SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2012年4月25日

#275 青木 真麻『温かさや強さが競技場から溢れてくると凄いスポーツになる』

6年前、サンゴリアスのホームページに、ラグビーを見たことのない女性の方でも分かり易いコーナー「スマイルカフェ」を開店し、サンゴリアスのたくさんのスマイルを届けてくれた青木真麻さんが、2011-2012シーズンをもってチームを離れることとなりました。そこで、スピリッツ・オブ・サンゴリアスで"青木真麻特別編"として、ロングインタビューを行いました。
さらに次回のサンゴリアスファンクラブ会員限定会報誌『SKAL!!vol.27』では、スマイルカフェ番外編として、青木真麻さんに最後のスマイルカフェを書いて頂きました。

◆観客席で泣いた

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—— 6シーズンありがとうございました

気付いたらもう6年が過ぎていました。スマイルカフェをスタートする時に、どのくらい続けるのかは考えていませんでしたし、とりあえずスタートさせようと無計画で始めました(笑)。人生の6分の1の期間スマイルカフェを書いていたと考えると、結構長い間書いていたんだと思いますね。

—— 初めてクラブハウスでサンゴリアスの取材をした時はどう感じましたか?

「みんな凄く大きい人たちだなぁ」と思いました。あと、それまで行っていたスポーツの取材は、チームのグラウンドにメディアとして行っていたので、クラブハウスの中に入っても、応接室などで選手にインタビューをするということしか出来ませんでした。でも、サンゴリアスではサンゴリアスのファミリーとして受け入れて頂き、クラブハウスのチームエリアまで入り込めたことに驚きました。だから、初めはどう接すればいいのか分かりませんでした。

よく「女の人1人でチームの中に入って、圧倒されて怖くない?」と聞かれるんですが、そういうことは全くありませんでした。私はもともと、男の子の方が多い小学校にいたところから始まり、スポーツの取材でも周りには男の人の方が多かったので、男の人の集団に入っていくことには抵抗はありませんでした。

—— 真麻さんがクラブハウスに行くと、普段よりも重いベンチプレスが上がったという選手もいたようですよ(笑)

前監督の清宮さん(克幸/現ヤマハ発動機ジュビロ監督)からもよく言われていましたが、自分ではよく分かりません(笑)。

—— サンゴリアスファミリーとして初めて試合を見た時はどう感じましたか?

1年目の時は、まだラグビーの見方が分からなかったので、客観的な感じで試合を見ていました。ただ、3年目くらいからは、自分自身もサンゴリアスファミリーの一員という気持ちで、プレーによって一喜一憂したり、入り込み過ぎて試合が終わる頃には疲れてしまうこともありました。

—— 印象的な試合はありますか?

1年目ですが、2006-2007シーズンのマイクロソフトカップ(現プレーオフトーナメント)決勝で秩父宮ラグビー場が満員御礼(23,067人)になった東芝戦(13-14でサンゴリアス敗戦)ですね。まだ客観的な感じで見ていて、自分自身の中でまだサンゴリアスファミリーの一員という意識が薄い時でしたが、好きなチームでしたし、当時はクラブハウスに取材に通える回数も多くて、選手と触れ合う機会も多く、辛い練習も見ていたので、決勝で負けたことが悔しすぎて、観客席で泣いてしまったんです。

たまたまいつも一緒に仕事をしているTV局の方が、その私の姿を見て「社員でもなく、チームと専属的に契約している訳でもないのに、そこまでチームに入り込めることが羨ましい」と言われました。そう言われて、確かに贅沢な環境の中にいると感じました。

◆専門用語を使わずに書く

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—— スマイルカフェを続けていく中で、コラムのスタイルが確立されてきたと感じたのはいつ頃ですか?

確立されていますか(笑)?あまり自分の中でその意識はないです。スマイルカフェを始めた時は、まだラグビーの知識がほとんどなくて、チームのホームページを見ても、専門用語がたくさん出てくるし、男っぽい感じが出過ぎていて、女性としてはどこを見ればいいのか分かりませんでした。だからスマイルカフェは「ラグビーの知識がなくても、サントリーサンゴリアスは良い雰囲気のチームだと分かるページ」ということを意識して、それを貫いたから確立されていると感じてもらえたのかもしれないですね。

スマイルカフェではあえて専門用語は使わずに、もし使った場合は、注意書きを必ず入れるようにしていました。もしかしたら、スマイルカフェを見ている人の中には、「青木真麻は6年もやっているのに、まったく成長しないし、用語を知らないな」って思っていた方がいるかもしれないですが、ラグビーを知らない人にも分かるように、あえて専門用語を使わずに書くことを心がけていました。

—— 今までの中で、印象的な"スマイル"はありますか?

