SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年5月16日

#278 青木 佑輔 『まだまだ成長できる実感が楽しい』

新しい練習場のグラウンドを訪れると、ひたすら走り続けている選手がいました。誰だろう?すぐに誰だか分かりません。しばらくじっと見ていたら、ずいぶん体が大きくなった青木佑輔選手でした!見ている横を新田博昭ストレングスコーチが「大きくなったのには訳があるんです」と言いながら通って行きました。ぜひ本人に話を聞きたいと練習後、青木選手にインタビューを申し入れました。

◆ただ増やすだけではダメ

スピリッツ画像

—— 体が大きくなりましたね、何か特別なことをやっていますか?

大きくなりました。シーズンが終わってから3kgくらい体重が増えています。シーズン中とやっているトレーニングはあまり変わらないですが、今は時間を掛けてこだわってやっているので、シーズン中よりも更にパワーが付いています。

—— シーズン中よりもキツいですか?

キツいこともありますが、こだわってやっているのが大きいと思います。ラグビーって体のぶつけ合いで、絶対に痛いところが出てきて、そこを気にしながらトレーニングをするんです。やっぱりメインはプレーすることなので、どうしてもシーズン中は、トレーニングの強度を上げるだけに集中出来ないんです。

その分、試合がない今はウエイトとランニングだけにこだわって出来ているので、数値もどんどん上がっていくんじゃないかと思っています。

スピリッツ画像

—— ウエイトとランニングの比重はどのくらいですか?

半分ずつぐらいです。ただ体重が増えた分、走力は思うようなレベルには届いていない状況です。今の課題は走力ですね。

—— 体を大きくしようと思ったきっかけは何ですか?

1つはエディーさん(ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ)に言われたこともありますが、首の手術をしてから思うように体重が増えなかったんです。心のどこかではフィットネスが上がっていたので満足している部分があったと思いますが、いつか変えなきゃいけないと思っていて、この春シーズンがチャンスだと思い体重を増やしています。

体重を増やすと走ること自体がキツくなるので、体重は増やしたくないという気持ちもありました。日本国内であれば、93kgくらいで十分に戦えると思っていたんですが、毎年毎年同じではダメですし、更にレベルを上げていかなければいけないと考えています。

—— その中でも走力はキープしたいですよね

やっぱり試合中のフィットネスは落としたくないので、ただ体重を増やすだけではダメだと思います。

スピリッツ画像

—— 食べることにも気をつけているんですか?

基本的にはさっぱりした物が食べたくて、外食をしてもそばとかが食べたいと思うんです。ただ体を大きくするために食事のことも気にしています。もともと肉も好きなんですが、そばとか野菜が好きで、あまり多くの肉を食べられないんです。例えば、回転寿司に行っても、20皿くらい食べてやろうと思うんですが、結局は10皿くらいで満足しちゃうんですよね(笑)。

さっぱりした物が好きな上に、一気に食べられないので、新田さんとも相談をして、間食を入れるようにしています。朝ご飯を食べてからウエイトをして、その後にシリアルを食べて、お昼ご飯を食べて、3時にお肉を食べて、そして夜ご飯を食べています。1日5食にしたら、一気に3kg増えました。たぶん脂肪だと思います(笑)。その分走れなくなっていますが、一気に体重を上げてから、その重さに慣れていった方が後々楽だと思っています。

—— 新田コーチは何か言っていましたか?

パワーは上がっていますが、まだ新田さんの満足する数値ではないと思いますね。イメージ的には良い方向にいっていると思います。

—— 若井コーチ(正樹/コンディショニングコーチ)はどうですか?

若井さんは「ぜんぜんダメ」って言っています(笑)。短い距離を走る分には1本目も2本目もあまり変わらないんですが、長い距離になると2本目がキツいですね

◆柔軟性がなかった

スピリッツ画像

—— 手術した後も順調に回復したと思いますが、自分ではどう感じていますか?

