SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年6月 6日

#281 真壁 伸弥 新キャプテン『常に新しいことと責任を求める文化を作っていきたい』

「今年は新キャプテンのインタビューはいらないんじゃないですか?(笑)」とインタビューで緊張するタイプの真壁選手が、今回のスピリッツ・オブ・サンゴリアスのインタビューから逃げようと(?)していましたが、コメントは相反して、入社4年目になりだいぶ舌も滑らかになった気がしました。

◆今まで通りに自分がやるべきことをやっていこう

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—— キャプテン就任の話はいつ頃されたんですか?

実は去年くらいから直弥さん(大久保/監督)からのプレッシャーは感じていました。何かある毎に直弥さんから「俺は3年目からキャプテンをやっていた。お前は今3年目だろ?」という話をされていて、直弥さんが監督になると聞いた時に、もしかしたらキャプテンを任されるかもしれないと感じていました。ただ本当にキャプテンに指名された時は驚きました。

—— どのように返事をしたんですか?

ある日、直弥さんから食事に誘われて、一緒に行くメンバーを聞いたら、竹本さん(隼太郎)と剛さん(有賀)だったので、その時点で覚悟を決めて食事会に参加しようと思っていました。

結局、ジャパンのスケジュールが重なり、その食事会は流れてしまったんですが、その日のうちに直弥さんから連絡があり、「今からそっちに行くから時間を作ってくれ」と言われました。待ち合わせはホテルのバーだったのですが、行ったら既に直弥さんがサングラス姿で待っていて、いきなり「分かってるだろうな?」と言われました(笑)。そこで「分かっています」と返事をしました。

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—— バイスキャプテンの話は聞きましたか?

剛さんとジョージ(スミス)がバイスキャプテンだという話もそこで聞きました。昨シーズンもバイスキャプテンだった剛さんに今シーンズンもバイスをやって頂けるので、少しホッとしました。

—— 今までキャプテンをやったことはありますか?

U-19の日本代表でキャプテンをやりましたが、その他は経験がありません。U-19ではキャプテンとしてアジア大会と世界大会に出場し、アジア大会では優勝することができ、世界大会では12チーム中11位でした。その時のバイスキャプテンが玲央(岸和田)です。

—— 振り返ってみて、当時キャプテンをやっていた自分はどうでしたか?

キャプテンとして何かしなければいけないと思ってしまって、周りが見えていなかったと思います。今はキャプテンだから何か特別なことをしなければいけないという思いはなく、今まで通りに自分がやるべきことをやっていこうと思っています。

少しでもインターナショナルなプレーヤーに近づけるように、直弥さんの下で努力して、チームの中で一番体を張って試合に出続ければ、このチームはまとまっていくと思います。これまでにキャプテンをやってこられた方々や素晴らしい選手がこのチームにはたくさんいるので、キャプテンをやることに対する不安はありません。

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—— 真壁選手がキャプテンをやることで、チームが更に若返るスタートの年になりそうですね

直弥さんがよく言っていることですが、3年目以下の選手がチームの中で45%を占めるんです。今までは隆道さん(佐々木)や竹本さんの代に引っ張ってもらっていて、3年目以下の選手はほとんど試合に出ていないんです。僕がキャプテンになることで、チームが更に若返るきっかけになれば良いと思います。

—— 若手選手が実力でポジションを奪えるようにならなければいけませんね

若手選手は試合には出ていませんが、素晴らしい能力を持っているので、僕自身もプレッシャーを感じています。ロックで言えば、ツジ(辻本)も素晴らしいですし、新しくボンド(ティモシー)も加わったので、試合に出続けることが大変になると思います。

◆大きい人間も走らなければならない

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—— 新しい日本代表に参加して、どんなことを感じましたか?

凄くやりやすく感じました。サンゴリアスの選手はエディーさん(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)のスタイルをよく理解しているので、他のチームの選手に浸透させるという役割もあると思います。隆道さんやハタケさん(畠山)を筆頭に、日本代表には「自分に責任を与えてくれ」という選手が集まってきているので、負けていられないと感じながら練習をしていました。

—— 日本代表にはずっと召集されていますね

サンゴリアス1年目から日本代表に呼んでもらっているので、今年で4年目になります。ただ去年のワールドカップの時だけ、日本代表には入れませんでした。

—— 次のワールドカップはもちろん狙っていますよね

狙っていますが、まずは今年のパシフィックネーションズカップです。昨年よりも小柄になった日本代表が、体格ではなく日本のスタイルで世界に挑むことになるので、どのくらい戦えるのかが凄く楽しみです。パシフィックネーションズカップである程度戦えなければ、日本代表が世界ランキングでトップ10に入ることは見えてこないと思います。

—— その日本代表の中でも、真壁選手は大きい方ですよね

大きい人間も日本のスタイルに合わせて走らなければいけないので、大事なポジションだと自覚しています。

—— 昨シーズンが終わってすぐ日本代表が始動し、2012-2013シーズンのトップリーグは8月31日に開幕するスケジュールで、日本代表選手はオフがありませんが、体調面は大丈夫ですか?