本当のスマイルじゃないスマイルが印象に残っていて、私も写真に収めるのは嫌なんですけど、引退する選手のスマイルが印象的です。引退って残酷で、どのスポーツでも満足して引退する選手は本当にひと握りで、納会で晴れやかな顔をしている選手はほとんどいません。そういう中で、引退する選手にインタビューをして、みんなスマイルカフェを知ってくれているので、笑ってくれるんですが、ほとんどの選手が笑えていないんです。だから逆に印象に残っています。

—— この6年間で、トップリーグで2度優勝していますし、日本選手権でも優勝しています。そういう本当のスマイルの場面で印象に残っている写真やコメントはありますか?

去年の日本選手権で優勝した時は、選手みんながほんとうに良い顔をしていましたね。それまでは、どんなに選手同士で仲が良くても、試合に出られる選手の数は決まっていて、試合に出られなくて悔しい思いをしている選手も中にはいたと思うんです。ただ、去年の日本選手権での優勝は、スタンドで試合を見ていたメンバーも全員が喜んでいて、他のチームではあまりない状況だと思いました。

スマイルカフェでは、出てくれる選手の良いことについて聞いていましたし、私もそのことしか書きませんでしたが、本当は悔しい思いをしている人がいることも知っているし、知っているからこそ悔しい思いをしている選手に聞きにくくなっていました。ただ去年の日本選手権優勝の時は、試合に出られなかった選手も心から喜んでいるように感じられて、初めて遠慮せずにみんなの写真を撮影出来たと思います。

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—— それは何故だと思いますか?

去年、菅藤心選手(2010-2011引退)とお酒を飲む機会があって、いろいろと話を聞いたんですが、心くん自身も「初めて試合に出ていないのに優勝したことが嬉しかった」と言っていて、それは「エディーさんの人柄だ」って言っていたんです。「試合に出られない時に、どうして出られないのかを凄く的確に言ってくれるし、それだけじゃなくて良い部分についてもしっかりと言ってくれるから、ちゃんと納得できる。だから試合に出られない他の選手も、納得していると思う」と言っていました。それを聞いて、だからみんなが喜んでいたんだと感じました。

—— そこまで配慮出来る監督は他にはいませんか?

私もそこまでいろいろなスポーツを知っているわけじゃないので、何とも言いにくいですが、今まで数多く取材をしてきたプロ野球については、単純に比較しにくい部分もあります。選手も監督もスタッフもプロで、ラグビーがシビアじゃないというわけではないんですが、プロ野球は本当にシビアだと思います。だからプロ野球はラグビーのように、みんなのことを考えることはないと思います。それはプロ野球に限ったことではなくて、野球というスポーツとして、そういう性質があるのかもしれないと思います。

それとプロ野球は全員が年俸制であり、もし何か失敗をしてしまったら、翌年には家族を養えなくなってしまうかもしれない状況で、それをチーム一体となるように束ねるのは難しいと思います。

ラグビーに関しては、トップリーグには14チームしかいなくて、リーグ戦は13試合しかない状況で、1試合の重みが違うと思います。これは私の想像ですが、エディーさんもその試合の重みを分かっていて、その1試合の出場メンバーに選ぶか選ばないかということの配慮が凄いんだと思います。

—— 同じ6年目の選手たちとは仲は良いですか?

私から同期というには7歳も年が違うので、そんなおこがましいことは言えないんですが、ノム(野村)や隆道(佐々木)は同期と言ってくれるので、それに甘んじて、仲良くさせてもらっています。それと、6年目の選手の結婚式の司会を多くやらせてもらっているので、思い入れもありますね。

◆もがいている選手に目が

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—— クラブハウスに行ったら、まずどういうところを見ますか?

