SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年5月30日

#280 竹本 隼太郎 特別編"HISTORY OF SUNGOLIATH" 歴代キャプテンが語るサンゴリアス史 15代目キャプテン 『苦しい時に楽な方へ逃げない』

インタビューが始まった最初の質問で、当の本人も驚いたあふれる涙。インタビュアーも涙したスタートが落ち着くと、「これで、もうどんな場面でも泣くことはない。今日、泣いておいて良かったです」と笑う竹本隼太郎前主将。奇しくもこの日は、新キャプテンが発表された日でした。

◆見えないところでサポート出来る人間になりたい

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—— 2年間キャプテンを務めた感想をお願いします

新キャプテンが発表されて、「今までキャプテンだったんだな」という実感と、グッと込み上げてくるものがあります。.........(しばし絶句)。僕がこんなに感動するとは思いませんでした。良い経験をさせていただきました。

—— その経験の中で、苦しい時にはどういうことを考えていたんですか?

本当に苦しい時もありましたが、素晴らしい環境を与えてもらい、感謝しかありません。苦しい時でも、自分たちが置かれている立場は絶対に悪いものではなかったと思いますし、それを乗り越えたらレベルアップ出来ると分かっていて、やるべきことだけに集中出来たので、前向きになることは難しくありませんでした。今までもそこまで長くない人生で、「この年が勝負だ」と思う時もありましたが、キャプテンを務めた2年間は、「自分の人生の中でいちばん大事だ」と思って、奮い立たせていたところはありました。

—— キャプテンを引き受ける時は、覚悟がいりましたか?

覚悟というよりは、キャプテンを引き受けた時は、今よりももっと未熟だったので、とにかく「やってやろう」という気持ちしかありませんでした。「このチャンスをいかに活かすか」ということばかり考えていました。

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—— キャプテンを経験して、どこが変わったと思いますか?

以前は、練習でも試合でも自分のことしか考えていなかったと思います。自分が1本ビッグプレーすれば、目立つし次の試合にも出られると思っていて、相手が疲れた後半から本気を出して目立とうとしたりしていました。それに周りをサポートする意識も低かったと思いますし、ラグビー選手ではなかったと思います。

常に100%の力でやり続けられる人はいないと思いますが、今は"苦しい時に楽な方へ逃げない"という意識がついています。ラグビーはコンタクトスポーツなので、"試合の最初のコンタクトが大事"ということも教わりました。まだ成長の過程ですが、ようやくラグビー選手になれてきたと思います。27歳でやっとラグビーが始められたと思います(笑)。

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—— もっとキャプテンをやりたいという思いはありませんか?

キャプテンは大変なこともありますが、やりがいの方が大きいと思います。ただ魅力的ではありますが、キャプテンじゃなくても個人のプレーに集中して、プレーでチームに貢献することが出来ますし、サンゴリアスはずっと成長し続けなければいけないので、新しいリーダーや新しいチームをサポートすることは、もの凄くやりがいのあることだと思います。

隆道(佐々木)が僕をサポートしてくれたように.........(再び、絶句)。隆道の話をすると泣いてしまうんですが、隆道がキャプテンの時、僕は何も出来なかったのに、本当に一生懸命サポートしてくれました。だからこそ隆道も成長出来たんだと思いますが、僕も見えないところでサポート出来る人間になりたいんです。今はそういう思いがあるので、キャプテンをもう1年やりたいという思いは全くありません。

—— キャプテンを2年間務め、4つのタイトルのうち3つを獲得して、とても幸せなキャプテンだったと思います

良いキャプテンだったかどうかは分かりませんが、みんなにサポートしてもらって幸せな2年間でした。

◆まずはしっかりプレーすることが、チームをリードすること

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—— キャプテンとして苦しかったのはいつ頃ですか?

1年目の最初は公式戦もなく、プレッシャーもありませんでした。その当時はエディーさんもハネムーン期と言っていましたが、練習が苦しいだけで精神的にはそこまで苦しくはありませんでした。いちばん苦しかったのは、春シーズンに一生懸命トレーニングしてスタミナがついてきて、新しいスタイルを身につけレベルアップしていると思っていた時に、プレシーズンマッチの東芝戦で負けて、そのままトップリーグが開幕し3節を終えた段階で1勝2敗となった時ですね。正しい努力をしているはずなのに、結果が出なかった時は、チーム全員が苦しんだと思います。

—— そこからブレずに出来た要因は何でしたか?

エディーさんとコーチ陣が1枚岩でしたし、選手の中に以前のスタイルに戻した方が良いという意見もある中で、エディーさんが「このスタイルでやるんだ」という方向性をしっかりと示してくれました。それに、この話は何度もしていますが、Bチームがサテライトのクボタ戦で、サンゴリアスのスタイルで良い試合を見せてくれて、そこからチーム全員が足並みを揃えて一歩前に進むことが出来ました。

その間、エディーさんに怒られることはたくさんありましたが、それは愛情と捉えていたので、泣くことはありませんでしたが、今回、初めて泣きました(笑)。

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—— どういう時に怒られていましたか?

やはり以前は辛いことから逃げてしまう傾向が多かったと思います。ある日の練習の中盤くらいまでは、それまでの練習メニューで全て出し切り、良い数値を残していましたが、最後の練習メニューで出た数値が良くありませんでした。無意識のうちに手を抜いていたんだと思います。そこでエディーさんから「なんで全力を出していないんだ。そこまでの数値は評価するが、最後は最低だ」と言われたと思います。その瞬間は僕も怒りを覚えたとは思いますが、そこで怒りをネガティブな方に捉えないために、これは良いことを言われているんだと思うようにしました。

—— リーダーシップを取ることと自分のプレーを両立させることは大変だと思いますが、どういう意識で取り組んでいましたか?