他の選手は分かりませんが、個人的にはキツかったですね。シーズンが終わったと思ったら、すぐに日本代表だったので、そこでの気持ちの切り替えが大変でしたが、今は体も慣れて問題ありません。

◆自分に責任を与えてほしいという思い

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—— 過去に「インタビューは緊張するから嫌だ」と言っていましたが、インタビューには慣れましたか?

まだ緊張します。ただ、やっとスピリッツのインタビューには慣れてきました(笑)。今まであまりスポットライトが当たらないところにいましたが、サンゴリアスのキャプテンということで、これからはインタビューにも慣れていかなければいけないと思います。先日、ラグビー部のパーティーを開いて頂き、そこで新キャプテンとして挨拶をしましたが、緊張のあまり次の日には足が筋肉痛になってしまいました(笑)。

—— サンゴリアスに入った当初、ある性格判断テストでネガティブ過ぎて異常という結果が出たと言っていましたが、ネガティブ思考は治ってきましたか?

今の性格は居心地が良いので、全く変える気はありません(笑)。例えば、みんなが騒いでいる姿を10mくらい離れて見るのが好きなんです。ただキャプテンとしては、変わっていかなければいけないと思います。

キャプテンとしてチームを引っ張っていくようにならなければいけないと思いますが、もしかしたらチームからは引っ張ってくれとは思われていなくて、実際にプレーは見たことがないのですが、昔の直弥さんのようにプレーで引っ張るようなタイプのキャプテンを期待されているのかもしれません。

ただまだ自分の中で、プレーで引っ張るということがはっきりと理解出来ていなくて、グラウンドの中で頑張ることは当たり前のことで、これから竹本さんにも相談しながら、どういうキャプテンが求められているのか考えていきたいと思います。

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—— 振り返ってみて、1年目から今までの成長度合いはいかがですか?

1年目はチームに受け入れてもらう為にガムシャラにやっていた1年間でしたが、2年目は自分の役割を理解した1年で、3年目は2年目で理解した役割を突き詰めて、サンゴリアスのロックとしての責任が芽生えた1年になったと思います。自分に責任を与えて欲しいという思いが出てきました。ただ、まさかその思いが芽生えた瞬間にキャプテンに指名されるとは思いませんでした。

—— 2年目の時に理解した役割とは、具体的にどういうものですか?

試合や練習だけじゃなく、私生活でもラグビーを中心とした生活を送り、他の選手からも「あれだけラグビーに向き合ってるんだから試合に出てる」と信頼されるような選手になるために努力した1年間でした。それにサンゴリアスの場合は、ラグビーだけじゃなくて、仕事もしっかりやらなければ良い選手にはなれないと感じた1年でした。

—— 仕事をしながら練習をしていて、本当に苦しい練習をしなければ、昨シーズンの様な成績は残せないですよね

そこが、サンゴリアスがプライドを持っているところです。仕事と練習のスケジュール管理と自己管理が本当に大切になります。辛いとか無理だとか思ったとしても、仕事もラグビーもやれば意外と出来るんです。ただそこでやり切ってしまうと、体調を崩したりしてしまうので、上手く管理しながらやらなければいけません。例え休みの日だとしても、夜遅くまでお酒を飲んだりすると、体が持たなくなってしまうんです。

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—— 真壁選手のプレーは、サンゴリアスの他の選手のカラーとは違い、ガツガツしたプレーだと思いますが、そこが持ち味だと思いますか?

体格が大きいランナーなので、よくガツガツしたプレーと言われて、そのプレーも役割の1つだと思いますが、自分の中ではそういうプレーよりも、一貫性のあるプレーをすることが役割だと思っているので、ロックらしい地味なプレーに磨きを掛けていかなければいけないと思います。

昨年の春シーズンは、ワークレートがチーム1位でしたが、体重が増えたことで隆道さんに抜かれ、ジョージが入ったことで更に抜かれてしまったので、また1位が取れるようにやっていきたいと思います。

—— 走ることにも自信を持っていましたね

体が大きい割には走れると思っています(笑)。日本代表でJP(ジョン・プライヤー/日本代表ストレングス&コンディショニングアドバイザー)やエディーさんに体重を増やすように言われて、「更に増やすのか」と思いましたが、順調に体重が増えて、今は115kgになりました。日本選手権の時と比べると、5~6kgは増えています。この体重でもしっかりと走れなければ、体を大きくした意味がないので、前と同じように走れるようにしていかなければいけないと思います。

—— 世界と戦う上で、体重を増やすことが必要になるんですか?

海外の選手と比べて、ロックの中では身長が低い方なので、体重増やして体を大きくして、相手選手から「あいつが持ったら、縦に来る」と思わせるようになりたいですね。あと日本はボールを展開していくラグビーなので、そういうロックが必要にもなってくると思っています。

◆国内だけを見ないチーム

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—— サンゴリアスでの目標は?