最近はクラブハウスに行く機会が減ってしまっているんですが、サンゴリアスに限らずどんなスポーツでも、選手や監督が誰によく声を掛けているのかを見ます。もし自分が見られない時は、監督やコーチに、誰の調子が良いかを聞いて、それからその選手を見たりします。見ている選手はだいたい輝いているか、もがいているかのどちらかですね。でも、どうしてももがいている選手に目がいってしまいます。もがいている選手については、その時は記事にせずに、もがいている選手がその壁を超えた時に記事にしようと思って、心の中に閉まっておいているんです。

少し前にノムのことを書いたんですが、私から見ていて、昨シーズンはもの凄く心配なモチベーションで、もしかしたらファンの方も気づいていたかもしれないくらいの状態でしたよね。その時は大変そうだとは思っていても、記事にはしないで、その壁を超えて輝き始めてから記事にしました。スマイルカフェで本当は書きたかったけど、書かなかったことはたくさんあります。

—— 他にどういうことを記事にしていましたか?

スタートした当初は、ラグビーのことを理解したくて、練習を見に行くことが多かったんですが、スマイルカフェをどんな人が見ても、少し笑えたり、ホッとするようなコーナーにしたいという思いがあって、その話が聞けるのは食事中になるので、みんなと一緒にクラブハウスでご飯を食べるようにしました。食事をする場所では、丸テーブルがいくつかあって、日によって一緒に食事をするメンバーも変わってくるので、話の中身も変わってくるんです。それでいつしか、選手から「こんな話があったんですよ」とか「このネタはスマイルカフェにどうですか?」って話しかけてくれるようになりました。

まだスマイルカフェが定着していない頃は、成田選手は、スマイルカフェというカフェがどこかにあって、そこの店員が来ていると思っていたみたいなんです(笑)。たしか誰かが冗談でそんなことを言っていて、それを信じていたんだと思います。けど今、長野選手はお父さんと一緒にスマイルカフェを見てくれていて、「自分がスマイルカフェに出ると父親が喜ぶ」と言ってくれていたので、本当に嬉しく感じました。

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—— 4月から真麻さんがスマイルカフェの名誉店長ということになり、新しい人が担当することになりますが、その新しい担当する方へアドバイスがあればお願いします

初めてサンゴリアスのホームページを見て、スマイルカフェを見てくれた人にも分かる内容を貫いて欲しいと思いますね。例えば、ラグビーで「タッチを割る」って、テレビでも新聞でも当たり前のように使われていますが、ラグビーを知らない人には伝わらないと思います。初めてラグビーを見た人で、サンゴリアスに興味を持ってホームページを見てくれたとしても、分からない用語が書かれていたりすると、そこでもうホームページを見なくなってしまうんですよね。ラグビーを深く掘り下げるコーナーはホームページにたくさんあるので、スマイルカフェは出来るだけラグビーを知らない人でも理解できるような内容だと良いと思います。

—— 過去に書いた記事の中で、自身で良かったと感じた記事はありますか?

去年書いた記事で、「12番と13番は何が違うのか」という記事を書きましたが、それは選手の中でも評判が良かったですね。選手自身も知らなかったということも言ってもらいました(笑)。選手が分からなかったら、見ている人も絶対に分からないと思うんですよ。

—— 試合中にどういうプレーにラグビーの魅力を感じますか?

向かってくる相手を恐れずにタックルするところは素敵ですね。最初は怖くて見ていられなかったんですが、向かってくる相手にタックルに行くことって本当に凄いと思います。

—— タックルが凄いと思った選手はいますか?

元(申騎)選手とか、剛(有賀)選手とか凄いと思いますけど、みんなタックルにいきますよね。だからタックルの練習を見るのも好きですね。

◆ルールが簡単なスポーツなんてない

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—— もっとラグビーを盛り上げていくために、どういうことをしていけばいいと思いますか?

みんなが思っていることだと思いますが、日本代表がワールドカップで勝つことが必要だと思います。ラジオなどでスポーツニュースの原稿を読むときに、生放送だと時間の都合でニュース原稿を削らなきゃいけない時があるんです。その削る判断をするのは私ではなくて、番組のディレクターになるので、ラグビーニュースって残念ながら削られることが多いんです。もしラグビーが好きなディレクターであれば、ラグビーニュースを放送すると思いますし、日本選手権決勝くらいのニュースであれば、放送すると思うんですよ。ただ日本代表のニュースであっても、ワールドカップなどでなければ削られてしまいます。これだけラグビーに関わっていて、直前で原稿を削られるって、本当にショックなんですよ。

なぜラグビーのニュースが削られるかと考えた時に、世間の人はラグビーに関心がないとディレクターに判断されてしまうからなんです。みんなが関心を持つ方法は、やっぱり世界で勝たなければいけないんです。あとは単純にスター選手が誕生することだと思いますが、スター選手が生まれにくい環境でもあると思います。もう少し選手がメディアに取り上げられやすい環境になれば良いと思いますね。