自分でも手術する前よりも良くなっていると感じます。ヤマさん(山岡俊/2011年度引退)のプレーを見ていて、自分の足りない部分に気づきました。自分で言うのもなんですが、ヤマさんと僕のプレースタイルって似ている気がしていて、ヤマさんと同じことをやっていたんじゃ試合には出られないと思っていたんです。手術をした後からは、ヤマさんの良い部分を吸収しつつ、ヤマさんに勝てる部分をどんどん伸ばしていこうと考えるようになりました。

似たプレースタイルだから若い僕を試合に出してくれていると思っていたんですが、それでは成長しないとも思っていましたし、首を怪我したこともあって、今後違う怪我をするかもしれないので、年々やれることは増やしていこうと思うようになりました。体も小さいので、やれることを増やしていかなければ戦えないですよね。

—— 首の怪我の要因は何だと思いますか?

もともとタックルテクニックがなくて、ただがむしゃらに頭から突っ込んでいくというプレーだったので、首にも負担がかかっていましたし、あまり首の強化もしていませんでした。その中でもいちばんの要因は柔軟性がなかったことだと思います。首と胸椎と腰椎が連動して柔らかくないので、負担が全部首にかかってしまっていました。同じ怪我をしないようにストレッチには気をつけています。

スピリッツ画像

—— 手術する前はどのくらいの痛みだったんですか?

その時はあまり痛みを感じずに力が入らないという感覚でした。ただ治ってみて今振り返ると、よくあれだけ力が入らない状態でやれていたと思いました。大学時代から頭痛があったり、寝る前には毎晩残尿感があって、それでトイレに行っても出ないんですよ。手術をしたらそれが治って、この感覚が普通なんだと思いました。

手術をする前は、その状態が自然だったので、キツいとは思っていませんでした。ただ首に負担がかかってくると力も入らなくなり、元気もなくなるので、人と話すことも嫌になっていたんです。今考えると、首が原因で人と話すことが好きじゃなかったんだと思うんですよ。

—— 復帰する時は慎重にトレーニングをしたんですか?

「初めてサントリーの選手で首の手術をした」と言われていて、慎重だったとは思いますが、山本さん(和宏/元サンゴリアス理学療法士/享年39歳)のトレーニングがかなり厳しくて、最初はかなりの距離を走らされましたね。

スピリッツ画像

—— 手術後は他の箇所を怪我することもなく、とても順調に復帰出来ましたね

順調でしたね。春からずっと走り込みをしていて、周りからは「シーズン前に燃え尽きるんじゃないか?」って言われていました(笑)。山本さんが凄くキツいメニューを出してくるので、それをやらなければと必死だったんですけど、燃え尽きるという感じではなかったですね。

あとNECのチームドクターをやっている坂根先生(正孝)の手術が素晴らしかったことと、山本さんのメニューが良かったから順調に復帰出来たんだと思います。今でも感謝しています。自分で言うのも変ですが、坂根先生は今でもご活躍されていますが、もっと山本さんを取り上げて欲しかったと思います。

—— 山本さんのメニューをやることで、恐怖心も忘れて治ったという感じでしたか?

もうやるしかないと思っていましたし、怪我をしたからといってダメだとは思いませんでした。それよりも、前のシーズンが6、7試合しか出場出来なくて、しかも全て後半からの出場でした。それが悔し過ぎて、何とかしてやろうという気持ちでリハビリをやっていて、早く復帰してチームに合流したいという思いだけでした。

◆ラインアウト90%以上確保

スピリッツ画像

—— 手術をする怖さはありませんでしたか?

それはめちゃくちゃありました。手術をしなくても体を治して、翌シーズンにはスタメンを取ってやるって思っていたんですが、清宮さん(克幸/ヤマハ発動機ジュビロ監督)に手術を勧められたんです。「今のままじゃ全然ダメだから手術した方が良い」って、清宮さんから言われて、手術することを決めました。手術をして良かったと思っています。

—— 手術後にリハビリをしていて、良くなっていると感じていましたか?

以前までは、コンタクトの時に首が振れると、それだけで体が痺れていましたが、その痺れもなくなりました。あと手術をする前は、試合中にコンタクトをする度に、どんどん力が抜けていっていました。

手術をしたことで、体にも力が入るようになったので、練習に入っていくテンションも違いましたね。前のプレーと比べたことは無いですが、プレーの質も良くなってきていると思いますし、サントリーのスタイルに合わせてプレー出来ていると思います。

