑張っているか
—— 2019年ワールドカップに向けても大事な部分ですよね
大学生の年代が盛り上がってこなければ、更にその下の年代も盛り上がってこないと思います。サンゴリアスもエディーさんが来て色々な文化が出来て、強くなるために多くのことを変えました。それにグラウンドの中だけではなく、グラウンドの外の生活も大切にしたからこそ、チーム内で結束力も生まれましたし、それがあったからこそチャンピオンチームになるまで成長出来たと思っています。
これは若手の選手にも通じる話で、今のサンゴリアスは部員の45%が3年目以下の選手です。ただその中でも、試合に出ている選手は数人しかいません。少し前にある若手選手と話をしましたが、その選手も能力は高いんですが試合には出られていないんです。グラウンド内で頑張ることは当たり前のことで、グラウンドで良いパフォーマンスを出すために、グラウンドの外ではどう頑張っているかという話をしました。
3年目以下の選手が頑張って結果を出したら、今後のラグビー人生も違うものになると思います。他のチームは分かりませんが、サンゴリアスではかなりのスーパースターでない限り、自分の選手生命は自分では決められないんです。だから必死にならなければいけないですし、試合に出られていないのなら、何がダメなのか、何が足りないのかを考え、それを変えていかなければ状況は変わりません。日本代表が戻ってきたら、更にポジション争いが激しくなりますし、自分から何かを変えていかなければ、シーズンが終わった後に「また今年も試合に出られなかった」と思うことになってしまいます。
スポーツは実力勝負の世界なので、試合に出られなければ評価されることはありません。試合に出ていない選手は、自分から何かを変えていかなければ、今の状況のままズルズルと時間だけが過ぎていくと思います。グラウンドで頑張ることは当たり前で誰もがやっていることですし、他の選手に差をつけるためには、例えば休みの日に何をすればいいのかを考えたりしなければいけないと思います。
僕らが若手だった頃は、オフシーズンだからといってトレーニングを休むことはありませんでした。厳しい言い方かもしれませんが、「試合に出られていないのなら、シーズンオフだからと言ってトレーニングを休んでる場合じゃない」と思います。青木(佑輔)とも「なんで試合に出られなかった選手が、オフシーズンにトレーニングに来ないか」という話をしました。ベテランになれば体の調整も必要になってきますが、若いんだからもっと出来ると思うんです。他の選手のスタイルを否定するつもりはありませんし、社員選手は仕事もしていて時間の使い方が難しいところもありますが、「試合に出られていないんだから、オフなんてない」という気持ちが重要だと思います。僕ら7年目の世代は、そういう気持ちを持った仲間だと思います。その気持ちがあったからこそ、ほとんどのメンバーが試合にも出られているのだと思います。
—— 有賀選手の世代がそういう思いを伝えていく役割もありますね
それぞれの取り組む姿勢を否定はしませんが、本当に試合に出たい気持ちがあるのなら、どこを変えなきゃいけないのかを考えて行動しなきゃいけないと思います。
—— バイスキャプテンとしてチームを中から見ていて、チームが変わったきっかけはどこにありましたか?
昔も強いと言われた時期がありましたが、少し脆さがあったと思います。例えば、最後までボールを追いかけることが出来ないチームだったと思います。それは練習でのプレーがそのまま試合に出てしまっていたということで、体力が消耗した時にミスをしたり、コミュニケーション不足になってしまっていたと思います。今は練習中でも、苦しい時にこそコミュニケーションを取らなければいけませんし、プレッシャーがある中で正確なプレーが出来るよう練習をしていて、最後までボールを追うことや誰かが突破したらサポートにつくということを、コーチ陣がしつこく言い続けてくれたので、みんなの中にもそういったスピリットが芽生えてきたと思います。
この前のセブンズフェスティバルでは、サンゴリアスがコンソレーショントーナメントで優勝しましたが、特に大会前にセブンズの練習はしていませんでした。ラインブレイクをされた時に一生懸命戻るとか、ワークレートで負けないという部分を意識して臨めば、あれだけの結果を残すことが出来て、7人制でも良いラグビーが出来るんです。以前のチームは、その部分が出来ていなかったのかもしれません。
—— そこはコーチングによって気づいた部分ですか?
その部分が大きいと思います。最初は自分たちがやってきたことのどこに間違いがあったのかという思いもありましたが、いざ映像などで、サンゴリアスとパナソニックの違いはどこにあるのかを比較して見せてもらったりして、はっきりと意識することが出来ました。
◆外国人選手みんなが日本好き
—— バイスキャプテン5年目になりますが、気持ちの面で違いはありますか?
勝てない時に責任を感じない訳ではありませんが、いちばん辛かったのはキャプテンだったと思います。バイスキャプテンとしてはキャプテンをどう支えるかというところを意識してきました。
—— 山下選手(大悟/NTTコミュニケーションズ)、佐々木選手、そして竹本選手を支えてきましたね
大悟さんがキャプテンの時は怪我をしていたので力になれませんでしたし、隆道(佐々木)の時も勝てなくて、隆道自身も辛い時期だったと思います。それに当時はその他のリーダーも同期で固めてしまって、周りから不満が出たり、チームがバラバラだった時期だと思います。タケ(竹本)の時はエディーさんが監督になり、180度ラグビースタイルが変わった時期でした。色々なことが変わる中で、エディーさんに怒られながらも、タケの持ち味でプラスに変えて、2冠獲得まで導いてくれました。次のキャプテンは真壁になり、知らないことも多いと思うので、しっかりとサポートしていきたいと思います。
—— バックスのまとめ役という意識はありますか?