ある選手が言っていたんですが、その選手がある人から「ラグビーは寒い中見なきゃいけない」って言われたそうなんですよ。それに対して、そういう単純な意見が自分には新鮮だったそうなんです。私もそこが大事だと思っていて、本当にラグビーが好きな人でなければ、真冬のラグビー観戦には誘いにくいですし、トイレが清潔ではない競技場が多いですよね。

女性は長いコートなどを着て競技場に行くことが多いと思いますが、足場の汚いトイレであれば、入ることを躊躇します。それに初めて観戦する人は、そこまで寒いと思わず普段の格好で観戦に来るので、とても寒い思いをする上に、トイレは混んでいて汚いし、ハーフタイムに温かいものを食べようと思って並んでいたら、食べ物を買う前に後半が始まってしまっているということがよくあると思います。そういう状況では、また観戦に来たいと思う人は、家族もしくは彼氏がラグビー好きという人だけで、ラグビーとの接点がない人にとっては、もう観戦に来なくてもいいと思うのが普通だと思います。

よく「ラグビーはルールが難しいから世間に広まらない」と言う人がいますが、ルールが簡単なスポーツなんてないんです。野球もルールがもの凄く難しいですし、サッカーでも女性でオフサイドを理解している人はあまりいないと思います。ラグビーを見ていれば、ルールがはっきりと分からなくても雰囲気で楽しむことも出来ます。ルールが難しいというよりも、まずは試合を見やすい環境を作ることが大切だと思います。あと寒いとメディアも集まりにくいと思います。春や秋にやってもらえたらいいのにと思うこともあります。

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—— ラグビーの未来はどこにあると思いますか?

かつては人気がありましたよね。けど、その人気があった時に、ワールドカップで良い成績を残したかと言えば、そういうわけでもないですね。世界で勝つことは最も大切なことだとは思いますが、実際のところは勝つことだけでもないと思います。当時、他のスポーツで人気があったものは野球だと思いますが、今、野球放送の視聴率が下がっている状況であっても、観客動員数は凄くて、オープン戦でも3万人くらいの人が集まるんです。

ただ世界的に見ても、野球よりもラグビーをやっている国の方が多いわけです。今の日本の野球人気は、プロ野球という組織が長年かけて築いてきたわけですし、ファンサービスは本当に凄いと思います。

今、思うと野球は環境が良いと思います。どの球場に行ってもトイレは綺麗ですし、女性も行きやすい環境が揃っていると思います。そういう意味でもラグビーは競技場に行きにくいですね。寒いと人も集まらないですし、「ラグビーは寒い中見なきゃいけない」という言葉は本当に真意をついていると思います。

ラグビー人気を高めていくためには、日本代表が強くなることと同時進行で、競技場の環境を整えていくことが必要ですね。環境が良くなれば、女性が女性を誘いやすくなるので、競技場に足を運ぶ人が増えると思います。

◆何かあった時は守ってくれる

—— ラガーマンのどういうところが好きですか?

サンゴリアスの選手しか知りませんが、みんなが温かくて、それはラグビーの特性かもしれないですね。ラグビーでいちばん驚いたことは、アフターマッチファンクションです。他のスポーツで、さっきまで戦っていた相手と一緒に乾杯したり歓談したりすることはないと思います。ラグビー選手は仲間意識が凄く強くて、何かあった時には守ってくれるだろうという気持ちにさせてくれる温かさや強さがあると思います。そういう温かさが競技場から溢れてくると、凄いスポーツになると思いますよ。

—— 真麻さんの今後はどういうことをしていくんですか?

今後はスマイルカフェの名誉店長として、サンゴリアスを見守りたいと思います(笑)。2年前くらいから私の妹と、お稽古のコーディネートをしたり、私自身もフラワーデザイナーとして活動をしています。今後はその活動をメインにしていくつもりです。そして、結婚している人もそうじゃない人も、子供がいる人もそうじゃない人も、ちょっとしたアイディアで幸せになれるようなことを提案する活動も行っていこうと考えています。ライフスタイルコーディネーターという肩書きをビューティープロデューサーの牧野(和世)さんにつけて頂いたので、お稽古やお花を取り入れてライフスタイルを提案していければと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)

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