もちろん2冠。そこは絶対に獲らなければけないと思います。あとは国内だけを見ないチームにしたいと思います。2冠獲得はもちろんですが、スーパーラグビーのチームとも戦える強いチームにしたいと思っています。エディーさんがいた時から、トップリーグで優勝してスーパーラグビーのチームに勝つというビジョンを持ってやってきたので、そういうチームにしていきたいと思います。

今のサンゴリアスが、スーパーラグビーのチームとどれくらい差があるかは分かりませんが、昨シーズンは2冠を獲ることが出来たので、少しは近づいていると思います。ただまだ経験不足だと思うので、若手がもっと経験を積んでいかなければいけないと思います。スーパーラグビーのチームと同じレベルになるためには、若手中心のメンバーで2冠が取れるようにならなければいけないと思います。

—— 昨シーズンよりも更に厳しい戦いになると思いますが、どのような意識で戦っていきますか?

2冠を獲ることは1試合1試合の積み重ねなので、目の前にある試合に向けて、全力で準備することが大切になります。2年連続2冠獲得という周りからの期待も強いと思いますが、1試合1試合を積み重ねることで、結果として2冠が獲れると思っているので、あまり先ばかりを考え過ぎず、目の前の試合にどれだけ全力で準備出来るかだと思います。

—— どうしても壁にぶつかる時が来ると思いますが、その時が来たらどうしていこうと考えていますか?

エディーさんがサンゴリアスの監督1年目の時は、3節を終えて1勝2敗というスタートになりましたが、今はアグレッシブ・アタッキング・ラグビーというサンゴリアスの文化が出来ていると思います。その文化が出来ていれば、例え壁にぶつかり、チームの方向性を見失った時でも、一度その文化を再確認すれば、必ず乗り越えられると思っています。ただ、これからはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーを更に進化させていかなければいけないという思いもあります。

—— クラブハウスを綺麗にするという文化もありますよね

色々な年代の選手がいる中で、先輩方が良い文化を作ってくれたと思います。ただクラブハウスだけではダメで、僕たちが生活している寮や、私生活でも、同じような文化を作っていかなければいけないと思います。その文化が作れなければ、45%の若手選手は成長していかないと思います。

—— 今、よみうりランドで練習をしていますが、練習環境が変わったことはどう感じていますか?

日本代表があり、まだ2回くらいしかよみうりランドには行ったことがありませんが、優勝した次の年ですし、環境が変わることも刺激になって良いと思います。

◆アタッキング・ラグビーを進化させる

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—— 今のサンゴリアスの課題は何ですか?

今年は追われる立場になりましたし、他にもアタッキング・ラグビーをしてくるチームがたくさん出てくると思います。それにアタッキング・ラグビーに対抗したディフェンシブなチームも出てくる可能性があります。その中で、昨シーズンと同じラグビーをしていては勝てないので、アタッキング・ラグビーをどう進化させていくかが重要だと思います。課題というか、進化させることが絶対条件だと思います。

—— エディーさんから大久保監督に変わって、指導方法も変わっていくと思いますか?

エディーさんも直弥さんも選手の意見を凄く尊重してくれる監督だと思いますが、何よりもラグビーやサンゴリアスのことを考えてくれていて、そのためには海外にも勉強に行くような監督です。それに昨シーズン、直弥さんの言ったことをしっかりと遂行すれば、勝てるということをみんなが理解したので、直弥さんが監督になったとしても、選手は絶対的な信頼を持ってついていくと思います。直弥さんは選手の意見を取り入れて、今の文化を進化させていってくれると思いますし、選手は監督の言ったことを守ることが大事になってくると思います。

—— 個人的な課題は何ですか?

ラインアウトのジャンプです。ジャンパーとしては、レベルが低いと思います。体重が重い分、スキルを伸ばしていかなければ、サポートしてくれる選手が辛いと思います。アタッキング・ラグビーをしている上で、他の選手に負担を掛けてしまうと、その後のプレーにも影響してしまいます。今はリフターでのプレーが多くなっていますが、ロックがジャンパーであった方が、相手が考えなければいけない選択肢が増えて、守りにくくなると思うので、ジャンパーとしても成長したいと思っています。

今は自分の中でもジャンプが苦手という意識が強くて、その固定観念がプレーに影響してしまう部分もあるので、その意識を変えていくことも必要です。まずはその意識から変えなければ、ジャンパーとしても信頼されないと思います。例えば、キックオフのジャンパーで言えば、キャッチの成功回数は増えていますが、チーム内でまだ「真壁は出来ない」というイメージがあると思います。そのイメージを変えるために、もっと上手くならなければいけないんです。

—— 今年のキーワードは何ですか?

ハングリーです。常に勝つことだけを考えて、貪欲に努力していかなければ、2冠を獲得することは出来ないと思います。サントリーという会社としても、常に新しいことを求めていく文化があるので、サンゴリアスとしてもその文化に則って、常に新しいことを考えていかなければいけないと思います。常に新しいことを求めることと、若手がどんどん責任を求めるような文化を作っていきたいです。その文化が作れなければ、ラグビー部としての進化もないと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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