その意識もありますが、バックスはラグビーを理解している選手が多くて、その中でも外国人選手のフーリー(デュプレア)やトゥシ(ピシ)、ピーター(ヒューワット)は、コーチになれるレベルのプレーヤーなので、まとめるということをあまり意識しなくても自然とまとまります。
—— そういう選手がいる中で、プレッシャーを感じることはありますか?
困った時はサポートをしてくれるので、プレッシャーを感じることはありません。
—— 外国人選手から得たものはありますか?
みんな素晴らしい選手で、GG(ジョージ・グレーガン)は練習の態度やグラウンド内外でチームの文化を変えるにあたって、凄く貢献してくれた選手だったと思います。ジョージ・スミスはプレーで引っ張っていくタイプで、彼の試合の流れを読む力などは、見ているだけで勉強になります。フーリーもトゥシも同じで、ラグビーの理解度が高くて、世界的に見ても素晴らしい選手だと思います。
—— みんなが気付いたことと、お手本である外国人選手が上手くマッチした結果が、今のチームということですね
外国人選手も日本の文化に溶け込もうと、一生懸命努力してくれますし、色んな意味で一体感のあるチームになったと思います。外国人選手みんなが日本好きということもありましたし、エディーさんの力も大きかったと思います。
—— 有賀選手から見て、エディーさんの凄いところはどこでしたか?
何が凄いかと聞かれると難しいですが、本当に色々なところを見ています。他のスポーツ界でも、凄い監督は色々なところを見ていると言われますが、その中でもエディーさんは凄いと思います。僕が今まで指導を受けた監督の中でもいちばん色々なことを理解していますし、本当に周りを良く見ています。
例えば、普段は腰の低い選手でも、実は違う一面があって、普段見せない一面のこともエディーさんは理解しているんです。頑張って練習しているように見えても、エディーさんはその選手のグラウンド外のことも理解しているので、「お前は全然ダメだ」と言い続け、本気で怒ってくれるんです。他の監督はグラウンドから出た選手がどういうことをしているのかまでは分からないと思いますよ。僕らも最初、グラウンドでちゃんとやっているように思える選手に、何でそれほどまでに怒るのかということが分かりませんでした。
◆ラグビーとプライベートは別の問題じゃない
—— キャプテンが若くなりますが、バイスキャプテンの役割も変わってきますか?
そこは全然変わらないと思います。真壁は凄く真面目だし、サンゴリアスの将来を担う選手だと思います。
—— 前回のスピリッツ・オブ・サンゴリアスで真壁選手をインタビューしましたが、クラブハウスでの生活までは良くなったけど、寮での生活もこれから変えていかなければいけないと言っていました
考え方は似ていると思います。プライベートな部分を、他の人が否定することは出来ないと思いますが、「試合に出ていないメンバーが変わっていかなければいけないんじゃないのか」ということだと思います。ラグビーとプライベートは別の問題じゃないから、エディーさんもしつこく怒ってくれたと思います。怒られていた本人たちが、いちばん気づいていないのかもしれません。高校や大学では監督からプライベートでも散々怒られて育ってきて、寮でも3人部屋とかで過ごしてきた中で、社会人になり、部屋も1人過ごせたり、そういった解放感に甘えているところがあるんだと思います。
一般的に言えば社会人3年目は、お金も自分で稼げるようになって、遊びたいという気持ちが出てくる時期だと思います。ただアスリートで言えば、いちばん大事な時期です。真壁も「そこを勘違いするな」と思っていると思います。アスリートとして大事な時期を、「僕たちは会社があるんで」という言い訳をするのであれば、会社員として生きればいいと思います。ラグビー選手としてサントリーという素晴らしい会社に入ってきたのであれば、現役のうちはラグビー選手として最大限頑張らなければいけないと思います。
—— 今シーズンの目標は?
もちろん2年連続2冠です。新しい環境、新しい監督になったので、その道は本当に厳しいと思います。ただみんな「エディーさんがいなくなって弱くなった」とは絶対に言われたくないと思っています。直弥さん(大久保監督)を男にしたいと思います。
—— 2冠獲得のためのポイントは?
昨シーズン2冠を獲ったことで、他のチームからはターゲットにされる訳なので、少しも気を抜かず、ハードトレーニングをし続けることだと思います。
今年の嬬恋合宿でも、ボクシングの世界チャンピオンが、チャンピオンになる前となった後では、ハングリーさが全然違うという映像を見ました。コーチ陣も言っていましたが、自分自身としっかり戦えるようにならなければ、2年連続で2冠獲得を達成することは出来ません。言葉で言うのは簡単ですが、先ほど言った通り自分に甘えることなく、いかに努力出来るかが大切で、昨シーズンの自分たちを超えない限りは、今年も2冠を獲ることは絶対に出来ません。
—— 壁にぶつかった時にはどう解決していこうと思いますか?
良い時のことも悪い時のことも知っている先輩たちがいて、ジョージやフーリーだって勝てない時を経験しているので、そういう時にどう立て直すかを知っていると思います。そういう人たちの力を借りながらやっていきたいと思います。
—— 個人としての目標は何ですか?
怪我が多いので、開幕戦に良い状態で出場出来るようにやっていきたいと思います。実は6年間のうち2回しか開幕戦に出場したことがないので、開幕戦に出場するために今は焦らずにトレーニングしていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]