サントリーのラグビーはアタッキング・ラグビーなので、それに合わせてブレイクダウンにも行けていると思いますし、ボールキャリーも増えたと思います。今シーズンは、ブレイクダウンに行く回数を7回くらい減らして、その分ボールキャリーを4回くらい増やしたいです。自分のプレーを見返してみても、無駄なプレーが多いんです。気持ちの面では、ブレイクダウンに行かなくて、何かあったらどうしようという心配に思ってしまうことがあって、ブレイクダウンに入っていたんです。昨シーズンはある程度改善出来たんですが、まだ無駄な部分があると思っています。

エディーさんがサントリーの監督になって1年目の時は、たくさんブレイクダウンに入って、他の人がボールを持てば良いと思っていたんですが、昨シーズンは考えてブレイクダウンに入ることでボールキャリーも増えたので、今シーズンは更に無駄な部分を無くして、ボールキャリーを数値的にも明確になるように増やしたいです。

スピリッツ画像

—— 他に考えている課題は何ですか?

あとは首と肩の周りの柔軟性を上げていきたいということと、手術をする前は筋力が上がらなかったんですが、手術をしてからはどんどん筋力が上がっているので、継続して上げていきたいです。数値が上がって、まだまだ成長出来るという実感があるので、凄く楽しいです。

—— 個人としての目標は何ですか?

個人としても2冠獲得を目指していますが、昨シーズンはセットプレーで、スクラムはファイナルに近づくにつれて良くなりましたが、ラインアウトがあまり良くなかったので、毎試合90%以上は確保出来るようにしていきたいですね。

スクラムに関して言えば、今シーズンも試合を重ねていけば、昨シーズンのように安定してくると思います。ただ試合中、交代して入ってきた選手とすぐに上手くスクラムを組ませてあげられるほど、僕には技術がないと思っています。

ヤマさんだったら、途中から試合に入ってきた選手とも、すぐに上手く組めると思うんですが、僕にはその技術がないですし、昨シーズンはヤマさんが声を掛けてくれていました。試合中に良かったスクラムをメモしてくれていて、ハーフタイムに話をしてくれていました。ヤマさんが引退していまい、もうチームにはいないので、今若干焦っています(笑)。

もう28歳ですし、いつまでも頼っていてはいけないんですが、僕は小学生の時からヤマさんのプレーを見ていて、憧れていましたしプレーが好きでした。今度は僕がヤマさんの立場になるので、直接的なことはもちろん言わなきゃいけないですし、一歩引いてスクラム全体を見られるような眼が必要になってくると思っています。

◆隆道と一緒に

スピリッツ画像

—— 日本代表については、どう考えていますか?

今すぐ日本代表になりたいとか、早く呼んで欲しいという思いはありませんが、今やっていることをしっかりやっていけば、その先にはまた日本代表があると思いますし、今は日本代表ではないので、逆に日本代表という目標が出来たと思っています。

今、隆道(佐々木)が日本代表に選ばれていますが、大学時代に隆道から「卒業して、もし違うチーム同士になっても、日本代表で一緒にプレーしようぜ」って言われたことがあったんです。隆道が日本代表でキャプテンをやっていた時は僕が代表に入れず、昨年は隆道が代表に入れなかったので、隆道と一緒にプレーしたいという思いがあります。

先程ラインアウトを改善していきたいと言いましたが、昨年は半年間くらい日本代表でプレーして、日本代表とサントリーのスローイングの投げ方が違って、なかなかサントリーの投げ方に戻せなかったんです。シーズン中もずっと直弥さん(大久保/監督)がスローイングを見てくれていて、練習後の個人練習にも付き合ってくれました。それに練習後の個人練習以外で、何本投げたかカウントをしてくれて、1週間で100本くらい投げるように指示を出してくれました。それにはリフトもあり、みんなで100本やりました。100本くらいやると、次の試合は大体上手くいっていました。

—— 今はスローイングをやっているんですか?

今はやっていません。一度、感覚を忘れた頃に、また投げ始めたら良いかなと思っています。昨シーズンは練習中にラインアウトが上手くいかないことが多かったんです。だから試合ではラインアウトが心配のまま、みんなやっていたと思います。試合では大崩れすることもなかったんですが、みんなに余計な心配をさせてしまったと思います。

—— 昨シーズンも毎試合、ご家族が試合会場に応援に来ていましたよね?

毎試合、応援に来てくれますし、これからも変わらないと思います。今はシーズンオフなので、試合に行けなくてつまらないと思っていると思いますよ(笑)。

スピリッツ画像

(インタビュー&構成&写真:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