まずは新しいサンゴリアスのスタイルでしっかりプレーすることが、チームをリードすることと捉えていました。毎年成長出来ていて、昨シーズンはかなり成長出来たと思います。

—— キャプテンとしていちばん嬉しかったことは何ですか?

キャプテンとして2年目のシーズンが終わった後ですね。あるスポーツカメラマンの方から、僕が胴上げをされている時の写真を頂いたんです。正直、胴上げをされることには興味がなかったんですが、僕のことを胴上げしてくれている他の選手の顔を見ると、本当に嬉しそうでした。

試合に出ていたメンバーはもちろん笑っているんですが、遠くに写っている耕太郎さん(田原/主務)やスタッフ、怪我で試合に出られなかった金井、引退した小田とか、全員が笑っているんですよ。それが嬉しかったんです.........(三度、絶句)。僕も胴上げする側で、笑っていられたら良いなと思います。

◆正しい努力を思いっきり

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—— 次のキャプテンへアドバイスすることはありますか?

次のキャプテンはプレーでチームを引っ張れるタイプですので、キャプテンがプレーに集中出来るように、僕らもしっかりサポートしていきたいと思います。

—— 新キャプテンが真壁選手になるということは、いつ頃聞きましたか?

3月の終わりくらいから候補として名前は聞いていました。その話を聞いてから今までの間、毎晩様々な知り合いの方と夜遅くまで食事をしていました(笑)。ただ誰と食事をした時でも、新キャプテンのことは一切話しませんでした。その生活の中でも、しっかりとやることはやっていて、フィットネスの数値は上がっています。

—— 新キャプテンを決めるにあたって、チームから何か相談はありましたか?

僕もその時は、「キャプテンを引き続きやりたい」という気持ちと、「自分のプレーに集中したい」という気持ちが半分ずつくらいありました。ただ、そういう気持ちはありましたが、直弥さん(監督)から新キャプテンに真壁はどうかという相談を受けて、「チームも新しく変わっていかなきゃいけないので、新キャプテンをしっかりとサポートしていきたい」と話しました。それにプレーヤーとしていつまでやれるか分からないですし、サンゴリアスがもっと良いチームになって欲しいという気持ちもあるので、「違う土俵で頑張りたい」という話もしました。

初めて新キャプテンの話を聞いた時は、残念な気持ちとホッとしたという気持ちがありました。ただプレッシャーから解放されたという感じで、ホッとしたという気持ちの方が強かったと思います。

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—— 今までのキャプテンと比べて、若いキャプテンになりますが、気をつけるべきことは何だと思いますか?

若いからとか、歳は関係ないと思います。特にタイトファイブ(1番~5番)はハードワークですし、真壁はやれる人間なので、キャプテンとして間違いないと思います。

—— 監督もキャプテンも新しくなり、またチャレンジしていくという感じだと思いますが、チームとしての雰囲気はどうですか?

今はひたすらフィットネスとウエイトで、まだラグビーのトレーニングをやっていないので、何とも言えませんが、昨年までの貯金はきっとあって、正直それは崩したくないですね。昨年までのベースがあって、その上で更に貯金が出来るように、正しい努力を思いっきりやりたいと思います。

◆大人の楽しみ

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—— 日本代表にサンゴリアスからも多くの選手が選ばれていますが、竹本選手は日本代表にはどういう思いがありますか?

「チャンスがあれば」とは思っています。日本代表に選ばれるために頑張るわけではありませんが、自分の責任を全うするために努力をして、フィットネスやウエイトの数値も伸び続けて、スキルやメンタル面もレベルアップして、その結果として日本代表に選ばれれば嬉しいことだと思います。僕の中で日本代表という温度がもう少し高くなれば、チャンスもあると思います。

—— その温度を上げるためにはどうすればいいと思いますか?

モチベーションは凄く高いので、努力していることは正しいと思い、やり抜くことが大切だと思います。2年間はエディーさんに引っ張ってもらいましたが、次からは自分でやらなければいけないと思います。自分で自分が嫌いになるくらい追い込まなければ、成長もないと思います。

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—— 新たな目標はありますか?

ラグビーを通じて、"辛いことや嫌なことから逃げない"ということを学ぶことが出来て、仕事やプライベートでも活きていると感じます。それがラグビーの精神だと思いました。今よりも更に周りの人たちに良い影響が与えられるようになりたいと思います。

—— そこがラグビーの良さだと思いますし、もっと世の中に広がっていくべきことで、それが2019年にも繋がっていくと思います

僕はトップリーグのキャプテン会議にも参加させてもらっているので、選手側から何か発信出来ることはないかということも話し合っていければ良いと思います。

ラグビーには"大人の楽しみ"があると思うんですよ。誰かのために一生懸命努力し、みんなでサポートし合うことで、そのチームでいること自体が気持ち良くなるんです。そこがラグビーの良さであり、教育上も良いし、世の中のためにも良いと思います。そのラグビーの良さを世の中に伝えていければ、ラグビーの特徴にもなると思います。2019年に向けてラグビーが、大人が楽しめるスポーツ、社会に貢献するスポーツになれば良いと思います。

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(インタビュー&構成&写真:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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